COLUMN
セレブのカミングアウト・ラッシュ
この1〜2ヶ月間、アメリカの有名ミュージシャンや女優ら(セレブ)が続々とカミングアウトしています。その勇気に拍手!なのですが、実はそんなカミングアウト劇の裏で暗躍?してる人もいるそうです。
(トップ画像はGLAADメディア賞で表彰された時のリッキー・マーティン)
映画『ブルーノ』で、トム・クルーズやジョン・トラボルタ、ケビン・スペイシーの名前を挙げて「彼らに共通するのは何だ? ストレートだ!」と言うシーンがあって、思わず笑ってしまったのですが、隠しているとそうやって「疑惑」ネタにされるし(いや、本当にストレートかもしれませんよね。あくまで自己申告ですから)、だったら堂々と言っちゃったほうがいいのでは?という流れにはなってきていると思います。
社会がカミングアウトを「勇気あること」と讃えるからこそ、これだけ多くの人たちがカミングアウトしてきたんだと思います。
リッキー・マーティンもずっと「疑惑」の対象としてゴシップ紙をにぎわせてきましたが、この3月末、「僕は自分が同性愛者であることを誇りに思っています。僕は自分が何者であるかを明らかにしたことで、とても幸せになりました」と語り、晴れて世界にカミングアウトしました。女性ファンに支えられているポップ・スターは、「人気が落ちると警告され、怖くて告白できなかった。ステージ、音楽は僕のすべて。築き上げたその大切な世界が一瞬にして崩壊すると思った」と、長い間本当のことを言えずに悩んできたそうです。が、この大物スターのカミングアウトは、ゲイたちを熱狂させ、メディアにも好意的に受け止められました。
その直後の4月1日、女優アンナ・パキンもバイセクシュアルであることをカミングアウトしました。
彼女は、セクシュアルマイノリティの権利を求める団体「トゥルー・カラーズ・ファンド」の公共広告ビデオで 「私はアンナ・パキンです。私はバイセクシュアルです。私は無関心ではありません」と語り、カミングアウトしたそうです。
アンナ・パキンは、映画『ピアノ・レッスン』に出演して11歳でアカデミー賞助演女優賞を受賞し、一躍有名になった女優ですが、最近では『X-MEN』シリーズのローグ役がヒットしています。ローグと言えば、触れた相手の能力を奪うミュータントで、恋人と愛し合えないこと(ハリネズミのジレンマ)を苦に、「治療」を受け、ふつうの人間になる決意をしたのでした。彼女がカミングアウトした今、その設定がとても深い意味を帯びてきます。
4月にはほかにも、クリスチャン・フォークのジェニファー・ナップがレズビアンであることをカミングアウトし、女性ラッパーのニッキー・ミナージュがバイセクシュアルであることを公的に認めました。
また、5月5日にはカントリー・シンガーのシェリー・ライトが『The Advocate』誌や『People』誌上でレズビアンであることをカミングアウトしました。
彼女たちに共通するのは、クリスチャン、アフロアメリカン、カントリー支持者という、いずれも決してゲイに寛容ではなかった人たち(保守的なグループ)をファンに持つということです。そうした人たちのカミングアウトには「キャリアを失うかもしれない」という途轍もない覚悟が必要でした。
(詳しくは藤嶋貴樹さんのblog「Queer Music Experience」をご覧ください)
社会に対して(あるいは神に対して)正直に生きたい、本当の幸せを手に入れたいと願うことは人としてとても素直な感情ですが、人々の人気に支えられているスターたちは「これで自分のタレント生命が終わるかもしれない」という不安に苛まれ、なかなか簡単には…そこに激しい葛藤があるのは事実でしょう。
そんな悩めるセレブのために、なんと、裏で動いてる人がいます。メディアに叩かれず、人々に受け入れられるような形でスムーズにカミングアウトできるよう、その手助けをするパブリシスト(広報のプロ)が活躍しているんだそうです。
こちらの記事によると、「ハリウッドのカミングアウト王」と呼ばれるハワード・ブラグマンは、4月17日のロサンゼルスでのGLAADメディア賞に出席した際、「次のカミングアウト・プロジェクト」について示唆し、「5月5日にある大物アーティストがカミングアウトする」とメディアに話題になったそうです。それがシェリー・ライトだったんですね。
「ハリウッドでは、多くのパブリシストがクライアントをクローゼットに閉じ込めていますが、私にはカミングアウトしようと望んでいる人たちが近づいてくることが多いんです」とハワード・ブラグマンは語ります。「時代は変わりつつあると思います。きっと初のゲイのハリウッド・アクション・ヒーローが誕生する日も近いでしょう」
アメリカはすごいね…ところで日本はどうなの?と思う方もいらっしゃることでしょう。
実は日本でも、4月1日に星井七瀬さん(「なっちゃん」のCMキャラクター3代目に抜擢され、『メイちゃんの執事』などでも注目を集めたタレント)が「女の子を好きになったことがある」とカミングアウトしていました。(昨年の一ノ瀬文香さん以来ですね)
星井七瀬さんは自身のblogでこう綴っています。
「同性愛者になった事があるから何? 心の病気になった事があるから何? 偏見や差別なんて気にしないわ。私は私だから。今の自分が好きだから。普通じゃつまらない。荒れていても、辛くても、普通の人生よりマシよ。私は私の世界観があるんだから!!」
しかし、このニュースを伝える記事は、彼女を「完全に病んでいる」とバッサリ…ひどいですよね。日本のメディアは未だにこんな感じなのです。
(後藤純一)
INDEX
- 2019年9月20日、神宮前交差点に「プライドハウス東京2019」がオープンしました
- 日本におけるPrEPの現状と、今後への期待
- LGBTと企業(3) 着実に企業のLGBT施策が進んだ2018年
- 『バディ』誌、25年の輝かしい歴史に幕 〜休刊に寄せて〜
- 杉田議員問題(5)TOKYO LOVE PARADE
- トークイベント「RUSHをめぐる最前線」で浮き彫りになった厳罰主義施策の理不尽さ
- 杉田議員問題(4)『新潮45』10月号のこと
- 杉田議員問題(3)この1ヶ月余の動きを振り返って
- 杉田議員問題(2)「日本のストーンウォール」となった抗議集会
- 杉田議員問題について
- レポート:第2回レインボー国会
- レポート:シンポジウム「同性国際カップルの在留資格をめぐって」
- LGBTと企業(2) 2017年、企業のアライ化はどのように進んだか
- チェチェンでゲイが強制収容所に送り込まれ、拷問を受け、命を奪われています
- LGBTと企業(1) 企業がLGBTフレンドリー(アライ)化していく意味
- オーランドのゲイクラブ銃撃事件−−「なぜ犯人はゲイクラブを狙ったのか?」に迫る
- オーランドのゲイクラブ銃撃事件のこと
- アメリカのLGBTムーブメントを視察した方たちが見る「日米の違い」
- 「LGBTインバウンド・セミナー」レポート2 〜知られざるLGBTフレンドリー・タウン、別府〜
- 「LGBTインバウンド セミナー」レポート ~海外とつながり、日本を変える試み~