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COLUMN

レポート:シンポジウム「同性国際カップルの在留資格をめぐって」

日本に24年間住んでいる台湾籍のGさんが入管から国外退去を求められたことをきっかけに、日本初の同性カップルの事実上の法的効力を求める訴訟(異性間には認められるものが、同性間には認められないの?と問うもの)が行われていますが、これに関して2017年12月10日、明治大学で「同性国際カップルの在留資格をめぐって」というシンポジウムが行われました。

レポート:シンポジウム「同性国際カップルの在留資格をめぐって」

 

訴訟の概要

 2017年3月、日本人の同性パートナーと20年以上連れ添ったにもかかわらず国外への退去を命じられた台湾籍のゲイの方(Gさん)が、異性カップルであれば事実婚でも在留資格が認められるのに、同性だから認められないのは差別であり、憲法が保障する「法の下の平等」に反する、として国に退去強制処分の取消しなどを求める訴訟を起こしたことが報じられました。
 Gさんは、関東地方に住む40代の男性で、1992年に留学の在留資格で来日し、その後も短期滞在のビザで2回入国し、日本滞在中に現在のパートナー(Xさん)と知り合い、1994年から同居しています。その翌年、HIVへの感染がわかり、Xさんの励ましのもとで治療を続けてきた一方、Xさんがうつを患って働けなかった時期はGさんが家計を支えるなど、お互いに精神的な支柱となってきました。
 Gさんはビザが切れた1994年からオーバーステイ状態でしたが、同性愛に理解のない母国の家族とも疎遠で、日本で息を潜めるように暮らし続けていました。2013年になって、HIV陽性者を支援する団体の代表を介して性的マイノリティの人権問題に取り組む弁護士とつながり、不法入国や不法滞在でも特別の事情があれば認められる「在留特別許可」を求める方向で相談していました。
 しかし、入国管理局への出頭を準備していた2016年6月、職務質問で不法滞在が発覚し、逮捕されました。特別許可も下りず、東京入管は昨年11月に退去強制令書を発付。いつ強制送還されてもおかしくない状態だそうです。
 特別許可が下りなかった理由は不明ですが、法務省のガイドラインは許可すべき要素として日本人との結婚を挙げており、「同性カップルであるがゆえに夫婦同然の関係が考慮されなかった」として、訴訟では、入管側の裁量権逸脱だとして退去強制令書の発付処分などを取り消すよう求めるとのことです。
 同居を始めて24年が経ち、Xさんは50代後半になりました。男女のカップルであれば、事実婚であっても退去強制処分が取り消された判例は少なくありません。Gさんは「二人で年を重ねてきた。彼は私の家族。日本で一緒に、静かな老後を迎えたい」と訴訟に期待を託しています。

 

シンポジウム「同性国際カップルの在留資格をめぐって」 


永野靖弁護士


鈴木賢教授の講演から


パネルディスカッション

「Bi-National Same-sex Couples」を
運営するジャッキーさん&ノリコさん

国際同性カップルのみなさん
 この訴訟に関して2017年12月10日、同性カップルが直面する困難を解消する法的保障を求めて2010年に設立された「特別配偶者法全国ネットワーク事務局(略称:パートナー法ネット)」が、同性国際カップルの在留資格をめぐるシンポジウムを明治大学で開催しました。現在日本で外国人同性パートナーに配偶者ビザが発行されないために生じる問題と、同性国際カップルの法的保障のあり方について考えるものです。

 はじめに、パートナー法ネット共同代表の大江千束さん(中野の「LOUD」を運営している方)が開会のご挨拶をしました。同性カップルが直面する困難として、保険のこと、年末調整など控除のこと、福利厚生、一緒に家を買えない、里親や養子縁組ができない、外国人が妻や夫を連れて来れない、財産分与、後見のことなどをあげました。

 続いて、運営委員の中村貴寿さん(司法書士)、永野靖さん(弁護士)、丸山由紀さん(弁護士)から「同性台湾人パートナーの在留資格訴訟が提起した問題とは?」というお話がありました。
 在留特別許可とは、入管法で「法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」と定められていることに基づく外国人への特別な在留資格のことで、法務大臣の裁量に任されています。異性カップルであれば、たとえオーバーステイになっていても、結婚して「日本人の配偶者等」として在留資格を得られますし、事実婚(内縁)の夫婦でも在留資格が得られた例もあります。これは憲法13条が幸福追求権の一環として家族関係を形成する権利を保障していると解されること、憲法24条で家族生活における個人の尊厳が定められていること、市民的及び政治的権利に関する国際規約23条において「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する」と定められていることからも裏付けられるものですが、そうだとすれば、同性カップルも異性カップルと同等に、お互いに愛し合い、助け合って生活を共にする二人の関係が保護されるべきである、と永野弁護士は主張しています。
 丸山弁護士は、本国で同性婚が成立している場合の「特定活動」についての法務省の通知(平成25年10月18日付 法務省管在第5357号)で、フランスなど本国で同性婚が認められている人に対して、日本でも「安定的に生活できるよう人道的観点から配慮し」、同性婚配偶者に「特定活動」による在留資格を認めていることを紹介し、「人道的観点からの配慮」の必要性が出身国によって変わるのはおかしい」と訴えました。また、同性パートナーとの家族関係、日本への定着性などから、Gさんが、法務大臣が特別な理由を考慮し、一定の在留期間を指定して居住を認める「定住者」(入管法別表第二)に該当するとも述べました。
 もしもお二人が異性カップルだったら在留特別許可が下りる可能性が極めて高く、お二人がこれまで異性カップルとなんら変わらない、お互いに支えあうような家族関係を24年も続けてきた(消極要素がない)にもかかわらず、在留特別許可が下りないのは、単に同性カップルだから認めない(同性愛差別である)ということです。
 永野さんは会場の方たちに向けて、この裁判への支援・協力を求める熱いお願いをしていました。(記事の最後に、支援の方法をご案内します)
 
 そしてこの後、原告のGさんが登場し、自身のことを語りました。
 物心ついた頃から同性に惹かれ、罪悪感に悩まされ、10代の時に自殺未遂を繰り返しました。家族に気づかれ、病気を治せと言われ、受け入れてもらえず、疎遠になりました。兵役に就きましたが、1989年には同性愛を理由に除隊となりました。そして、1992年に日本語を勉強するために来日し、93年に現在のパートナー、Xさんと出会い、94年には同居を始めました(この間、短期ビザで入国や出国を繰り返していました。審査が厳しかったので、在留の申請をせず、オーバーステイとなります)。95年にはHIV陽性であることがわかり、2004年には症状が悪化、ぷれいす東京に相談し、回復していきます。2007年にはXさんが鬱になり、Gさんが働いて支えました。家族が同性愛に無理解だったことや、病気のこともあり、Gさんは愛するパートナーと共に日本で生活する道を選んだのです。周囲の人には兄弟だと言って、24年間、共に暮らしてきました。
 2016年、Gさんは職務質問を受けたことをきっかけにオーバーステイが発覚し、逮捕・収容され、強制退去認定を受けました。その後、仮放免され、在留特別許可を申請するも認められず、2017年3月に強制退去処分の取消しを求めて提訴しました。
 Gさんは、「外交官の同性パートナーは接遇するけど、一般国民は考慮されていないのではないか、香港でも外国人の同性パートナーにビザが下りるようになった、国は権利を認めるべきです」と訴えました。
  
 続いて、明治大学教授でLGBT法制に詳しい鈴木賢さんが登壇し、「移行期の正義としての同性カップルへの法的保障」という基調講演を行いました。「移行期の正義」とは、独裁政権が倒れたり紛争が終結したりした後、社会を再建する過程で過去の人権侵害や虐殺の真相を究明し、裁判や補償、制度改革などを通して社会の分断を埋めようとする世界各地の試みを指します。鈴木さんの言葉によると「尊厳を取り戻すための努力」です。
 鈴木さんは日本の状況について「寛容だというのはウソだと思う」と指摘します。当事者はずっと不可視化され、無視されてきたからです。Gさんは同性愛者であり、外国籍であり、HIV陽性であるという三重苦を背負っている、母国にネットワークもないのに、帰れと言う、どこが寛容なのか、と。「府中青年の家」事件の裁判の判決では「都教育委員会を含む行政当局としては、その職務を行うについて、少数者である同性愛者をも視野に入れた、肌理の細かな配慮が必要であり、同性愛者の権利、利益を十分に擁護することが要請されているものというべきであって、無関心であったり知識がないということは公権力の行使に当たる者として許されないことである」と、述べられていますが、「この行政当局には入国管理局も含まれていると思います」「同性婚は今や国際社会の中で標準装備。日本だけが蚊帳の外に居続けるのは不可能です」「同性愛に付与されるスティグマ(社会的汚名、烙印)をなくすためにも、婚姻の平等化が必要です」
 
 それから、日本人と外国人の同性カップルがたくさん登場し、「国際同性カップルは、どのような困難に直面しているのか?」というパネルディスカッションが行われました。
 ブラッドさん&光さんのカップル。お二人は5年前に知り合い、2016年にカリフォルニア州で結婚しています(同州の領事館では、日本の法律で認められないと拒絶されたそうです)。ブラッドさんは映画の仕事をしていて短期滞在ビザで日本にいます。「私は日本が大好き。日本の文化が好き。和を美徳とし、互いを尊重する。素晴らしい。日本は労働人口が足りないというが、同性結婚を認めないのは皮肉なことだ。300年前は同性愛が盛んだったのに、伝統を否定しているのでは?」
 ヘルゲさん&周平さんのカップル。3年半前に出会い、ドイツで生活し、登録パートナーシップ(同性婚が認められる前の、シビル婚に当たる制度)もして、里子も育てていました。周平さんの仕事の都合で日本に来ていますが、ヘルゲさんは就労ビザを取得するのに苦労していて、とても不安です。周平さんは「私が同じ状態のとき、ドイツでは何不自由なく、それどころか歓迎された心地がしました」と語ります。
 ロザリンさん&奈津子さんのカップル。5年前からつきあい、昨年アメリカで結婚しました。彼女が日本に来てくれましたが、労働ビザを取るのに苦労しています。年に1度、ビザの更新がありますが、雇用主の審査があり、下りないのではないかと、怖い…と、いまの家に住めなくなるかもしれないし、将来設計もできず、健康にも影響しています。
 kayinさん&真紀子さんのカップル。カナダ人のkayinさんは20年も日本にいますが、就労ビザが下りず、不本意ながら学生ビザを取ったりしています。
 クリスティナさん&愛さんのカップル。6年前、ベルリンで出会い、2年いっしょに住んで、いっしょに日本に来ました。「日本が大好きなので、体験してほしかったんです」。学生ビザを取得したのち、仕事を見つけて5年のビザを得ましたが、もし失業したら…と考えると、不安です。昨年、ドイツで登録パートナーシップもしています。将来的にはドイツに住むことも考えています。
 共通の悩みは、次のビザが更新できるかどうかという不安です。安定していないため、将来の設計ができません。日本で仕事をするか、外国で仕事をするか、悩みます。養子を授かって家族を作りたいと思っても、日本ではできません。異性のカップルであれば解決できることが、同性カップルであるがゆえに悩みとなります。

 尾辻かな子さんをはじめ、会の趣旨に賛同する国会議員の方々(党派を問わず)からのメッセージが読み上げられました。文京区議の前田さんは、「カミングアウトしていてもしてなくても、たとえ一人でも、できることがあります」とスピーチしました。
 
 それから、「Bi-National Same-sex Couples」という団体から、お話がありました。ホウドウキョクでも紹介されていたジャッキーさん&ノリコさんのカップルが2017年に立ち上げたグループで、Facebookでネットワークを広げています。73名のメンバーがいて、2人とも外国籍というカップルもいるそうです。病院のこと、共有財産のこと、子どものことなどいろいろ懸念はありますが、いちばん多いのはやはり、ビザの問題だそうです。離ればなれになってしまう不安があります。以前、観光ビザで来日している方が日本人と知り合い、2年いっしょに住んだものの、ビザの更新がうまくいかなくなり、絶望し、別れてしまったという話もありました。異性婚なら永住権も申請できるのに…。
 お話のあと、「現実をアピールするためによかったら前に出てきてください」と客席に呼びかけが行われ、たくさんの同性国際カップルが前に出て来られました。感動的な場面でした。
 
 そのあと、会場からの質問がたくさん出ました。Gさんが24年間同居していたことの立証はどのようにするのか(証言できる方がいます)、事実婚の異性カップルで在留特別許可が下りるのか(訴訟でOKになったケースがあります)、強制退去処分が取消になったことがあるか(他の事例ではあります)、などです。

 最後に、パートナー法ネット共同代表の池田宏さんがご挨拶しました。池田さんは1996年以来、ニュージーランドの方とおつきあいしていて、ニュージーランドではその時点ですでに同性パートナーでも永住権を取得可能だったそうで、2004年に成立したパートナーシップ法により、現在は法的な関係も結んで家族として暮らしているそうです。

 

支援する会のご案内


 Gさんの訴訟の状況ですが、2月23日に東京地裁で裁判が行われ、傍聴に駆けつけた方たちもいらっしゃいました。その次は、5月11日(金)11:30から東京地裁522法廷にて行われるそうです。
 お二人を支援したいという方はぜひ、Facebookの「外国人同性パートナー在留特別資格訴訟を支援する会」のページをフォローしてみてください。様々な情報が掲載されています。
 

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