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COLUMN

円山てのるの「For The New World」(1)アムステルダムの「ヘイトクライム通報システム」

4ヶ月にわたって欧州のゲイシーンを見てきた円山てのるさんによる、ゲイの未来(まだ見ぬ世界)を夢見る不定期コラム連載「For The New World」。第1回目はアムステルダムの「ヘイトクライム通報システム」について、お送りします。

円山てのるの「For The New World」(1)アムステルダムの「ヘイトクライム通報システム」

数年来、ライターとして世間に向けて「ゲイ的コラム」を発信してきた円山てのるさん。今年5月から9月にかけては、長年のパートナーといっしょにヨーロッパの国々をめぐり、スペインの巨大ゲイパレードやケルンのゲイゲームズなどを体験してきました。そんな海外で触れた「ゲイ的空気感」を踏まえながら、ゲイがもっと暮らしやすい社会、ゲイがもっと幸せに生きられる未来を実現するために、どう考え何をするべきなんだろう…といった視点で不定期連載コラムを書いていただくことにしました。第1回目は、オランダ・アムステルダムの「ヘイトクライム通報システム」をご紹介しつつ、「ヘイトクライム通報システムを日本にも」と語るものです。(編)

 

インターネットは諸刃の剣

 インターネットが僕たちの生活全般を大きく変えてきたことは、わざわざ説明するまでもありません。とりわけ、ゲイライフの中でインターネットが果たす役割は本当に重要になっています。
 たとえば、ブログとかツイッター。
 インターネットの匿名性をフルに活かし、実生活ではカミングアウトしていない/できないゲイの人でも、ふだんは心の奥底に隠し続けてきた様々な本音や思いのたけを、日々、いくらでも吐き出せるようになりました。
 そして、出会い。
 ゲイバーやゲイナイトなどへ出て行けない/出て行きたくないゲイの人も、出会い系サイトやゲイ向けSNSを活用することで、もっと効率よく交友関係を広げることができます。
 アメリカ同様、日本でも、多くのゲイの人たちが「出会いはネット」と考えているのではないでしょうか。
米国の同性愛者の61%が「出会いはネット」と回答しています

 しかし、インターネットは諸刃の剣。便利で効率的な反面、出会い系サイトを悪用した犯罪もまた、ときどき発生しているようです。慎重さとある種のリテラシー(情報を選別する能力)が求められるようになっているのではないでしょうか。

 北九州市小倉北区内に住む38歳の男が、ゲイ向け出会い系サイトの利用者に対し「家族らにバラしてやるぞ」と脅迫、4人から合計2400万円近くを脅し取ったとして、福岡地裁小倉支部が、男に懲役8年(求刑通り)の実刑判決を言い渡したとのニュースが、923日付けの毎日新聞・北九州版で伝えられました。
 類似した事件として、昨年11月、ケータイのゲイ向け出会い系サイトで知り合った男性から、約320万円を騙し取った疑いで、岡山県総社市の当時22歳の男が逮捕されたこともありました。
 男は「このサイトを利用する男性は正直な人たちばかりだった」と供述。男の銀行口座には、同じ出会い系サイトで知り合ったゲイ男性24人から、ほかに合計約1900万円もの入金があり、兵庫県警生田署に余罪を追及されていると伝えられました。
(詳しくはこちら

 

ハラスメントやヘイトクライムの暗い影

 先日、瓜田純士という俳優・格闘家が、ゲイカップルに暴行を加えたことを自分のブログ記事で告白し、インターネット上で議論が噴出したことがありました。当の瓜田純士は、さらに、なかば「ゲイ狩り宣言」とも受け取れるような文言を、自分のブログの閉鎖直前に書き残しています。こちらでキャッシュを見ることができます)

 ゲイ狩りと言えば、日本のゲイをめぐる状況の中では、かつて、いわゆる「新木場事件」——あからさまにゲイをターゲットに据えた傷害致死事件――が発生したこともありました。ご存じの方も多いでしょうが、ちょっと振り返ってみましょう。

 事件が起きたのは、2000210日の夜。現場は、東京・江東区夢の島の緑道公園。あらかじめ待ちかまえていた4人の少年達が、通りかかったSさん(当時33歳)に言い掛かりをつけた挙げ句、殴る蹴るの暴行を加え、気絶させた上、財布から現金を奪いました。
 しかし、そのまま放置されたSさんは、翌211日早朝、亡くなっている状態で発見されたのです。本当に痛ましく、悔しく、そして悲しい事件でした。
 ゲイ狩りがついに殺人的行為へ及んだことで、ゲイコミュニティに大きな衝撃が走りました。

 ゲイを狙った襲撃事件は、もちろん、この1度だけではありません。すでにその1年ほど前から、新木場=夢の島公園一帯では、やはりゲイの男性が、数人組の少年たちに鉄パイプで殴られるなどの激しい暴行を受け、現金などを強奪される事件が相次いでいたのです。

 200111月には、神奈川・鹿沼公園でも数人の少年たちによってゲイ男性が襲撃され、現金などが奪われる事件が発生しました。このときは、同じ犯人グループがほかに2人を襲っていたことが明らかになりました。

 20067月には、またも新木場=夢の島競技場の遊歩道で、都立高校生ら少年4人が、衣服を着用せずにいた男性(当時34)を襲撃。現金2万円余りを強奪した事件が発生しました。被害者男性は、全身打撲の重傷を負ってしまったそうです。
 被害者男性が「衣服を着用せずにいた」と伝えられたことから、男性がいわゆるハッテンのために現場へ赴いていたのかもしれないとの認識が拡がりました。そして、逮捕された高校生らは「同性愛者なら被害に遭っても警察に届けないと思った」と陳述し、初めからゲイを狙った確信犯だったことがわかりました。 

 幸い、2006年の事件の際は、被害を受けた方が勇気を出して警察に届け出てくれました。そのおかげで、こうして事件が明るみに出ることになり、犯人の逮捕にもつながったのです。

 被害を受けた場合、決して泣き寝入りなどせず、堂々と警察へ届け出る勇気も必要でしょう。さもないと、ゲイ狩りを企む連中が、ますます図に乗るだけです。事件の連鎖反応を食い止めなければなりません。 

 過去には、駒沢公園や芦花公園でもゲイ狩りではないかと目される殺人事件が起こっています(それらが本当にゲイに関係する事件だったのかどうかは不明のまま薮の中です)。おそらく、上記の新木場の事件は氷山の一角で、ゲイをターゲットに据えた暴力事件は、実際はもっともっとたくさん起こってきたと考えておくべきなのでしょう。海外の露骨で激しいヘイトクライムと比べ、日本の状況はまだまだ穏やかだと捉えられているだけに、ヘイトクライムの暗い影が、これから先、アンダーグランドな拡がりを続けてゆく恐れもあるのではないでしょうか。

 

アムステルダムのヘイトクライム警察プロジェクト

 

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アムステルダムのヘイトクライム
警察プロジェクト
のサイトです。
デザインも凝っていますね。


 アムステルダムでは、20083月、アムステルダム警察の後押しによって「Hate Crimes police project(ヘイトクライム警察プロジェクト)」が設立されました。

 

 このプロジェクトは、アムステルダムとその周辺地域(Amstelland / Gelderland)で、セクシュアルマイノリティや人種的マイノリティを対象にしたハラスメントやヘイトクライムが起こったとき、被害者や目撃者、家族、関係する誰もが直ちに警察へ通報できるよう整備されたシステムです。

 方法は簡単です。同プロジェクトのWebサイトへアクセスし、ハラスメントやヘイトクライムの事実内容を入力した報告フォームを送信するだけ。地域の警察へ直ちに通報することが可能です。それとは別に、手書き用の報告フォームをダウンロードして記入→郵送することもできます。どちらも、匿名での通報が可能です。

 報告フォームの説明には、次のような文章が記されています。

「雇用者、学校、公共サービス、福祉担当者は、あなたを差別や脅迫から守るために必要な手段や手続きを進めなければなりません。もし、そうした対応が不足していたり、あなたの状況が真剣に扱われていないと感じたら、あなたが属する自治体のソーシャルワーカーか、あるいは警察へ連絡してください。あなたは独りではありません」

「警察は、様々な種類の事件に対応しなければなりません。そして、あなたを助け、アドヴァイスをする用意があります」

「恐がることはありません。いったいどんな暴力を受けたのか、そのヘイトクライムを警察へ通報してください」

「あなたが通報した内容は、どんなことでも自信を持って対応します。警察は、あなたの話を聞きます。あなたの通報は、暴力行為を振るう人物には気づかれないよう、慎重に扱われます。警察は、あなたの通報や記録を正式な申告として受け入れます。あなたは、通報や申告の結果について、報告を受け続けることができます」

「もし、あなたが警察へ通報したくなければ、他の救済機関へ連絡をとることもできます。その詳細な方法もお教えします」

「通報していただいた内容はすべて、あなた自身、そして、あなた以外の人に降りかかった脅迫をやめさせるために役立つのです」

 世界で初めて同性婚を認めたゲイの先進国では「警察はあなたを守ります」と明言されているのです。とても心強い言葉が連なっていることに感動を覚えます。

 

日本でも対策を

 このようにアムステルダム警察が「ゲイの味方です」という姿勢をアピールしていることを、ぜひ日本の警察の方たちにも知っていただきたいものです。被害者がゲイだからといって警察官の態度が侮辱的なものになったり、事情聴取が興味本位なものに成り下がるようなことは、万が一にもあってはならない、とも。

 ハラスメントやヘイトクライムが起きたとき、その事実を通報して救済を求めるべき先は、当然、本来その役割を担うべき警察でなければならないはずです。

 日本にも、アムステルダムの「ヘイトクライム警察プロジェクト」と同じようなシステムが、一日も早く整備されることを切望します。
 それは、何もセクシュアルマイノリティのためだけではありません。ハラスメントやヘイトクライムに苦しむすべての人々のために、なのです。

(円山てのる)

 

円山てのる:プロフィール

青山学院大学在学中から音楽(声楽)や映像製作に携わっていましたが、その後もオペラに出演したり、小説を執筆したり、様々な表現活動に携わってきました。2008年から「日本インターネット新聞 JanJan)」記者としてセクシュアルマイノリティの人権に関する記事を書き始めました。2009年には「TOKYO Pride」事務局長として、5月の東京プライドフェスティバルの成功に貢献しました。また『Out』2009年11月号に新宿二丁目についての記事を寄稿しました。そして今年、4ヶ月にわたるヨーロッパ旅行を完遂し、想像を絶する規模のスペインのプライドパレードや、ケルンのゲイゲームズなどを取材しました。

円山てのるさんのblog「【GAY】タイムズ

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