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樋口めぐむ『ほろ酔い休暇日記』

樋口めぐむさんがひさしぶりに新作小説『ほろ酔い休暇日記』を寄稿してくださいました。休暇を利用して旧友と会う数日間の出来事を描いた作品ですが、主人公は極上の癒しを得られます。圧倒的に豊穣な「お祭り」のような性の描写は、感動的ですらあります。ぜひお読みください。

樋口めぐむ『ほろ酔い休暇日記』

樋口めぐむさんがひさしぶりに新作小説『ほろ酔い休暇日記』を寄稿してくださいました。休暇を利用して旧友と会う数日間の出来事を描いた作品ですが、主人公は極上の癒しを得られます。圧倒的に豊穣な「お祭り」のような性の描写は、感動的ですらあります。ぜひお読みください。


ほろ酔い休暇日記

 この日記をあなたが読むとき、もう古い言葉になっているでしょうか、それとも、まだ使うひとがいるだろうか。あなたもご存じの通り、いわゆるシャイニーゲイと善蔵さんは呼ばれていました。
 裸の画像ではなく、ただ顔を自撮りしてアップするだけで、善蔵さんは万を超えるフォロワーをツイッターやインスタグラムで獲得していました。毎週のようにホムパだ海だキャンプだと人生をエンジョイする様子をフェイスブックに投稿して、多くの「いいね!」をもらい、顔がよく、収入があり人脈を持ち、たまに雑誌にもインタビュー記事が出て、ネット上ではシャイニーゲイとして羨望の的となり、また嫉妬の対象にもなっていたようです。
 そんな善蔵さんでしたが、三十歳となり、学生時代から十年付き合った彼氏と別れてから、憑き物が落ちたように遊ぶことを控えるようになったのは、あなたもご存じだと思います。
 しばらく顔を見ないな、と思い、しばらくと言っても一箇月か、一箇月半かその程度でしたけれども、ある時ふらっと善蔵さんがバーへやって来て、「今度引っ越しするんだ」と言います。どうせ麻布とか白金とかおハイソなところだろうと半分やっかみながら、「どこへ?」と尋ねると、田舎の地名を口にします。新宿から電車を乗り継いで三時間ほどの山奥に家を買ったと言うのです。
「どうしてそんな山奥に?」と問うた裏には、善蔵さんみたいな遊び人が、という気持ちが隠れていました。
「疲れちゃった」と、淋しそうに見える微笑を善蔵さんは浮かべました。「顔見知りと遊ぶことも、酒で何もかも分からなくすることも、音楽や文化や、都会にあるすべての騒々しさに疲れちゃった」と。
 薄くほほ笑む善蔵さんは潤いのあるきれいな瞳をしており、あごひげが、とてもセクシーに見えました。
 そうして風の噂で、彼が本当に引っ越してしまったと知りました。「あの派手好きが田舎暮らしに耐えられるはずがない」と仲間内ではもっぱらの評判でしたが、いえいえ彼が都会を離れて何年にもなります。善蔵さんのライフスタイルの変更は、都会に疲れていない皆に疑問を与えました。口にしないけれども思ったのです、「人生このままでいいのだろうか、瞬間瞬間の遊びに酔っぱらっていていいのだろうか」と。
 奇妙なことですが、容易に会わなくなってから、善蔵さんが気になり始めました。毎晩のように顔を見ていたときは、只の色男としか思っていなかったのですが、いなくなってみると、無性に気に掛かるのです。
 手紙を送ってみました。メールアドレスは知っていたのですが、なぜでしょう、この気持ちを伝えるならば肉筆の手紙のほうがふさわしいと感じたのです。
「お元気ですか? こちらは相変わらずのハードデイズです。善蔵さんにお会いしたくなります。」
 数日後、返事が来ました。
「泊まりにおいでよ。部屋は幾らでも空いているよ」とのことでした。久しぶりに彼のケータイに電話をして、訪れる旨を伝えました。彼は嘘いつわりなく歓迎してくれている風であり、ひと付き合いが悪くなったから、社交性も失ったわけではなさそうです。
 有給休暇を取り、着替えを鞄に詰め込んで、彼の住む田舎へと向かう電車に乗りました。思えば、富士山の見えるその村へ行くのは生まれて初めてのことです。
 ビルの並ぶ駅をすぎ、住宅の目立つ街を走り、緑が多くなり、電車を乗り換えました。そこからは各駅停車の普通電車で、シートに座るお尻が痛く、でも馴染んだ都会から離れてゆく実感があります。
 更に電車を乗り換えて、善蔵さんの暮らす山沿いの村へ着きました。電車の到着時刻を事前に伝えてあり、駅前のロータリーに、善蔵さんの地味な色合いのイタリア車が停まっていました。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
 二年? 二年半? しばらくぶりに会う善蔵さんは歯が白く清潔感が以前と同じくあり、あごひげが端正な顔を引き締めて、髪が少し伸びたようでした。
 大した荷物ではない旅行鞄を後部座席に置かせてもらい、助手席に乗り車が動きました。
 アスファルト舗装された一本道を車は走り、すぐ横に緑に覆われた山がそびえて、少しだけ開けた窓から入る空気は初夏の爽やかさを孕み汚れを感じず新鮮でした。
 十分ほどして到着した善蔵さんの家は、白い壁の二階建てでした。玄関の横が屋内駐車場になり、その脇の小屋から、賢そうな雑種犬が主人の帰宅を歓んでいます。
「この子、ぶんぶく茶釜」
 車から出て、腰に飛びついている犬の頭を善蔵さんが撫でています。
「変な名前」
「忘れないでしょ」
 ぶんぶく茶釜は人懐っこい性格らしく、ぼくも歓んで出迎えてくれました。
 案内された家の中は、掃除をきちんとしているのでしょう埃の臭いがせず、かすかに木の清々しい香りがしました。リビングにある大黒柱は立派で、アルミサッシの向こうに眼が和む自然が広がっています。
「疲れていない?」
 善蔵さんに問われて、電車に三時間ゆられて疲れている感じがありました。
 その旨を伝えると二階のゲストルームへ連れてゆかれます。木製のテーブルとベッドだけがある簡素な部屋、「夕食まで仮眠したら」と促されて、言葉に甘えることにしました。善蔵さんが出て行った後、Tシャツと下着になり、ベッドにもぐり込み、ほどなく深く寝てしまいました。
 目覚めると、すでに陽が暮れたらしくカーテンの隙間から赤い色が射し込んでいました。ベッドを抜け出てカーテンを開けると、手が届きそうに感じる距離に富士山があり、夕焼けに染まっています。家の周りに民家はなく、林が取り巻いていて、なるほど静かなところだなと思いました。
 部屋を出て階段をおりようとすると、お客さんが来ているらしく玄関を開けて善蔵さんが立ち話をしていました。野菜の入った籠を両手で持っており、ちらっと窺うと頭に布巾を巻いたお婆ちゃんと立ち話をしているのです。
 邪魔しちゃ悪いかなと思っていると、家にあげてもらったぶんぶく茶釜がぼくに気づいてうれしそうにわんわん吠えます。
「おや、お友だちかい?」
 お婆さんが問い、
「ええ、東京の友人が」
 お婆さんはまたねと腰を曲げた姿で帰ってゆきました。
「これもらっちゃった」
 うれしそうな善蔵さんが手にする籠には、ナスやカボチャ、ニンジンなどの新鮮な野菜が。ふたりの周りを、ぶんぶく茶釜が「遊んで遊んで」とぐるぐる回っています。
 リビングへと移動しながら、
「ご近所づきあいするんですね」
 都会暮らしの人間にとって、それは面倒以外の何ものでもありません。
「当番制で地域の掃除に、月に二回は町内会、ご近所のじいちゃんばあちゃんに頼まれて買い物とか」
「善蔵さん、やっているんですか?」
「慣れたら愉しいよ。いいひとが多いしね」
 相手が街のパーティピーポーから田舎の素朴な住人に変わっただけで、善蔵さんの人付き合いの良さは今も変わらないようです。
 善蔵さんがエプロンをつけて食事の支度を始めて、
「お風呂湧いているよ」
「いただきます」
「お湯とかの使い方は分かると思うから…ついでにぶんぶく茶釜も洗っちゃってよ」
「えー、犬ってお風呂嫌いませんか?」
「大丈夫。その子は風呂好きだから」
 試しにお風呂と伝えると、ぶんぶく茶釜が尻尾を振って浴室まで案内してくれます。
 広い浴室には好い木の香りが立ち込めていました。ぬかりなく下着やバスローブも善蔵さんが用意してくれており、裸になり洗い場に入りました。
 ぶんぶく茶釜が横で舌を出してうれしそうで、せっけんで洗っていいのかな、と思いながら全身を洗ってやると、マッサージみたいで気持ちいいのか尻尾を千切れそうに振っています。体と髪を洗い湯船に浸かると適温で、当然のようにぶんぶく茶釜も入ってきました。ぶんぶく茶釜は賢くて、お湯の中ではしゃぐことをしません。彼の柔らかな毛を手のひらで撫でながら、こんなにのんびりするのは生まれて初めてかも、と吐息をつきました。
 風呂を出てぶんぶく茶釜をタオルで拭いてやり、バスローブを着てリビングへ戻ると夕食の支度ができていました。
 鶏もも肉をグリルしたもの。季節のキノコのソテー。チーズが三種。彩り豊かなホットサラダ。
「やあ、きれいにしてもらったね」
 善蔵さんがぶんぶく茶釜の頭を撫でてやり、ドッグフードを与えます。
「おいしそう。お腹すきました」
「ワイン飲むかい?」
「いただきます」
「赤でいいよね」
 常温の赤ワインのボトルがキッチンから運ばれてきました。車で十数分のところにワイナリーがあり、そこでお値打ちに買えるそうです。
 ぼくたちはテーブルに向かい合い、乾杯をしました。ソテーしたキノコを噛むと、熱い汁と共に山の旨みが口の中にほとばしり、ほう、と息を吐きます。善蔵さんが涼しい顔で、ワイングラスを傾けています。
 彼は今、週に三日働いています。一日だけ、山を超えた大学で講師を。残りの二日は、家で翻訳を。
 キャッシュで家を購入したし、食材はもらったり育てたり、生活に困らない。悠々自適というやつです。
 夜が更けて、皿とフォークの触れる音がして、無駄口を叩く気にならず、食事を終えたぶんぶく茶釜は床にあごを預けて眠り始めて。
 食事を終えて、だらしなくソファーに陣取り、ワインを飲み続けています。キッチンから食器洗浄機の稼働する音が聞こえて、お風呂を浴びた善蔵さんが腰にバスタオルを巻いただけの姿で戻ってきました。
 筋肉のラインがくっきり浮かんだ胸、六つに割れた腹筋、しなやかな竹を思わせる腕、たくましい肩、体とのバランスが保たれた脚、彼は以前にも増して魅力的になっていました。
 その魅力に、触れてはならない理由が見つからない。
 彼の太ももに、そっと手のひらを置きました。筋肉の束を感じられる鍛えられた脚。
「二階に行こうか」
 彼の言葉はかすれていました。
 眠っているぶんぶく茶釜にタオルケットをそっと掛けます。足音を忍ばせて木製の階段をあがり、善蔵さんの寝室へと入りました。
 月明かりが、室内を薄暗く照らしています。善蔵さんが腰のタオルを取り、性器が黒い柱となって隆々と屹立しています。
 バスローブを脱ぎ、手渡されたコンドームを装着し、彼の肩を抱き寄せました。
 体温。せっけんと混じり合った匂い。彼の唇から洩れたかすかな吐息。
 交尾する蛇のように、互いの性器をぶつけ合い、もつれ合わせて、湧き起こる鈍い快感を一滴残らず味わおうと増々強く腰をぶつけ合い、唇を合わせて舌を絡ませて、月明かりの下に浮かぶ彼の眼は濁りがなく澄んでおり、もっともっとと尻肉を鷲づかみにして引き寄せて、どうして今まで彼なしで平気だったのだろうと不思議になり、二度と離したくないと熱望する。
 ベッドに倒れ込んで、持ちあげた彼の腋の下を音を立ててねぶりまわす。抑えた吐息が耳を打ち、もっとよがらせたいもっと狂わせたい、腹筋のラインが浮いた脇腹を撫でまわし、腿の筋肉が緊張し弛緩して、その感触が指に食い込む。亀のかしらから垂れた粘液、ねちょねちょと手のひらにまぶして、睾丸の息の根を止めようとするかのごとく、握り引っ張りこねくりまわせば、「ああ、ふっ、いい」善蔵さんが桃色吐息。まだまだまだ、この程度では終わらせない、彼の胸をまさぐり硬く尖った乳首を撫でてつまめば「はう」のけ反った彼の背中はしなやかで竹のごとし。
 眼は口ほどに物を言う。表情は苦悶を耐え忍び、けれども腰が欲しがっている。舌なめずりして次の愛撫を待ち構える善蔵さんの眼には霞が掛かり、広げた両足の奥の穴、そいつに指をぴとりと当てれば、欲しがって息づいている。
 ローション垂らして摩擦係数ゼロ、これか、ここか、ここなのか、じわじわ埋める、中指を。根元をきゅっきゅと締めてきて、名器の気配、これをペニスで味わえば甘露だろう。にちょにちょ出し入れ、あんあん反応。可哀想に殺生だ、いっそ極楽へと送ってやろう。
 ぬら~りぬらり、コンドーム被ったペニスの先で息づく穴を擦ってやると、欲しい欲しいと穴が蠢く。
 えい、やっ、ぐ。ひと息に埋めればそれだけで気をやった様子。こら失神するな、戦はこれからだ。頬を叩き眼を覚まさせて、見つめ合いながらピストン運動開始。
 ぐちょ、ごぼっと豪快な音が穴から立ち、ペニスにまとわりつく淫らな白い泡、肉棒に絡みつく桃色の肉壁、これぞオスの交わり、動く腰も速度を増すというもの。
 入れては出し、入れては出し、小休止とばかりにペニスを抜けばこれ以上なく勃起した逸物がぱちんと腹を打つ。湯気が立つそれを眺めて、こんなにも亀頭がでかかっただろうか、コンドームの裾から覗く血管はこんなにも青く太かっただろうか、飢えた武士のような迫力があると惚れ惚れ。
 仰向けに寝そべれば催眠術に惑わされた者のように善蔵さんがまたいできて、胸に両手を置いて「おお、ここ、ここ」と自ら腰を振り始める。
 腕を伸ばして乳首を嬲り、前立腺が大騒ぎ、突かれる度に悲鳴をあげる性器を握り締めて擦れば、「駄目、イクイクッ」乱れに乱れた咆哮が夜の闇を引き裂いた。
 白い体液、宙を飛び、最後の一滴まで搾り取る。「おお、ぐ、ふう」イッて敏感になった性器の先端を、ぐわらぐわらと、いじめぬき、にわかに後部の秘所がぐいっと締まって、「うう、おれも」一切構わず善蔵さんを抱き締めて、折れよとばかりに腕に抱いて大放出、ファック、ファック、これぞファック、思い残すことは何もない。
 手を取り合って生まれたままの姿で風呂へ直行、互いの体を洗い合い、するとぶんぶく茶釜が仲間外れに遭った顔で浴室の前、待ち構えており、「大丈夫、おいで」、ふたりと一匹で二階へあがる。
 生まれたままの姿でベッドへともぐり込み、「ぼくも。ぼくも」とぶんぶく茶釜がふたりの間に割って入る。「めんこいなあ」思わず飛び出た本音、手と脚をぶんぶく茶釜に絡みつけて、これも歴然とした「川の字」、たちまち安眠訪れて、二秒も経たずに深い寝息。
 眼が覚めると、すでにカーテンの向こうは明るく、ぶんぶく茶釜も善蔵さんもベッドの中におりませんでした。あくびをして、バスローブを羽織って部屋を出ると、玄関の辺りから「せーんせ、せーんせー」と子どもの声が聞こえます。
 何事と階段の中途で様子を窺っていると、歳の頃は六つ七つ、おかっぱの少女が玄関を開けて立っており、「やあヨウコちゃん」と善蔵さんがぶんぶく茶釜を彼女に渡しています。「きゃは」とうれしそうに声をあげて、彼女がぶんぶく茶釜を従えて庭に出ました。
 眼が合って、「おはよう」「おはようございます」と挨拶をして、「何?」と問えば「小学校でいじめに遭って不登校なんだ。ぶんぶく茶釜と遊ぶときだけ外出する」とのこと。なるほど、地域で彼女を守り育てているらしいのです。
 庭の見えるリビングのソファーに座ると、なぜか花を右手に持ったヨウコちゃんがぶんぶく茶釜を追いかけており、ぶんぶく茶釜もうれしそうに舌を出して逃げています。善蔵さんが朝食としてトーストとチーズを出してくれて、当然のように赤ワインをグラスに注ぎました。
「果樹園に行ってくるから留守番を頼めるかい?」
 善蔵さんはコットンのシャツにチノパン、外出できる恰好です。
「いいですよ」
 善蔵さんが出てゆき、けだるいシャンソンをBGMにしてワインを啜り、ふと庭を見ればヨウコちゃんが地面に座り込んでいます。立ちあがりサッシを開けて「ジュースを飲むかい?」熱中症が心配になり問えば、「ううん、平気ー」おとなびた声で水筒を持っています。
 声を掛けられて照れくさかったのか、「ばいばい、またなー、ぶーん」と飛行機のように両手を広げて駆けて行ってしまいました。ぶんぶく茶釜は勝手に玄関から上がり込み、ソファの横に寝そべります。
 赤ワインで頬が火照ったことを自覚しながら、昨夜抱いたのは本当に善蔵さんだったか、と疑問が起こりました。印象に残るのは瑞々しい瞳と、すべやかな肌と。何しろ顔も確認せず、彼がぶんぶく茶釜だったと言われても、おどろかない。ただ、肉を合わせた実感は現実と断言できます。
 しばらくして善蔵さんが戻ってきました。
「大きく育って、色が赤く熟したほうが梨は美味いんだ」
 するすると皮をむき、皿に出してくれます。この世で最も好きな食べ物は梨だ、と善蔵さんが笑います。
「汗かいちゃった」彼が顔をあげました。「お風呂、いっしょに入ろう」
 連れ立って浴室へ行き、服を脱ぎます。湯はすでに沸いていました。
 明るい中で見る善蔵さんの裸は、それは素晴らしいものでした。
 雪山のようになだらかに大胸筋が隆起して、谷のように腹筋が刻まれて、実用的な筋肉のついた腕、上半身とのバランスが保たれた脚、すべてがパーフェクトでした。
 体すら洗わず、蜜柑の皮の浮いた湯船にふたりで浸かりました。善蔵さんの体は毛が薄く、けれども、指の背には男らしい毛が生えて、そこに野郎を感じ、胸がきゅっとなります。彼の体を腕に包んでおり、窓から見える富士山は山頂付近を雲に隠し、もしあれが噴火して火山灰が来てここに閉じ込められたとしても、それはそれで悪くない、という気分になってきます。
 蜜柑の匂いに混じって汗の匂いを察知し、善蔵さんの香り、性器がぴんと硬くなりました。
 硬くなった性器が善蔵さんの尻肉をつつき、ふふ、彼が笑い、浴槽に座らされます。
 ふてぶてしく裏側を見せて反り返り、切れ目から粘度のある先汁をこぼし、節くれだった樹木のように血管が浮いた性器に、善蔵さんがコンドームを装着します。天国の花のように桃色したコンドームに彩られた性器は、ある面は滑稽であり、また不思議といやらしくもあります。
 善蔵さんがそれを咥えます。そのまま両手を伸ばして、乳首をいじってきました。
 ちゃぷ、ちゃぷ、と湯が跳ねて、下半身が燃えるように熱く、彼の頭に手を添えて、前後する頭が愛おしい。舌先が尖り尿の道をゴム越しに突きまわされて、ああ熱い、しょんべん洩らしそう。
 彼の指がひょいっとすべり、裏口入学、背後の入り口をノック。駄目ですそこは、訴えむなしく侵入。
 下半身が爆発しそう。気がつけば自分で胸をいじり倒し、もっと見て、いやらしい姿をもっと見て。感応するかのごとく善蔵さんが立ちあがり自分で自分の珍棒を握って、見せつけるように擦り始めた。
 二十センチはあろうかという妖刀が蛇腹のごとく裏側を見せて、先端からは溶岩噴出、しとど落ちる粘液を指先につけて擦れば、ぴくりぴくりと反応をする。先端を持ち下方に折って、ぱっと手を離せばぱちーんと腹を打ち大した勃起力。
 気づけば周りにホタルが飛んでおる。成虫となり、一瞬の愛にすべてを掛けて、未来へと命をつなぐホタルが辺りを舞っている。
 われわれもホタルとなろう。
 善蔵さんの尻をわしづかみにして左右に開き、うごめく穴に指を突っ込んだ。じゅぶじゅぶと出し入れをして、ゆるんだ泉がひくひくと欲しがり、ホタルが舞っている光を放ち舞っている、善蔵さんの尻もいまや光源である。
 穴がぱくぱく欲しがっている。ゴム被った珍棒の先を当てると飲み込もうと蠢いた。まだまだ許さぬ、先端で周縁をぐるりぐうるりと撫でまわし、善蔵さんが訴える、ああ厭だ、奥まで欲しい、気持ちは分かるが焦らすが吉。
 我慢し切れなくなった善蔵さんが尻を左右にゆらす。もっと、奥まで突っ込んで。
 まだまだ駄目さ、お愉しみはこれからさ。
 珍棒の先で穴を撫でまわし、ぬいて、ぺとっと叩き、ひくひくするのが愉快至極で、息をふーっと吹きかけると、やっぱり泡を噴いて蠢く。
 辛抱をできなくなった善蔵さんが、己の珍棒を擦り催促。先端からあふれる蜜がぐっちょぐちょ。
 その蜜すくい珍棒を後方に折れば、「あぐっ」善蔵さんうめくが本心から厭がっているはずもない。空からハスの花が舞い降りてきて、天に昇った心地よさ。富士の山は怒髪天つき、あちらで交わり、こちらでまぐわい、フリーセックス万々歳。
 地響きがして遠くに吠えるはぶんぶく茶釜か、我々はここにおる、お前に負けじと吠えておる。
 大股開きの善蔵さん、後ろのお口がぱあくぱく、指を入れれば二本飲む。これじゃ、ちいと物足りぬ。
 仕方ないなと珍棒当てれば、嗚呼これこれ、これを待っておりんした。
 鼻に香るは蜜柑の花、あちらに沈むは橙の夕陽。ずぶっと埋めるよ亀がしら。おお、つん、きゅ、と引っかかる。まだまだほぐしが足りぬのか。
 分かったもので善蔵さん、己の指でほぐし始める。珍棒に添えた指の可憐さ、背に生えた毛が男だねえ。唇当てて、ずるっと唾液を送り込む。
 唾液といっしょに、ほれ、ずるり。珍棒がすっかり入った。
 あれよあれよと天にも昇る。突かれているのは前立腺。ペニスが命を宿している。びくっびくっと反応し。
 おお、おお、そんな、殺生な、そんなに締めると極楽が続かぬ。根元から精のしるしを吸い上げようと目論むか。
 そうは行かぬぞ一里塚。腰、動かして前立腺ぞろり。あぎゃあ、うぐ、のけ反る男の喉仏いやらしい。
 祭りだ祭りだわっしょわっしょい。太鼓が鳴って、屋形船。乗っておらすわホモふたり。わっしょいわっしょいずんどこずんどこ。腰ふれわっしょい尻ふれわっしょい。
 わっしょいわっしょい花火があがった、打ち上げ花火、あちらは菊だ、こなたは牡丹、わっしょいわっしょいずんどこずんどこ。
 いや花火ちゃうわ、ザーメンや、打ち上げザーメンわっしょいしょい。
 掘られる善蔵さんがのけ反って、どぴゅう、菊。どぴゅぴゅう、牡丹。きれいやなあ風情やなあ。どぴゅぴゅぴゅぴゅ、びゅうびゅう、と八連発。
 イカせたイカせた、オスの満足、征服感。オメーは珍棒なしじゃ生きてゆけないメス犬だ。けれど抜かない暴れん棒。
 地鳴りだわっしょい、この世ならざる者どもがやってきて、乳首舐められ唇奪われ、その間も腰をふりふり。睾丸舐めるやつァどいつだ、背中をべろんべろんするのはどいつだい、全身が熱い、しょんべん洩らしそう。地鳴りがする噴火は近い、夕焼けに染まる富士の山がごごごごご、おう下半身とリンク、イクぜ、イクぜ、ぶっ放すぜ、睾丸が収縮し大噴火の予兆、尿道がぐわっと開いてそこからザーメンがコンドームの中にびゅうびゅびゅう、うおお命が搾り取られる、ホタルが踊り狂っている、つながれ生命、未来へと。ぶんぶく茶釜は腹へった。睾丸爆発どんどかん、壊れた蛇口だどぴゅぴゅぴゅぴゅ。火山灰に覆われし空は灰色に覆われた闇、亀は万年。愛し合うために生まれてきたんだぜ、ベイベー。
 これ以上はないファックを終えて、気がつけば湯船を出て洗い場に倒れていました。仰向け。天井に水滴がついて。
 胸に善蔵さんが頬を当てて眠っており、何があったのか何を経験したのか。確かなことは、射精したばかりで睾丸が軽いのです。
 善蔵さんの男らしい眉、芝生のように柔らかな短髪、愛しているのは彼なのか、彼を含めたすべてなのでしょうか。
 きゅう、くうん、くうん。
 やれやれ、と立ちあがり、浴室を出ると案の定ぶんぶく茶釜が淋しそうに鳴いています。
「お腹すいたのかい?」
 生まれたままの姿で善蔵さんがぶんぶく茶釜を従えて、うまれたままの姿でその背中についてゆき、善蔵さんが梨を与えてぶんぶく茶釜は満足そう。
 生まれたままの姿でソファーに座り、赤ワインのグラスを傾けて、傍らで善蔵さんが翻訳の仕事を始めます。書名は冗談でしょう、『ホリデイ・イン・ヌードビーチ』。
 あくびが出てワインを啜る手はとまらず、休暇は明後日までか、と思い、やってきました、うたた寝。
 夢の中で誰かが叫んでいました。
「ファック、ハード! ファック、アイウォント、ハード! ファァァァック!」
 それは善蔵さんではない、あえて言えば、あなた、でした。いえ間違いありません、あなたが、夢の中で、烈しくファックしたい、とわめいているのでした。うなずけます。いつでもできると油断していたら、できなくなりますよね、ファック。
 ネットでも現実でも、皆さん、ファックをしたがっている。ファックをしたくて、あんなことや、こんなこと、そんなことをしています。
 でも、そのうち何割がファックしているのでしょうか。シャイニーも非リア充も、お祭りわっしょいを開催しているのでしょうか。顔や体の選り好みして、機会を逃しているのではないですか。
 翻訳にひと区切りがついたのでしょう、テーブルに書類が置いてあります。それを手に取ると、果たして翻訳で、冒頭が次のように書き出してありました。
〈この日記をあなたが読むとき、もう古い言葉になっているでしょうか、それとも、まだ使うひとがいるだろうか。〉
 なんという偶然でしょう、それは、この日記と同じ書き出しだったのであります。
 生まれたままの姿でうたた寝をしてしまって、本来ならば風邪をひいておかしくないところですが、見れば、ぶんぶく茶釜がお腹の上に乗っています。天然の、温かい毛布です。
「お前は賢いね。利口だね」
 ぶんぶく茶釜の頭を撫でてやると、眼を細めて舌を出して歓んでいます。
 富士山は噴火していません。ホタルも飛んでいません。戦争も、テロも、たぶん、まだ起こっていない。それとも、知らぬ間に終わっているのでしょうか。
 休暇の残りは少ない。
 翻訳が終わって眠ってしまったらしく、善蔵さんが生まれたままの姿で寝そべっています。年齢相応に赤黒い性器がふるふる震えていて、それを、なんとなく指先で玩びました。
 お風呂から出て、そう時間が経っておらず、匂いはない。段々と硬くなってゆきます。
 善蔵さんの感触。
 休暇が終われば、また、都会で生きてゆく気力が湧くでしょうか。湧くでしょう。
 でも、あなたもご存じの通り。
 この男の選んだ空間、この男の傍らは、ひどく、居心地がよい。
(了)