EXTRA

樋口めぐむ連作小説『緑の海』最終回

毎月お届けしてきた樋口めぐむさんの連作小説『緑の海』も、今月でいよいよ最終回を迎えます。本当に素晴らしい、感動のフィナーレです。

樋口めぐむ連作小説『緑の海』最終回

2007年に『バディ』小説大賞特別賞を受賞している樋口めぐむさんの連作小説『緑の海』。田舎から上京してきたばかりの野球少年・涼太が二丁目デビューを果たし、さまざまなことを経験し、ゲイとして、人間として成長してきました。第12話にして最終回のタイトルは「g-lad xx」です。1年間小説を書いてくださっただけでなく、最後にこんな素敵なサプライズを用意してくださった樋口さんに、心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました!(編)

g-ladxx

「内海くん」陽だまりが落ちる廊下で、指導教員の眼鏡の奥の眼が光った。「もうちょっと声は大きく。あと、うつむかずに生徒の顔を、ちゃんとみるように」
「あ、すいません」
 涼太はちいさく頭をさげた。白いものの混じる指導教員の髪は、きっちり七・三に分けられている。くたびれた茶色いスーツは、量販店の特売品だろうか。教科書を小脇に抱えて、指導教員が職員室に入った。指導教員の姿がみえなくなって、ふう、と涼太は息を吐いた。
 三年生になり、教育実習で、都内の公立高校に来ている。そこそこ偏差値の高い高校であるためか、心配していたような学級崩壊は眼にしていない。
 けれど着なれないスーツに身を包み、初めて教室の扉を開けた瞬間のことを憶えている。
 何十という視線が教壇に立つ涼太に注がれて、その生徒たちの眼は、「こいつ何者だ」と値踏みしていた。十八歳で初めてゲイバーを訪れたときも値踏みする男たちの視線にたじろいだけれど、そのときよりも緊張した。
「内海せんせー」三人組の女生徒が、古文の教科書を手に背後から声をかけて来た。「ここの訳がわかんないの、教えてー」
 女生徒たちの表情や声には、本人たちも気づかないうちに甘いものが含まれている。思春期。恋愛や異性に対する興味が抑えられない時期なのだろう。
「震旦(しんだん)は古代中国のことだよ、授業で教えたでしょ」
「そうだっけー」
 三人組が、きゃはは、と笑った。
「ねえ、内海せんせーは彼女いるの?」
「プライベートに関する質問にはお答えしません」
 きゃはは、と、また三人組が笑う。三人組の向こうに、安原が立っているのがみえた。細い身体を学生服で包み、安原の暗い眼には、涼太に対する敵意がこもっているのが解った。

「やーん、かわいー」
 マレーネのカウンターで、満が教育実習先の女生徒より甘い声をだした。台湾の留学生と付き合いながら女性とも結婚している作弥が、三歳になる息子をつれて来たのだ。
「坊ちゃんは、なんて名前?」
 作弥から息子を受け取って、抱き上げて、満が訊いた。
「・・・ユジュル」
 満の腕の中で、ユズルが答えた。
「そう、ユズルちゃんは何歳かなあ?」
 質問に答えず、ユズルはじーっと満の顔をみていた。そしてひと言、言った。
「おばちゃん、いや」
 店内に、爆笑が起こった。
「だれがおばちゃんよ!」
「満、正体がバレてるよ」
 陽一が、笑いながら言う。
「おばちゃんはやめて、せめてお姉さんと呼んでェ」
 ユズルが満の腕の中から逃れて、となりの涼太の膝のうえに乗った。何か鼻歌を歌いながら、膝のうえに座る。
「あら。ユズルちゃんは涼太ちゃんがお好みみたいね」
 腕の中の、ぷよぷよと頼りない感触を涼太は味わった。突き出しのバナナチップスに手を伸ばし、ユズルが食べる。振り向いて涼太に、にへら、と笑う。涼太のとなりで武弘が、バランタインのお代わりを頼んでいる。
 満は相変わらず出版社に勤めて、相変わらずいろんな太めの男性と恋愛し、相変わらずフラれ続けている。
 陽一は旅行会社からIT系の企業に転職して、長く付き合う恋人とも順調で、忙しくも充実した日々を送っている。
 武弘はうつから回復して、いまは再発防止に軽い薬を飲んでいる。去年の冬から契約社員として、弁護士事務所で週に三日だけ事務系の仕事をしている。恋人の悟と、いまもいっしょに暮らしている。
「ユズルくん、大きくなりましたね」
 涼太は、作弥に話しかけた。
「ユズルに会うの、涼太くんは二度目だよね。確か涼太くんとデートしたとき、まだ赤ん坊のユズルをつれて行ったんだよね」
「デートなのに、なんで子ども連れなの? ってパニックになりました」
 ふふ、と作弥が笑う。
 涼太はビールを飲み、ユズルにストローでオレンジジュースを飲ませた。ユズルが振り向き、じーっと涼太の顔をみている。そのうちに、ちいさな両の手のひらで涼太の頬を包み、ちゅ、と、軽いキスをして来た。店内にまた、爆笑が広がる。
「ぼく、いま唇を奪われました?」
「あー、ごめん、ユズルはキス魔なの。おれや女房としょっちゅうキスしてる」
「キスするの、いつ以来だろ」
「涼太ちゃん、得したわね、こんな若い子とキスできて」
 満が笑っている。陽一も武弘も作弥も笑っている。民生がグラスを磨きながら笑っている。だから、涼太もユズルにほほ笑みかけた。腕の中のユズルの眼はきらきらと黒目がちで、何かの工芸品のようにみえた。

 一日が終わり帰ろうと下駄箱へ向かっていると、ひとの話し声が聞こえて来た。明かりのない廊下の奥から、その話し声が聞こえて来る。
 足音を忍ばせて、ひと気のない廊下の奥を進んだ。男子トイレの中で、ひとりの生徒が三人の生徒に囲まれている。
「どうしたの?」
 状況の異常さを感じながら、できるだけ冷静な声を涼太はだした。囲んでいた三人の生徒がこちらを振り向き、目配せを瞬間的にした。
「何? どうしたの?」
 涼太の問いかけを無視して、三人が涼太の脇をすりぬけた。去り際にひとりが、涼太に向かって、ばーか、と言った。
 トイレにひとり残った、囲まれていた生徒は安原だった。唇の端に、うすく血がにじんでいる。
「安原くん、何があった、大丈夫なの?」
 ハンカチを渡しながら、訊いた。ハンカチを受け取って、険のある眼で安原が涼太をにらんだ。
「あんたに関係ないよ」
「それはそうかもしれないけど・・・現場を目撃した以上、無関係ではいられないな」
 涼太の言葉に、安原は答えない。死んだ魚の眼で、タイル貼りの床をみている。
「彼らは、何年生?」
「三年だよ」
「何をされた? 殴られたの?」
 安原が、怒りのこもった視線を涼太に向けた。
「あんたが口出しすると余計に事態がこじれるんだよっ、放っといてくれ」
 言い放つと、安原がトイレをでて行こうとする。とっさに腕をつかんだが、烈しく振り払われた。トイレからでた安原が、涼太をにらみながら強い口調で言った。
「他の先生に告げ口すんなよっ」
 事態にどう対処していいのか解らず、涼太は黙って安原の細い背中を見送った。

「お疲れ―」
「柳沢さん、ひさしぶり」
 荒木町のいつもの小料理屋。柳沢と会うのは、一箇月ぶりだろうか。
 柳沢はしばらく大学に来ていない。今年の初めにだした三作目の小説が大きな賞を取った。現役美人女子大生があの賞を、とマスコミが騒ぎ、取材陣がキャンパスにまで押しかけて、事態に配慮して柳沢はしばらく大学を休んだのだ。
「調子はどう?」
 生ビールを大将に頼み、涼太はカウンターに座った。
「ようやく落ち着いて来たかなー。でも失礼しちゃうわよね、あたしの小説をロクに読んでない連中が、取材と称して、ひとんちまで押しかけて来るんだから」
「有名税ってやつだね」
「まあね。美人に生れちゃったから仕方ないわね」
「自分で美人とか言うな」
 ふたりで笑い、料理をつつく。
「そう言えば内海くん教育実習行ってるんでしょー。どんな感じ?」
「へとへと。指導の先生はきびしいし、生徒は大人しく授業を聞いてくれるんだけど、どうも、いじめに遭ってる子がいるみたいでさ」
「いじめ」
「トイレで上級生に囲まれてるのを助けたんだ。でも、放っといてくれって怒られちゃった」
「あー。いじめられてる場面をみられたら、プライドが傷つくかもね」
「だよね。でも、何とかしないといけないな」
「指導の教師に相談とかはしたの?」
「してない。事情もよくわからないのに相談しても、問題が大きくなるだけの気がして」
 柳沢が、冷酒をお代わりした。
「内海くんは、教師になるの?」
「わかんない。教職とっておけば食いっぱぐれはないだろうって、正直やらしい計算もある」
「内海くんは、学校の先生、向いてる気がするけど」
「だめだよ、人見知りだし」
「そうね、向いてる気もするし、向いてない気もするわね」
「だよね、向いてない気がする」
「東京都は教師評価制度を導入してるでしょ。そういう競争原理に巻き込まれるの、内海くんにはどうかなー」
 柳沢さんは就職のこと考えなくていいからうらやましいな、と思う。思って、でも保証のない世界で物を書いて生きてゆくほうが、もっと大変かも、と内心でひとりごちる。
「内海くん、恋愛関係どーよ」
「ん? まあ適当にやってるよ。柳沢さんはどうなの」
「別れたわ」
「え、そうなの?」
「あたしが賞をもらったら、元彼が嫉妬するのよね。おれなんて、しがない本屋の店長だし、とか拗ねるし。まったく。どんな仕事だって務めあげれば立派なのに」
「男の嫉妬って烈しいから」
「女の嫉妬も烈しいわよ。性別ではなく、個人差の問題ね。でも、彼女が有名になっちゃうと、男子の枯券とやらに関わるみたいね。ったく。くだらない」
「まあねー。前の彼氏に悪気があったとは思えないけど、他にいい男もいるって」
「どうだろ。しばらく男はいいわ。ひとりで、のんびりする」

 休日、ネットをつなぎスカイプを始める。スカイプの相手は、バンコクに暮らす夏生だ。
「よお。元気か」
 パソコンのモニターに、笑顔の夏生が現れた。いつもの、太陽のような笑顔。
「夏生さん、調子はどう」
「忙しいよー。昨日までフィリピンに行ってた。水害があっただろ、家を流されたひとたちのためにキャンプを張ったり、救援物資を届けて疲れた」
 日本へ帰国するたびに、短い滞在の合間をぬって、夏生とは会っている。会って、食事をして、語らい、そして、肌を重ねる。抱き合って眠る。
 付き合っている、と断言はできないが、いま現在だれよりも親しく関わっている相手が夏生であることは、まちがいない。
「何人ぐらいの方が、被害に遭ったの」
「どうだろ、正確な被害者数はまだ発表されてない。でも、数千人が亡くなったらしい」
 夏生の表情が曇った。ひとの痛みを自分のことのように感じる。そんな夏生の顔をみて、涼太の胸も痛む。
 夏生と知り合い、夏生と関わるようになって、毎月、大きな海外のボランティア団体に寄付をするようになった。裕福ではない学生の身分なので額はちいさいが、自分にできる最大のひと助けだと思った。
 来年には四年生になり、やがて就職しても、寄付は続けようと思っている。確定申告の時期に申告すれば、寄付した額に応じて納税額が安くなることを、もう涼太は知っている。
「夏生さん、こんどはいつ日本に戻るの」
「どうだろ、来月には休みが取れるかな」
「夏生さんに会いたいけど、無理しないでね。身体を労わって」
 涼太の言葉に、夏生の表情がゆるんだ。会話が続き、不意に、変な間ができた。
「あのさ――」
 夏生が、鼻の頭を爪でぽりぽりと掻く。それは言いにくいこと、照れくさいことを言うときの、夏生のくせだ。
「――何年後かわからないけど、もしも、おれが日本に帰国することになったら――」
「うん、それで?」
「――あのさ、その時になってみないとわからないけど、もし帰国して、日本に住むことになったら――」
「うん」
「――いっしょに暮らさない?」
 夏生の言葉に、反応が遅れた。夏生といっしょに暮らす。想像したことがないではないけれど、いざ当人から誘われてみると、とまどう自分がいる。
「だめかな」
「だめじゃないよ、だめじゃないけど、びっくりしちゃって」
「そうだよなあ、いきなりだもんなあ」
 モニターの中で夏生が、わかりやすく、しょげていた。その様がいじらしくて、涼太は思わず笑った。
「いいよ」涼太は言った。「夏生さんが日本に戻ったら、いっしょに暮らそう」
「ほんと? まじっ?」
「うん。だから夏生さんは、事故や病気に気をつけて。ちゃんと、無事に日本に戻って」
「ああ、もちろん」
 太陽のように、夏生が笑った。夏生の笑顔がうれしくて、涼太もほほ笑んだ。
 スカイプが終わり、パソコンの電源を切り、いやらしいDVDをみながらオナニーをした。いまのところ涼太は、夏生以外のひととセックスする気にならない。もちろんそれは、道徳的な理由によってではない。

 四時限めの授業に、安原の姿がない。欠席ではないし、どうしたのだろ、と涼太は思う。
 昼休みになり、昼食も摂らずに、安原の姿を探す。校内を歩きまわり、どこにも安原はおらず、屋上を探していないことに気づいた。
 屋上にでる扉は、施錠されている。屋上にも、安原はいないらしい。
 そう思って立ち去りかけて、階段の脇の窓の下に椅子が置いてあるのが眼に入った。この窓をつかえば、屋上にでられる。
 椅子のうえに立って、屋上をみた。果たして安原が、床に座りたばこを吸っていた。
 指導教員に喫煙の事実を報告しようかと考えて、それはちがう、と思った。それでは、問題の根本的な解決にならない。
 窓によじのぼった。スーツを埃で汚しながら、屋上に降り立つ。涼太の姿をみつけた安原が、慌ててたばこを床で揉み消した。
「安原くん」
 立ち上がり逃げ出す姿勢になっている安原に、やわらかく声をかけた。自分は敵ではない。そのことを、まず知ってほしかった。
「授業で姿をみなかったけど」
 涼太の言葉に、安原は返事をしない。返事をせず、涼太をにらみつけている。
 立った安原の脇に、たばこが置いてあった。マルボロ。なつかしい、舜も吸っていた銘柄。
 涼太はマルボロに手を伸ばした。
「いっぽんくれよ」
 そう言って、口に咥えた。
 たばこを吸うのは、涼太は初めてだった。なれない手つきで火を点けて、思い切り煙を吸いこみ、たちまち、むせた。
「よく、こんなもん吸えるな」
 まだ長いたばこを床で消した。涙眼で安原をみると、むせた涼太がおかしかったのか、表情がやわらいでいる。
「学校、おもしろくない?」
 安原に訊いた。
「サイアク」
 安原が答えた。きっぱりとした口調だった。
「理由、訊いていいかな?」
「あんたには、わかんないよ」
「話してみないと、わからないだろ」
 挑戦的な眼で、安原が涼太をみた。にらみ合いが続き、やがて、あきれたように安原が言った。
「おれ、ホモなの。くそったれの変態野郎なんだよ」
 涼太は、安原の顔をみた。表情がこわばり、頬も耳も赤くそまっている。
 安原の気持ちが、わかった。わかる気がした。かつて自分もこんな風に悩んで、世界を呪った時期があった。
「きみが三年生たちに暴力をふるわれたのは、それが理由なの?」
 安原は答えない。答えないことが、この場合、何よりも雄弁な肯定だ。
「知ってるかい、きみが今、三年生たちに行われていることは、単なるいじめじゃない、ヘイトクライムって言うんだよ」
 安原は、何も言わない。
「きみは悪くない、同性愛者である事を、きみは一切恥じる必要がない」
 安原が、重く口を開いた。
「あんたに、何がわかる」
 安原の口調は、世の中に絶望した者のそれだった。
 いけない、と、自分を戒める声が内心にあった。もし、安原が言いふらせば、自分は教職を取れないかもしれない。教師への道が閉ざされるかもしれない。
 けれど、それが何だというのだろう。仮に教師になれなくても、どんな仕事に就いても自分は生きてゆけるだろう。でも眼の前の少年を暗い穴の底から引き揚げなくては、彼は生涯その穴の中でうずくまり、世を憎みひとを恨み続けるかもしれない。
「わかるよ」と、落ち着いた、しずかな声で涼太は言った。「だって、ぼくもゲイだから」
 安原の眼が、大きく見開かれた。信じられないという表情で、涼太をみている。
「味方なんて、だれもいないと思ってた。世界中が、敵だと思ってた――」涼太は苦笑した。「――でも今は、かんちがいだった、って解った」
 安原は何も言わない。沈黙がふたりの間に流れて、涼太は、足元のたばことライターを拾った。
「これは没収な、一応」
 安原を置いて、屋上を去るために窓のほうに歩いた。涼太の背中に、安原がぼそりとつぶやいた。
「変なやつだな、あんた」
 安原の言葉を聞き、涼太はうすく、ほほ笑んだ。

 夕食を食べて後片づけが終わり、食卓の前に座った。ふと思い立ち、パソコンデスクの引き出しを開けた。中から一通の手紙を取りだす。
 封筒を開けて、一枚の便せんと、一葉の写真を取りだす。青空の下、白い砂浜のうえに、Tシャツに短パンの舜が立っている。空をみあげて、まぶしく陽光を反射させた海を背景に、ひとを小馬鹿にしたような、いつもの笑みを浮かべている。
 便せんを開く。
〈元気か? おれは元気だ。またな。〉
 たった一行だけ、そう記してある。
 蒲郡を離れて沖縄に舜が移住した、と人づてに聞いた。海に近いガソリンスタンドで、油まみれになって働いていると聞いた。
 封筒をみる。舜の住所は記されていない。
 メールで尋ねれば、舜は住所を教えてくれるだろうが、あえて尋ねない。
 便せんを取りだし、ボールペンを握って、手紙を書き始める。
 ――舜、元気か? ぼくは元気だ。
 ――今日、なつかしい子に会ったよ。むかしのぼく。むかしのぼくみたいに、味方はだれもいなくて、世界中が敵ばかりと信じこんでる子。
 ――ゲイだから、悩んでいる子がいる。でも、悩んでいる子は、ゲイだけじゃない。
 ――将来に悩む子がいる。恋愛や友人関係に悩む子がいる。成績を悩む子がいて、健康に悩む子がいる。
 ――でも、悩めるって、すばらしい事だな。生きていないと、悩めないものな。
 ――ぼくに、できるだろうか。悩んでいる子たちの手助けが、ぼくにできるだろうか。
 ――手助けなんて発想が、おごりなのかもしれないね。ひとは、結局、自分ひとりの力でやっていくより仕方ない。
 ――でもさ、ぼくは、救われていたよ、お前がいてくれたことに。むかしのぼくは、お前に、たくさん救われた。ぼくも、だれかにとっての支えになれたら、うれしいな。
 ――・・・なんて言ったら、お前は笑うだろうな、「馬鹿言ってんじゃねー」って。
 ――またな。身体には気をつけろよ。いつか会ったら、いっしょに酒でも飲もう。
 ――舜へ
 ――涼太より、XX
 最後に添えたふたつの「X」は、キスであり、親愛を意味する。
 ボールペンを置いて、涼太は便せんを折り畳んだ。この手紙を、投函する気はない。舜に届けるつもりはない。
 あえて届けなくても、離れて暮らしていても、ふたりはどこかで、結びついているのだから。