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ゲイ用語の基礎知識

クィア

 クィア(Queer)とはもともと「風変わりな」「奇妙な」という意味の言葉であり、「ヘンタイ」「オカマ」という意味の蔑称でもありましたが、それを逆手に取って、セクシュアルマイノリティ全てを包括する言葉(総称)として「クィア」が抵抗運動(クィア・ムーブメント)や連帯の合言葉として用いられるようになりました。ジェンダーやセクシュアリティを包括的に論じる「クィア・スタディーズ」もそこから派生しています。
 欧米の影響を受けて2017〜2018年頃から日本でも「LGBT」に代わって「LGBTQ」という表記が用いられるようになってきました。この「Q」は、クエスチョニング(自身の性的指向や性自認が定まっていない、迷っている、あえて決めたくないような人たち)と、クィア(性的指向や性自認が非典型的な人たち全般)のことを表しています。人気番組『クィア・アイ』の「クィア」はセクシュアルマイノリティ全般の意味でしょうし、「ジェンダークィア」などと言う時の「クィア」は性自認が非典型という意味です。文脈や使い方によって、意味合いが変わってきます。
 

 1980年代のエイズ禍の時代、政府の無策によって何万人ものゲイ・バイセクシュアル男性たちがなすすべもなく亡くなっていくなかで、レズビアンやトランスジェンダーも一緒になって立ち上がり、ACT UPなどの運動がアメリカやフランスで起こり、そうしたエイズ・アクティヴィズムから、クィア・アクティヴィズムが派生しました。黙っていては、殺される。これまでのような穏健なやりかたではだめだ。セクシュアルマイノリティが一致団結し、声を上げ、闘っていかなければ。そんなクィア・アクティヴィズムの合言葉は「私たちはここにいるし、私たちはクィアなのよ、それに慣れることね」でした。
 「ヘンタイ」「オカマ」といったセクシュアルマイノリティに対する蔑称を逆手に取った「クィア」は、異性愛中心主義に違和を覚える多様な性のありかたを論じる学問「クィア・スタディーズ」にも波及しました。クィア・スタディーズとは、フーコーや構築主義の理論を援用し、ジェンダーやセクシュアリティを包括的に論じるもので、ゲイやレズビアンが特殊なのではなく、異性愛規範(ヘテロノーマティビティ)こそが問題なのだと批判します。ジュディス・バトラーの「ジェンダーはパフォーマティヴ」というテーゼや、イブ・セジウィックの「ホモソーシャル」概念が有名です。

 
 もう少しクィアとはどういうことかをわかりやすくお伝えしてみます。

 たとえば、性別適合手術を終えて戸籍上の性別も変更した性同一性障害の方の中には、見た目的にも「典型的な」男性または女性に見える(パスしている)方も多く、トランスしたことを気づかれないよう、社会に埋没して生きていこうとする方たちもいらっしゃいますが、それとは対照的に、明らかにトランスジェンダーだとわかるような見た目で町に出る(あるいはゲイがドラァグクイーンとしてクラブなどに登場する)ような場合に「クィア」が使われたりします。異性愛規範を脱構築し、典型的な男/女のありようから隔たっていること(そのおもしろさや豊かさ)の肯定的表現なのです。つまり、世間から見ると「奇妙」だったり「風変わり」だったりすることこそを讃美し、愛でようとする価値観です。そういう意味で、ドラァグクイーンの中にはストレートの女性(ごくまれに男性)の方などもいらっしゃいますが、身体上の性別やセクシュアリティや性自認に関係なく、クィア性を体現していればOK!なのです。
 レディ・ガガが、バイセクシュアルであると宣言しつつ(セクシュアルマイノリティの権利擁護にもコミットしつつ)、奇妙で風変わりな格好を世界中に流行させたのは、クィア的な観点においても重要な意義を持っているのではないでしょうか。世界に「クィア=カッコいい」というイメージを流布したわけですから。
 

 日本では、伏見憲明さんが『クィア・スタディーズ』『クィア・パラダイス』『クィア・ジャパン』『変態(クィア)入門』といった編著作を発表してきたほか、アジアンクィア映画祭関西クィア映画祭などのイベントのタイトルに「クィア」が採用されています。
 また、FOXlife(ケーブルTVチャンネル)で放送されていた『クイア・アイ♂♀ダサ男改造計画』も原題(『Queer Eye for the Straght Guy』)をそのまま採用し、「クィア」を世間に広める一助となっていました。
 
 クィア・スタディーズについての入門書としては、森山至貴さんの『LGBTを読みとく ーークィア・スタディーズ入門』(2017年、筑摩書房)もあります。森山さんは2023年、能町みね子さんとの対談本『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ』も発表しています。どちらもクィアの考え方や態度についてよくわかる名著です。

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