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レポート:TOKYO AIDS WEEKS 2015

11月21日(土)〜12月12日(土)に展開された「TOKYO AIDS WEEKS 2015」。今回は、ゲイの合唱団による感動的なミニコンサートや「OUT IN JAPAN」写真展が行われたプレイベントの模様と、世界エイズデーにAiSOTOPE LOUNGEで開催された「WORLD AIDS DAY Party RED awareness」の模様を中心に、レポートをお届けします。

レポート:TOKYO AIDS WEEKS 2015

TOKYO AIDS WEEKS 2015は、今年東京開催となった第29回日本エイズ学会学術集会・総会、その直前の土日に開催されたプレイベント、そして世界エイズデーに関連したイベントなど期間中のさまざまな動きに新しいつながりを生み出し、そして、「市民のエイズへの関心を高めて感染拡大の抑止をはかるとともに、HIV陽性者およびHIV/エイズに対する偏見差別を解消し、感染した人々も安心して暮らせる社会を目指すこと」を目的に、11月21日(土)〜12月12日(土)に展開されました(詳しくはこちら)。TOKYO AIDS WEEKSには、二丁目のaktaやぷれいす東京、JaNP+といったおなじみの団体が企画・運営でかかわっており、エイズ学会プレイベントではゲイ合唱団によるミニコンサートが行われたり、aktaやAiSOTOPE LOUNGEでイベントが行われたりしました。今回は、ゲイの合唱団による感動的なミニコンサートや「OUT IN JAPAN」写真展が行われたプレイベントの模様と、世界エイズデーにAiSOTOPE LOUNGEで開催された「WORLD AIDS DAY Party RED awareness」の模様を中心に、レポートをお届けします。(後藤純一)


エイズ学会プレイベント







 11月28日(土)に東京都新宿区の国立国際医療研究センターで第29回日本エイズ学会が開催されました。大江戸線・若松河田駅から徒歩数分のところにある国立国際医療研究センターは、日本一HIVの患者さんが多い病院だそうですが、かなり大きな建物で、外来吹き抜けロビーの1階部分にステージと座席が用意され、特設の素敵なイベント会場になっていました(2階部分からも眺められる感じ。まさにちょっとしたコンサートです)
 1階には「OUT IN JAPAN」の写真も展示されていました。10月の関西レインボーパレードに合わせて撮影された大阪分の写真も見ることができたのですが、関西や東海地方の友達がレスリー・キーさんの魔法によって本当に素敵に写っていたりして、よかったです。また、セクシュアリティだけではなく、HIV陽性であることをカミングアウトする方たちの写真もあり(TOKYO AIDS WEEKSのために、という気持ちだと思います)、ジーンときました。

 14時15分、「Gay Men's Chorus for Tokyo AIDS Weeks 2015 ミニコンサート」がスタート。胸にレッドリボンを着けた数十名の合唱団のみなさんがステージに登場し、おかべさん(2005、2006年のパレードの実行委員長および『プレリュード』主催)のピアノ伴奏で「どんなときも」「Climb Ev’ry Mountain(「Sound Of Music」より)」「見上げてごらん夜の星を」を披露。それから、自らも陽性者と公表しつつ、長きにわたってHIV/エイズのことに取り組んでこられた長谷川博史さんが車椅子で登場し、自作の「さくらさくら/センチメンタルジャーニー」(エイズを発症した亡くなった友人たちのことを綴った詩)を朗読。最後に再び合唱団の方たちが登場し、長谷川さんもいっしょに「銀河鉄道999」「誕生」を合唱、そしてアンコールで「上を向いて歩こう」をみんなで歌いました。
 今回の合唱団は公募によって集まった方たちで、年齢も合唱経験年数などもさまざま、練習にもほとんど参加できなかった方などもいらしたそうですが(主催者の方の苦労がしのばれます)、おそらく、友人やパートナーが(あるいはご自身が)HIV陽性者だったりするだろう方たちが、それぞれの思いを胸に、コミュニティやTOKYO AIDS WEEKSのためにという気持ちでステージに立ち、心をこめて歌っている、その姿だけでもう…胸が熱くなりました。「見上げてごらん夜の星を」「誕生」あたりでは涙をこらえるのが大変でした…
 また、コンサートが終わってから、初老の女性の方が長谷川さんに声をかけ、「私の息子も…」と言って号泣しながら抱きついていた姿を見て、思わずもらい泣きしてしまいました…

 17時30分からは5階大会議室でシンポジウム「LGBTとHIV」が開催されました。数百人を収容する大きな会場でしたが、けっこう席が埋まっていて、熱気を感じさせました。
 日本のゲイ・バイセクシュアル男性向けHIV予防啓発の父とも言うべき市川誠一さん、「REACH Online」をはじめWebアンケートによって実に大切な調査・研究を実施してきた日高庸晴さんが、ゲイ・バイセクシュアル男性のメンタルのこと(学校でのいじめ被害、傷つき、自傷行為などの実態、抑うつ傾向)や薬物使用、コンドーム使用率、それらの関連、これまでの感染の推移や最近の傾向などのデータを解説し、松中権さんや山縣真矢さんといったパネリストの方たちがお話するというかたちで進んでいきました。
 印象的だったお話をいくつか紹介します(メモ書きレベルで恐縮ですが…)
 データ上、都市部で同性間性的接触による感染が高くなっているが、地方でも同様なのではないか(同性間性的接触という申告をしない人が多い)ということ。アメリカではネットの普及によって「セカンドクローゼット」と呼ばれる層の人たちが現れているということ。バーやハッテン場を介さない予防啓発に関する批判もあるが、ネット自体が悪いというわけではなく、情報伝達において優れた効果も発揮する(人気のアプリのなかで検査情報が出てたりもする)
 いま、20代の間で感染が増加しているのが課題。若い人たちの間では、会話のなかにHIVのことがあまり出てこない(建前と本音を使い分けている?)。もっと話をしていこう。
 ゲイ・バイセクシュアル男性だけでなく、MTFトランスジェンダーの方の間でも感染が広がっている(彼女たちは自らを異性愛と認識していることが多い)
 台湾では、国会で同性婚が議論されるくらい、同性愛者の権利擁護は進んでいるが、HIVのことはタブーとされ、日本よりもずっと感染が深刻。パレードにフロートを出したりもしているが、台湾の人たちともゆるやかにつながっていきたい。

 この日はドキュメンタリー映画『We Were Hereあの頃、僕らはーいま、語られるエイズの記憶』の上映会も行われました。翌日曜日には「AV男優、セックスワーカーらによる、プロが教える楽しい性教育講座。」が行われ、ほぼ満席の会場に、現役AV男優の方々スーツ姿で登場し、コンドームの着け方を教えたり、HIVに限らずさまざまな性感染症の予防について語ってくれました(こちらにレポートが掲載されています)
 また、同日、第29回日本エイズ学会学術集会・総会オープニングセッションとして、米アーロン・ダイアモンド・エイズ研究センター/ロックフェラー大学のデビッド・ホー博士、英『ランセット』誌のスチュアート・スペンサー博士による講演も無料で行われました(申し込もうかと思ったときにはすでに締め切られていて…残念でした)


WORLD AIDS DAY Party RED awareness











 12月1日(火)、二丁目で「WORLD AIDS DAY Party RED awareness」というパーティが開催されました。
 会場のAiSOTOPE LOUNGEには、真っ赤な風船(ハート型だったり)やレインボーカラーの風船がデコレーションされていて、とても素敵な雰囲気でした(レインボー祭りと同じ方の手になるデコレーションだそう。さすがです!)。フロアにはゲイの方たちはもちろん(ものすごくひさしぶりに会う方などもいて、ちょっと同窓会っぽい感じで)、エイズ学会のあとに駆けつけたスーツ姿の方たちや女性の方、車椅子の方などもいらして、いい具合にミックス感やアットホーム感がありました。

 20時頃、第一部のショータイムがスタート。ジャンジさんの素敵なラップに続き、トークゲストのブルボンヌさんとサセコさんが登場し、「今日は何の日か知ってますか?」「んーと、イイサオの日?」「それは昨日よ!」みたいなかけあい(漫才?)で会場をドッカンドッカン盛り上げてくれました。
 それから、ブルボンヌさんと長谷川さんのトークショーが行われました。長谷川さんは糖尿病の悪化が原因で(HIVのせいではありません)片脚を切断し、大変な思いをされましたが、実はもっと大変なことがあって、透析の病院を転院しようとしたものの、HIV陽性であることを理由に40軒も断られ、うつになったんだそうです…(歯医者なども探すのが大変だそうです)。長谷川さんはもう25年もHIVの薬を飲んでいるそうですが、長期で服薬していると副作用で体の脂が全部出てしまったり、糖尿病が悪化したり(飲み合わせが悪いようです)、さまざま苦労しているとのこと。そんなとても深刻なお話を、ブルボンヌさんが持ち前のインテリジェンスと巧みな話術でうまくやわらかくしてくれて、素晴らしいトークショーになりました(大きな、あたたかい拍手に包まれました)
 そして、本日のショークイーン、バビ江ノビッチさんが登場し、ベット・ミドラーの「Stay With Me」の熱いライブを全身全霊でパフォーマンス。これは2000年の「VOICE」(ぷれいす東京が主催していたコミュニティイベント)のアフターパーティで初披露した演目なんだそうです。

 ショータイム後は、M☆NARUSEによるダンスタイム。ゲストGOGO BOYのDEG PAGのお二人が登場し、フロアは大盛り上がりに! 気づけばアイソのフロアもいっぱいになっていました。

 そして21時半頃、ショータイム第二部がスタート。サセコさんがMCをつとめ、DEG PAGのお二人を紹介。お二人は、陽性者とカミングアウトを受けた人の対になっている手記をリーディングしてくれました。「人にはいろんな言いづらいことがあると思うけど、HIVがそういうものじゃなくなるといいな、と思います」とDEGさん。「僕も友人にカミングアウトを受けたことがあるけど、信頼して言ってくれたんだな、とうれしく思いました」とPAGさん。「お二人を見ていると私の若い頃を思い出します」とサセコさん(爆笑)
 それから「Base」のToshiさん(二丁目振興会会長)が登場し、自慢の歌声を披露。『いのちの歌』というとてもいい歌を、見事な歌唱力で聴かせていました(なお、次回の「冬のレインボー祭り」は2月7日(日)だそうです!)
 続いて、再びバビ江さんのショー。今度は黒いシックなドレスに身を包み、しっとりと。曲の後半、大きなスカートが電飾でキラキラ光るというこの季節にピッタリな素敵演出でした(こちらもベット・ミドラーの曲で、「Stay With Me」とは対照的な歌詞。両方の歌を続けて聴くと、ストーリー性も生まれるそうです。なんてオシャレ!)
 最後に、ジャンジさんの「ハグたいそう」をひさしぶりに体験できました。自分の心臓のドキドキを確かめたり、隣の人とハグしたり、大地とハグしたり…最初はやるのを恥ずかしがっていたお客さんも、みんなで輪になってグルグル回ったりしているうちにノリノリになったりして、体も心もあたたかくなる、素晴らしいひとときでした。
 
 平日の夜なのに、こんな豪華ゲスト(掛け値なしに、日本でもトップクラスのパフォーマーの方ばかりです)が集結して、大勢でハッピーな盛り上がりを見せて、これで入場無料(1ドリンク頼んでね)っていうお得感。本当に楽しめてよかった、ラッキー!と思った方も多いはず。来年も開催されたら、ぜひ参加してみてください!

☆「WORLD AIDS DAY Party RED awareness」のフォトアルバムはこちら
 


TOKYO AIDS WEEKS 2015を振り返って


 振り返れるほどたくさんの催しに参加してないよね、と自分にツッコミを入れつつ、誰でも参加できるイベントを要領よく楽しんできた側として、そういう目線で、TOKYO AIDS WEEKS 2015にふれて感じたことをまとめてみたいと思います。
 
 まずは、素直に「とても楽しかった」「感動をもらえた」「ためになった」ということ。学会は専門の方向けのものですが、関連のプレイベントやクラブパーティは誰にでも開かれていて、しかも(たくさんの方たちの心意気、応援によって)無料で楽しむことができました。主催者・出演者のみなさんに感謝したい気持ちです。

 HIVチャリティのイベントって、ただのお祭り騒ぎでもなく、カタ過ぎるシンポジウムとかでもなく、笑いあり涙ありのあたたかいイベントが多かったと思います。思いっきり楽しみつつ、身近に陽性者がいることを感じられたり、決して他人事ではないと思えるような。コミュニティ感の素晴らしさ(主催する方たちは大変だったと思いますが…)
 1990年代〜2000年代前半には、AIDSケア・プロジェクト主催の「GRATIA」というゴージャスなクラブパーティのほか、ぷれいす東京が四谷区民ホールで開催していた「VOICE」、長谷川さん主催の「ピンクベア・カフェ」、大勢のドラァグクィーンの方たちが共同で開催していたクラブパーティ「○×○×○×」「SEX」、ハッテンを愛する男たちによる「GUTS」など、実に多彩なイベントが開催され、大勢の方たちがそういうイベントに親しんできました(京都では「Club Luv+」、大阪では「switch」「PluS+」、その他、札幌や仙台や福岡や那覇などでもイベントが開催されていました。現在も続けられている唯一のイベントが名古屋の「NLGR+」です)。2000年代後半には「Living Together Lounge」が定期開催されるようになり、現在は「Living Togetherのど自慢」や「akta TAG TOUR」が年に数回ペースで開催されています。が、正直、以前に比べるとさびしくなった印象があります。今回、世界エイズデーに「RED awareness」のような本格的なクラブパーティが行われるのは本当にひさしぶりだと思います(あの頃に活躍していた方たちが結集!という趣がありました)

 g-lad xxでもたびたびお伝えしているように、いま、HIV予防に対する予算がどんどん削られていて、aktaをはじめとする全国のコミュニティセンターが存続の危機に立たされています(こちらこちらをご覧ください)。今回行われた種々のイベントも、少ない予算のなかで、みなさん(たぶん出演者の方なども)ボランティアでやってこられたことと思います。こういうイベントも、母体となる団体がないと、なかなか開催されませんし、継続も難しいと思います。
 いままで当たり前にあったものがどんどんなくなっていく時代ではありますが、このまま手をこまねいて見ているよりは、イベントを楽しんだり、たまには「akta」に足を運んだり(もし余力があればデリバリーボーイズのお手伝いをしたり)、ゲイバーでコンドームをもらったら少し寄付してみたり、何かできる範囲でやっていけたら、たくさんの方たちが参加したり応援してるということが伝わるのではないかと、事態が悪化していくことを食い止める一助にはなるんじゃないかと思います。
 
 HIV感染のペースは(予防啓発に携わるさまざまな人たちの尽力のおかげで)ほぼ横ばい状態に抑えられているとはいえ、今も毎年約1000人ずつ増えており、ゲイ・バイセクシュアル男性の陽性者は累計で1万人を超えました(詳しくはこちら)。治療薬はずいぶん飲みやすくなり、治療方法も進化しています(欧米では予防として治療薬を飲むという手法も開発されているそうです)。しかし、TPPが成立すれば、治療薬が何十倍にも値上がりして飲めなくなる人が出てくるのではないか、という不安の声も上がっています。発症する前に検査でわかれば薬を飲んでずっと元気でやっていける(ある意味、慢性疾患の一つになった)ということは確かで、決して「かかったらおしまい」ではありませんが、「かかっても別に大丈夫」でもないということ。また、HIV/エイズに対する世間の偏見はまだまだ根強く、長谷川さんのように病院から断られるなど、さまざまなしんどさもあると思います。
 そういう意味では、ぼくら一人ひとりが折にふれてHIV陽性者の声に耳を傾け、リアリティを感じたり、自分も決して無関係ではないと(身近に)感じ続けることが大切なのではないでしょうか。Living Togetherがまさにそうですが、今回のTOKYO AIDS WEEKS 2015も、間違いなくそういう機会になっていたと思います(しかも、超豪華版というか、スペシャルバージョンでお送りされました)。来年もし2016年版が開催されたら、ぜひみなさん、参加してみてください。

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