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特集:フランソワ・オゾン

映画『Ricky リッキー』の公開を記念し、今月11日から『8人の女たち』など、フランソワ・オゾンの過去の名作が特集上映されます。ゲイの映画監督ならではの笑いと毒っ気と美学を楽しんでいただければ幸いです。

特集:フランソワ・オゾン

フランソワ・オゾン——ゲイだからこそのテイスト


超カワイイ!短編『サマードレス』

 1998年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で『サマードレス』という短編をご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。シェイラが歌う『バン・バン』に合わせて金髪マッチョがドラァグクイーンのように踊るシーンが最高に素敵です(こちらに動画が載っています)。そして、女物のサマードレスを着たまま自転車を走らせる主人公。同性愛とか異性愛とか異性装者とかいうカテゴライズを軽やかに解き放ち、自由でユーモラスな青春の1シーンを描き出した傑作短編です。
 オゾンは『サマードレス』に続いて中編の『海をみる』、そして『ホームドラマ』『クリミナルラバ―ズ』といったブラックな毒(またはキャンプな笑い)が効いた長編で実力を発揮しつつ、認められていきます。その次の『焼け石に水』では、恋愛の自由さと残酷な一面を見事に描き出し、2000年のテディ賞(ベルリン国際映画祭の最優秀ゲイ映画賞)を受賞します。
 2001年にオゾンは、一段と芸術志向な作品『まぼろし』を発表し、巨匠への道を歩み始めます。そして、2002年の大作『8人の女たち』で、ベルリン国際映画祭その名声を不動のものにするのです。


イケメンと評判のオゾン監督

 オゾン映画は一作毎に作風が変わる、と言われます。サスペンスやミステリーを作ったかと思えば、詩的で美しい芸術作品を生み出したり、かと思えば時代物を撮ったり…「変幻自在な才能」と言われるゆえんです。しかし、決して一貫性がないわけではありません。全作品にゲイならでは、オゾンならではのテイストがありありと映し出されています。
 そして、おそらくどの作品にも底流しているのは「世界は不条理に満ちている。日常生活に容赦なく不気味でグロテスクなものが入り込み、残酷な運命が訪れる。それとどう向き合うかが人生である」という世界観です。それをシニカルに捉えるとキャンプなスリラー作品やミュージカル仕立てのミステリーになりますし、真っ正面から捉えると『まぼろし』や『スイミングプール』のような芸術作品になる。でも、どの映画でも、人々はそうした世界の不条理と格闘します。そこにこそ人生の真実があり、美があり、感動がある(あるいは「おかしみ」がある)と言っているかのようです。
 フランソワ・オゾンが世界的な名声を得るに至った秘密は、そんなところにあるのでは?と思います。


『ぼくを葬る』
 しかし、オゾンがフランス映画界の巨匠の地位を得たからといって、決してゲイが登場しなくなったり、ゲイテイストが失われたわけではありません。
 オゾン作品は、ほとんどがゲイか女性を主人公にしています。女性は男性から品定めされたり、都合よく弄ばれたりすることなく、自立し、時に大胆に性を発露させ、それでいて美しい存在なのです(思わず感情移入してしまいます)。また、登場する男性たちが決して一般ウケする美青年やハンサムな紳士だったりせず、ちょっと太っていたり毛深かったり肉体労働者だったりするところもゲイの監督ならではだと思います。
 21世紀になって以降、あまりゲイは登場しなくなりましたが、2005年の『ぼくを葬る』ではひさしぶりにゲイのカメラマンが主人公になりました。(そんなバランスは、スペインのゲイの映画監督ペドロ・アルモドバルとよく似ていると思います)
 現在上映中の新作『Ricky リッキー』も、素敵!と手を叩きたくなるような、そして笑えるシーンもたくさんあるゲイテイストな作品でした。

 


特集上映――『8人の女たち』『まぼろし』『焼け石に水』

『Ricky リッキー』の公開を記念し、Bunkamuraルシネマでは、11日から24日まで、『8人の女たち』『まぼろし』『焼け石に水』といったフランソワ・オゾンの代表作が特集上映されます。この機会にぜひ、ご覧ください。


『8人の女たち』

 1950年代のフランス。クリスマス・イヴの朝、雪に閉ざされた大邸宅で一家の主が殺された。集まっていた家族(女性ばかり8人)は一転、全員容疑者となる。疑心暗鬼のなか、美しい8人の女たちの秘密が次々と明かされてゆく——
 『8人の女たち』は、フランスを代表する女優8人によるミュージカル仕立ての密室ミステリー。ベルリン国際映画祭で8人全員が銀熊賞を授与されたことが伝説になっています。
 「これぞゲイテイスト!」「キャー素敵!」と思うような名女優たちの名場面がたっぷり詰まっています。とりわけ、カトリーヌ・ドヌーヴとファニー・アルダン(日本で言うと三田佳子と倍賞美津子といったところでしょうか)がとっくみあいのケンカをして床をゴロゴロ転げ回りながら、いつの間にか愛し合いはじめる…というシーンが最高です。ラストシーンにもグッときます。みんなが大好きになるような大傑作です。

『8人の女たち』8 FEMMES
(2002年/フランス/111分)
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ファニー・アルダンほか

 


『まぼろし』
 マリーとジャンは幸せに連れ添って25年になる50代の夫婦。毎年夏になるとヴァカンスに出かける。今年も別荘にやってきたふたりだったが、マリーが浜辺でうたた寝する間に海に入った夫は、忽然と消えてしまう――
 マリーはジャンの死を受け入れることができず、頑としてそれを否認し、そして「まぼろし」を見るのです…その姿勢に、表情に、行動に、長年愛してきた人を失った悲しみとはこんなにも深く、こんなにも凄まじいものか…と、ひしひしと感じ入ります。シャーロット・ランプリング(あの『愛の嵐』に主演した伝説の女優です)の凛とした美しさが、この映画の主役です。
 ブラックでキャンプな作風だったオゾンが一転して直球の正攻法な語り口で描き出した、美しくもせつない芸術作です。それでいて、マリーがただの清楚で貞淑な妻ではない、欲望や情念を持った一人の女として描かれているところがイイと思います。

『まぼろし』SOUS LE SABLE
(2001年/フランス/95分)
出演:シャーロット・ランプリング、ブリュノ・クレメールほか

 


『焼け石に水』
 1970年代、ドイツ。若くて美しい青年・フランツは、中年のビジネスマン・レオポルドに誘われ、彼の家を訪ねる。レオの魔性の魅力の虜となったフランツは、部屋でいっしょに暮らし始めるが、二人の蜜月は長くは続かず、破局を迎えようとしていた。が、二人のそれぞれの元恋人が現れたことにより、関係性は別の、しかし悲劇的な方向へ向かって転がりだすのだった―― 
 あの『ケレル』で有名なファスビンダーの戯曲を原作にした『焼け石に水』は、ジョン・ウォーターズ(『ヘアスプレー』『ピンクフラミンゴ』)からも絶賛され、ベルリン国際映画祭テディ賞(最優秀ゲイ映画賞)を受賞しました。
 恋愛とはとことん自由なもの…相手が男だろうと女だろうとトランスジェンダーだろうと関係ないし、ヤリたくなったらヤレばいい、という痛快な開放感も表現しつつ、同時に、恋愛は決してハッピーな夢物語ではなく、ボロ雑巾のように捨てられ、不幸のどん底に陥ることもある、それは「惚れるが負け」の残酷なゲームである、ということも物語っています。4人が突然サンバを踊り出すシーン(予告編にもフィーチャーされています)によく表れていますが、悲劇を陰鬱に描くのではなく、まるで何かの冗談のようにカラっとした語り口で描くところが、ゲイテイスト。ゲイ映画としてだけでなく、恋愛映画としても古典的名作に数えられる作品でしょう。

『焼け石に水』GOUTTES D’EAU SUR PIERRES BRÛLANTES
(2000年/フランス/98分)
出演:ベルナール・ジロドー、マリック・ジディほか