
10代のゲイの自殺が社会問題化するアメリカで、オバマ大統領や多くのセレブも動くような、さまざまなプロジェクトが展開されています。世界はもっとよくなる、自分は決して独りじゃない、と思えるような素晴らしいムーブメントです。

この10月以来、タイラー・クレメンティをはじめ、学校で悪質ないじめに遭って自殺する10代のゲイが後を絶たず(合計で6人も亡くなったそうです)、社会問題となったアメリカで、ゲイ団体やセレブや政治家や、たくさんの人たちが動き出しました。マドンナや『ハリー・ポッター』のダニエル・ラドクリフ、『ヘアスプレー』のブリタニー・スノウ、人気ドラマ『GLEE』のキャスト&スタッフなどです。
その後、ゲイの若者を救おうとする取り組みが、全米…いえ、世界的な規模で広がりを見せました。ひどい暴力を振るう人たちもいる一方で、同じゲイの仲間たちだけでなく、オバマ大統領をはじめとする政治家や、ピクサーのような超有名企業のゲイの社員や、たくさんのセレブや、メディアも動きました。政府や教育機関では決定的な対策が講じられていない一方で、本当にたくさんの人たちが、ゲイのために心からのメッセージを発信し、できる限りの手を差し伸べ、勇気づけてくれているのです。まさに「きっと世界はもっとよくなる」と思えるような、素晴らしいムーブメントです。
ここで、この間のさまざまな動きをまとめてご紹介してみたいと思います。(後藤純一)
オバマ大統領も参加した「It Gets Better」プロジェクト
Youtube上にゲイの若者へのメッセージ動画をアップし、支援を表明する「It Gets Better」プロジェクトが、ものすごい広がりを見せています。
そもそもは、シアトル在住のダン・サベージというライター/エディターの方が、パートナーのテリーとともに、Youtubeに動画を投稿したのがきっかけです(詳しい経緯はこちら)
「今はつらくても、きっと状況はよくなる。希望を失わないで」というような内容ですが、それぞれの人たちが、自身の体験をまじえたり、心からの思いを、ゲイの若者たちに伝えようとしています。
その中には、オバマ大統領をはじめ、ジョン・バイデン副大統領、ヒラリー・クリントン、デヴィッド・パターソン(ニューヨーク州知事)、サム・アダムス(オープンリー・ゲイのポートランド市長)、ジャスティン・ビーバー、ケイティ・ペリー、ケシャ、ジェイク・シアーズ(シザー・シスターズ)、アダム・ランバート、グロリア・エステファン、アン・ハサウェイ、ケビン・ベーコン&キーラ・セジウィック、マイケル・ウーリ(『アグリー・ベティ』)、クリス・コルファー(『Glee』のゲイの役。自身もゲイです)、マックス・アドラー(『Glee』のいじめっ子キャラ)、ペレズ・ヒルトン、ガレス・トーマス(カミングアウトしたラグビー選手)などの著名人からのメッセージも投稿されています。
また、ピクサーだけでなく、GOOGLEの社員からのメッセージもあります。
ブロードウェイの人たちがオリジナルのテーマソングを作り、歌っている動画もあります。このプロジェクトのテーマソングのようになっています。そして、ロサンゼルスのゲイメンズコーラスの映像をぜひ観てください。ゲイたちが思いをこめてシンディ・ローパーの『True Colors』を歌っている…その表情にも歌にも思わず感動させられ、泣けてきます。
こうした著名人に限らず、名もないゲイカップルもたくさん、メッセージを載せています。同じように差別を受けてきた黒人の男の子たちからのメッセージもありました。
現在までに5000人以上が投稿し、全視聴数は1000万を超えました。
とてもすべてを見ることはできないでしょうが、今まさに困難に直面している(アメリカに限らず、世界のいろんな国の)ゲイの子どもたちも、きっとメッセージを受け取り、勇気づけられていることと思います。
ゲイの若者への支援を表明する「スピリット・デー」
12月1日の世界エイズデーには、レッドリボンを身に着け、エイズで亡くなった方への追悼の気持ちやHIV陽性者への支援の気持ちを表明することが世界的に浸透・定着しています。
それと同様に、今年の10月20日を、何か紫のものを身に着け、自殺した若者たちへの追悼の気持ちやゲイへの支援の気持ちを表明する「スピリット・デー」にしようというムーブメントが起こり、全米で広がりを見せました。
これを提唱したのは、カナダに住む10代の女の子、ブリタニー・マクミランでした。紫はセクシュアルマイノリティのシンボルであるレインボーフラッグの中で「精神」を表す色です。それが紫を身に着けようと呼びかける理由です。(ちなみにレインボーフラッグの他の色、赤、オレンジ、黄、緑、青はそれぞれ、命、癒し、太陽、自然、芸術を表しています)
「スピリット・デー」のサイト(Facebook)にはこう書かれています。「あなたたちは、セクシュアリティに関わらず、あなたを愛し、リスペクトする人たちに会うでしょう。時代はよくなっているのです」
この呼びかけに応え、GLAADが多くのメディアにプロモートした結果、10月20日、パリス・ヒルトンやジェニファー・ハドソンをはじめ、多くのセレブが紫の服を着ました。ポーラ・アブドゥルは「いじめの地獄に耐える必要なんてないわ!子どもたちは今も亡くなっている。そんなのってない」とTweetしました。「The View」や「The Talk」、「Good Morning America」といったTV番組でも、出演者が紫の服を着ていました。
Spirit Day: Wear Purple on October 20 to Raise Awareness of Anti-Gay Bullying, Says GLAAD(CBS NEWS)
http://www.cbsnews.com/8301-504083_162-20020164-504083.html
ミシガン州の高校でゲイを守った教師と、14歳のゲイの若者
「スピリット・デー」は何もメディアやセレブだけの現象ではありませんでした。紫をアレンジしたWebサイトもたくさんありました。町行く人が紫を身に着けていたり、学校でも「スピリット・デー」について授業が行われたり。
日本でも動き出しました
しょせんアメリカで起こってること、遠い国の出来事…と感じた方もいらっしゃるかもしれません。が、決してそうではないと思います。ゲイゲームズやゲイクルーズに参加してリアルに実感できましたが、ゲイたちは世界規模でネットワークを持ち、相互につながり、支え合ってもいます。ILGAのような全世界規模のLGBTの団体が活躍し(アジアで大会が開かれ、日本からも参加したりもしています)、アジアやアフリカのLGBTが抱える困難にも手がさしのべられ、国連などにも影響を与えています。マドンナもアフリカ・マラウィのゲイを救いました。「It Gets Better」の映像も、アメリカのみならず、世界中で視聴され、悩める若いゲイたちを勇気づけてきたはずです。日本の僕らもまた、そうした世界のゲイのネットワークの中にすでにいるのです。言葉の壁はあるかもしれませんが、その気になればいつでも、突破口を見出すことができるはずです。
そして、この日本でも、決して何も動きがないわけではありません。
ここ数年来、NHK教育『ハートをつなごう』がLGBT(の若者たち)に多大な支援をしてくれましたが、ついに、国会の場で同性愛者の権利について議論が始まったのです。
この10月、参議院の決算委員会で民主党の松浦大悟議員が「自殺対策について」の質問を約30分間、菅直人首相や国務大臣、総務大臣に行い、質問の後半部分で「自殺のハイリスク層」として性的マイノリティの存在に言及しました。さらに、国勢調査において同性カップルの存在が想定されておらず、配偶者と記入すると「誤記扱い」になる問題等を指摘し、担当大臣から「今後検討していく」といった答弁を引き出しました。国会では、性同一性障害のことについてはすでに議論され、法整備も行われてきましたが、同性愛について議論されたのはおそらく初めてではないかということで、本当に画期的なことでした。ゲイコミュニティ内でも松浦さんへの称賛の声が沸き起こりました。
(詳しくはこちらの記事をご覧ください)
このこともまた、「きっと、世界はもっとよくなる」と思えるような、素晴らしい出来事でした。