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イランにおける同性愛者迫害の実態が明らかに

 人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが、イランにおいて同性愛者が受けている虐待・暴力について詳細にレポートしました。
 2005年、イランで10代の同性愛2人が絞首刑に処されたというショッキングなニュースが世界を震撼させました(詳しくはこちら)。また、本国に送還されると死刑になると恐れるイラン人同性愛者を救おうと、英国をはじめとする欧州の国々や日本でも、難民認定を求めたり、強制送還を回避するための運動が行われてきました。
 しかし、人権侵害だと訴えてきた国際社会の声をよそに、イランで同性愛者が受けている迫害の実態は、なかなか明らかにされてきませんでした。
  
 ヒューマン・ライツ・ウォッチはこのたび、「葬られた世代:イランのセクシュアルマイノリティへの差別と暴力」という報告書を発表しました。100人以上のイラン人の証言に基づき、セクシュアルマイノリティ(政府が認める社会的・宗教的規範に合致しない性行動やジェンダー表現を行う人々)が被っている差別や暴力について、政府による一般市民への人権侵害という観点から調査・分析したものです。
 
 イランで生活する同性愛者(をはじめとするセクシュアルマイノリティの人々)は、差別的な法律や政策により、プライバシーの侵害、いやがらせや暴力、恣意的な逮捕・拘禁、虐待と拷問、そして死の危険にもさらされています。正当な法的保護もなく、公正な裁判も保障されていません。
 彼らは、国家からも民間人からも攻撃を受けています。危害を加えても処罰されないと認識されていることが理由の一つだといいます。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東局長サラ・リー・ウィットソン氏は、「セクシュアルマイノリティの人々は、あらゆる面で追い詰められている」と語ります。「こうした人々を敵視する様々な法律があり、政府は公然と差別を行っている。彼らは、いやがらせや虐待、暴力の被害に遭いやすい状況に置かれている。犯罪の標的にしても処罰されないと思っているからだ」

 イランの治安機関(警察のほか、強硬派の準軍事組織バスィージなど)は、差別的な法律に従って同性愛の疑いがある人物にいやがらせを行い、逮捕・拘束しています。こうした事件は主に公園や喫茶店で起こるそうですが、家宅捜索やウェブサイトの監視を行っている事例も明らかにされました。
 また、警察やバスィージが彼らを虐待したり、拷問していたことも明らかになりました。聞き取り調査を受けた人のうち、複数名が、治安機関職員による性的な暴行や拷問の被害にあったと訴えています。

 テヘラン郊外で喫茶店を営むゲイ男性のナヴィードさん(42)は2007年、2人の治安機関職員から暴行を受けたと証言しました。ナヴィードさんは、この2人がバスィージの構成員であることを後に突き止めました。ナヴィードさんは職場から出たところを拉致され、手錠をかけられ、車で連行され、車外に突き落とされ、殴打され、性的な暴行を加えられたそうです。
「1人はペニスを私の口に押し込んだ」「私は吐き、吐瀉物で身体が汚れた。すると2人は私を洗面所に引きずり込んで冷水を浴びせた。この間、体中をひたすら殴られた」
 ナヴィードさんは別の家に連れて行かれ、悪臭のするゴキブリだらけの台所に監禁されたそうです。
「1人が私を裸にした。そして、私を床に突き飛ばし、懐中電灯と棒で私を強姦した」

 この報告書は、セクシュアルマイノリティの人々が犯罪容疑で訴追されても適正に手続きが行われないという深刻な人権侵害についても明らかにしています。同性間性交渉の嫌疑をかけられた場合、公正な裁判を受けられる見込みはゼロに近いといいます。ソドミー罪の審理では、裁判官は、刑法が定める証拠認定の指針を無視し、拷問や過酷な精神的圧力で引き出された「自白」に依拠することが多いそうです。イランの刑法では、こうして得られた証拠の採用は禁止されているにも関わらず、です。
 また、裁判所は、ソドミー罪で起訴された被告に対して「慣習的な方法によって得られた裁判官の知識」のみを根拠に有罪判決を下すこともあるそうです。 
 
 イラン刑法の規定には、政府のセクシュアルマイノリティに対する敵対的態度が表れています。刑法では、伝統的な結婚関係の外で行われる性的関係はすべて犯罪とされます。とりわけ、同性間の性交渉という「犯罪行為」は、イスラーム法(シャリーア)によってハッド刑(原告が神)とされ、厳しく処罰されます。裁判官が挿入行為を認定すれば、死刑が科されることもあります。挿入行為がない場合は2人に100回の鞭打ち刑、4度有罪判決を受けると死刑もありえます。女性間の性的関係にも同様の刑罰が適用されるそうです。その他、同性同士が「淫欲を催して」キスすると最大60回の鞭打ち刑、「血縁関係にない」2人の男性が「必然性がないのに裸で同衾する」と最大99回の鞭打ち刑になります。
 一連のハッド刑により、性とジェンダーに関して規範に沿った行動が強制されており、「不道徳な」または「退廃的な」集会を組織したり参加することや、他人に「退廃的で」「わいせつな」行為を促すことも禁止されています。不道徳な資料を作成、使用、配布することも犯罪とされ、セクシュアルマイノリティのウェブサイトや文献なども含まれます。

 世界には、同性間性行為に死刑を科す国が7つあります。イラン、モーリタニア、ナイジェリア、サウジアラビア、ソマリア、スーダン、イエメンです。

 イランの新聞やメディアは、1979年のイラン革命以来、同性間の性行為への死刑判決に関しても多く報道してきました。すでに処刑された人や現在死刑囚となっている人々の圧倒的多数はソドミー罪容疑で、当時18歳未満(未成年)だった人も存在するそうです。イラン政府はこうした人々の大半が強制ソドミーや強姦罪だと主張しています。

 イランではハッド刑の裁判は非公開で行われるため、同性間性行為で処刑された人々のうち、どの程度が本当に同性愛者だったのか、どの程度が合意による性行為に関するものだったのか、判断が難しいといいます。裁判の過程が不透明なため、政府が、実際は合意による同性間性行為を行った人を、強制ソドミーや強姦として有罪判決を下している可能性もある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘します。
「イランは合意による同性間性行為を死刑とする数少ない国の1つであるだけではなく、未成年の時にソドミー容疑をかけられた人々にさえも死刑判決を下している。国際法に違反しているのだ」
 「子どもの権利条約」と「市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)」は、犯行当時18歳未満だった人々に対する死刑を禁止しています。 

 イランのアフマディーネジャード大統領は2007年、「イランには同性愛者は存在しない」と宣言しました。しかし、何千人もの同性愛者たちがブログを通じて活発に、反骨精神あふれるコミュニティを支えています。

 1979年以降、イラン政府は、セクシュアルマイノリティに関する様々な政策を実行してきました。その中には、トランスジェンダーの国民の存在を法的に認めるなど、寛容に思われるものもあります。また、セクシュアルマイノリティの男性は、「行動障害」を理由に兵役免除を申請することができます。しかし、こうした政策の究極の目的は、行動を管理し、規範を強制することにあると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘しています。一方で、セクシュアルマイノリティに更なるいやがらせや虐待、恐喝、強要、拷問を強いる政策もある。
 ヒューマン・ライツ・ウォッチのサラ・リー・ウィットソン氏は「イランの差別的な法律と政策を廃止することは、弱い立場に置かれたセクシュアルマイノリティを確実に保護する上で極めて重要だ」と語ります。「イランでセクシュアルマイノリティを攻撃する人々は、被害者が保護や司法的救済を求められないのをわかった上で実行に及んでいるのだ」

 ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イラン政府に対して以下の提言をしています。
・合意による同性間性行為を犯罪として処罰するイスラーム刑法に基づくすべての法律や規則を廃止すること
・合意による同性間性行為あるいは性的関係を理由とする、有罪判決と量刑判決を直ちにすべて取り消し、こうした理由で現在服役中の人々を全員直ちに釈放すること
・合意によるか、強制されたかを問わず、犯罪があったとされる時点で18才未満だった人々に対するソドミー罪での死刑判決を、すべて直ちに取り消すこと
・バスィージなどの治安部隊による、セクシュアルマイノリティへの政府関係者によるいやがらせや虐待、ジェンダーに基づく暴力を禁止し、こうした行動に関わる治安部隊の成員を捜査・訴追すること
・セクシュアルマイノリティや、政府の定めた規範に従わない性的アイデンティティ、ジェンダー・アイデンティティの持ち主を標的として、治安部隊が行う取締りやおとり捜査(インターネットによるおとり捜査作戦や家宅捜索)をすべてやめること
・拘束中に治安部隊が行うセクシュアルマイノリティへのいやがらせや虐待、拷問、性的暴行を禁止すること、またそのような行動に関わる治安部隊の成員を捜査・訴追すること
・拷問や拷問の脅迫、その他の虐待によって得られたと思われる証言や自白について、すべての訴訟で使用を禁止すること
・トランスジェンダーのイラン国民に対し、性別適合手術を受けた人々へのホルモン療法など物理的・心理的支援への十分なアクセスを提供すること


イラン:セクシュアルマイノリティーへの差別と暴力(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)
http://www.hrw.org/ja/news/2010/12/15-5

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