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エルトン・ジョン「HIV予防には愛が必要」と訴え

2012年07月30日

 7月27日までの6日間、米首都ワシントンで第19回国際エイズ会議が開かれ(米国での開催は実に22年ぶり。HIV陽性者の入国拒否政策が2年前にようやく撤廃されたからです)、世界183カ国から2万4千人が参加しました(もちろん、日本からも)

 自ら財団を立ち上げ、長年HIVチャリティに貢献してきたエルトン・ジョンは23日、「Can Public-Private Partnerships Help Those who Think Globally, Act Locally?」というセッションで基調演説を行いました。
 かつてアルコールやドラッグ依存に苦しみ、無防備なセックスをしてきたという自身の経験から語りはじめたエルトンは、HIV/AIDSの予防には「金や薬だけではなく、愛が必要だ」と訴えました。そのスピーチが本当に素晴らしい…もしそこで聞いていたら感動にむせび泣き、スタンディングオベーションしただろう名演説でしたので、ここでご紹介したいと思います。
(全文ではなく、趣旨がわかるように編集されたテキストを日本語訳したものです。演説の映像はこちら


「ドラッグとアルコール中毒を経験し、自らのセクシャリティと向き合ってきたある若者の話をしましょう。彼は無防備なセックスをし、HIV感染の極めて高いリスクに直面していました。どん底にいて、その生活はどろどろでした。
 
 正直言って、彼は死んでもおかしくなかったし、ほとんど死にかけてもいました。しかしそのとき、驚くべき何かが起こったのです。人々は彼に思いやりと愛、リスペクトと理解を示してくれたのです。そして彼は立ち直りました。彼は素晴らしい人生を送り、愛するパートナーとかわいい息子がいて、この22年間というもの、一滴も酒を飲まずにいます。
 
 本来なら、私は今日ここにいるはずではありませんでした。棺桶に入って地下に埋められていたはずです。1980年代にHIVに感染し、1990年代には死んでいたでしょう。フレディ・マーキュリーやロック・ハドソン、そして、多くの友人や愛する人たちと同じように。
 
 毎日、私は問います。どうして私は生き残ったのか? 答えは知りません。しかし、どうして私がここにいるのかは知っています。私の命を救ってくれたメッセージは、もし私たちが実行すれば、何百万もの人を救うことになると、あなたたちに伝えるためです。誰もが思いやりと尊厳、そして愛を渇望しています。エイズという病気はウイルスが引き起こすものですが、エイズの流行はそうではありません。それはスティグマ(社会的不名誉)、憎悪、誤解、無知と無関心が引き起こすのです。
 
 エイズの終焉について多くのことが語られています。正しいことです。私たちはエイズの流行を終わらせることができます。これまでの研究と権利擁護活動、治療の進歩と予防策のおかげです。しかし、それだけでは充分とは言えません。この病気をきっぱりと打ち負かすためには。私たちは、薬やお金だけでなく、それ以上のものも必要としています。それが愛です。
 
 30年以上にわたるエイズ流行の中で、周囲の人がHIV陽性になったとき、人がどのように反応するのかを、私たちは見てきました。病気の人を見て、非難する理由を探そうとする人もいます。不道徳な生活をしているのだから、病気で死んでもしょうがない。自業自得だ。
 
 31年の間に3000万人もの人が亡くなったことについて、このような反応がありました。ウガンダには憎悪、ウクライナにはスティグマ、アメリカには無関心がありました。こうした恐怖、無視、憎悪のすべてが、ひどく私を落胆させます。しかし、私たちは愛も見てきました。タイの僧侶が薬物依存の人たちのために働き、ソーシャルワーカーがHIV陽性の受刑者のために働くのを見てきました。利益よりも命を優先させる企業があり、サンフランシスコのゲイの陽性者がボツワナの陽性者の女性と手を携えるのも見てきました。

 800万以上の人が今も治療中で、この流行もようやく終わりが見えてきました。しかし、もっと思いやりがなければ、終わりはまだまだ遠い先です。思いやりはどうやって目的地へと連れて行ってくれるのでしょうか? 私たちは薬物使用者を監禁したり、エイズや依存症で死なせたりすることでは、新規感染を止めることはできません。病気を拡大させ、苦しみを大きくするだけです。必要なのは愛、支援、清潔な注射針と治療です。ゲイに石を投げたり、同性愛の違法化を許すことでアフリカのMSM(ゲイ/バイセクシュアル男性)間での感染を減らすことはできません。南アフリカでのエイズの流行を食い止めるには、HIV陽性者に誇りを持とうと告げるのです。南アフリカ政府は今、それを始めており、有効に作用しています。

 アメリカでのエイズの流行を終わらせたいのなら、治療の恩恵を受けられない人、このワシントンD.C.の陽性者——そのほとんどは貧しい黒人で、見放された人たちです——に思いやりを示してください。世界で最も豊かな国の首都ですら、こうした状態なのです。アメリカは発展途上国のHIV陽性者に大きな愛を示してきました。もし自国の新規感染を止めたいのなら今すぐそうすべきです。
 
 必要なのは、あと少しの資金、あと少しの理解です。私は絶望的に神経質になっているんだとか、正気を失なっているんだとか思う方もいるかもしれません。愛や思いやり以上に必要なものがあることは私も知っています。予防プログラム、治療プログラム、ワクチン開発も必要です。しかし、かりにワクチンが使えるようになったとしても、充分ではないでしょう。それは東ヨーロッパでスティグマを止めることはできません。ウガンダでホモフォビアを止めることはできません。南アフリカでレイプを止めることはできません。アジアの貧しい人々を助けることはできません。アメリカでHIV陽性者を犯罪者扱いする法律を変えることはできません。
 
 医学は病気を治すことはできますが、それだけで感染症を終わらせることはできません。今や、予防に目覚ましい効果を上げる治療法があります。しかし、スティグマとホモフォビアに直面したHIV陽性者がどうして治療を受けられるようになるのでしょう。
 
 私もいつかワクチンができることを切望しています。が、それを必要とする人を社会から切り捨てようとする無慈悲な政府が、必要な人にワクチンを届けることはできません。世界中で何百万もの人が、HIV陽性であることや自らのセクシュアリティ、貧しさゆえに、自らを恥じています。恥辱とスティグマが支援や治療を受けることを妨げ、予防の第一線から遠ざけられています。私も以前、そうした恥を感じていました。それはほとんど私を殺しかけ、世界中の人たちを殺そうとしています、今もなお。恥辱を愛に、スティグマを思いやりに置き換えなければなりません。それこそが、エイズの流行を終わらせる方法です。

 愛は世界で最も強い力です。私はそれを経験してきました。依存症から回復しようともがき苦しんでいた頃、私はそれまで知らなかった、本当に多大な思いやりに接することができました。彼らの愛が私の人生を変えました。それが私の命を救ったのです。見知らぬ人、あなたを信じ、支援するコミュニティからの愛の贈り物、それこそは、あなたにとって最高の素晴らしい贈り物のひとつです。

 そうした贈り物を誰もが欲しています。その贈り物が届けられていない人もいます。でも、私たち誰もが、それを贈ることができるし、私たちがそうしていけば、この30年にわたる悪夢から目覚め、新しい日を迎えることができるでしょう。」



Elton John: Science can stop Aids but to end the plague we need love(The INDEPENDENT)
http://www.independent.co.uk/opinion/commentators/elton-john-science-can-stop-aids-but-to-end-the-plague-we-need-love-7966167.html

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