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今年のエミー賞授賞式は素晴らしくクィアでした

2016年09月29日

 米テレビ界のアカデミー賞とも言われるエミー賞。放送業界最大の祭典、第68回エミー賞授賞式が9月18日(現地時間)に開催され、注目を集めました。

 授賞式に先駆けて「クリエイティブアート・エミー賞」が発表されました。こちらは音響や美術などの技術部門だけでなく、キャスティング賞やゲスト俳優賞など、主要部門以外はすべて含まれるのですが、その中の1部門であるリアリティ/リアリティ・コンペティション番組ホスト賞で、ドラァグクイーン界の大御所ル・ポールが初受賞しました(おめでとう!と祝福の気持ちを表明した方、世界中にたくさんいたと思います)
 ル・ポールは1980年代からドラァグクィーンとして活躍し、シングル「Supermodel(You Better Work)」(1992年)が大ヒット(Billboardのダンス・チャートで1位を獲得)して一躍世界的なスターに。2009年からは自身の冠番組『ル・ポールのドラァグ・レース』がスタート。『アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル』のように次世代のドラァグクイーンを発掘するというコンセプトで、衣装を作ったり、熟年男性を変身させたり、自分を売り込んだり、超ドラァグな(キャンプな)、それでいて、たまに身につまされるような、泣ける場面もあったりして…素晴らしい番組です。実際に様々なクイーンを輩出し、活躍のきっかけをも生み出しました。
 ル・ポールはノーメイクでピンクのドット柄のスーツを着て壇上に立ち、こうスピーチしました。「私は『エミーよりエネマ(浣腸)をもらった方がいいんじゃないか』などと言われていました。今、テレビジョン・アカデミー(エミー賞選考委員会)に感謝してます。だって私、その両方を持てるから!」(原文はこちら
 

 授賞式はコメディシリーズ部門からスタートしましたが、昨年に続き、監督賞と主演男優賞を受賞したのが『トランスペアレント』です。監督賞を受賞したジル・ソロウェイと、主演男優賞を受賞したジェフリー・タンバーのスピーチは、今回のエミー賞授賞式の白眉だったと思います。
 監督賞を受賞したジル・ソロウェイは、男性と結婚していましたが、『トランスペアレント』を通じて知り合ったアイリーン・マイルズ(詩人、ライター)という女性と交際するようになったことをオープンにしています。彼女の受賞スピーチは実にパワフルでした。
「人々は『監督業って大変?』と聞きますが、私は『いえ、人生の方が大変です。よきパートナー、よき母、よき人であることはとても大変。それに比べたら監督なんて』と答えます。だって、夢が叶ったんですよ。監督って特権だし、特権をクリエイトすることもできる。女性や有色人種、トランスジェンダーやクィアな人々を起用する時、脇役じゃなくて物語の中心、主役に据えることができる、世界を変えることができるってわかったんです。私はジェフ・ベゾス(AmazonのCEO)に感謝します。だって、私をこの仕事に呼んでくれて、世界を変えてくれたから。みんながテレビジョンって言うこの場所は、私にとってはレボリューションでした。私はいつも運動−−公民権運動や女性運動−−の一部でいたいと思ってきましたが、このドラマが私の、あまり人に好かれないユダヤ人やクィアな人々やトランスジェンダーをヒーローにするという夢を叶えてくれました。自分の人生を生きてきたトランスジェンダーたちのコミュニティに感謝します。私たちはトランス女性に対する暴力をやめさせなくてはいけません! 家父長制を打倒しなくてはいけません!」(原文はこちら
 主演男優賞に輝いたジェフリー・タンバーのスピーチは感動的でした。
「これは間違いないと思うが、最も優秀な俳優なんていない、そうだろ? ここにいるみんなとこの賞を誇りたい。ありがとう。ジル、君は私の人生を変えてくれた。キャリアを変えてくれた。すべてを変えてくれた。年寄りの私を、こんな素晴らしい、天才的なキャスティングの中に加えてくれてありがとう。(中略)これはキレイ言なんかじゃなく、みんなにお願いしたいんだが、どうかトランスジェンダーの俳優にもチャンスを与えてほしい。オーディションを受けさせて、自身の物語を演じさせてほしい。私がトランス女性を演じる最後のシスジェンダーになれたら、こんなにうれしいことはないよ」(原文はこちら

 つい先日、日本でも最終話が放映された『アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル』。監督のライアン・マーフィ(『glee/グリー』)もゲイなら、レディー・ガガ演じるホテルの女主人の恋人たちを演じるマット・ボマーやシャイアン・ジャクソンもゲイという布陣。男性どうし、女性どうしのセックスのシーンが当たり前に登場し、シャイアン演じる世界的なファッションデザイナーが息子に「私はバイセクシュアルだが、好き者だと誤解しないように。単に男性も女性も好きになるってことなんだよ」と言っていたり、準主役級のリズがMTFトランスジェンダーで(メイクや衣装はドラァグクィーンっぽい)、女性として生きたいという止むに止まれぬ衝動を抱え、妻子にバレないように出張先のホテルで女性の姿をしていて…という生い立ちや、息子が訪ねてきて再会を果たすシーンなども描かれ(泣けました。ホラーなのに)、クィア的に素晴らしい作品でした。
 そんな『アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル』は、クリエイティブアート・エミー賞の方でリミテッドシリーズ/映画(人工装具なし)部門メイクアップ賞、コンテンポラリーシリーズ/リミテッドシリーズ/映画部門コスチューム賞に輝いています。
 サラ・ポールソンとキャシー・ベイツがリミテッドシリーズ/テレビムービー部門助演女優賞にノミネートされていましたが、残念ながら受賞はなりませんでした。今年1月のゴールデングローブ賞で主演女優賞を獲得したレディー・ガガは、今回はノミネートもされませんでした。(放映時期が昨年10月〜今年の1月だったため、印象が薄れてしまうのかもしれません)

 代わりにというわけではないのですが、同じライアン・マーフィが手がけた『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』がリミテッドシリーズ/テレビムービー部門で最多受賞を果たしました(監督賞以外すべて。ほぼ総ナメ状態でした)
 主演女優賞に輝いたのが、オープンリー・レズビアンのサラ・ポールソン(ライアン・マーフィのお気に入りになっているようで、『アメリカン・ホラー・ストーリー:呪いの館』以降、ずっと起用され続け、今回はとうとう主役に抜擢されました)。受賞スピーチの最後に、恋人のホランド・テイラー(女優)に向けて「ホランド、愛してる」と言っていました。

 それから、コメディーシリーズ部門助演女優賞を受賞したのが、『サタデー・ナイト・クラブ』レギュラーのケイト・マッキノン。新『ゴーストバスターズ』のマッドサイエンティスト役で世界を沸かせたことも記憶に新しい彼女は、デビュー当時からレズビアンであることを公表している方だそうです。エレン・デジェネレスやヒラリー・クリントンのモノマネで人気を得たケイトは、受賞スピーチでエレンやヒラリーにも感謝の言葉を述べ、会場の笑いを誘っていました。

 そのほか、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』でブレイクしたトランスジェンダー女優のラヴァーン・コックスがプレゼンターを務めたり、コメディシリーズ部門助演男優賞に『アンブレイカブル・キミー・シュミット』のティトゥス・バージェス(アフリカ系アメリカ人のゲイの俳優)がノミネートされたり(今回は受賞はなりませんでした)、セクシュアルマイノリティ(クィア)俳優の活躍が目立ったエミー賞でした。

 それだけでなく、ドラマシリーズ部門の主演女優賞にノミネートされ、プレゼンターも務めた『Empire 成功の代償』のタラジ・P・ヘンソンをはじめ、リミテッドシリーズ/テレビムービー部門で3人のアフリカ系俳優が受賞したり(今回、エミー賞史上初めて、すべての主演俳優部門に有色人種の候補者が入っていたそうです)、ドラマシリーズ部門主演男優賞をエジプト系のラミ・マレックが受賞したり、インド系女性がプレゼンターで登場したり、クィア的な多様性だけでなく、今回のエミー賞受賞式は(アカデミー賞とは対照的に)人種的な多様性も際立っていました。
 



2016年エミー賞を総まくり!映画界をしのぐ黒人俳優の大躍進、そしてマット・デイモンのサプライズ出演(AXN)
http://axn.co.jp/news/352491

今年のエミー賞は近年のダイバーシティ傾向が色濃く表れた授賞式でした!!(海外ドラマBOARD)
https://kaigai-drama-board.com/posts/1653

ルポールがエミー賞獲得。いまドラァグクイーンがアツイ!(Numero)
http://numero.jp/%E3%83%AB%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%8C%E3%82%A8%E3%83%9F%E3%83%BC%E8%B3%9E%E7%8D%B2%E5%BE%97%E3%80%82%E3%81%84%E3%81%BE%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A1%E3%82%B0%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%B3/?utm_source=antenna&utm_medium=content-text&utm_campaign=antenna


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