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舞台『BENT』を上演する俳優の蓮池龍三さんへのインタビュー

5月18日から「座・高円寺」でナチスに迫害されたゲイたちの極限状況下での愛のかたちを描いた舞台『BENT(ベント)』の上演が始まります。90年代に映画化もされ、ゲイにとって特別な意味を持つ作品です。この『BENT』の公演を主宰する蓮池龍三さんにお話をお聞きしました。

舞台『BENT』を上演する俳優の蓮池龍三さんへのインタビュー

5月18日から「座・高円寺」で『BENT(ベント)』の上演が始まります。ナチスに迫害されたゲイたちの極限状況下での愛のかたちを描いた舞台で、79年の初演以来、世界中でセンセーションを巻き起こし、90年代に映画化もされ、ゲイにとって特別な意味を持つ作品となっています。この『BENT』の公演を主宰する蓮池龍三さんにお話をお聞きしました。(聞き手:後藤純一)


——今回の上演の趣旨は「ありのままの自分と他者を認め、違いを受け容れて、共に生きていきたいという作品に込められた願いを、上演によってお客様に伝え、国と国、個人と個人の『対立』構造に支配された世界の現実を見つめ直す一助にしていただく」ということだそうですね。そういう趣旨の作品は世の中にいろいろあると思いますが、なぜ今回、『BENT』を選ばれたのですか?

蓮池:まず、僕自身と『BENT』に出てくるマックスという人に共通点を感じた。僕は「自分はありのままじゃだめなんだ」と思っているところがあって。自己否定感みたいなものに苛まれている。役者仲間はよく友達とハグしたりしてるけど、僕はそういうのが苦手。鎧(よろい)があると思う。この本を読んでいて、マックスのセリフを口にしてみたとき、とても自分の心が揺れるのを感じたんです。

——主人公のマックスにシンクロするものがあったんですね。

蓮池:「僕には愛し方がわからない。僕は抱いてくれと言われても抱くのが怖い」というセリフがある。でも、最後には勇気を出して、イマジネーションだけど、相手を抱きしめている。そのことで自分が豊かになっている。心がふるえる瞬間だった。僕自身のコンプレックスと同時進行で本が書かれている、まるで僕のためにあるような本だと思った。

——とはいえ、『BENT』って男どうしの愛の物語なので、ゲイを演じようとか、この舞台をやろうっていうときに、ストレートの方としては、ちょっと考えたり躊躇したりっていうことはなかったですか?

蓮池:正直、ありましたし、今もあります。でも、同性愛という関係を超えて、人間どうし、愛さずにはいられなかったり、寄り添わずにはいられなかったり…そういうところを描いていると解釈できるんじゃないかと。


蓮池さん(右)と演出の
ナガノユキノさん(左)
——極限状況下での、触れることが禁じられているところでの愛の交歓。普遍的なメッセージが込められているとは思います。なのですが、やっぱり、愛し合っているのは男性どうし。単純に男女の物語を置き換えたわけではない。なぜかというと、ナチスに迫害されるのはまさにゲイだから。ストレートであれば収容所には入れられない。そこにはゲイであるがゆえの生きづらさが描かれているはずですよね。

蓮池:舞台の関係者の中に、トランスジェンダーの方がいて、二丁目に行こうと誘ってもらったんです。どっか連れ込まれるんじゃないかとか、偏見があって、これまで二丁目というところに行ったことがなかったんですが、「Living Together Lounge」というイベントにおじゃまして、いっさいそういうことが起こらなかったどころか、誰ひとり、ぶつかってきたり、むりやり人を押しのけて前に行ったりするような人がいなくて、おだやかで、とても空気がよかった。あたたかかった。「どうしてだろう?」ってそのトランスジェンダーの方に聞いてみたら、「思いやりがあるんじゃないかな」って。同じ痛みを感じてきた仲間なのかな、と。その後、声をかけていただいて「Living Together のど自慢」というイベントに出させていただいて、とってもよかった。僕が歌えたとか何か言えたとかじゃなくて、あの場にいたことで癒されました。

——それは本当によかったですね。ちなみに「Living Together のど自慢」では何を歌ったんですか?

蓮池:早川義夫さんの『この世で一番キレイなもの』。大好きな歌で。カラオケがなかったので、アカペラで歌いました。手記は、アルコール依存の方で「僕は今、自分のかけらを拾い集めてる」というタイトルのを読ませていただきました。お酒と眠剤で交通事故を起こして、施設に入ったところから何かが始まったという手記。「あれほど怖れていたありのままの自分と少しずつ向き合っている最中」という言葉が出てきて。僕は精神的な落ち込みが襲ってきて抑うつ状態になったりするんですけど、そういう自分はそれはそれでしかたがない、そういう時期を認めてあげることでラクになる、悩んでいる部分は共通点があると思って。同性愛のことは体験していない以上、本当にはわからないし、偏見はあるかもしれないけど、どっかで共通点を見出したいという願いはある。なんとかつながっていたいと思う。

——素晴らしい経験をされたと思います。Living Togetherのイベントでは、HIV陽性者の手記を読みますよね。それは、まだまだ世間での偏見や蔑視にさらされていて、陽性者の方がなかなか自分はそうだと言えない現状があるから。そういうところで何か感じたことがありますか? 

蓮池:たとえば自分やパートナーがHIVを持っていたと聞いたとしたら、その衝撃は…申し訳ないんですけども、想像がつかない。正直、なんて言っていいかわからない。ただ、イベントを通じて、当事者の方とお話する機会があって、個人的にはその人とこれからもいろいろお話したいし、相談にも乗ってもらいたいと思って。願わくば、元気でいてほしいと思う。手記集も読んで、HIV感染に至るまでの背景っていろいろあるんだとか、背負っているものがひとりひとり違うんだと感じました。
 
——Living Togetherに参加した経験が、今回のお芝居にもいい影響を…深みを与えるのでは?と思います。

蓮池:本当にそうですね。二丁目のイベントを経験してよかったと思うのは、ほかにもたとえば、ゲイの方たちのリアルな姿に接することができたということ。『BENT』には、グレタというゲイバーのマダムが登場する。

——映画だとミック・ジャガーが演じていた役ですね。

蓮池:そうです。「Living Together のど自慢」で九州男のまっちゃんにお会いして、お店を仕切ってる人にこういう人がいるんだってビックリしました。カッコいい坊主頭のがっちりした人もいましたし。

——IKKOさんとかはるな愛みたいな人ではなかったと。

蓮池:そうですね。今まで想像していたイメージとは違いました。

——正直、今までのゲイのお芝居って、過剰にオネエだったり、必要ないのに女装してたりっていうのがあって、僕ら側から観たときに違和感を覚えることが多かった。そういうリアリティを感じていただけるのはうれしいこと。

蓮池:で、じゃあ、全員が短髪ヒゲがっちりかというと、そうでもなくて、いろんな人がいる。ゲイはこうだ、アルコール依存患者はこうだ、ということは言えない。見ただけじゃわからない。

——ステレオタイプに陥るのではなく。

蓮池:役者の色眼鏡だけで見てはいけないし、本質じゃない。とにかく感じたのは空気感のやわらかさ。同性愛という関係を表現する決め手って、くさいかもしれないけど、愛というか優しさというか、ありがとうという気持ち、そんな気がします。

——おだやかだったり、優しかったり、あたたかかったり。ゲイの人たちをそういうふうに感じてくれたことはすごくうれしいです。奇しくも、初日(5月18日)の前日はIDAHO(国際反ホモフォビアデー)となっています。何かIDAHOへの連携などは考えていらっしゃいますか?

蓮池:そういう日にめぐりあえたのはうれしいです。観客の方にIDAHOのパンフレットを配布するという形でご協力したいと思っています。それと、時期は外れますが、6月4日・5日マチネの後にアフターイベントを企画していて、ゲイの方やトランスジェンダーの方をパネリストとして呼んでトークイベントをやりたいと思っています。違う人間が、互いの違いを共にして生きていくのがいちばん理にかなっている、そういう世界にしたいし、そういう願いをこの芝居に込めたいと思う。そこで、アフターイベントのテーマも、そういうところにフォーカスしてやっていきたい。同性愛の人やHIVを持ってる人、依存症で悩んでる人、AC(アダルトチルドレン)として生きづらさを感じてる人、生きづらさとともに、生きてていいんだよと、光を見つめていけたら。今のところ、歌川たいじさんの出演を予定しています。

——素敵です! 最後に、何かゲイの読者にメッセージをお願いします。

蓮池:僕は、残念ながら、いろんな刷り込みのせいで、拭えない偏見を抱えているし、色眼鏡とかもいっぱいあると思うけど、この芝居に取り組む動機は、そういうものを脱ぎ捨てたいという願い。幸い、とてもいい出会いがたくさんありました。大事に芝居をやっていきたいと思っています。もしかしたら、僕がやろうとしていることは、みなさんにとって足りないかもしれないけど、僕はマックスというゲイの内面に迫りつづける覚悟です。どうか芝居の仕上がりに期待してください。よろしくお願いします。


はすいけタイムス+オーガニックシアター提携公演『BENT(ベント)』
日時:5月18日(水)19時、19日(木)13時/17時、6月4日(土)13時/18時、5日(日)13時    
会場:座・高円寺2 (杉並区立杉並芸術会館)
出演;蓮池龍三(ぷろだくしょんバオバブ)、小田マナブ(メッセージ)、椎原克知(文学座)、側見民雄(P.A.C)、内田聡明(ぷろだくしょんバオバブ)、番哲也(しーばらさんとこ)、堀光太郎(フリー)、今野太郎(フリー)
友情出演:渡部紘士(RUF)
料金:指定席4000円、一般自由3500円、学生自由2500円
作:マーティン・シャーマン
翻訳:青井陽治(劇書房刊)
演出:ナガノユキノ(オーガニックシアター)

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