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パレード・ガイドブック広告のモデルさんにインタビュー!

東京プライドパレードのガイドブックの裏表紙に「g-ladxx(グラァド)」の広告が載っているのをご覧になった方も多いと思います。親密な雰囲気の2人のイケメンが素敵なお部屋でくつろいでいます。この2人は誰なんだろう?と思われた方もいらっしゃると思います。モデルさんへのインタビューをお届けします。

パレード・ガイドブック広告のモデルさんにインタビュー!

 今回、東京プライドパレードの「g-ladxx(グラァド)」の広告のモデルに張由紀夫さんとSEKI-NEさんを選んでお願いしたのは、いくつか意味がありました。2人が親密な関係を表現できるイケメンだったからということもありますし、今回のパレードのテーマの1つになっている「Living Together」ムーブメントに多大な貢献をしてきた、素晴らしい方たちでもあるからです。

 まず、張由紀夫さん(41)は、15年以上も前から、ハスラー・アキラ名義でのアーティストとしての活動と並行し、京都のエイズ・ポスター・プロジェクト、東京のレインボー・リング(コミュニティセンター「akta」)、Living Together計画などに参加し、HIV/AIDSに関するメッセージを人々に伝えるという活動を続けてきた方です。2006年には第13PWA賞を受賞しています。

 それから、SEKI-NEさん(25)は、15歳のときに「ASAYAN~超男子ボーカリストオーディション」に出場し、約9000人の中から32名の予選通過者に残った経歴を持つ実力派シンガーで、人気4人組バンドsoulitとともにLiving Together LoungeLGBT音楽祭、東京プライドフェスティバル等でライブを行ってきました(こちらに動画が載っています)。また、「EASY! Living Together is EASY」のモデルにもなっています。

 お二人は、4年前くらい前に出会い、おつきあいをするようになりました。その中で、もともと二丁目ではあまり目立った活動をしていなかったSEKI-NEさんは、張さんの影響を受け、Living Together計画が主催するイベントに参加するようになる中で、生き方や考え方も大きく変わるようになっていったのです。現在、お二人はすでに恋人どうしではありませんが、まだいっしょに暮らしていて、とても仲がよいのです。

 そんなお二人の関係やゲイライフのこと、パレードのこと、HIV/AIDSのことなどについて、お話をお聞きしてみました。

(聞き手:後藤純一)

 

二人のつきあいが変えたもの


Photo:下村しのぶ
——お二人は4年前くらい前に出会っておつきあいをするようになったそうですが、たぶん、二十歳そこそこだったSEKI-NEさんはすごく影響を受けたんじゃないかな、と思います。以前はあまり二丁目で目立った活動はしていなかったと思いますが、張さんと出会ってから、だいぶ変わりました?

SEKI-NEさん(以下「S」):そうですね。二丁目自体は、張くんの前につきあってた人が飲み屋大好きっ子だったので、来てはいたけど、そんなに好きじゃなかった。今でも飲み屋はそんなに行かないけど、考え方や生き方は大きく変わりました。

——前向きというか、オープンに?

S:もともと僕は、これをやりたい、とか、こうなりたい、っていうのがなくて、いろんなことを「どうでもいいや」と思っていた。就職先も、あえて自分がいちばん嫌いなタイプの職種を選んだんです、ある意味、自虐的に。

——「EASY!」キャンペーンのモデルになった時、SEKI-NEさんの写真の隣りに書かれていたフレーズが「未来なんてどうでもいい、って思ってた。どうでもいいことなんて何ひとつなかったのに。」っていう。ああいう感じなのかな?

張由紀夫さん(以下「C」):SEKI-NEや彼と同じ様な年代の人たちを見ていて、そういうフレーズが思い浮かんだんです。

S:自分も、そうだろうなと思ってた。しっくりきました。

——今の若い人たちに共通するムードなのかもしれないし、ゲイであるがゆえ、なのかもしれませんが、どこか自暴自棄だったり、将来に希望を持てないっていう感覚。すごくよくわかります。予防の知識はあるけどハッテン場でリスキーなセックスをしてしまったり、HIV感染がわかっても治療に向き合えなかったりっていうことと密接に関係がありますよね。根底には「未来なんてどうでもいい」っていうのがある。

S:そうですね。僕自身はリスキーなセックスもしてないし、そこはあまり変わらないのですが、HIVについてのリアリティはすごく感じるようになりました。陽性者の友達のことは、あまり特別視はしてないんですが、自分がもしそうなったらと思うと、できなくなりそうな、周りに気を遣ってやめるだろうなと思うことがたくさんあって。それを想像すると、本当に大変っていうか、大きな荷物をしょってるんだなと思う。

——で、この4年間に、生き方や考え方がどのように変わりました?

S:張くんって知り合いが多いじゃないですか。どんどん紹介してくれる僕のキモチを無視して。

C:(笑)

S:僕は人と話すのが好きじゃないし、社交的でもないのに、どんどん紹介してくるのが、本当にいやで、よくケンカもしました。でも結果として、人が好きになったっていうか、人と関わって楽しい部分を教えてもらった。スゴく変わったのは、そういうこと。前はすごく受け身で、流されていたけど、自分から楽しもうとすれば楽しくなる、と思えるようになった。

——それはとても大きなことですね。人生において、いちばん大切なことの1つかもしれません。

 

ゲイライフにとって大事なこと


Photo:下村しのぶ
——お二人にお聞きしたいのですが、ゲイライフにとっていちばん大事なことは何だと思いますか?

S:僕は、ゲイライフって言葉自体がピンとこなくて。僕は最近、転職して、パン職人の見習いなんですけど、職場の人たちもゲイだと知ってて、ぜんぜん問題なくやれてるし、ゲイライフがイコールそのまま、僕の生活。

——パン職人ってとても素敵ですね。すべての人々を幸せにするような。24時間オープンっていうか、いつでもゲイだから、特にゲイライフっていう区別がないんですね。

S:そうですね。人生にとって、ということで言えば、人との関わり、出会いを大切にしたいですね。

——張さんはいかがですか?

C:ゲイライフって聞くと、90年代のゲイブームのときに紹介された、海外のゲイの人たちのライフスタイルとかを想像したり。『ファビュラス』で小倉さんが展開してたような。そういうの素敵!ってワクワクしてたな、その頃は。でも今は、もう少し落ち着いて、地に足着いた生活っていうものを考えるかな。いっしょに暮らしてる相手が会社にゲイであることを言えてなかったりすると、緊急連絡先はどうするかとか、入院したらどうするかとか。実際的なこと。病気のことも、老後のことも、社会保障のことも。永易さんがコミュニティセンターaktaでやってる「ライフプランニング研究会」のような。あれは素晴らしいよね。

——とても大事なことだと思います。90年代のお祭りの後に、ことさらゲイゲイしくなくていいから、パートナーとの幸せな生活を大事にしようっていう方向にシフトしている部分があって。そろそろ同性パートナーの社会保障についての話し合いも始まりつつあって。

C:僕はHIVのことをやってるから、よく思うのは、突き詰めていくと、ゲイやHIV陽性者とかその周囲の人たちにとってよりよい暮らしって、いろんな人にとってもよりよいわけで、そういう意味でニュートラル。

——そうですね。今後もっと、閉じられたゲイの世界だけじゃなく、外の世界と関係を結んでいくことが重要なテーマになるのかな、と思います。僕らがどれだけ社会に素敵なことを提案できるのか、みたいな。

CHIVって、ゲイにとって大事な問題だから、二丁目で活動しているけど、実はそれがゲイじゃない人にも役に立ってるなあって思っていて、そこにやりがいを感じることがあります。TOKYO FMとコラボレーションでやってる「THINK ABOUT AIDS」って取り組みなんか見てると特にそう思う。有名人に陽性者の人たちに書いてもらった手記を朗読してもらって、それが、二丁目にもハッテン場にも来ないようなゲイの人にもラジオの電波に乗って届いたりする。既婚者の人とか。でも、それと同時に、ゲイじゃない人にも届いてく。そういうのがいいなあ、と。

 

パレードへの思い


Photo:下村しのぶ
C:それと、こういうことも言えると思う。ゲイにこだわっていろんなことを整備したり、話し合ったりってことをやっていかないと、誰もゲイのことを考えてくれない。レズビアンの人にはレズビアンだからこその問題があるだろうし。カミングアウトって、プラカード持って「私はゲイです」みたいな、派手だったり、大げさなことではないのかも、と思ってて。たとえば弁護士やってるゲイの人が、周囲の人やクライアントに何となく伝えてて、「あの人はゲイだけどとても立派な人なんですのよ」って言われるような。「なんですのよ」なんて誰も使わないか(笑)

——本当にそうですね。リーマンでも誰でもできること。

C:肉屋さんでもネット関連の仕事でも何でもいい。生活の中で、個性の1つとしてゲイであるひとりひとりが、社会のなかで役に立っていく、ということ。ゲイに限らず、子孫を作らない人っていっぱいいるじゃない。そういう人たちがどう社会の中で構成員として成り立っていくかっていうところでは、ゲイの側からいろんなアイデアとか提案がいっぱいできると思います。じっさいにそういうことをすでにやってる人たちってたくさんいるだろうしね。そして、そんな彼ら、彼女らを目に見える存在にしてくことが、とても大切なことなんじゃないかな。

——とてもパレードに関係の深い話になっていると思うので、ここでパレードについてお聞きしたいと思います。SEKI-NEさんは去年、東京プライドフェスティバルで歌っていて、今年もアフターパーティに出るそうですが、何かパレードについての意気込みってありますか?

S:正直、あまりなくて(笑)。がんばろうってキモチはあるけど、毎回、ライブするときは同じキモチで。でもやっぱり、東京プライドフェスティバルって、他のイベントとはやっぱり違うし、いる人も違うし、イベント自体が発してるメッセージがあるし。そういうのは意識してました。

——社会にセクシュアルマイノリティのことをアピールしていこうとするような意識の高い人が多いですよね。ゲイに限らず。

S:そうですね。何のためのイベントなのか、とか、自分が出てどういう意味があるのか、とかは、考えました。意気込みとかじゃないけど、どうしたらいいのかなっていう。今年はこれから考えると思います。

——去年のフェスティバルって、パレードはやってないけど、NHKが取材に来てたりとかしてて、パレードと同じようなオープンさがありました。その中で、SEKI-NEさんは自分が歌ってる様子は公開してもいいよっていうスタンスだったのが、素敵だと思ってました。

S:あまり知らなくて(笑)。ぜんぜんいいんですけど。どうとられてもいいかなっていうのは昔から変わってなくて。別に投げやりな感じではなくて、何をやってるかっていうところをちゃんと見てくれる人は見てくれると思うし。ゲイだからといって、そんなネガティブなイメージで捉えられないっていうか、100%じゃなくてもちゃんと受け取ってもらえるんじゃないかなっていうのはずっと思ってて。そういう、ゲイっていう言葉が持つ印象も徐々に変わってきてると思うし、そういうのにとらわれすぎないでやれるんじゃないかなって思う。

——張さんもパレード当日の「Living Together ゼミナール」に出演されますが、こういうことを伝えたいとか、何か思いがありますか?

C:「エイズ予防のための戦略研究」っていう研究者や、陽性者支援団体、当事者団体、横浜や東京でコミュニティセンターを運営している団体が参加している共同プロジェクトがあるんだけど、そういう厚労省の研究費で5年間活動をしてきて、いろんなバーとかサークルにアンケートをさせていただいた中から見えてきたことがいろいろあって。たとえば、新橋とか上野とか浅草とかの人ってHIVのことに無関心なのかもって言われることがあるけど、今まで十分に情報が届けられてこなかっただけで、情報に結構、どん欲な感じがあったり、冊子とか熱心に読んでる人が多いんです。活動してきたなかでいろんな意外な面が見えてきたので、ネット上にHIVの基礎情報やサポート情報を整備してきたこととか、HIV検査の環境の改善してきたこととか、そういうことと合わせて、HIVの本当のことに向き合っていきたい、ということを当日は伝えたいと思っています。今回のゼミナールを皮切りに、動画のストリーミング配信もやっていきたいと思ってます。

 

「できる!」キャンペーン


Photo:下村しのぶ
——今、「できる!」というキャンペーンが展開されていますが、それについてお聞きしてもよいですか?

C:昔は、感染してもエイズを発症するまでだいたい10年くらいあると言われていましたが、最近は、数年で発症するという例が、HIVを診療している先生たちから報告されているんです。

——それは大変じゃないですか! 薬が効かない耐性ウィルスみたいに、突然変異が起こっているのでしょうか?

C:全部がそうだというわけないけれど、そういう人もいるんだよね。周りで見てても、定期的に検査を受けてる人があれよあれよという間に免疫が下がっていって、おかしいなっていうことがあって。本当にそうだなって思って。難しい話です。

——いたずらに恐怖心を煽るのではなく、早くわかって治療すれば、ずっと元気で暮らせるよ、というメッセージを伝えてきましたが、あまり油断もしてられないというか、ちょっと気が引き締まるような現実ですね。

C:今は発症を食い止めるような治療法もあって、相談の場所もあって、それこそ15年前に比べたらかなり状況はよくなってきた。でも、今でもエイズで亡くなる人が決していないわけじゃないし、体に障害が残ったりして、これまでの生活が変わってしまう人もいる。両方を同時に伝えていくことが必要だと感じています。「ゲイ=エイズ」というお仕着せられてきたイメージにはもちろん反対していかなくちゃいけない。でも、同時にエイズはゲイにとって、非常に大きな問題でもあるんだということ。

——本当に難しいことですね。

C:今回のキャンペーンは「エイズ予防のための戦略研究」の一環としてやっています。今までWeb上にHIVに関係するいろんなサイトがあったのですが、中には更新されていない部分もあったり、まとまってなかったりということもあり、電話をかけて最新の情報を調べて1つにまとめた「暮らしの手帖」みたいなHIV情報のポータルサイト「HIVマップ」を作ったり。また、検査に行ってイヤな思いをした人が多いという話から、東京、千葉、神奈川の各保健所の保健師のみなさんに集まってもらって、ロールプレイングなどでさまざまなタイプのゲイの人たちと接するという体験をしてもらって、「あんしんHIV検査サーチ」っていう冊子とWebで情報をまとめたり。そういうよりよい受け入れ状況を作る活動を地道にやってきました。

——そんな受け皿なしにただ検査に行けというのは、ちょっと無責任な話。

C:路頭に迷ったり、引きこもってしまう人が出ないように。検査って一回行けばそれでOKというものではなく、必要があればまた行って欲しいものだから、「また来よう」と思ってもらう事はとても大事だし、そこで陽性だとわかった場合にも適切なカウンセリングがその後の通院や治療、必要な場合には相談場所につなげてくことも、検査場所の重要な役割だと考えています。そういう受け皿ができあがってきたということで、今回の駒を一個すすめたキャンペーンを始動させました。

——モデルの径一さんのポスターが素晴らしくセクシーですね。(写真右)

C:実は今までこういうセクシーなものは控えていたんです。「セックスばっかりしてる人が感染するんでしょ」っていう流言飛語ってあるじゃないですか。実際は恋人から感染する人もすごく多いのに。 

——1000人とやっても感染しない人もいるし、たった1回のセックスで感染する人もいますよね。

C:それと、あんまりセックスと強く結びつけすぎて「ハッテン場が悪い」とか「セックス産業が悪い」って思われるのは、マイナスだと思う。スケープゴートを探したってしょうがないんだから。そういう意味で、性に直結しないイメージを主に作ってきた経緯があって。でも、検査に関するいろんな条件が整備されてきたこともあるし、発症までの期間が短くなってきたこともあるし、どんなセックスか、はともかく、この病気がセックスと密接な関係を持ってることは事実ですしね。

——直球勝負というか、セクシーさとともに、ちゃんと現実も伝えようということですね。

C:そうなんです。「エイズ予防のための戦略研究」でぼくたちが与えられたミッションっていうのは、5年間で検査を受ける人を2倍にし、エイズを発症した状態で感染がわかる人を25%減らすっていうのが課題。こんな短い期間で結果を出さなくては行けないと言う意味では無謀なこのミッションに対して、今年度で成果を見せなければいけない。

——昨年は新型インフルエンザの影響で検査数が激減し、さきほど言っていたような事情で、発症してわかる人も増えているとしたら、なかなかミッションを達成するのは難しいですよね

C:本当は「研究」ではなく、長期の「事業」としてやるべきことなんですが

——今年度で「戦略研究」が終わり、成果を評価されて、来年予算が出るかどうか、決まるんですよね。ちなみに、事業仕分けでカットされる可能性ってあるんでしょうか?

C:人々の命に関わる火急の問題なのにそもそも予算が少ないわけだから、これ以上カットされることはありえないと個人的には思います。それぞれのプログラムで予算化が検討されているものもあるのだけれど。ゲイやバイセクシャル男性のために使うことのできる予算がこれ以上カットされることのないようにみんなで注目してくことが必要だなと思っています。

——そうですよねエイズ患者が増えているというのに、日本はオーストラリアや欧米に比べるとゲイのHIV感染対策にかける予算がとても少ない。

C:それと、国の対策って「ゲイだけじゃなくてすべての人に」っていう言い方で進んでいったりするので、そこに限界を感じますね。

——毎年、新たに報告される感染者・患者の半分以上が男性同性間の性的接触っていうデータも出ているのに。

C:パーセンテージを鑑みて、砂糖と醤油とみりんの配合を真剣に吟味してほしい。みんな人間だ、みたいなことと、個別性の重視、そのバランスが大事だと思います。「ゲイだけじゃなくてすべての人に」というのは正しいコンセプトではあると思うんです。ことさらゲイゲイしい情報発信をしてることで拒否感を感じる人もたくさんいるし、それでゲイ以外の人たちが情報から遠ざかってしまってはいけないから。でも、「すべての人」という中に、確実にその中でゲイを含めた多様な人々が入っていないと。

——今日は二人の関係性のお話から、ゲイライフ、パレード、HIVといろんなお話を聞くことができました。全部に共通するのは「ゲイにとっての幸せ」ということだったと思います。「g-lad xx(グラァド)」は、ゲイライフをもっと豊かなものにしようっていう提案をしながら、時代や社会を少しでも前に進めていこうとするオンラインマガジンです。これからもこうしたお話をお届けしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。


【関連リンク】 


できるキャンペーン
http://www.real-lt.net/dekiru_lp_pc/

REAL(エイズ予防のための戦略研究)
http://www.real-lt.net/

HIVマップ
http://www.hiv-map.net/

Living Together計画
http://www.living-together.net/

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