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REVIEW

中村うさぎ『私という病』文庫版

2006年に発刊された中村うさぎさんの『私という病』が文庫になりました。うさぎさんがデリヘル嬢を体験した理由とは…僕らが容易にシンクロできるような、鋭く深い話でした。解説は我らが伏見憲明さんです。すでに読まれた方も多いかとは思いますが、まだお読みになっていない方は、ぜひ!

中村うさぎ『私という病』文庫版

 中村うさぎさんは47歳にしてデリヘル嬢を体験します(男女の風俗に疎い方のために解説すると、デリヘルとは派遣型のファッションヘルスのことで、ソープのような本番はナシ。専ら口や手でサービスするものです)。ハイテンションな体験談の後、「なぜ私はデリヘルをやろうと思ったのか」が語られていきます。

 うさぎさんは若い頃、毎日のように痴漢に遭い、「ミニスカートで誘惑する方が悪い」などと身勝手な理屈でセクハラする男たちにうんざりしていました。やがて、小説で成功し、「勝ち組」の地位を手に入れ、男を従わせることのできるホストにハマりましたが、とあるホストの本気の恋と見せかけた「顔を決して見ないSEX」の真意に気づき、ショックを受けます。「女として求められたい」という切実な思いをつのらせ、自己確認のため、そして主体性を取り戻す試みとして、デリヘルを選んだのでした。

「私たちは、自分を肯定したいのである。社会的にも性的にも人間的にも、「私はこれでOK。ちゃんと、周囲の皆に認めてもらってるわ」と安心したいのである。仕事場の上司や同僚や後輩たち、取引先の人々、友人、恋人、家族から、自分の「存在意義」をそれぞれ肯定されて、初めて私たちは自分が一人前の人間であることを確認する」

 毎晩のように客を取り、渋谷の廃屋アパートで変死するという壮絶な最期を迎えた東電OLの心情を、うさぎさんは我がことのように綴ります。彼女は「デキる女」であるがゆえに会社では透明な存在であり(男女の、娼婦としての夜の生活で初めて女を取り戻すことができたのです。

 会社では本当の自分を生きられず、その外では「本当の自分を取り戻したい」と切望し、SEXに依存したり…昼と夜とでは全く別人。自分を「姫」のように愛しながら、同時に呪ってもいる…引き裂かれた存在。そして、一方では男に欲情しながら、他方では恐怖するというアンビバレントな感情を抱き、本当に心を許せるのはゲイと女性の友人たちだけ(男は外から調達するもの)というありようは、ある意味、ゲイそのもの。激しく共感できる人、多数だと思います。

 うさぎさんは実は2001年の東京レズビアン&ゲイパレードの先頭を歩いたり(伏見さんは「そこは実行委員のための場所だ」と言って先頭をどかせたそうです)、二丁目のバー「エフメゾ」のオープニングパーティでトークを披露してくれたり、夫がゲイの方だったり、これ以上ないくらい、ゲイに縁の深い方。彼女の放つメッセージは、まるで『SEX AND THE CITY』やレディ・ガガのように、ゲイの琴線をビンビンふるわせるのです。
 そんなうさぎさんが体を張って、血をにじませながら書いた熱い一冊。伏見さんの見事な解説と合わせてぜひ、読んでみてください。

(後藤純一)


私という病 (新潮文庫)
中村うさぎ/380円

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