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REVIEW

映画『こっぱみじん』

東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でも上映された『こっぱみじん』が現在、一般公開中です。ゲイのことだけが描かれているわけではありませんが、恋愛って、幸せってこういうものだよね、ということに気づかせてくれるような良作でした。

映画『こっぱみじん』

東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でも上映された映画『こっぱみじん』。現在、新宿K'sシネマほかで一般公開中です。ゲイのことだけが描かれているわけではありませんが、恋愛ってこういうものだよね、幸せってこういうものだよね、ということをあらためて感じさせてくれるような良作でした。レビューをお届けします。(後藤純一)







『こっぱみじん』は、今年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭@渋谷ユーロスペースで7月18日(金)に1回だけ上映され、7月26日から一般公開されている映画です。
 映画祭ではタイミング的に観ることができかったのですが(スパイラルホールのオープニングと重なっていたため)、とりあえずゲイ映画はもれなく観ておこうという義務感で、正直、そんなに期待せずに観に行きました。ところが…予想以上にいい作品だったのです。
 
 隆太と楓の兄妹と拓也の3人は、子どもの頃よく遊んでいた幼なじみ。隆太は5、6年つきあってきた有希という恋人がいて、楓もなんとなくつきあっている彼氏がいるけど、本当は、最近地元(群馬)の病院に転職して帰ってきた拓也のことがずっと好きでした。楓は積極的に拓也のもとを訪ね、仕事の相談をして励まされたり、イマイチな生活に張りも出てきて、心から拓也と幸せになりたいという思いを強くします(世間の人たちは「拓也が楓とつきあえば万事めでたし」と思うことでしょう)。しかし、病院で有希が隆太とは違う男の子どもを妊娠していたことが発覚し、責め立てる拓也に、有希は「ずっと隆太を好きだったんでしょ?」と言い放ちます。それを聞いた楓は…。
 事態は急展開し、とても安定して見えた4人の関係はにわかに雲行きがあやしくなります。ストレートである隆太が拓也に振り向くことも、ゲイである拓也が楓に振り向くこともありえず、このままだと誰の恋も実らず、幼なじみの絆も失われてしまうかも…。しかし、そこからがこの映画の見どころです。(これまでにあったように)ゲイの人だけが身を引いて収束したり、ゲイの人が急に女性を好きになったりなどという不自然な展開に持っていくことはありません。それぞれが、相手に好きという気持ちを伝えつつ(相手もきちんとその気持ちを受け止め)、好きな相手の幸せを願い、気遣い、いたわりあうことで、自分自身の幸せにも気づいていくのです。
  
 拓也は(見た目的にも中味的にもあまりゲイっぽくないのですが)、ずっと一途に隆太のことを思っていて、とても不器用な方法で(隆太を怒らせてしまうかもしれないやり方で)告白します。しかし、隆太は、しばらくしてから(この間の時間がリアルだと思います)、いつも通りの笑顔で拓也を迎えに行きます。感激して泣き出す拓也。「家を追い出されたり、職場にいづらくなったり、世間はそういうもんだとあきらめてるけど、お前にだけはキモチワルイって言われたくなかったんだよ」。グッとくるシーンです。
 一方、楓は、拓也が兄を思っていることを知っても、やはり「キモチワルイ」と言ったりはしません。それどころか、ゲイだとバレてしまった拓也を心配し、「こっぱみじん」にフラれると知っていながらも、好きだという気持ちを伝えるのです。楓はもともと、仕事もあまりできない、頭の弱そうな女の子ですが、こと拓也への愛にかけては、素晴らしい行動力を発揮します(そんな彼女の表情が、まるで『キャバレー』のライザ・ミネリのように見えてきたり)
「誰か好きになった人がいて、その人が自分のことを好きになってくれて、ずっと一緒にいられるなんて、奇跡だよね」というセリフは、とてもシンプルだけど、ものすごい重みを感じさせました。

 恋愛とは?幸せとは?ということを問う真摯さ、けれん味のない撮り方や構成にも好感が持てます。映画ファンの方もきっと気に入る作品だと思います。ぜひ、ご覧ください。


こっぱみじん
2013年/日本/監督:田尻裕司/出演:我妻三輪子、中村無何有、小林竜樹、今村美乃ほか/配給:トラヴィス/新宿K’sシネマほかで公開中

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