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REVIEW

映画『ダイ・ビューティフル』(TIFF)

フィリピンの「ミスコンの女王」として名を馳せたトランスジェンダーの突然の死とあまりにも美しく感動的な葬儀を描いた映画です。第29回東京国際映画祭でワールドプレミア上映され、見事に観客賞と主演男優賞に輝きました。レビューをお届けします。

映画『ダイ・ビューティフル』(TIFF)

フィリピンの「ミスコンの女王」として名を馳せたトランスジェンダーの突然の死とあまりにも美しく感動的な葬儀を描いた映画『ダイ・ビューティフル』。第29回東京国際映画祭でワールドプレミア上映され、大きな拍手で迎えられました。上映後に監督と主演男優のトークセッションもありましたので、そちらの模様もお伝えしますが、お話を聞いて、ますます応援したくなりました(会場の方もそう思ったはず)。そんな『ダイ・ビューティフル』が、観た方たちの熱い支援を受けて、見事に(16作品の中から)観客賞を受賞したこと、そして(ストレートであるにもかかわらず)素晴らしいメイクでトランスジェンダーを演じきったパオロ・バレステロスが見事、主演男優賞に輝いたというニュースは、この映画を観た方たちをも歓喜させたはずです。日本での配給も決定しましたので、来年ぜひ、映画館でご覧いただきたいと思います。レビューをお届けします。(後藤純一)







 美しくも切ない、そして、とてもドラマティックで、思わず拍手したくなる映画でした(実際、映画が終わった瞬間に拍手が起こり、エンドロールが終わって再び大きなあたたかい拍手が起こりました。そういうことって東京国際レズビアン&ゲイ映画祭以外ではほとんど体験したことがなかったので、ジーンときました)
 
 映画の構成は少し複雑です。葬儀場に置かれた棺に横たわる、あまりにも美しいトランスジェンダー女性、トリーシャ。彼女が生前言っていた希望を叶え、親友のバーンズ(だったと思います。名前が違っていたらすみません)は7日間のお通夜の間、毎日、彼女を違う顔にメイクします。レディー・ガガだったり、ケイティ・ペリーだったり、ビヨンセだったり…。
 最初に弔問に訪れたのは、まだ高校生くらいの女の子でした。回想シーン。トリーシャは身寄りのない女の子を引き取り、シャーリー・メイと名づけ、ママとして愛情をかけて育てます。時には、学校で「おかまの子」とバカにされ、同級生につかみかかったりしますが(『トーチソング・トリロジー』を思い出させます)、素直ないい子に育ちます。
 そういうふうに、通夜のシーンと回想シーンが交互に表れ、だんだん、トリーシャの生涯がどんなだったかが解き明かされていきます。ちょっとここでは書かずにおきますが、トリーシャは高校時代、本当にひどい目に遭います。そして、家を出て女性として生きることを決意し、親友のバーンズと一緒に(フィリピンで盛んな各地で開催される)ミスコンに出場して賞金を稼ぐようになった後も、決して順風満帆ではありませんでした。もしトリーシャが女性の体に生まれついていれば、きっとその美貌を武器に、夢のように幸せな人生を送っていたことでしょう。ただ間違った体で生まれただけ、それだけなのに、どうしてこんな目に遭わなければいけないのか…胸が痛みます。
 それでも、親友のバーンズと一緒に、めげずに、明るく、健気に、ミス・ゲイ・フィリピン目指して、生きてきたトリーシャ(しかも子育てまでして)。夢が叶い、ついに憧れのミス・ゲイ・フィリピンの座に輝いたその瞬間、彼女はくも膜下出血で倒れ、帰らぬ人となるのです…これが泣かずにいられるでしょうか?
 ずっと励ましあって生きてきた二人の女たちの姿…亡くなった後も親友の遺志を、これ以上ないくらい美しいやり方で叶えてあげる、その気高さと友情の深さに、胸を打たれました。 

 そして、なんといっても素晴らしい、特筆すべき点は、トリーシャのメイクが完璧だったということです。これまで、男性が女装してドラァグクイーンを演じたり、トランス女性を演じたりという映画はたくさんありましたが、どこか「男が無理やり女装してる感」がにじみ出てしまう場合がほとんどでした。トリーシャのメイクは、『プリシラ』ほどドラァグではないのですが、ただのトランスジェンダーではない、誰から見ても文句なしに美しい!と賞賛されるような、絶妙なところを行っています。女性として美しいだけでなく、エレガントで、ゴージャス。時にはブリトニーそっくりになったりもします。あれを全部自分でやってたなんて、驚異的! 世界で通用すると思います。(パオロ・バレステロスさんはフィリピンでとても有名なメーキャップアーティスト/インパーソネーター(有名人になりきる人)だそうです)

 この愛すべき作品、グランプリは難しいかもしれないけど観客賞は獲ってほしいなあと思ってました。終わった後の拍手の大きさや、隣りで見ていたフィリピン人のおばさんたちのキャッキャした様子を見ていて、本当に多くの人にウケる作品だなあと思いました。(あとで、本当に観客賞をもらっていたので、うれしかったです)

 トークセッションの模様もお伝えします。
 監督のジュン・ロブレス・ラナさんと主演のパオロ・バレステロスさん(最初、ずっと泣いていました。完成版を観るのが初めてだったそうです)、エグゼクティブ・プロデューサーのペルシ・インタランさんが登壇。
 ラナ監督は、2014年にフィリピンでとあるトランスジェンダーが殺害された際、ネット上で「死んで当然」など心無い意見をいくつも目にしたことが本作の構想のきっかけになったと語りました。「LGBTコミュニティのためになんとかしたい、自分の出番だと思った」  
 先に脚本が上がってきて、主演はパオロさんに決めていたそうです。パオロさんには「女性の気持ちを表現してほしい」とお願いしたそう。そんなパオロさんはメイクを全て一人でやっていて、ものすごく大変だったそうです。
 とても驚いたのは、舞台上でもずっとオネエな仕草だったパオロさんが、ゲイではなくストレートで、娘さんもいるということでした。セクシュアリティって本当に奥が深いですね。
 会場からの質問タイムで、真っ先に質問した方が「LGBTコミュニティのためにありがとう」と英語で言っていました。たぶんフィリピン人のゲイの方なんじゃないかと思いました。
 それから、セクシュアルマイノリティ女性の方だと思うのですが、一橋大学ロースクールの学生がアウティングで自殺した件に触れながら、フィリピンでのLGBTの状況はどうなのか?という質問がありました。監督は「表向きは寛容だけど、なんだかんだ言ってカトリックの国。同性愛は罪だと思っている人も多い。寛容派と保守派の綱引き状態。2008年からLGBTが殺される事件が起きているし、まだまだやることはある」と語っていました。
 一般の(というか超メジャーな)映画祭で、監督さんからも会場からも普通にLGBTという言葉が出てきたところが感慨深かったです。

 めでたく配給も決まったので、来年には映画館で一般公開されると思います。ぜひみなさん、ご覧ください!

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