REVIEW
映画『ファーザーズ』(レインボー・リール東京2017)
第26回レインボー・リール東京(新宿)の初日に上映された『ファーザーズ』のレビューをお届けします。孤児を養子として育てるゲイカップルを描き、タイの映画賞に多数ノミネートされた作品です。
第26回レインボー・リール東京(新宿)が開幕した2017年7月8日(土)、シネマート新宿にて上映された作品です。335席がほぼ満席となる大盛況の上映となりました。ゲイカップルが孤児を養子として引き取り、育てているが、あるとき児童保護団体のスタッフが現れ、二人は大きな決断を迫られる…というあらすじで、『チョコレートドーナツ』みたいな映画なのかな?と思いきや、もう少し深く、現代的(リアル)な内容でした。レビューをお届けします。(後藤純一)
<あらすじ>
交際13年のプーンとユクは、孤児の少年を養子として引き取り、ブットと名付け、育てている。小学校に上がった少年は、同級生から父が二人いることをからかわれ、実の母について興味を持ち始める。そんな時、一家のもとに児童権利保護団体のスタッフが現れ、プーンとユクは少年のために大きな決断をすることを迫られるが…。
まず、ブットくんの天使のような姿、そして二人のイケメンなパパ(ダディー&パピー)というその絵面に目がハートになる方は多いはず。そんな家族三人の暮らしは、夢のように幸せで楽しそうです。日本だと豪邸レベルの大きめのお家で、リビングにも寝室にもテレビがあり、庭もとても広く、休みの日には、みんなでサッカーをしたり、ガーデニングをしたり。そしてなんと、ブットくんは学校の送り迎えの時に、特撮ヒーローのようにサイドカー付きのバイクに乗っています(ヘルメットもヒーロー風でした)。家族旅行といえば、飛行機でリゾート地(プーケット?サムイ?)にひとっ飛び、クルーザーを借りて海原に繰り出し、シュノーケリングを楽しみ、ホテルに戻ったら(たぶんお部屋はヴィラタイプのスイートルーム)スパでリラックス…みたいな感じなのです。タイのエグゼクティブ・ゲイってこんなにリッチなのか!と驚きました。
もうすぐ同性婚が認められそうだとニュースになる時代、ゲイだからといってあからさまに差別はされませんが、父兄のなかにはゲイに子育てがつとまるのかとロコツに言いはじめる人もいます。そして、たぶんその人の差し金で、児童権利保護団体の女性が家にやってきて、家族三人の暮らしに暗雲が立ちこめるのです…。
(ちなみに、この児童権利保護団体の女性が、ビシっとしたスーツを着て、ヒールをカツカツいわせて歩きそうな、典型的な「ざーます系」キャラで、事務所の社長椅子に座ってお客さんに応対する時に(シャム猫ならぬ)パグ犬を抱いていたりして、思わず笑ってしまう感じです)
正直、観る前は『チョコレートドーナツ』みたいな映画なのかな?と予想していたのですが、もっと深いものがありました。
プーンとユクのブットくんへの愛は、他の夫婦にも負けないくらい強く、純粋なものですが、ブットくんが、自分はどうやって生まれてきたの? なぜ他のみんなはパパとママがいるのにうちはパパ二人なの?という疑問を抱きはじめ、例の児童権利保護団体の女性の横槍もあって、ゲイ二人に育てられるより、実の母親と暮らすほうがこの子にとって…と、プーンの気持ちも揺らぎはじめます。社会に蔓延する同性愛嫌悪が悪いのだと言うのは簡単ですが、子どもの幸せを考えるとき、そんなに単純じゃない、答えのない問いとして、切実に迫ってくるのです。
誰だって、どんな親だって万能じゃないし、完璧じゃない、それはゲイとかストレートとか関係のないことで、子どもにとって何が幸せなのか(親の経済力か、愛情の大きさか、血がつながっていることか)といったことも、とても一言では言えない、そういう普遍的なことも考えさせられます。
受け取り方は人それぞれだと思うのですが、この作品、最後にまさかの大どんでん返しがあって、『チョコレートドーナツ』とは(あるいは『彼らが本気で編むときは、』とは)全く異なる印象を抱かせます。
タイというと、トランスジェンダーが本当に生きやすい(街にとけこんで暮らしている)というイメージがありますが、(苦労はあるでしょうが)ゲイカップルが赤ちゃんを引き取って養子として育てることが法的に問題なくできるということもわかりました(日本では、大阪でようやく里親が認められましたが、まだまだこれからですよね)
映画『ファーザーズ』は、7/15(土)15:55〜@スパイラルホールでも上映されます。
『ファーザーズ』英題:Fathers
監督:パラトポル・ミンポーンピチット
2016|タイ|96分|タイ語
★日本初上映
INDEX
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- クィアが「体感」できる名著『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ』
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