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REVIEW

映画『アフター・ルイ』(RRT2018)

エイズで亡くなった親友の死をめぐる映像作品を20年も作り続け、そこから抜け出せないでいるアーティストのサムが、イマドキの若いゲイの青年と出会うことで、少しずつ変わっていく…という映画です。『チョコレートドーナツ』のアラン・カミングが、昔を引きずってジタバタする「おっさん」ゲイを熱演しています。

映画『アフター・ルイ』(RRT2018)

東京ウィメンズプラザで開催されたレインボー・リール東京2018での上映作品です。エイズで亡くなった親友の死について20年も映像作品を作り続け、そこから抜け出せないでいるアーティストのサムが、イマドキの若いゲイの青年と出会うことで、少しずつ変わっていく…という映画です。『チョコレートドーナツ』のアラン・カミングが、昔を引きずってジタバタする「おっさん」ゲイを熱演しています。近年、とても貴重になっている、HIVをめぐる作品であり、また、世代の問題なども描かれている、極めてゲイコミュニティ的な作品です。(後藤純一)












<あらすじ>
エイズで亡くなっていくゲイたちを見殺しにしていた政府に対してラディカルな抗議活動を行った「ACT UP」。そのメンバーとしてかつて、精力的に活動し、エイズ禍の時代を生き抜いたアーティストのサム。自分だけが生き残ってしまったという罪悪感をも抱えた彼は、新作の制作に目もくれず、親友の死をモチーフにしたビデオ制作に没頭している。先人たちの闘いなど知らず、のほほんと生きる現代のゲイを苦々しく感じているサムだが、ある夜、魅力的な美青年・ブレイダンと出会い、恋に落ちていく…。


 ドキュメンタリー映画『UNITED IN ANGER –ACT UPの歴史-』のレビューでもお伝えしましたが、80年代、レーガン政権は数万人もの方たちがエイズで亡くなっていたにもかかわらず、何ひとつ対策を打ち出さずにいました。国民皆保険制度もなく、治療法も確立されておらず、政府に見捨てられ、明日をも知れぬ命…という人たちが、絶望の淵から立ち上がり、「ACT UP(ハデにやれ)」を合言葉に抗議行動を始めました(『BPM』で描かれていたように、フランスでも状況は同じでした)
 かつて「ACT UP」の活動に加わっていたサムは、周囲の友人がバタバタと倒れていく(1ヶ月に何人もの友人の葬儀に立ち会う)なか、たまたま生き残り、そして、ウィリアムという親友の死についてのビデオ映像制作を、20年間も完成させることができず、その死の痛みを引きずっています(タイトルの『アフター・ルイ』は、ウィリアムが書いた小さな本のタイトルで、かつてSMプレイをしたルイがHIVに感染し、亡くなった後のことを書いたもの)。周囲の友人たちは「そろそろ新しい作品に取りかかったほうがいいんじゃない?」とたしなめますが、サムは聞く耳を持たず…。
 そんななか、若くて美しい王子様タイプのブレイダンとバーで出会って恋に落ち、凝り固まったサムの頭も少しずつほぐれていくのです。

 ちょっと『ルッキング』を思い出しましたが、ブレイダンはルーカスという彼氏といっしょに住んでいて、でも、バーでサムを見かけて声をかけて、その晩、サムの部屋に泊まり、恋人のようなセクフレのような関係になります。いわゆるオープンリレーションシップですが、でもルーカスは「外泊するときは連絡しろって言ったよね?」とごきげんナナメになるのです。たいへんリアルだと思います(ほかにもこのカップルは、ああ、イマドキだなあと思わせる要素がいろいろあって、たぶん若い方たちはシンクロする部分が多いと思います)。ちなみにルーカスはちょっとウルフ系入ってて、タレ目でかわいいなぁと思っていたのですが、セクシーなシーンもあってよかったです。 
  
 サムには、エイズ禍の時代をサバイブし、ウィリアムと共通の友人だったジェフリー&マテオという友人カップルがいます(未だに「彼の写真や映像はないか?」とお願いしたりしています)。当時を知る数少ない友人だと思いますが、なんと、結婚したんだ、という報告に対して、サムが「ゲイが結婚するなんて!」と怒る場面があり、ビックリする方も多いと思います。なぜ怒るんだろう、意味がわからない…という方が多いことと思いますので、少し背景について補足説明を差し上げたいと思います。80年代、エイズ・アクティヴィズムから派生したクィア・スタディーズの中に「異性愛規範(ヘテロノーマティヴィティ)」という考え方があり、簡単に言うと、男性/女性というジェンダーは本質的なものではないし(パフォーマティブに構築されるもの)、異性愛以外は性倒錯だと見なすのもおかしい、とするものです。クィアな物の見方をすると、結婚制度というのは「異性愛規範」の最たるものであり、ゲイは結婚を求めたりせず、もっと自由な、新しい関係性を追求するのだ、という立場になるのです(すでにそういうスタンスで性愛を実践している方、けっこう多いと思います)。二人は逆に、白人の特権階級がどうたらこうたらと言って(ジェフリーとマテオは黒人とヒスパニック系)サムに反撃するのですが、このあたりの議論というか喧嘩は、とてもアメリカ的なところだと思います。
 
 そして、この映画は、世代ということがキーになっています。
 サムの世代(ほとんど残っていませんが…)は、あんなに肩肘張って、必死に闘って、権利を勝ち取ってきた。でも、今の若い世代はどうだ。そんな闘いのことは知らず、あっけらかんと、のほほんとしてやがる、というような。そんな50代も半ばになった「おっさん」が、20代の若者とまさかの恋に落ちることで、過去の呪縛から解き放たれ、世界の見え方が変わっていくキッカケになる、というのが面白いところです(逆に、もっと上の世代との交流もあって、それはそれで、癒しへとつながります)。たとえばこれがノンケ男性だったら、おっさん世代とゆとり世代の隔絶は深刻で、理解しあう日は永久にこないだろうな…と思ったりしますが、ゲイの場合、50代と20代が愛し合い、理解はできないかもしれないけど互いの違いを承認しあえたりするわけです。いにしえの時代からずっと、僕らはそういうふうにして何かを受け継いできたのかもしれないですね…

 監督のヴィンセント・ガグリオストロという方は、以前「ACT UP」に参加していた方ですが、おそらく彼の思いが投影された作品なんだと思います。そして、実はアラン・カミング自身がプロデュースに加わっています。アラン・カミングだからこそ、サムというキャラクターを表現できたんじゃないかという気がします。

 ゲイコミュニティ内のあれこれに特化した、極めて偏った映画で(これ、一般公開されたんでしょうか…)、ゲイじゃない人が観ても楽しめないのでは?と思ったりもしましたが、意外と会場の女性客が反応してたりもしました。

 7/14(土)11:20~にスパイラルホールで上映されますので、興味のある方はぜひ、ご覧ください。
 
 

アフター・ルイ 
監督:ヴィンセント・ガグリオストロ
出演:アラン・カミングほか

2017|アメリカ|100分|英語
※日本語字幕つき
日本初上映

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