REVIEW
映画『性別が、ない! インターセックス漫画家のクィアな日々』
エッセイ漫画『性別が、ない!』シリーズでおなじみの、インターセックスの新井祥さんと、アシスタントで一緒に暮らしているゲイのうさきこうさんとの日常、そしてさまざまなセクシュアルマイノリティ(クィア)の友人たちとの交遊を描いたドキュメンタリー映画です。
『性別が、ない!』というエッセイ漫画がヒットし、シリーズ化した新井祥さん、東京から名古屋に引っ越し、漫画の専門学校で講師を務めることになります。そこで美少年なゲイのうさきこうさんと出会い、アシスタントとなったこうさんと同居生活がスタートします。恋愛感情があるのかないのか、いわゆるパートナーなのかどうか、といったところは映画で確かめていただきたいのですが、ともかく、二人はずっと一緒にいます。
漫画で見ていたときは、新井さんがいかにも面白おかしく、ちょっと誇張ぎみに自分のことを描いていることもあって、ちょっとチャラい感じのキャラに見えていたのですが、今回、映像でご本人が話す姿を観たら、いたって真面目で真っ直ぐな、芯の強さを感じさせる方だと感じました。
うさきこうさんも、仔鹿のバンビのような、か弱くてはかない感じの美少年だと思っていましたが、意外としっかりした、男っぽい話し方の方でした。(昨年、漫画家デビューを果たし、自身がゲイであることをカミングアウトしています)
やはり、何かと闘ってきた方たちは、強さが違う、と思いました。
お二人以外にも、さまざまなジェンダー/セクシュアリティの方たちが登場します。
細々老師という香港で活動するインターセックスの方は、子どもの頃に勝手に男性器を作る手術をされましたが、性自認は男性ではなかったという悲劇。生まれた子どもがインターセックスだった場合、本人が成長するまで手術はしないでほしいと訴えます。
タイで、ガトゥーイ(MtFトランスジェンダー)として教師をしている方にも取材していました。彼女自身というよりむしろ、子どもや親が全く差別してない、当たり前のように受け止めているところが印象的でした。
新井さんが理事を務める性同一性障害者支援のNPOのところに相談にやってきたFtMの倉持さん。タイで乳房切除および子宮・卵巣摘出手術を受けましたが、手術なのに怖そうではなく、とてもうれしそうで、終わった後も晴れ晴れした笑顔で、男として(上半身裸で)夏の海で泳ぐという夢を叶えて、本当に幸せそうでした(海のシーン、ご両親と対話するシーンははちょっとジーンときました)
新井さんの同僚で、バイセクシュアル寄りのレズビアンかつFtXという青山さんという方がいました。女体なのですが、男性ホルモンを投与し、ヒゲが生えたりしている、そういう姿に満足しているようです。女性のパートナーがいて、親御さんにも紹介しています。
それから、新井さんがよく行く、女子大小路にあるお店の店主は、豊胸手術済みで(おっぱいがあって)、でも下は手術していなくて、パッと見は女性的に見えるけど、外性器は男性だし戸籍も男性で、女性が好きという方でした。ジェンダーに関してはかなり悩んだそうですが、今の状態で落ち着いているそうです。
漫画の『性別が、ない!』シリーズでも描かれている方たちなので、ああ、あの人!とか、実物はこんな感じなんだ〜みたいなリアクションがあると思います。
日本では、インターセックスの方で新井さんのようにオープンな方、セクシュアルマイノリティ(クィア)として活動している方はほとんどいなくて、自分は男/女であり、クィアではない、LGBTの運動とは一緒にされたくない、他のセクシュアルマイノリティとも交流を持ちたくない、そっとしておいてほしい、という方が多いようです。(そんななかでも、以前話題になった『IS』という漫画でモデルをつとめた方などもいらっしゃいました)
新井さんはそういう生き方とはキッパリ袂を分かち、「自分は外の世界に出た」「幸せに生きて、幸せに死んでやる」「死ぬまで、ショーを見せてやる」というふうに語っていて、スゴい、と思いました。
ゲイの場合、たとえドラァグクイーンだろうと、ホストだろうと、同じようなことをやってる人たちがたくさんいて、なんだかんだ言ってもすぐに仲間を見つけられるわけですが、新井さんは孤高の存在で(同じ立場の仲間を見つけられない)、いつも何かと闘っているような、凛とした気高さを感じさせました。そんな新井さんにずっと寄り添ってきたこうさんも素晴らしいと思います。
ドローンを活用した印象的な映像美も光ります。小池栄子さんのナレーションも光ります。上映後にトークショーがあったりもします(詳しくはこちら)。ぜひ劇場に足を運んでみてください。
『性別が、ない! インターセックス漫画家のクィアな日々』
2018年/日本/監督:渡辺正悟/出演:新井祥、うさきこう、IKKANほか/7月28日からアップリンク渋谷にて公開
INDEX
- クィアでブラックなミュージカル・コメディ・アニメドラマ『ハズビン・ホテルへようこそ』
- 涙、涙…の劇団フライングステージ『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第二部
- 心からの拍手を贈りたい! 劇団フライングステージ 『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第一部
- 40代で性別移行を決意した人のリアリティを描く映画『鏡をのぞけば〜押された背中〜』
- エストニアの同性婚実現の原動力になった美しくも切ない映画『Firebirdファイアバード』
- ゲイの愛と性、HIV/エイズ、コミュニティをめぐる壮大な物語を通じて次世代へと希望をつなぐ、感動の舞台『インヘリタンス-継承-』
- 愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
- なぜ二丁目がゲイにとって大切な街かということを書ききった金字塔的名著が復刊:『二丁目からウロコ 増補改訂版--新宿ゲイ街スクラップブック』
- 『シッツ・クリーク』ダン・レヴィの初監督長編映画『ため息に乾杯』はゲイテイストにグリーフワークを描いた素敵な作品でした
- 差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描いた名作ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
- 春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
- アート展レポート:キース・へリング展 アートをストリートへ
- レナード・バーンスタインの音楽とその私生活の真実を描いた映画『マエストロ:その音楽と愛と』
- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
SCHEDULE
- 03.19XO7
- 03.20RADWIMPSナイト3 〜無人島に持っていき忘れた一曲〜