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REVIEW

映画『いろとりどりの親子』

とてもいい映画でした。泣けます。障害者がLGBTと一緒に活動することに違和感を覚えるという方がいらっしゃるとしたら、そういう方にこそ観ていただきたい映画です。

映画『いろとりどりの親子』

 周囲の人たちとは異なるため親が戸惑ってしまうような性質を持った子どもとその親、300以上の親子たちのインタビューをまとめ、『ニューヨークタイムズ』紙が選ぶBest Bookなど、アメリカ国内外で50以上の賞を受賞し、世界24カ国で翻訳されたベストセラーノンフィクション『Far From The Tree: Parents, Children and the Search for Identity』に基づき、6組の親子の姿を収めたドキュメンタリー映画です。アメリカが舞台です。

 最初に原作者でゲイのアンドリュー・ソロモンが登場し、この本を書くことにした理由であるところの、自分自身のことを物語ります。アンドリューは子どもの頃から、例えば同級生にオペラの素晴らしさについて語ったりするような子で、母親はそういう「変わった」ところを認め、応援してくれていたのですが、いざ、ゲイであることを両親にカムアウトした時に、とても失望し、理解を示してもらえず、苦悩したそうです。その時に、他の親たちはどうなんだろう、子どもが受け入れ難い個性を持っていた時にどうやって受け入れ、折り合っているんだろう、ということを真剣に考え、いろんな親子に会って話を聞き、10年かけて、この本を書いた、ということでした。アンドリューは27歳の時に(理解してもらえないまま)母親をがんで亡くし、うつを患ったそうです。たぶん彼の本には、地獄を見た人だからこその、深い人間愛みたいな、にじみ出るものがあって、だからこそ支持されたんだな、彼の人間性がこの偉業につながったんだな、と感じます。
 
 アンドリューと実父のハワードの親子も登場するのですが、この映画でフィーチャーされている親子のほとんどは、子どもがダウン症だったり、自閉症だったり、低身長症だったりというdisability(ハンディキャップ、障がい)を抱えているケースでした。母親の多くは、私が妊娠している時にもっと気をつければよかったのだろうか…とか、母乳の与え方が足りなかったのだろうか…などと悩んでいます。身につまされます(特に自閉症のジャックの両親は、本当につらそうでした)
 
 ロイーニは低身長症の女の子で、恋人がほしい!と常々、思っています。彼女は、母親に付き添われて「Little People of Ameica」という大会に出かけ、初めて大勢の低身長症の仲間に出会えて、パーティでダンスしたり、男の子と知り合ったりして、真の人生を見つけたように感じるのでした(ゲイと同じですね!)
 この「Little People of Ameica」の運営の会議の場で、低身長症を治療する薬の治験のことが議論になっていて、私たちの「症状」は「治療」すべきことなんかじゃない、誇りに思っていいこと、祝福されるべきことだという意見が交わされました(まるで『X-MEN』のようでした)。この会議に出席もしていたリアという女性は、ジョーという低身長症の中でも車椅子が必要なタイプの男性と知り合うのですが、ジョーがまた、少しも不幸だとは感じていなくて、とても前向きで、ユーモアがあって、愛らしくて、素敵な人でした。二人の恋の行方は…ぜひ映画館で観てください。きっと泣けると思います。

 アンドリューは、この40年の間に、ゲイであることは病気から祝福されることへと変わった。何が変わったのか?と問います。世の中がそれをどう見るかによって、全然違う扱いをされるのです(すなわち、障がいや、LGBTのマイノリティ性は、それ自体が「問題」なのではなく、社会の側の問題だということです)
「トルストイは『すべての幸福な家庭は互いに似ている。不幸な家庭はそれぞれの仕方で不幸である』と綴った。僕はこう思う。『幸福な家庭こそ本当に多様だ』と」というセリフが素敵でした。

 あまり詳しくは書きませんが、抱えている問題が障がいではないタイプのトレヴァーという子どもも登場します。親御さんの気持ちを考えると…言葉を失います。ある意味、「答えのない問い」です。
 障がい(やゲイであること)は生まれつきのもので、本人には責任がなく、それゆえに、理解や支援も受けやすいし、時には障がい者が聖人のように扱われることすらあります。トレヴァーは全くそうではありません。彼のようなケースをフィーチャーしたことには、とても大きな意味があると感じました。
 
 何度となく目頭が熱くなり、ラストはずっと泣いてました。
 ドキュメンタリーではありますが、クライマックスに向けて実にうまく編集されていると感じました。
 
『いろとりどりの親子』は、親が自分を責めたりするような(親を悲しませるような)子ども、隣近所には仲間がいなくて、クラスでいじめられたり、孤立したり、死んでしまいたいと思うかもしれないような子どもであっても、きっとどこかに仲間がいて、悲しみや喜びを分かち合える友達になれて(恋だって見つけることができて)、生きる希望が見出せる、そういう人生の真実は、ゲイだろうと、ダウン症だろうと、低身長症だろうと同じだということを、これ以上ないくらいの説得力で物語ります。
 もしかしたら、心のどこかで、障がいを持った方たちがパレードを一緒に歩くこと、LGBTが他の様々なマイノリティと共に活動することについて、違和感を覚えたり(例えば「同性愛は障害ではない。一緒にしないで」という感情を抱いたり)していた方もいらっしゃるかもしれないと思いますが、そういう方にこそ、この映画をご覧いただきたいなぁと願うものです。
 
いろとりどりの親子』Far from the Tree
2018年/アメリカ/監督:レイチェル・ドレッツィン/新宿武蔵野館ほか、全国で順次公開

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