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REVIEW

映画『伯林漂流(Berlin Drifters)』

今泉浩一監督の最新作『伯林漂流(Berlin Drifters)』。あの田亀源五郎さんが脚本を手がけていることでも注目されます。レビューをお届けします。

映画『伯林漂流(Berlin Drifters)』

 『伯林漂流(Berlin Drifters)』は、『初戀』が2008年にベルリン国際映画祭パノラマ部門で上映され(スゴいことです)、2012年に『家族コンプリート』を、2014年に『すべすべの秘法』といった作品を発表してきた今泉浩一監督の最新作です。あの田亀源五郎さんが脚本を手がけています(田亀さんが映画の脚本を手がけるのは初だそうです)
 

「この10年で日本のゲイの恋愛とセックスを取り巻く何が変わり、そして何が変わらなかったのか?を「ベルリン」という反射鏡を触媒として描き出す。彷徨い続ける男たちが踊る、21世紀版『ラスト・タンゴ・イン・パリ(・オヴ・ゲイ)』」(公式サイトより)

<あらすじ>
ベルリン在住の日本人・コーイチはある夜、セックスクラブで日本からの旅行者リョータと出会う。インターネットで知り合ったドイツ人男性との「恋愛(=結婚?)」への期待に胸を膨らませてベルリンにやって来たリョータは、相手の関心が自分とのセックスにしかなかったことを知り、彼の家に泊めてもらうこともできず、セックスクラブで一夜を過ごしに来たのだった。仕事もせず、ほとんど人づきあいもしないで独り暮らすコーイチは、なりゆきで自分のアパートにリョータを泊めてそのまま彼と肉体関係を持つが、リョータは毎日のように出かけては現地のいろんな男たちとセックスして帰ってくるようになる。そんな彼に苛立ちとも好奇心とも知れない感情(もちろん、愛でもない)を抱いたコーイチは、次第にリョータとのセックスにのめり込んでいく…。


 映画を観終わってまず感じたのは、ラストシーンのこの余韻は、今までの作品にはなかったなぁ、ということ。美しく、淡々としているのに叙情的で、ちょっと「神」を感じさせる瞬間もあります。脚本の素晴らしさ、主演の馬嶋亮太くんの魅力、そして、撮影や監督の熱意というか思いが「運」を引き寄せたんじゃないでしょうか。
 
 それから、ミオオさん(以前、NPO法人aktaの前身であるRainbow Ringの代表をつとめていた方)が出演していて、しかも意外な役どころであったことに、個人的にはたいそう驚きました。あまり詳しくは書けませんが、コーイチがベルリンに来た理由に関係しています。いまは、ミオオさんという天使のような人こそ、あの役にふさわしい、と思っています。よかったです。
 
 ほとんどひっきりなしにセックスのシーンが出てきますが、リョータ、コーイチ、そしてミオオの3人の性愛についてのスタンスが、微妙に三者三様で面白かったです。
 リョータはスゴいですね。屈託というものがなく、爽やかに、純粋に、まっすぐに、(モーツァルトの音楽のように)悲しみが追いつかないくらいの速さで駆け抜けて行きます。見てて気持ちがいいです。ベルリンという街にシンクロしている気がします。
 
 全体を通して見ると、全面的にセックス礼賛とも言い切れない、アンビバレンツといいますか、観る人の感じ方に委ねられているようなところもあって、そこがこの作品の深み(あるいは旨み)であり、ラストシーンの余韻へとつながっていると感じました。
  
 公式サイトの出演者の一覧にもお名前があるので書いてしまいますが、割と意外な展開で、今泉監督のご両親も登場します(こんなにエロティックな映画なのに!)。ゲイの性愛はもはやアンダーグラウンドでも世間から断絶しているものでもなく、僕らの日常生活と地続きなのだという示唆…なのかどうかはわかりませんが、ご両親の登場は、この映画においてなにがしかの重要な意味を持っているように感じます。
 
 やはり、田亀先生が脚本を書いているということもあり、今までの今泉さんの作品とは異なる作品になっていたと感じました。

 今後、上映のめどは立っていないそうですが、もしまた日本で上映される機会があれば、ぜひご覧ください。


伯林漂流(Berlin Drifters)
2017年/日本、ドイツ/監督:今泉浩一/出演:馬嶋亮太、Michael Selvaggioほか

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