REVIEW
笑撃のクィア・ミュージカル『アベニューQ』
「オトナのセサミストリート」とも言うべき、斬新にして笑撃的なパペット・ミュージカル。ニューヨーカーの絶大な支持を得てロングランヒットし、トニー賞3部門を制覇したというのもうなずけます。メイン・ストーリーの1つがゲイの話っていうのも素敵です。「人形劇でしょ?」などと思わず、騙されたと思って観てください。最後にはきっと、拍手の嵐です。
ニューヨークのアベニューQ(「Q」は絶対、Queerの意味だと思います)に暮らす人やパペット(この世界では『セサミストリート』のように人間とパペットがいっしょに暮らしています)は、無職だったり、引きこもりだったり、おデブな売れないコメディアンだったり、ゲイリー・コールマン(元「アーノルド坊や」)だったり、アジア人だったり、ゲイだったり、モンスターだったりします。要はマイノリティやダメ人間の集まりですが、下町っぽく、なかよく暮らしています。
そんな住人たちは、自堕落に過ごしたり、仕事に燃えたり、恋をしたり、フラれたり、誘惑に負けたりしつつ、人生の目的を探して、歌い、踊ります。いろんなエピソード、いろんな名曲が繰り広げられるのですが、やはりロッドとニッキーのエピソードが素敵です。
ロッドは投資銀行に務める共和党員(コテコテのカタブツ)ですが、素朴で人柄のよいニッキーを部屋に住まわせています。ロッドはみんなにゲイだと感づかれていて、ニッキーは「君がゲイだとしても僕は気にしないよ」と歌いかけるのですが、それがまた素晴らしくいい歌で、思わず涙しそうになりました。ニッキー、本当にいいヤツなのです。でも、そんな優しい言葉にも耳を貸さず、ロッドは必死に否定しつづけ、自分を受け容れることができません…。この二人の愛とも友情ともつかない物語は『アベニューQ』の柱の1つになっていますが、ここだけが妙にリアルで、身につまされます。思わず二人の仲を応援し、ハラハラしながら身守るのです。
ほかは、たとえば、パペット同士のセックス・シーンがあったり(人形だからこそ、ですね)、幼稚園の先生をやってるケイトが「生徒にインターネットの大切さについて教えましょ」と言うと「ポルノのためにね」とチャチャが入ったり。一事が万事、この調子で、世の中でタブーとされるようなことが次々にネタにされていきます(ほとんどそういうネタしかありません)
この『アベニューQ』、単にブラックジョークをちりばめただけのダークな作品ではありません。たとえば、「愛と憎しみはセット。まるで手袋みたいに。激しく愛していればいるほど、殺したくなる」という歌が、最高に美しく感動的なメロディで高らかに歌われるとき、コメディなのに、深い感動に襲われます。ふつうの舞台では、悲しい場面には悲しい音楽を、楽しい場面には軽快な音楽を使いますが、この『アベニューQ』はそうではありません。くだらないことやひどいことを感動的に歌い上げたり、人々が最も秘密にしておきたいようなことを明るくハッピーに歌ったりするのです。
キャストの人たちが声色を変えて何役も演じ分けたり、歌いながら自分も演技しながらパペットを操ったり…さすがはブロードウェイ・キャスト、その技術は本物です。本当にスゴいと思います。
そして、人間、パペット、教育番組っぽい映像、舞台装置…さまざまなメディアを駆使しながら、ステージは進行していきます。そうして「オトナの(アダルトな)セサミストリート」は、僕らの人生にとって本当に大切なものが何かを伝えてくれるのです。
東京都青少年健全育成条例に賛成したPTAの親たちは「子どもには見せられないざます!」と激怒するでしょうが、本当に教材とすべきなのはこちらの方なのでは?と思います。
上演中、もちろんゲラゲラ笑う人も多かった一方、ドン引きして固まってる方もいました(たぶんPTAの方でしょう)。終演後、会場ではスタンディングオベーションも起こりました。
「だって、人形劇でしょ?」などと思わず、騙されたと観てみてください。きっとこの『アベニューQ』の世界にハマり、パペット・キャラクターのことをもっと知りたいなあとか、グッズがほしいかも、と思ったりするハズです。(ちなみにこのパペット、「セサミ・ストリート」の作者と同じ人が作ってるんだそうです。どうりで!)
もしかしたら、もっと近くでもう1回観たい!と思ったり、あとでじわじわきたり、一生の宝物のような観劇(感激)体験になるかもしれない、そんな作品です。(後藤純一)
そんな住人たちは、自堕落に過ごしたり、仕事に燃えたり、恋をしたり、フラれたり、誘惑に負けたりしつつ、人生の目的を探して、歌い、踊ります。いろんなエピソード、いろんな名曲が繰り広げられるのですが、やはりロッドとニッキーのエピソードが素敵です。
ロッドは投資銀行に務める共和党員(コテコテのカタブツ)ですが、素朴で人柄のよいニッキーを部屋に住まわせています。ロッドはみんなにゲイだと感づかれていて、ニッキーは「君がゲイだとしても僕は気にしないよ」と歌いかけるのですが、それがまた素晴らしくいい歌で、思わず涙しそうになりました。ニッキー、本当にいいヤツなのです。でも、そんな優しい言葉にも耳を貸さず、ロッドは必死に否定しつづけ、自分を受け容れることができません…。この二人の愛とも友情ともつかない物語は『アベニューQ』の柱の1つになっていますが、ここだけが妙にリアルで、身につまされます。思わず二人の仲を応援し、ハラハラしながら身守るのです。
ほかは、たとえば、パペット同士のセックス・シーンがあったり(人形だからこそ、ですね)、幼稚園の先生をやってるケイトが「生徒にインターネットの大切さについて教えましょ」と言うと「ポルノのためにね」とチャチャが入ったり。一事が万事、この調子で、世の中でタブーとされるようなことが次々にネタにされていきます(ほとんどそういうネタしかありません)
この『アベニューQ』、単にブラックジョークをちりばめただけのダークな作品ではありません。たとえば、「愛と憎しみはセット。まるで手袋みたいに。激しく愛していればいるほど、殺したくなる」という歌が、最高に美しく感動的なメロディで高らかに歌われるとき、コメディなのに、深い感動に襲われます。ふつうの舞台では、悲しい場面には悲しい音楽を、楽しい場面には軽快な音楽を使いますが、この『アベニューQ』はそうではありません。くだらないことやひどいことを感動的に歌い上げたり、人々が最も秘密にしておきたいようなことを明るくハッピーに歌ったりするのです。
キャストの人たちが声色を変えて何役も演じ分けたり、歌いながら自分も演技しながらパペットを操ったり…さすがはブロードウェイ・キャスト、その技術は本物です。本当にスゴいと思います。
そして、人間、パペット、教育番組っぽい映像、舞台装置…さまざまなメディアを駆使しながら、ステージは進行していきます。そうして「オトナの(アダルトな)セサミストリート」は、僕らの人生にとって本当に大切なものが何かを伝えてくれるのです。
東京都青少年健全育成条例に賛成したPTAの親たちは「子どもには見せられないざます!」と激怒するでしょうが、本当に教材とすべきなのはこちらの方なのでは?と思います。
上演中、もちろんゲラゲラ笑う人も多かった一方、ドン引きして固まってる方もいました(たぶんPTAの方でしょう)。終演後、会場ではスタンディングオベーションも起こりました。
「だって、人形劇でしょ?」などと思わず、騙されたと観てみてください。きっとこの『アベニューQ』の世界にハマり、パペット・キャラクターのことをもっと知りたいなあとか、グッズがほしいかも、と思ったりするハズです。(ちなみにこのパペット、「セサミ・ストリート」の作者と同じ人が作ってるんだそうです。どうりで!)
もしかしたら、もっと近くでもう1回観たい!と思ったり、あとでじわじわきたり、一生の宝物のような観劇(感激)体験になるかもしれない、そんな作品です。(後藤純一)
ブロードウェイ・ミュージカル『アベニューQ』
日程:~12月26日(日)
会場:東京国際フォーラム ホールC
料金:S席 ¥9,800、A席 ¥7,800、B席 ¥5,800出演
作曲/作詞/原案/アニメーションデザイン:ロバート・ロペス
作曲/作詞/原案:ジェフ・マークス
演出:ジェイソン・ムーア
パペットデザイン:リック・ライオン
INDEX
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
- 映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』
- アート展レポート:shinji horimura個展「神と生きる漢たち」
- アート展レポート:moriuo個展「IN MY LIFE2023」
- 「神回」続出! ドラマ『きのう何食べた?』season2
- 女性たちが主役のオシャレでポップで素晴らしくゲイテイストな傑作ミステリー・コメディ映画『私がやりました』
- これは傑作! ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』
- シンコイへの“セカンドラブ”――『シンバシコイ物語 -最終章-』
- 台湾華僑でトランスジェンダーのおばあさんを主人公にした舞台『ミラクルライフ歌舞伎町』
- ミュージカルを愛するすべての人に観てほしい、傑作コメディ映画『シアターキャンプ』
- 史上最高にゲイゲイしいファッションドキュメンタリー映画『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』
- ryuchellさんについて語り合う、涙、涙の番組『ボクらの時代 peco×SHELLY×ぺえ』
- 涙、涙…実在のゲイ・ルチャドールを描いた名作映画『カサンドロ リング上のドラァグクイーン』
- ソウルにあったハッテン映画館の歴史をアニメーションで描いた映画『楽園』(「道をつくる2023」)
- 米史上初のゲイの大統領になるか?と騒がれた人物の素顔に迫る映画『ピート市長 〜未来の勝利宣言〜』
- 1920年代のベルリンに花開いたクィアの自由はどのように奪われたのか――映画『エルドラド: ナチスが憎んだ自由』
- クィアが「体感」できる名著『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ』
- LGBTQは登場しないものの素晴らしくキャムプだったガールズムービー『バービー』
- TORAJIRO 個展「UNDER THE BLUE SKY」
- ただのラブコメじゃない、現代の「夢」を見せてくれる感動のゲイ映画『赤と白とロイヤルブルー』
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