REVIEW
映画『スターライトの伝説』(TILGFF2015)
第24回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で観た作品のレビュー2本目は、『スターライトの伝説』です。NYのブルックリンで50年以上もアフロアメリカンのゲイたちの拠り所となってきたゲイバー「スターライト」にまつわる感動のドキュメンタリーです。
第24回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で観た作品のレビューをお届けしていきます。2本目は『スターライトの伝説』です。NYのブルックリンで50年以上もの長きにわたってアフロアメリカンのゲイたちの拠り所となってきたゲイバー「スターライト」の、愛と感動の実話を描いたドキュメンタリー映画です。「ArcH」ファイナルに涙した方、長年通っていたお店がなくなってしまった経験がある方などはきっと、涙なしでは観られないと思います。ぜひ、ご覧になってください。
「Starlite(スターライト)」は1962年、ブルックリンに誕生したアフロアメリカンのゲイが集まるバーです。バーと言っても、DJがプレイし、ドラァグクイーンがショーをする、日本で言うクラブです(当時だとディスコ)。でも○○ナイトとかがあるわけではなく、いつ行っても同じようにゴキゲンな音楽がかかっていて、おなじみの面々と会える、そんなお店です(二丁目で言うと「NEW SAZAE」みたいなお店かもしれません)
当時、アフロアメリカンのゲイの人たちは、白人のゲイが集まるクリストファー・ストリートのゲイバーに行っても、そこを自分の居場所と感じることはできませんでした。そのため、ブルックリンには「スターライト」以外にもいくつも黒人のゲイたちが集まるバーがありました。「スターライト」は特に、ビアンの人も、ゲイ客の家族も、地域のノンケの人なんかもいっしょにワイワイ楽しむ、アットホームなお店でした(登場する人たちは盛んに「コミュニティ」という言葉で表現していました。地域密着型のゲイMIXバーがたくさんあるという意味では、阿佐ヶ谷に近いかもしれないなあと思いました)。つい最近まで、アフロアメリカン・コミュニティはゲイをなかなか受け容れなかったということが言われてきたと思いますが、60年代にそんなお店があったなんて…驚きました。(一方、常連客の一人は「教会には受け容れてもらえなかったから、行かなくなった」と語りました。「スターライト」がゲイにとっての教会だったというのです)
ディスコ〜クラブが舞台なだけに、ダンスクラシック(old school disco)からガラージ、古き良き時代のハウスが次々に流れます。そういう系の音楽が好きな方たちには、たまらない映画です、たぶん。「スターライト」でプレイしていたガラージのDJの方(すみません、お名前を失念しました)はラリー・レヴァンと並べて語る人もいるくらいの素晴らしいDJだったそうです。初代の経営者の方も、誰もが認める人格者で、みんなに慕われていました。しかし、2人ともエイズで亡くなってしまいました。「店が空っぽになった」と常連客は語り、涙しました。「スターライト」以外のお店はすべて、店をたたみました。部屋中に亡くなった友達の写真を貼り、「毎週金曜日はここでみんなのことを思いながら踊るんだ」と語る人もいました。
そんな悲しみを乗り越え、何十年もの間、マイノリティの安全な居場所であり続けた「スターライト」は、今やもう1つの「ストーンウォール」とも言うべき、シンボリックにして文化財的なお店になっていました。しかし2010年、「スターライト」は突然、閉店の危機に直面しました。急にビルのオーナーが変わり、立ち退きを要求してきたのです。経営者やお客たちは、自分たちのコミュニティが存続できるようにと立ち上がります…
ラストシーンはもう、涙なしでは観られませんでした…
「銃とかドラッグとか、いろいろ問題があった場所。そんな地域で、ゲイだろうと誰だろうと安全に過ごせる場所として、「スターライト」は特別な意味を持っていた」。そう訴える活動家の女性の言葉が、身にしみました。
それぞれに想像も及ばないくらいの苦労をしてきたでしょうに、この映画に登場するゲイの人たちは、みんな生き生きと笑顔で語っていて、印象的でした(とてもチャーミングで、キュンキュンしました)
コミュニティとは何か?幸せとは何か?ということを深く考えさせる作品でした。
<次回上映>
7/17(金)18:30~@スパイラルホール
INDEX
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
- 映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』
- アート展レポート:shinji horimura個展「神と生きる漢たち」
- アート展レポート:moriuo個展「IN MY LIFE2023」
- 「神回」続出! ドラマ『きのう何食べた?』season2
- 女性たちが主役のオシャレでポップで素晴らしくゲイテイストな傑作ミステリー・コメディ映画『私がやりました』
- これは傑作! ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』
- シンコイへの“セカンドラブ”――『シンバシコイ物語 -最終章-』
- 台湾華僑でトランスジェンダーのおばあさんを主人公にした舞台『ミラクルライフ歌舞伎町』
- ミュージカルを愛するすべての人に観てほしい、傑作コメディ映画『シアターキャンプ』
- 史上最高にゲイゲイしいファッションドキュメンタリー映画『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』
- ryuchellさんについて語り合う、涙、涙の番組『ボクらの時代 peco×SHELLY×ぺえ』
- 涙、涙…実在のゲイ・ルチャドールを描いた名作映画『カサンドロ リング上のドラァグクイーン』
- ソウルにあったハッテン映画館の歴史をアニメーションで描いた映画『楽園』(「道をつくる2023」)
- 米史上初のゲイの大統領になるか?と騒がれた人物の素顔に迫る映画『ピート市長 〜未来の勝利宣言〜』
- 1920年代のベルリンに花開いたクィアの自由はどのように奪われたのか――映画『エルドラド: ナチスが憎んだ自由』
- クィアが「体感」できる名著『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ』
- LGBTQは登場しないものの素晴らしくキャムプだったガールズムービー『バービー』
- TORAJIRO 個展「UNDER THE BLUE SKY」
- ただのラブコメじゃない、現代の「夢」を見せてくれる感動のゲイ映画『赤と白とロイヤルブルー』
SCHEDULE
記事はありません。