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レポート:第23回女装紅白歌合戦
2024年の大晦日に二丁目のAiSOTOPE LOUNGEで開催された第23回女装紅白歌合戦の配信の模様をレポートします
大晦日のNHK紅白歌合戦をご覧になった方、多いと思います。氷川きよしさんは意外にも男装での勇壮なパフォーマンスでしたが(結果、今回の紅白はクィアな要素がほとんどないものになっていましたが)歌は凄かったですし、MISIAさんをはじめアーティストの皆さんの魂の歌唱に感動させられる場面が多々あって、実に観応え・聴き応えのある、日本には本当にいい歌手がたくさんいて素晴らしいなぁとあらためて実感できるような音楽番組になってましたね。『虎に翼』にまつわるあれこれもよかったです。
一方、二丁目AiSOTOPE LOUNGEでは今年も、恒例の女装紅白が盛大に開催されました。イキのいい若手クイーンたちによるキャッチーなダンスショーから大御所クイーンによる貫禄たっぷりのショーまで、二丁目が誇る様々なドラァグクイーンの多彩なショーを堪能できたのはもちろん、今回の女装紅白は、日本の歌謡シーンへのオマージュや、その中にも確かに存在した性的多様性へのオマージュを捧げるような、素晴らしいイベントになっていました。
g-lad xxでは、第12回、第14回、第19回(オンライン)、第20回(オンライン)とレポートしてきて、近年は諸事情により現地からのレポートではなくオンラインで拝見させていただいていますが、今回もそのようなかたちで配信を視聴したレポートを(遅ればせながら)お届けします。
今回なんと、いつも天才的なひらめきで会場をドカドカ笑わせてくれている、司会をさせたらこの方の右に出る人はいないのではないかと思われるブルボンヌさんが、大流行中のインフルエンザに罹患して出演が叶わなくなったため(本当に残念です)、急遽、紅組のキャプテンは肉襦袢ゲブ美さんが、総合司会をミッツ・マングローブさんが務めることとなりました(ミッツさんが出られるのは実に13年ぶりだそう)
審査員はレジェンド・日出郎さんとマーガレットさん、AiSOTOPE LOUNGEのおばらたかきさんのほか、2すとりーとのゆうきさんが務めてくれました。
12月31日20時半、MCと出演者のみなさんがステージに上がり、にぎにぎしく女装紅白がスタート。
トップバッターは、フレッシュな若手対決。AiSOTOPE LOUNGEで第一火曜に開催されている新人クイーンの祭典「UZMK Z(うずまきZ)」からクアラルンプール・とき子さん、ぴぴちぁん、ネオン ザ ライトさんがME:Iを、マラージュさん、ディ カマラさん、キョウトガーデンさん、子つぶ貝マリンさんがFRUITS ZIPPERを元気よくかわいくパフォーマンスしてくれました(マラージュさんのオタ芸や演出が面白かったです)
それから今年のヒット曲対決ということで、L子さんがこっちのけんと(似てる)、ジュジュ・ラブドールさん&ミス・ハニーポットさんがCreepy Nutsを披露しました。
続いて生歌対決ということで、釈麗子さんが「あごちゃん」としてあのちゃんの「ちゅ、多様性。」を、マダム・ピロガネーゼさんが自身のオリジナル曲を披露しました。
意外にも初出場だというテマンダさんの椎名林檎(衣装が本当に素敵でした。着ていたものをちょっとずつ脱いでいって衣装を替えていくショーはみなさんよくやっていらっしゃいますが、テマンダさんのショーは独創的でオシャレで見応えがありました)、Kira Kiraさんのカイリー・ミノーグ(こちらも脱いでいくショー。フリンジがキレイでした)というゴージャス対決にはウットリさせられました。マーガレットさんも絶賛してました。
それから、チッコーネさん&ジャッキー・ザ・サンさんがクラッシュギャルズを、親方さん、イスズさん、ジュジュ・ラブドールさんが極悪同盟を演じるという女子プロ対決。客席後方から竹刀を振り回しながら極悪同盟が現れ、ステージ上でクラッシュギャルズと死闘を繰り広げるという、女装紅白としてはなかなか珍しい演出が見られました。女子プロファンのみなさん大喜びだったのではないでしょうか。
15分間の休憩の後、後半戦となりました。
大御所にして唯一、女装紅白に全回出場しているバビ江ノビッチさんと、イズミ・セクシーさんのチームmarohigeは、本家の紅白にも登場したB'zの「ultra soul」で盛り上げ(シャツを脱ぐとセクシーな大胸筋と腹筋が…)、サーシャ・B・サバンナさん、プリズムさん、頬紅ちー子さん、トマトさんは新しい学校のリーダーズからの、なんと、あの女性芸人の歌を披露し、笑わせてくれました(『OPULENCE』とかにも出演しているようなキレイ系のサーシャさんが⚪︎ン⚪︎ィー⚪︎ックスをやるってスゴい。拍手モノでした)
その後の対決は、セクマイ的にとても意味のある瞬間になりました。ディタ・スターマインさんがGAOさんを、おりぃぶぅさんが氷川きよし(KIINA.)さんにオマージュを捧げたのです。ゲイであるディタさんがドラァグクイーンとしてジェンダーニュートラルな(当時、性別不詳として売り出していた)GAOさんを演じ、トランス女性であるおりぃぶぅさんが氷川きよしさんを演じたこと(しかも、初めは男性の衣装で登場し、それを脱いで女性のドレスに早替わりするという演出)、ミッツさんがGAOさんについて「多様性が90年代から繰り広げられていたということがわかりますね」と説明していたこと、実に意義深いと思いました。
この後、今年「星」になったスターとして中山美穂さんを追悼し、ミポリン大好きなエスムラルダさんが以前作った「ツイてるねノッてるね」の二丁目テイストなミュージックビデオが上映されました(合掌)
続いてリル・グランビッチさん、イスズさん、ジェシカ・J・サバンナさんが、大ヒットしたななひらの「POKÉDANCE」を、肉襦袢ゲブ美さんが中森明菜さんの「難破船」を(体を震わせる治療用器具を使って。笑)披露しました。
そしてブイヤベースさんがヒデキの「YMCA」で(マリンルック風の衣装が素敵でした。マラージュさんと子つぶ貝マリンさんがポンポンを持ってバックダンサーしてました)、ジャッキー・ザ・サンさんがリンダの「どうにも止まらない」(大きな赤いリボンの衣装が素敵でした)で盛り上げました。
いよいよ最後の対決です。白組の渦潮つば子さんは白いドレスで登場し梓みちよさんの伝説の名曲「ナラタージュ」を、紅組のレイチェルさんは越路吹雪の「愛の讃歌」を、魂を込めてパフォーマンスしました。「ナラタージュ」という歌は、トランス女性の痛切な半生を物語のように歌う、既存の歌謡曲の枠組みを超えたgroundbreakingな歌で、1986年に梓みちよさんが夜ヒットに出演した際、白いドレスの胸元に血のような赤ワインをドボドボかけるという衝撃的なパフォーマンスで話題を呼び、二丁目のママさんたちがこぞってショーにしていた曲です(日出郎さんがデビューした41年前にも先輩の方がやってたそうです)。それから、「シャンソンの女王」越路吹雪さんは2024年が生誕100周年ということで、数々の記念イベントも開催されましたが、これまた多くの二丁目の先人たちがその歌や生き様に魅了され、オマージュを捧げてきた方です(私もArcHのファイナルの時は越路吹雪さんの「人生は過ぎ行く」をやらせていただきました)。トリを務めるお二人が、このような二丁目文化の伝統を体現し、魂のパフォーマンスを見せてくれたことに、いたく感激しました(レイチェルさんは全身全霊でショーをやりきったあと、感極まっていらっしゃいました)
MCでも、急遽登壇となったゲブ美さんが、いつものような愛嬌にあふれ、人間味がにじみ出るようなトークで楽しませてくれただけでなく、ミッツさんが、これまでの音楽界における性的多様性の歴史を踏まえた知性と教養あふれるトークを披露してくださって、本当に素晴らしかったです。
ミッツさんとマーガレットさんのやりとりの中で佐良直美さんのお話が出てきて、ミッツさんがゆうきさんに「2すとりーとに佐良直美さんをお呼びしてはいかがですか?」と提案していたのも拍手モノでした。
このように、「女装」紅白と銘打ってはいるものの、ゲイやトランス女性だけでなく、いろんなクィア(性的マイノリティ)の先人たちや、そういうことを歌い表現してきた歌手の方たち、ゲイアイコンとなっているような歌手の方たち(ミッツさんが、中森明菜さんにお会いしたときのことを教えてくださって、ファンとしては感激でした)などにも敬意を表し、オマージュを捧げるような、実に素晴らしいイベントになっていました。
梓みちよさんの「ナラタージュ」などはそれこそ「いにしえ」の話ですし、意識して伝えていかないと忘れ去られてしまうと思うのですが、こうして女装紅白という二丁目を象徴するイベントで若い方たちにも受け継がれたのは意義深いことだったんじゃないかと思います。
一応、紅組と白組に分かれて対戦はしているのですが、組分けはそこまで重要じゃないと言いますか(本家の紅白も紅組と白組に分かれる意味を問い直すべき時では?と言われてますよね)、一人ひとりのクイーンの方たちが自分らしさや個性を表現し、生き様がにじみ出ていて、観ている私たちも幸せな気持ちになれたり元気になれたりして、ドラァグクイーンって本当にいいなぁと思えたり、二丁目のことが大好きになったりゲイのカルチャーを誇りに思えたり。それこそがドラァグクイーンの素晴らしさなのではないかと思えました。
◎配信は1月14日(火)までやってますので、まだご覧になってない皆さんはぜひ!
(文:Junchan)
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