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伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』

ポップ・アートの旗手として時代の寵児となったアンディ・ウォーホル 。50年代から堂々とゲイとして生きてきて、そういう意味でもスゴい方でした。現在開催中のアンディ・ウォーホルの大回顧展をレポートします。

伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』

 現代美術に詳しい方じゃないとしても、キャンベルスープ缶が並んでる作品や、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコのアルバムのバナナのジャケ写などは見たことがあると思います。「人は誰でも生涯のうちに15分間だけなら有名になれる」という言葉を聞いたこともあるのではないでしょうか。もしかしたら、アンディ・ウォーホルが来日した時(1974年)のことや、TDKのCM(1983年)に出ていたのをリアルタイムで記憶していたりする方もいらっしゃるかもしれないですね。
 戦後、美術界に衝撃を与えた人としてはフランシス・ベーコンというゲイの画家もいますが、アンディ・ウォーホルはポップ・アートという全く別のアプローチで美術界を席巻し、社会に影響を与えたアーティストでした。アンディ・ウォーホルの業績についてはあちこちで述べられていますし、ドキュメンタリー映画『アンディ・ウォーホル:アートのある生活』でも知ることができますので、ここで詳しくお伝えすることはしませんが(まさに今回の展覧会が、ウォーホルの業績を振り返るものですので、ぜひご覧ください)、京セラ美術館の山田隆行学芸員は、ウォーホルがキャンベルスープ缶などの「モノ自体」を描いたことについて「移民の貧しい家庭に育ち、同性愛者。鼻の整形など外見の劣等感も強かった。(脚光を浴びてからも)社会の中心にいるようで離れたところから見つめているような存在だった」と語っています(アートの森「【アンディ・ウォーホル展】モチーフへの愛と距離感 京都市京セラ美術館」より)。キャンベルスープはお金持ちも貧しい人もみんなが消費している「モノ」であり、ウォーホルはそこに愛着と、一種の平等性を見ていたのではなかったか。アートは長い間、貴族や上流階級の人たち(エスタブリッシュメント)のためのものでしたが、ウォーホルは意識的にアートを大衆の手に取り戻そうとしたのかもしれません。
 ウォーホルはゲイであることを隠していませんでしたが(1950年代、ストーンウォール以前の時代からそうでした。同性愛者が公職から追放され、ゲイバーで逮捕された人が新聞に名前が載って職を追われていた時代だったことを思い合せると、本当にすごいことでした)、私生活についてはあまり語らず、割と謎めいていたようです。その一方、セレブ御用達のディスコ「スタジオ54」に通ったり、ラリー・レヴァンがDJをしていた伝説のゲイクラブ「パラダイス・ガレージ」にキース・ヘリングと遊びに行き、そこでグレイス・ジョーンズとも知り合ったことなどはよく知られています。



 
 さて、京セラ美術館で開催中の『アンディ・ウォーホル・キョウト』を体験した感想をお伝えします。
 1月の三連休の中日ということもあり、京都の街は大変な賑わいで、四条河原町から46系統のバスに乗って岡崎公園に向かったのですが、渋滞がひどくて30分もかかりました(歩いたほうが早かった…)。京都市美術館はたぶん30年前に行ったことがあるのですが、京セラ美術館になってからは初めてで、オシャレにキレイになってるし、2階の広々とした開放的な空間や、『アンディ・ウォーホル・キョウト』の開催場所である新館「東山キューブ」の庭園を臨む感じなども新鮮でした。意外とチケットを買う人の列も大したことはなく、スムーズに入れました(大混雑したときは予約した人が優先で、そうじゃないと待つ場合があるとの公式サイトに書かれていたので、念のため日時指定の予約をして行ったのですが、使わずにすみました)
 ピッツバーグのアンディ・ウォーホル美術館から持ってきた作品の数々は、きちんと年代順に整理されて説明書きとともに展示されていて、見やすかったです。
 いわゆる絵画やシルクスクリーンの作品だけでなく、様々な映像作品であったり(腕に、「Andy Warhol's TV」というYouTube動画のはしりのような番組であったり、「銀の雲」というシルバーのバルーンがふわふわと漂い、観客がそれに触ったり遊んだりする姿が影として壁に映し出されてそれ自体がアート作品になるような、インタラクティブなメディア・アートの先駆け的な作品(1960年代)もあったことがわかりました。先見の明がスゴいし、偉大なアーティストだったことがよくわかります。
 マリリン・モンローのポートレイト(門外不出と言われる作品だそうですが、今回特別に来日が叶いました。これを逃すともうチャンスがないかもしれません)や、ジャクリーン・ケネディのポートレイトが、モンローの死を悼んだり、ケネディ暗殺によって未亡人となったジャクリーンの胸中を慮ってのことだったりということを知って、エルトン・ジョンが故ダイアナ妃のために素晴らしい歌を捧げたことを思い出しました(そういう意味では、ゲイらしい作品なのかもしれないですね)。同じようなシルクスクリーンの作品のなかには、パンダなど絶滅が危惧されている動物たちの作品もあり、ウォーホルの優しさやヒューマニズムを感じたりもしました。
 晩年は「死」をテーマとすることが多くなり、電気椅子であったり、葬式であったり、骸骨などの作品が並んでいました。
 そして最晩年に取り組んだ巨大な絵画「最後の晩餐」です。イエス・キリストらの肖像に、現代的な記号であるバイクや値札を組み合わせて描写した作品で、中央に「THE BIG C」という文字が大きく描かれています。Cはキリストの頭文字であると同時に、当時のエイズへの偏見を伴った異名「GAY CANCER」を示すとされていて、死を目前に控えたキリストの姿である「最後の晩餐」にエイズで亡くなりゆく人々の姿を重ね合わせたのだろうか…と考えさせられました(アンディ・ウォーホル美術館のパトリック・ムーア館長は「同性愛者でありカトリックの敬虔な信者であったウォーホルのパーソナルな部分が示されたものだ。人間の生きる世界が儚く移り変わるものであることが表現されている」と評しています)
















 ウォーホルの作品には(初めこそ、あからさまにゲイだと難色を示されるようなポルノチックな絵も描いていたそうですが)セクシュアリティを直裁的に表現したものはそんなに多くはありません。が、今回、(目立たないながらも)アンディがつきあっていた彼氏のことに言及する説明書きを何点か見つけることができました。
 例えば『孔雀』という作品。1954年頃、パーティで出会ったチャールズ・リザンビーに恋したアンディが、彼が孔雀のいるケンタッキーの農場で育ったことを知って、翌日、孔雀の剥製をプレゼントしたというエピソードが書かれていて、素敵でした。
 また、『スリープ』という映像作品は、恋人で詩人のジョン・ジョルノが眠っている姿を映像に収めた作品でした。
 文字が小さめで読みづらいかもしれませんが、ぜひ作品と併せて説明文も読んでみてください。

 
 椅子に座って映像をしばらく観たりというじっくりした鑑賞の仕方でも、だいたい1時間もあれば、観て回れます。
 デートにも最適かと思いますので、京都旅行も兼ねてぜひ、お出かけください。

 


アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO
会期:~2023年2月12日(日)
会場:京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」(京都市左京区岡崎円勝寺町124)
開館時間:10:00-18:00 ※入場は閉館の30分前まで
休館:月曜(ただし祝日の場合は開館) 
料金(当日券):土日祝一般2200円、平日一般2000円、大学・高校生1400円ほか
※障がい者手帳等をお持ちの方(要証明)と同伴される介護者1名は無料
※会場内混雑の際は、日時予約をお願いする場合や入場までお待ちいただく場合がございます

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