REVIEW
アート展レポート:Tom of Finland「FORTY YEARS OF PRIDE」
渋谷の「DIESEL ART GALLERY」で開催中のTom of Finland「FORTY YEARS OF PRIDE」展のレポートをお届けします

渋谷のDIESEL ART GALLERYでトム・オブ・フィンランド財団による「FORTY YEARS OF PRIDE」展が開催されています。トム・オブ・フィンランド財団の設立40周年を祝し、トム・オブ・フィンランドの象徴的な作品と、彼が人生最後の10年間を過ごしたロサンゼルスの住居を体験できるドキュメンタリーVR作品「TOM House the VR Experience」が日本で初披露されています。
トム・オブ・フィンランド財団は1984年に実業家のDurk Dehnerとトムによって設立されました。財団はトムの膨大な作品目録を保存するために設立されましたが、性行為や性的反応を引き起こす作品に対する差別が横行したことを受けてエロティック・アートを安全に保管するための避難場所を作ることにも尽力してきました。今日、トム・オブ・フィンランド財団はエロティック・アートの文化的な価値を人々に伝え、性に対するより健康的で受容的な理解を促すための啓発活動も続けています。
この展覧会はディーゼルがサポートする「The 2024 Diesel x Tom of Finland Foundation Pride」プログラムの一環で、ベルリンでの「トム・オブ・フィンランド・アート&カルチャー・フェスティバル」から始まり、ニューヨー州ファイヤーアイランドでの展示とパフォーマンス、ヘルシンキプライドに続いて開催されるものです。ディーゼルはこの取組みを通じて、トム・オブ・フィンランド財団がアーティストコミュニティに自由と愛の開かれた空間を提供し、社会的・文化的に多大な影響を与えてきたことに感謝と称賛を捧げます。会場では作品の展示・販売のほか、アーティストの関連グッズ、ディーゼルとトム・オブ・フィンランド財団の3度目のコラボレーションによる表現の自由やセクシュアリティ、個人主義というメッセージを増幅させた「プライド2024コレクション」も販売されます。
それでは、以下、レポートをお届けします。
会場は、DIESELのショップの中にある、地下1階のギャラリースペースです。なので、MIYASHITA PARK斜向かいの大きな赤いDIESELの看板を目指し、ショップに入ってください。
ギャラリースペース自体はそんなに広くはないのですが、壁に大きくトムの絵が描かれていて迫力がありますし、あ、この絵、見たことある!と思うであろう、代表的な作品が多数展示されていますし、トム・オブ・フィンランド財団の方が語る映像や、VR体験も楽しめ、Tシャツ(DIESELとコラボしたプライドコレクション)などのグッズも販売されている、立体的にいろいろ楽しめる展覧会でした。
今回のトム・オブ・フィンランドの展覧会は、2020年にトム・オブ・フィンランド生誕100年を記念して渋谷PARCOと中目黒「Container」で開催された展覧会に比べると、あまり露骨にセクシャルな作品がなく、おとなしめに見えると思います。
しかし、鉛筆1本であのような傑作を1枚1枚描いていったトムの、その作品のデッサンの確かさやレザーの質感や、そのレザーの中に隠れながらも確かな存在感を放っている誇張されたペニスの表現やなんかをじっくりと鑑賞し、その素晴らしさを堪能できるはずです。また、トム・オブ・フィンランド財団の方が(彼もきちんとしたレザーで正装しています)トムについて語る言葉の一つひとつが、とても沁みます。ゲイが世の中で蔑まれ、見下され、ゲイセックスがまるで汚いものであるかのように忌避されていた時代にあって、トムは(しばしばBDSMと密接に関わりkinkyなものと見られていた)レザーを着たゲイたちを、ヒゲをたくわえた逞しい男たちを、そんな男たちが誘惑しあいセクシャルに絡むシーンを最高にカッコよく美しく描くことで、ゲイたちが決して卑屈にならず、セクシュアリティを肯定し、自信を持ち、誇り(プライド)を持てるように、との思いが込められていたのだということが本当によくわかります。感動的ですらあります。
いまだに性(セックス)に対する嫌悪が根強く、真の意味での性解放もゲイ解放も進んでいない日本社会で、トム・オブ・フィンランドが作品に込めた思いや願いは依然としてアクチュアルであり続けています。あまりトムのことを知らない若い方たちなどもぜひご覧ください。きっと何か、心に響くようなメッセージを受け取ることができるとも思います。
日本初公開のVR作品「TOM House - The VR Experience」は、つぶさに視聴すると全部で約1時間くらい楽しめるそうです。お時間ある方はぜひじっくりと体験してみてください。
Tom of Finland「FORTY YEARS OF PRIDE」
会期:7月12日(金)~8月14日(水)
会場:DIESEL ART GALLERY
開館時間:11:30-20:00
入場無料
協力:Donkey Hotel Ltd./Peachy Kings/株式会社ビーライズ/株式会社 堀内カラー/AKIHIRO NAKAMURA FRAME OF MIND
後援:フィンランド大使館
INDEX
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- 安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
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