REVIEW
田亀源五郎『弟の夫』単行本発売!
昨年9月から月刊『アクション』で連載がスタートした田亀源五郎さんの『弟の夫』コミックス(単行本)第1巻が発売されました。家族や同僚に読んでほしい漫画の筆頭に挙げたい、本当に素晴らしい作品です。ぜひぜひ、お買い求めください!

昨年9月から月刊『アクション』で連載がスタートした田亀源五郎さんの『弟の夫』、待望のコミックス(単行本)第1巻が発売されました。レビューをお届けします。(後藤純一)

『弟の夫』コミックス(1)
田亀源五郎/双葉社/620円+税
連載がスタートした際、月刊『アクション』で第1話は読んだのですが、その後はなかなか読めず(そもそも漫画雑誌を読む習慣がないので)、早く単行本が出ないかな…と待ち望んでいましたので、本当に手に取るのが楽しみでした。そして、一気に読むことができて、あらためて、本当にいい漫画だなあと、素晴らしいと思いました。
弥一と夏菜、父娘二人暮らしの家に、マイクと名乗る男がカナダからやって来た。マイクは、弥一の双子の弟・リョージの結婚相手だった。「パパに双子の弟がいたの?」「男どうしで結婚ってできるの?」幼い夏菜は突如現れたカナダ人の「叔父」に大興奮。弥一と、“弟の夫”マイクの物語が始まる――
弥一にしてみれば、子どもの頃からずっと生活を共にしていた弟からある日、ゲイだというカミングアウトを受けて「そうか」と言ったものの、以降そのことには触れず、なんとなく距離が生まれ、弟がカナダに渡って結婚したということは知っていたが、突然亡くなり、結婚相手だという(ゲイの)カナダ人がやって来ることになって、どう対応していいのか、戸惑うばかり。弥一が頭の中で考える(実行には移さない)ノンケ男性にありがちな(ちょっとホモフォビックな)リアクションは、とてもリアルです。
一方、そんな弥一とは対照的に、突然「叔父」が、しかもカナダ人の「叔父」ができたことに夏菜ちゃんは大喜び。いっぺんにマイクのことが大好きになります。マイクも夏菜ちゃんと意気投合し、仲良く遊んであげます(姪御さんとか親戚の小さい女の子と仲良くなるっていうのは、けっこうみなさんも経験があるのでは?)
娘の夏菜が素直にマイクを歓迎し、ごく自然に「男どうしで結婚できる」ということも認め、「いとこの○○さんはうちに泊めたのに、マイクは泊めないの?」といった言葉に、父親の弥一も反論できず、次第に弥一もマイクをもてなすようになっていきます。そうした弥一の変化がいちいちうれしいし、典型的な日本人ノンケ男性とカナダから来たクマみたいなゲイがそうやって理解しあい、絆を深めていく姿は感動的です。(『追憶と、踊りながら』の理解しあえなさのリアリティに対して、この作品はある意味、ぼくらに素敵な夢を見させてくれてるんだなあと思います)
マイクの方も、ちょっと性的にドキっとさせる場面もありつつ(ファンサービス?)、礼儀正しく、とても優しくて、チャーミングで(いろんな意味で、典型的なゲイです)、しかも日本語がペラペラなので(愛のなせる技ですね)、きっと(この先新たな登場人物とのからみがあるかもしれませんが)誰とでもうまくやっていけるだろうなあ、と思います。
マイクが金髪のスラっとしたイケメンとかじゃなく、毛むくじゃらでヒゲをはやしたクマ系である、というところも素晴らしいです。これまで、たとえば『きのう何食べた?』とか名作はいろいろありましたが、やはり世間受けするイケメンとかふつうな感じの人でしたので、こういう「不可視化されがちな」タイプのリアルなゲイが描かれていることには、ものすごく意義があると思います。
『バディ』誌で連載された『銀の華』をはじめ、いろんな思い入れがある方も多いだろうゲイコミックの名作をたくさん発表してきた田亀さん、日本が誇るゲイエロティックアートの巨匠である「世界の田亀源五郎」がようやく一般誌の目に留まり、こういう作品を世の中に発表してくれた(ある意味、世間が追いついた)ことも感慨深いものがあります。
単行本には「マイクのゲイカルチャー講座」として「同性婚」とか「ピンクトライアングル」(表紙の絵でマイクのTシャツに描かれています)についてのコラムが挿入されているのも素晴らしいです。さすがは田亀さん。
そうしたいろんなことのすべてが「よかった」と思えるのですが、阿佐ヶ谷の「書原」という本屋でこれを買って(ちなみにこの本屋はすごくイイです。オススメです)、油断して隣りの安い中華料理屋で読んでいたところ、不意にボロボロ泣けてきてしまって…(なので、みなさんも電車とかで読まないほうがいいかもしれません。笑)
ぼくらはなかなか子どもを授かって育てることはできませんが、弥一と夏菜とマイクのやりとりを見ていると、そこに、もしかしたら自分にもありえたかもしれない幸せな家族の姿が描かれているような気がして、なんだか泣けてきて仕方がなかったのです。
家族や同僚に読んでほしい漫画を一冊挙げるとしたら、今は迷わず『弟の夫』にしたいと思います。
INDEX
- レビュー:リン・モンホワン『赤い風船』『アメリカ時間』
- 大興奮!大傑作!本当に面白いクィアSFアクションムービー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
- 実にポップでインテレクチュアルでエモーショナルで画期的な『極私的梅毒展』@akta
- 女性と同性愛者を抑圧し、ペストで死ぬ人々を見殺しにする腐敗した権力者への叛逆を描いた映画『ベネデッタ』
- トランスジェンダーへの偏見や差別に立ち向かうために読んでおきたい本:『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』
- 『痛快!明石家電視台』ドラァグクイーン大集合SP
- 殺伐とした世界に心を痛めるすべての人に観てほしいドラマ『THE LAST OF US』第3話
- 3人のドラァグクイーンのひと夏の旅を描いたハートフル・コメディ映画『ひみつのなっちゃん。』
- 40歳のゲイの方が養護施設で育った複雑な生い立ちの20歳の男の子を養子に迎え入れ、新しい家族としての生活を始める姿をとらえたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』
- 貧しい家庭で妹の面倒を見る10歳のゲイの男の子が新しい世界を切り開こうともがき、成長していく様を描いた映画『揺れるとき』
- ゲイコミュニティへのリスペクトにあふれ、あらゆる意味で素晴らしい、驚異的な名作『エゴイスト』
- ドラァグクイーンの夢のようなロマンスを描いたフランス発の短編映画『パロマ』
- 文藝賞受賞、芥川賞候補の注目作――ブラックミックスのゲイたちによる復讐を描いた小説『ジャクソンひとり』
- ドラァグクイーンによる朗読劇『QUEEN's HOUSE〜あなたの知らないもうひとつの話〜TOKYO』
- 伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』
- 謎めいたゲイ・アーティストの素顔に迫るドキュメンタリー映画『アンディ・ウォーホル:アートのある生活』
- 『ボヘミアン・ラプソディ』の感動再び… 映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
- 近年稀に見る号泣必至の名作ゲイ映画『世界は僕らに気づかない』
- ぼくらはシンコイに恋をする――『シンバシコイ物語』
- ゲイカップルやたくさんのセクシャルマイノリティの姿をリアルに描いた優しさあふれる群像劇『portrait(s)』ほか
SCHEDULE
- 03.25BRAVE
- 03.25巨根伝説
- 03.25SURF632
- 03.26SAPPORO GAY NIGHT
- 03.26エモロック -New Emortional Rock Party-