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安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』

安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』のレビューをお届けします

安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』

3度目のノミネートで見事に芥川賞を受賞した安堂ホセさんの『DTOPIA』。前2作はゲイのお話でしたが、今回は違いました…が、クィアな部分もありますし、何より、圧倒的に面白い、血が沸き立つような小説でした。

<あらすじ>
「DTOPIA(デートピア)」2024シリーズの舞台は南太平洋の楽園、ボラ・ボラ島。白人女性“ミスユニバース”を巡って、Mr.L.A、Mr.ロンドン、Mr.東京ほか、各国・各都市を代表する総勢10名の男が競い合う。
Date1からDate10まで、全10エピソードにわたるショーの撮影には40台ものカメラが使用され、視聴者たちは、島の隅々から、あるいは、空中、水中を回遊しながら出演者たちを捕捉し、絶えず追跡し続ける。過去、現在、未来を縦横にトラッキングしながら、執着と忘却を繰り返す視点。切り貼り、編集されながら、増殖、膨張する楽園の時間。ジェンダー、セクシャリティ、人種、出自に対する暴力、あらゆる欺瞞と印象操作に晒されながら、彼らがたどり着いた先とは――。

 前作のような、後味の悪さはありません。ミスユニバースの女性と、その女性をめぐって争う世界中から集められた男性たちという、これ以上ないくらいノンケ臭い展開に、これはクィアとか関係ない作品?と思っていたら、そうではなかったという、いい意味での驚きもあり、凄みもあり、ジェットコースターのようなドライブ感のストーリー展開や濃度の高さに圧倒され、LGBTQ的な関心を持って手に取った方も十分に惹きつけられる作品だと感じました。
 
 デートピアという恋愛リアリティ番組を舞台にしてはいるのですが、その中に人種差別や性差別、植民地、水爆実験、ウクライナやガザのことなど、多種多様な社会問題が盛り込まれていて、唸らせます。エンターテインメントでありながら社会派な作品。と思っていると、突然、異次元というか、今ここの僕らの生活に接続されるような卑近で間延びした物語が始まり、急に現実に引き戻され、クィアであるということと暴力と《父なるもの》をめぐるヒリヒリするような痛みに見舞われます。さらにそこから、健全な市井の人々が知るよしもない、驚くべき世界の話へとつながっていき、眩惑させられ、ショックを与えられることになります。

 柳美里さんが「あらゆる倫理が覆され、暴力が吹き荒れている今、「暴力から暴を取りはずす旅」の物語が出現したことは、一つの事件だ」と書いていて、そうかもしれないなと思いました。
 
 個人的には映画だろうと小説だろうと漫画だろうとバイオレンスモノが苦手で、受け付けないというか、引いてしまうのですが、おそらく多くの読者が痛いと感じるであろう場面は、痛々しさよりもどこか「ダイエードラマ」のような…突飛というか、過剰というか、現実離れしたものを感じました。逆に、その事件をめぐって揉めている人たちのやりとりのほうがリアルなだけに痛くて辛かったです(父権的なもののクソさが浮き彫りになります)
 
 『ジャクソンひとり』『迷彩色の男』は東京で暮らすミックスのゲイとしてのインターセクショナルな生きづらさや社会への怒りにフォーカスが当たっていましたが、『DTOPIA』はそこから離れ、一気にスケールが大きくなり、圧倒的な傑作となりました。満を持しての芥川賞受賞だと思います。安堂ホセさんの才能は誰もが認めるところだと思います。これからもクィアを描く作品を書き続けてほしいです。

(文:後藤純一)



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