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REVIEW

ハリウッド・セレブたちがすべてのLGBTQに贈るラブレター 映画『ザ・プロム』

オリジナルのブロードウェイ版の感動はそのままに、さらにハリウッドの豪華すぎるキャストが夢の競演を果たし、ゲイテイストな演出で楽しませてくれる、何度となく感涙し、最高のカタルシスが得られるLGBTQ史上最高のミュージカル映画です。

ハリウッド・セレブたちがすべてのLGBTQに贈るラブレター 映画『ザ・プロム』

 『glee/グリー』をギュッと濃縮して2時間のミュージカル映画にしたような、すべてのLGBTQに贈るラブレター。
 オリジナルのブロードウェイ版の感動はそのままに、さらにハリウッドの豪華すぎるキャストが夢の競演を果たし、ゲイテイストな演出で楽しませてくれるという「夢」感。すべてはLGBTQへの愛ゆえに。
 何度となく感涙し、最高のカタルシスが得られ、一点の曇りもなく素晴らしい、LGBTQ史上最高のミュージカル映画だと確信できる作品でした。



 ニュースなどでも何度かお伝えしていますが、もう一度、『ザ・プロム』がどんな作品か、簡単にお伝えします。
 『The PROM』は昨年、ストーンウォール50周年を記念するNYのワールドプライド期間中に上演され、多くのLGBTQの観客たちが歓喜し、絶賛の嵐だった、記念碑的な作品です(昨年のトニー賞にもノミネートされています)
 インディアナ州の小さな町の高校に通う主人公・エマは、レズビアンであることをオープンにしていて、学年の最後に開かれるダンスパーティ「プロム」に彼女同伴で参加したいと申し入れますが、学校側がこれを拒否、さらに、学校側やPTAはレズビアンカップルをプロムに参加させないため、プロム自体を中止にしてしまいます(これは2010年にミシシッピ州で実際にあった話で、訴えを起こした彼女のFacebookには10万人を超えるサポーターがつき、プロムを開催しましょうか?といったオファーも殺到したそうです)
 この学校側の差別対応がニュースになるや、ディーディーやバリーら落ちぶれたブロードウェイ俳優達(ゲイ2人と女性2人)が、かわいそうなエマを救おう、ついでに自分たちも注目されたいと、インディアナ州の高校に乗り込み、すったもんだが起きます。4人の過剰な"応援"にちょっとウンザリしたりもしつつ、エマは、ゲイとして親身になってくれるバリーたちと心を通わせ、頑なに同性愛者を排除しようとするPTA会長と向き合い、なんとか状況をいい方向に変えていこうと奮闘するのですが……。というストーリーです。





 まず、脚本(お話)が素晴らしいです。
 エマとその周囲の人たちだけを描くのではなく、彼女を応援したいと田舎まで押しかける4人のブロードウェイ俳優たちをセッティングしたところが上手いです。彼らにもそれぞれにバックグランドがあり、悩みがあって、エマだけじゃなく彼らもまた救われるというお話になっています。特にバリーは、中年のゲイですが、アイオワの田舎の出で、子ども時代はエマのように両親に理解されず、プロムにもいい思い出がなく…というところで、自然とエマに共感するのですが、そうしたバリーの生い立ちも重要なサイドストーリーです(きっと共感できるはず)
 
 それから、何と言っても、豪華キャストの活躍です。メリル・ストリープ、ニコール・キッドマン、ジェームズ・コーデンといったハリウッドの名優たちがここぞとばかりに見せ場を演じます。
 メリル・ストリープは「「ザ・プロム」ダンスシーンが最も多いのはメリル・ストリープ “最年長の大ベテラン”が挑んだ理由」という記事にも書かれているように、71歳とは思えないくらい、いろんなダンスに挑戦し、見事に演じつつ、『プラダを着た悪魔』の時のような毒気も垣間見せたり(思わず「キャー!」と言ってしまいそうになります。たまらないです)、エゴイスティックであることを隠さないキャラで、ゲラゲラ笑わせてくれます。
 ニコール・キッドマンも(最近、「オーストラリアン・レジェンズ」に選ばれ、『ムーラン・ルージュ』の1シーンが切手の絵柄になったというニュースもありましたが)『ムーラン・ルージュ』で世界を魅了したその実力で、『シカゴ』風のミュージカルシーンを生き生きとやりきっています。素敵です。
 ジェームズ・コーデンは『ワン チャンス』でポール・ポッツを演じたのをご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、もともとミュージカル俳優で(トニー賞も受賞しています)、『シカゴ』のロブ・マーシャルが監督した『イントゥ・ザ・ウッズ』に主演したほか、昨年の『キャッツ』にも出演しています。米国では冠番組(車でセレブとカラオケする企画が有名)も持ってる人気タレントです。パッと見、ベア系のゲイにも見えるのですが、ストレートで(でもゲイフレンドリーです。番組やステージで男性とキスしたりもしてます)、今回はゲイのバリーの役で盛り上げてくれています(ややオネエな演技が批判されたそうですが、あれはもともとのブロードウェイ版が小太りでちょっとオネエ入ってる中年ゲイという人物造形なのです。それに、ゲイの監督がOKを出してるわけで…。私は気になりませんでした。あの役をジェームズ・コーデン以上に華やかにやれる太ったゲイの俳優さんっていないと思いますし)
 アンドリュー・ラネルズはブロードウェイの『ヘアスプレー』でリンク(映画だとザック・エフロンが演じた役)を演じてブレイクしたミュージカル俳優で、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のヘドウィグ、ドラマ『New Normal おにゅ~な家族のカタチ』の主役、『ボーイズ・イン・ザ・バンド』のラリー役などでも知られている、主役級俳優です。自身もゲイで、ゲイのトレントを演じているのですが、なにぶん今回は他の濃すぎる面々に押されてしまってあまり目立っていない感があります(そりゃそうですよね…)。逆にメリルやニコールやジェームズと違和感なく競演できるのはスゴいこと。よく頑張った!という感じです。
 そして、彗星のように現れた、主人公・エマ役のジョー・エレン・ペルマン。素晴らしいです。歌やダンスが上手いというだけでなく、ちゃんと田舎町のレズビアンであるエマというキャラクターになっています(ジョー・エレン・ペルマン自身、クィアとカミングアウトしているそうです)
 それから、エマがネットで自身の思いを表現したとき、それを見てリアクションしてくれるLGBTQの若者たちが、LGBだけでなくトランスジェンダーやノンバイナリーだと思われる子たちもいて、おそらく全員当事者だと思うのですが、そこもよかったです。

 音楽も素晴らしいです。
 歌の歌詞が実に巧みに、主人公の気持ちを表現しつつ、場を盛り上げてくれて、音楽もすごく良いので、自然と感情移入でき、気分が高まります。


 
 映画版がブロードウェイのミュージカルと違う(そんなに大きく違わないけど強調されている)のは、主人公はレズビアンのエマなのですが、ブロードウェイから押しかけるチーム4人の、よく言えばゴージャスさ、別の言い方をすれば「圧」の強さ(「アク」の強さ?)、オイシイところを全部持ってってる感、じゃないでしょうか。ある意味、たいへんゲイテイスト(なんてったって監督がゲイですから)。おかげで、よりポップでメジャーな、万人受けする作品になったし、ミュージカル映画はこうでなくっちゃ!と思えるような観客満足度の高い仕上がりになったと思います。 
 
 Netflixでももちろんよいのですが、あまりに豪華に作られた映画なので、これはできれば映画館で、大きなスクリーンと良い音響でご覧いただいたほうがよいかと思います。130分ありますが、あっという間です(こんなにあっという間に感じる映画もないと思います)


『ザ・プロム』
原題:The Prom
2020年/131分/アメリカ/監督:ライアン・マーフィ/出演:メリル・ストリープ、ニコール・キッドマン、ジェームズ・コーデン、アンドリュー・ラネルズ、ジョー・エレン・ペルマン、アリアナ・デボーズ、キーガン=マイケル・キー、ケリー・ワシントンほか
 
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