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愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――ゲイが作った名作映画『ヒックとドラゴン』

オープンリー・ゲイのディーン・デュボアが監督したドリームワークスの最高傑作アニメーション『ヒックとドラゴン』が実写映画化。愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――感動すること間違いなしの名作をぜひ劇場で!

愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――ゲイが作った名作映画『ヒックとドラゴン』

 革新的な映像と巧みなストーリーテリングで不動の地位を築いているドリームワークスの最高傑作アニメーション『ヒックとドラゴン』。英国の児童文学作家クレシッダ・コーウェルによる同名の児童文学シリーズ『How to Train Your Dragon』を原作とし、2010年に『リロ・アンド・スティッチ』のディーン・デュボアとクリス・サンダース(ディーン・デュボアはゲイであることをカムアウトしています)が監督して3Dアニメ映画として発表され、大ヒットを記録、2014年に続編『ヒックとドラゴン2』が、2019年に『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』が公開されました(ご覧になった方も多いことでしょう)
 そのドリームワークスの代表作の一つともいうべき『ヒックとドラゴン』がこのたび満を持して実写映画化され、9月から公開されています。オープンリー・ゲイが監督した作品であり、どこか“男らしさ”や“勇ましさ”に欠ける主人公・ヒックが、村中の人々が憎むドラゴンを“恐ろしい怪物”ではなく命ある同じ生き物として見るようになり、やがて友達となっていく様にゲイテイストも感じられるような作品です。すっかりご紹介が遅くなって恐縮なのですが、ここでオススメしたいと思います。

<あらすじ>
バイキングの一族が暮らすバーク島では、長年にわたり人間とドラゴンが戦いを繰り広げていた。族長ストイックの息子ヒックは、父のような立派なバイキングになりたいと願っているが、ひ弱で失敗ばかり。発明好きでユーモアや優しさをもちあわせたヒックは、勇敢であることが一人前の証しであるバイキングの世界では、なかなか認められない。ある日、ヒックは自作の投石器で、ドラゴンの中で最も凶暴とされるナイト・フューリーを撃墜する。とどめを刺せば一人前と認めてもらえると勇んだヒックだったが、弱ったドラゴンを目にしてとどめを刺すことはできなかった。傷ついて飛べずにいるそのドラゴンを「トゥース」と名付け、再び飛べるようにと人工の尾翼を開発し、飛行訓練を施すヒック。それはバイキングの掟に反すことだったが、トゥースは徐々に活力を取り戻していき、ヒックとトゥースは強い絆で結ばれていく……。









 よかった…すごくよかったです。これは映画館で観たほうがよい、迫力満点な映画だと思いました。
 数々の動物映画やロボット映画が描いてきたような、種を超えた「Living Together」的なメッセージが詰まった作品であり、数々のヒーロー映画が描いてきたようなエキサイティングなアクションが堪能できる作品であり、『ズートピア』のような多様性讃歌な作品でもあり、ポケモンっぽさもあり、ロマンスもあり、ビルドゥングス・ロマン(成長譚)でもあり…そうした要素が見事にバランスしています。『ウィキッド』ほど長くないですし、観る人を選ばない、子どもから大人まで誰もが楽しめるような名作です。
 
 一見、全くLGBTQのキャラクターが出てこない、性的多様性とは無縁な映画に見えるのですが、村人たちが“恐ろしい怪物”と見なし、敵だ!殺せ!と息巻いているドラゴンが、本当はかわいげのある動物で、人間と仲良くやっていくこともできるというストーリーに込められたメッセージは明らかに「マイノリティとの共生」です。人類は、よく知らないがゆえに、違う人種だったり、ゲイだったり、障がいを持つ方だったり、HIV陽性者だったり、いろんなマイノリティの人たちを恐れ、差別し、いわば“怪物”として攻撃したり迫害したりしてきました。しかし、相手をよく知れば、同じ人間だということがわかるし、何も恐れる必要はなく、共に生き、なかよく暮らしていくことができます。この映画(というか原作のお話)はそういうメッセージを伝えているように思われます。
 そして、主人公のヒックもまた、誰もが勇ましくドラゴンをやっつけようと息巻くバイキングの村にあって、ヒョロッとしてか弱く、戦いに向いていない「はみだし者」です。子ども時代、なよなよしてて、体育が苦手で、怒られたりバカにされたりした経験のあるゲイの方は、きっとヒックにシンパシーを抱くことでしょう。セクシュアリティ的にはヒックは異性を好きになるる人ですが(しかし、バイセクシュアルである可能性はないとは言えません)、ありようはゲイとよく似ていると思います。そんなヒックが愛と知恵と勇気で「革命」を起こし、世界に平和をもたらすヒーローになるのですから、感動しないわけにはいきません。(対照的に、ものすごく戦闘能力が高いのが女子だというところもよかったです)
 それから、映画ではそのように見えないかもしれませんが、首領のストイック(ヒックの父親)から右腕として信用され、子どもたちの教育係も務める重要なキャラクター・ゲップは、アニメ版の『ヒックとドラゴン2』でゲイであるとカムアウトしたようにも受け取れるような演出があるそうです。勇ましさばかりが重視されるバイキングの村にあって、ヒックの優しさや、他人とは違う視点や才能を評価し、寄り添い、育てていくゲップは、優れた教育係であるとともに、ゲイらしさだと見ることもできそうです。
 
 実写化に当たって、村の首領・ストイックをジェラルド・バトラー(『300』)が、ゲップをニック・フロスト(昔から映画やドラマでやたらと脱いでます。例えばこちら)というアメリカのBearコミュニティで人気の俳優が起用されたところも素敵です。さすがはBear系ゲイの監督。拍手です。

 今ならまだ上映館もあります。この週末、友達や彼氏と一緒に、いかがでしょうか。


ヒックとドラゴン
原題:How to Train Your Dragon
2025年/アメリカ/125分/G/監督:ディーン・デュボア/出演:メイソン・テムズ、ニコ・パーカー、ニック・フロスト、ジェラルド・バトラーほか

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