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REVIEW

こんなに笑えて泣ける映画、今まであったでしょうか…大傑作青春クィアムービー「台北アフタースクール」

台湾がまだゲイに寛容じゃなかった1990年代の学習塾を舞台にした青春コメディ映画。一人でも多くの方にご覧いただきたい、超強力にプッシュしたい最高に笑えて泣ける大傑作青春クィアムービーです

こんなに笑えて泣ける映画、今まであったでしょうか…大傑作青春クィアムービー「台北アフタースクール」

 レビューがすっかり遅くなってしまい、すみません。7月26日公開だったのですが、この映画が同志(ゲイとかクィア)をテーマにした映画だということを知らず、8月13日火曜の夜にそのことを知り、また、都内での上映が15日木曜で終わってしまうことも知って、悩んだのですが、予定をずらして水曜に駆け込みで観に行きました。結果、「観て本当によかった」どころか、私的「笑えて泣けるクィアムービー」ランキングのNo.1が更新されました。
 現状、全国的にほとんど上映が終わってしまって、あとは8月23日公開のフォーラム仙台だけという感じなのですが、本当にもったいないですし、どこかの映画館で再映してほしいですし、サブスクにも入ったらいいなと思います。とにかく一人でも多くの方にご覧いただきたい、超強力にプッシュしたい大傑作青春クィアムービーです。
 
<あらすじ>
2010年代後半。映画監督である主人公は、日本から帰国した学生時代の友人らとともに入院中の恩師を見舞った。それをきっかけに彼らは、すでに廃墟のようになってしまった建物の様子を見に行く。あの頃の青春の記憶がよみがえる――。
1994年、台北の予備校塾「成功補習班」。張正恒(チャン・ジェンハン)と、複雑な家庭の事情で彼と同居して兄弟のように育った程翔(チェン・シャン)、頭がよくて大人しい「和尚」こと王尚禾(ワン・シャンハー)の3人は問題ばかり起こし、「成功三剣士」と呼ばれていた。ある日、成功補習班に新たな代理講師が着任する——それが彼らの人生を大きく変えることになる劉俊志(シャオジー)先生との出会いだった。シャオジー先生は「愛とは何か?」を生徒に問うような枠にとらわれない授業で生徒たちに寄り添い、生徒に慕われ、チャン・ジェンハンたちもすっかり先生に魅了される。しかし、世間が決して同性愛に寛容ではなかった時代、先生とチャン・ジェンハンたちの絆は、無残にも引き裂かれてしまい…。






 みなさんコメディ映画観て映画館で声出して笑うことってあります? やっぱり周りのお客さんも気になるし、そうそう声出して笑うってないですよね? この映画は、全員ゲラゲラ笑います。マジ、ヤバいやつです。これこそ「抱腹絶倒」という形容がふさわしい、本気で笑える映画です。
 一方、感動的な映画とか「全米が泣いた」とか言われて、本当にオイオイ泣いたことって…(以下同)。この映画はボロ泣き不可避です(たぶん) 

 日本映画もそうですし、海外作品でもいまだに、ゲイとかトランス女性が面白おかしく場を盛り上げたり、世間から認められなくてかわいそうな悲劇のヒロイン的に描かれたり、不幸になったり、死んだり、というあくまでもノンケ都合、ノンケ目線で撮られた映画が非常に多いなか、この映画で笑わせてくれるのは主にノンケである主人公の男の子です(思春期の男の子らしいおバカなことをあれこれと)。そして泣かせるツボは、同性愛やトランスジェンダーがまだ受け容れられていない時代に本当の自分と向き合い、勇敢に声を上げたクィアとその周囲の人々の温かさなのです(台湾映画なのでその辺は安心できます)。そういう意味で、この映画は本当に貴重だし、素晴らしいし、最高です。台湾はどんだけ傑作を出してくるのかと、法整備だけじゃなく映画でもこんなに差をつけるのかと思わずにはいられません。
 
 1970年代という戒厳令下の絶望的なまでに厳しい時代の台北で肩を寄せ合ってなんとか生き延びようとするゲイの少年たちの群像を描いた傑作ドラマ『ニエズ』と、すっかりゲイが世間に受け容れられてハッピーゲイライフを送ってパレードに参加したりもする2004年製作の『僕の恋、彼の秘密』のちょうど中間にある作品だと思います。
 90年代の台湾は、ジェンダー平等法もなく、パレードもなく、西門紅楼もない、たぶんドラァクイーンもいない、世間に全然理解もないし、親も先生も支援してくれることなど期待できない時代なのですが(「薔薇の少年」事件は2000年です)、そんななかで起こった奇跡のような「いい話」が描かれています。

 中高の頃にクラスメートの男子とアホなことをやったり失敗したりという体験を持つ方も少なくないと思うのですが、そういうノリが(ありがちなホモフォビックな方向ではなく)違和感なく見事にクィアのお話に接続されていくところも新鮮で、感動的です。僕らは何度、愛すべき男子たちがゲイをネタにして笑ったり、クィアな同級生をいじめたりする様に傷ついてきたことでしょう。その忌まわしい「あるある」を、この映画は小気味よく覆したのです。
 
 映画って、脚本も大事だし、カメラワークやなんかも大事ですが、何よりもいい俳優がいい演技を見せてくれるってことが最大の魅力ですよね。この映画も、若い俳優の生き生きと感情が伝わってくるような演技、表情、笑顔の魅力にヤラれます。主人公張正恒(チャン・ジェンハン)を演じたジャン・ファイユンは、最初はイタズラばかりしてるアホヅラの男の子という印象だったのですが、後半、驚くほどいい表情を見せます。本当に素敵でした。あんなにバカなことばっかりやってた二人が終盤、『後悔なんてしない』のポスターのように美しいゲイカップルに見えたりもして。和尚も、マドンナ役の陳思(チェン・スー)もどんどん輝きを増し、美しくなっていった気がします。
 ちなみに冒頭の、大人になった程翔(チェン・シャン)を演じたチャン・ボーリンは、台湾青春クィア映画の金字塔『藍色夏恋』に主演してた人です。
 
 劇中でも使われ、主題歌になっている『モニカ』は、1985年にレスリー・チャンがカバーして大ヒットし、彼がトップアイドルに躍り出るきっかけとなった歌ですが、単に大ヒットした流行歌だったからということだけでなく、バイセクシュアルであった(2003年4月1日にマンダリン・オリエンタル香港から飛び降り自殺した)レスリー・チャンへのオマージュの意味が込められているはずです。1992年の『覇王別姫』、1997年の『ブエノスアイレス』という90年代アジアを代表するゲイ映画に主演したレスリー・チャンは、当時の台湾のゲイコミュニティで絶大な支持を集めていた(アイコンだった)、だからこそ、彼が歌う『モニカ』が起用されたのです。

 誰が観ても笑えて楽しめるエンタメ作品ですが、ゲイ(やトランス女性などクィアピープル)にこそ観てほしいです。


台北アフタースクール
原題:成功補習班
2023/台湾/監督:藍正龍(ラン・ジェンロン)/出演:ジャン・ファイユン、チウ・イータイ、ウー・ジエンハー、シャーリーズ・ラム、ホウ・イェンシーほか

 
 もっとお伝えしたいことがあるのですが、ネタバレを含みますので、別ページでお伝えします。

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