REVIEW
ドリアン・ロロブリジーダさんがゲスト出演したドラマ『人事の人見』第4話
ドリアン・ロロブリジーダさんが4/29、ドラマ『人事の人見』に素顔でゲスト出演し、大活躍。ドラァグクイーンが登場するビジネスドラマというだけでも素敵ですが、内容的にも「本当のDEIとはどういうことか?」が実にリアルに描かれていてよかったです

<あらすじ>
『日の出鉛筆』人事部は、第一営業部の中途採用として今月中に5名を必ず採用するよう命じられる。第一営業部は創業時からある花形部署だが、その採用条件は黒髪短髪の体育会出身者・肥満NGなど、表には出せない厳しい内容だった。ところが「選ばれし者しか入れない部署」と聞いた人見(松田元太)は、「働いてみたい!」と志願。社内には他部署の業務を体験できる研修制度があり、平田(鈴木保奈美)は、人見が加われば第一営業部の空気が変わるかもしれない、と期待を寄せ、第一営業部へと送り出す。第一営業部では、同じような髪型とスーツを身につけた部員たちが朝のラジオ体操を行っていた。誰よりも規律を重んじる部長の岩谷典孝(中野剛)のゲキで一斉に営業に飛び出す部員の姿に、人見はワクワクが止まらない。人見は、清川雅人(ドリアン・ロロブリジーダ)に同行し得意先を訪れる。だが、出されたお茶菓子をあっという間に全て食べてしまい、さっそく清川から怒られてしまう。その後、人見と清川が帰社すると、取引先から第一営業部に送られてきたとある動画に部署内は騒然。それは、清川がドラァグクイーン姿でパフォーマンスしている映像だった。清川は、素性がばれた以上第一営業部にはいられないと、自ら異動を申し出る。中途採用どころか1名減ってしまうと頭を抱える平田。すると堀(松本まりか)は、いつになく決意に満ちた表情で、多様性の尊重を学ぶ研修を岩谷たちに受けさせると言いだし…。
予想以上によかったです。職場が舞台のドラマなのにドラァグクイーンが活躍!?ってだけでも面白いのに、内容的にも深みがあり、大事なことが描かれていました。
取引先によるドラァグクイーン・アウティング事件で、昭和な頑固親父的なパワハラ部長が露骨に嫌悪感を示し、清川がもう営業部にはいられないと言って異動を申し出たのを知って、人事部の堀が「岩谷部長に多様性研修を受けさせます!」って立ち上がる様は、拍手モノでした。
しかし、彼女がそうしたのは、義憤からの行動というだけでなく、まるで敵討ちか何かのようにも見えました。堀には岩谷への恨みがあり(それは古いジェンダー規範に基づく差別であり、まさに多様性の問題でした)、今こそその恨みを晴らすのだという怨念めいた気持ちもあったのです。そのことが、のちにトラブルへとつながります。
正義を振りかざし、誰かを一義的に悪だとみなして排除することは、気持ちはスッキリするかもしれないけれども、会社という組織の中で(というか、現実社会のあらゆる場面で)それをやるのはどうなの?という指摘がなされていました。結末に触れるのであまり詳しくは書きませんが、初めは差別したり嫌悪したりしている人だって、根気強く対話を続け、説得していくことで変わるかもしれないし、そういうプロセスをすっ飛ばして“多様性”を上から押し付けてもうまくいかないのではないかという、ものすごく大事なことを描いていました。ある意味、社内でDEI施策を進めるうえでの本質的なところを突いていたと思います。
また、社内はDEI施策が進んでLGBTQフレンドリーになったとしても、取引先の優良顧客が差別的だった場合、どうしたらいいのか、両者を天秤にかけて、顧客におもねり、社内のLGBTQ従業員への侮蔑は笑って見過ごさなくてはいけないのか?という問いかけもあり、唸らされました。利益追求と人権の対立。実にリアルで、深い話です。
そもそも社長が昭和の頑固親父で差別的だった場合、どうしたらいいのか、という話もありました。
そういう話が全部、ドラァグクイーンをめぐって展開されるのが面白いし、画期的です。
ドラァグショーのシーンではドリアンさんだけでなく枝豆順子さんとMONDOさんも登場し、たいへんゴージャスでした。(一点だけ、ドリアンさんのメイクが秒で完了してたのは、フィクションとはいえツッコミを入れたくなりました。笑)
古いジェンダー観に凝り固まった昭和のオヤジがアライに変わっていくという点は昨年の「おっパン」と同様です。これが令和のドラマの現在地なんだなぁ…との感慨を禁じえませんでした。
見逃した方は、TVerかFODでぜひご覧ください。いずれも5月6日(火)21:00まで無料でご覧いただけます。
TVer
https://tver.jp/episodes/epwna3z00q
FOD
https://fod.fujitv.co.jp/title/803s/
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