REVIEW
多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
キョンキョンと小林聡美さんのコンビが団地で繰り広げるあれこれがたまらなく愛おしくて幸せな気持ちにさせられるドラマ『団地のふたり』。第4話にゲイのキャラクターが登場するので、オススメしたいと思います
小泉今日子さん&小林聡美さん主演で今年9月にNHK BSで放送された(ギャラクシー賞2024年10月度月間賞を受賞した)ドラマ『団地のふたり』がこの年末に一挙再放送されました(NHKオンデマンドやU-NEXTでも視聴できます)。原作は芥川賞作家でトランスジェンダーの藤野千夜さんの同名小説。団地で生まれ、保育園から中学まで一緒で、一度は結婚などもしたものの、今は団地に戻って暮らし、しょちゅう会って仲良くしている50代独身のノエチ(小泉今日子さん)と奈津子(小林聡美さん)が主人公。奈津子が佐久間さん(由紀さおりさん)に頼まれて網戸の張り替えをすることになったり、ノエチの初恋の相手・春日部くん(仲村トオルさん)が団地に戻ってきてちょっとした騒動があったり、団地ならではのいろんな出来事がありつつ、二人や、いろんな人たちの人生模様が描かれますが、すっかり古くなった団地でも、ご近所どうし助け合ったり、今は薄れつつあるコミュニティ的なあたたかさが感じられ、世の中捨てたもんじゃないなと思えるような、ほのぼのしたドラマです。小林聡美さんが『やっぱり猫が好き』を彷彿させるおかしみも醸し出してくれて、ついつい見入ってしまいます。
そんな『団地のふたり』の第4回は、フラワーアーティストをしているゲイの森山リョウ(ムロツヨシさん)をフィーチャーしています。制作統括の八木康夫さんは「今は世間的にはLGBTに対する理解が進んでいますが、民間のアパートやマンションでは入居がほぼ断られるという現実があるんです。でも、公営が多い団地にはそういった制約がありません。そういう事実に基づいて、ムロツヨシさん演じる森山というキャラクターが生まれています」と語っています(TVガイド「小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」一挙放送決定! 制作統括が語るリアルな描写の裏側」より)。この記事でLGBTQに触れられていたので、『団地のふたり』の再放送を知り、録画して観てみました。結果、観れてよかったと思いました。レビューをお届けします。
<第4話のあらすじ>
団地内のボヤ騒動をきっかけに、最近引っ越してきた森山と顔見知りになったノエチと奈津子。ある日突然、「今度うちに来て失恋の相談に乗ってほしい」と持ち掛けられ困惑するが、森山が有名なフラワーアーティストで、同じ間取りながら内装もハイセンスだと知り、興味本位で応じることにする。そして当日、自分たちのかつての結婚・同棲の失敗談を語るうち、意外な事実を知ることに…。
ノエチと奈津子が部屋でゲイ映画の名作として名高い『ブエノスアイレス』のDVDを観て、イグアスの滝行ってみたいよね〜でも相当お金かかるらしいよ、とか、レスリーのコンサート一緒に行ったよね〜とか語るシーンがあってとても素敵です。実に心憎い、ウフフ❤︎ってなるような演出もありました。
団地内のボヤ騒動の真相は、森山がパートナーとの記念日にローストチキンを焼いて待っていたのに、突然パートナーから「わけあって田舎に帰る。もう会えない」とメールが入り、森山がショックを受け、オーブンのことをすっかり忘れ、煙がモウモウと出てしまい…ということでした。
突然恋人を失った森山は、ショックから立ち直れずにいたのですが、ノエチと奈津子がいつも一緒になかよく過ごしていたのを見て「あんなカップルになれたら素敵だよね」と二人でよく話していたこともあり、二人に思い切って声をかけ、相談に乗ってもらうことに、しかし、森山は大きな勘違いをしていて、ノエチと奈津子も去った恋人が女性だと勘違いしていて、というすれ違いがコメディタッチで描かれます。
ゲイだから関係が長続きしないとかじゃなく、異性も同性も変わらない恋愛の悩みとして描かれているのがいいなと思いましたし、だからこそ二人(や団地のほかのおばさん)も相談に乗って、アドバイスしたり、励ましたりできて。そして、そんなところから意外な展開になり、森山も感謝し、元気になり、というお話になっていて、とても素敵でした。こんな団地ならうちらも住みたい、と思う方、多いんじゃないかと思いました。(そして、すでに同性カップルも公団に入居できる時代になっていますから、リアルにこういうことってあったりするんじゃないかと思います)
それから、このドラマ、キャストが実にイイです。主演のお二人に加えて、由紀さおりさん、名取裕子さん、丘みつ子さんといった、画面に映るだけで尊く感じるような往年の大女優たちが実に味わい深い演技で魅了してくれます。男性陣も、杉本哲太さんや橋爪功さんなど、あたたかみのある素敵な方が多いです。
ちなみにムロツヨシさんは、朝ドラ『ごちそうさん』で天才建築家・竹元教授として、美青年を見て顔を赤らめる(明らかに一目惚れしている)シーンがあって、ゲイとまではいかないものの、朝ドラで同性愛を初めて?描いた貴重な役を演じていた方です。(もちろん、ムロさんのような名優が演じてくれるのもうれしいのですが、いつかこういう役を当事者の俳優が演じる時代になるといいですね)
原作の藤野千夜さんは2000年に『夏の約束』で芥川賞を受賞した方で(当時、スゴイ!画期的!と思いました。『夏の約束』も読みました)、『夏の約束』も『団地のふたり』も、日常のなにげない生活を描きながら、そこにマイノリティの生きづらさや悲哀が淡くにじむ、ほのぼのしてるけどほろ苦くもある、何度となく読み返すうちにその世界にすっかりハマり、幸せを味わえるような作品だと思います。藤野さん自身がトランスジェンダーとしていろんな苦労をしてきたからこそのリアリティや繊細さ、そして人生の深みのようなものが感じられます。そんな作品をずっと書き続けている藤野千夜さん、とてもいいなと思います。
団地のふたり
原作:藤野千夜『団地のふたり』
脚本:吉田紀子
音楽:澤田かおり
出演:小泉今日子 小林聡美 /丘みつ子 由紀さおり 名取裕子 杉本哲太 塚本高史 ベンガル / 橋爪功
NHKオンデマンドやU-NEXTで視聴できます
INDEX
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
- 映画上映会レポート:【赤色で思い出す…】Day With(out) Art 2024
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
- 一人のゲイの「虎語り」――性的マイノリティの視点から振り返る『虎に翼』
- アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
- ラベンダー狩りからエイズ禍まで…激動の時代の中で愛し合ったゲイたちを描いたドラマ『フェロー・トラベラーズ』
- 女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』
- アート展レポート「MASURAO GIGA -益荒男戯画展-」
- アート展レポート:THE ART OF OSO ORO -A GALLERY SHOW CELEBRATING 15 YEARS OF GLOBAL BEAR ART
- 1970年代のブラジルに突如誕生したクィアでキャムプなギャング映画『デビルクイーン』
SCHEDULE
- 01.17しゃぶしゃぶガールズ
- 01.18令和のぺ祭 -順平 BIRTHDAY PARTY-
- 01.18GLOBAL KISS