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COLUMN

参院選の結果と僕たちの暮らしについて

7月11日の参院選の結果に対する感想は人それぞれだと思います。が、国会で決められることは確実に僕らの暮らしに影響を与えるわけですし、一方で、ゲイにとってどんな影響が?ということはなかなか見極めが難しいところです。そこで、東京メトロポリタンゲイフォーラム(TMGF)の赤杉康伸さんに、そういう視点で寄稿していただきました。

参院選の結果と僕たちの暮らしについて

2010年参院選の結果

 2009年8月の衆議院議員総選挙を経て成立した民主党を中心とする連立政権。その連立政権にとって初の国政選挙となる、第20回参議院議員通常選挙(以下、「参院選」)が今年7月11日に投開票を迎えました。参院選は、3年毎に全議席の半数が改選される仕組みになっており、今回は121議席が改選対象となりました。
 今回の参院選で改選対象となった議席数において、連立与党(民主党と国民新党)は選挙前から13議席減らしました。また、非改選議席を合わせた総議席数でも、連立与党が過半数を割る「敗北」ということになりました(下のグラフ1をご参照ください)。衆議院では連立与党が過半数を大きく上回る議席を依然として有していますが、参議院では少数与党状態です。そのため、連立与党が参議院で法案を通過させるためには、政策分野毎における野党との連携や、ひいては連立の組み換えも現実的な話になっています。 


ゲイに関連する候補者の当落

 話は少々変わります。毎年5月17日は国際反ホモフォビアの日(IDAHO)ですが、IDAHOを記念し今年5月に「セクシュアルマイノリティを正しく理解する週間」(以下、「正しく理解する週間」)が開催されました(こちらにレポート記事があります)。「正しく理解する週間」には「内閣府子ども若者・子育て施策総合推進室」と「法務省人権擁護局」が後援につきました。後援についた省庁の担当大臣は、福島みずほさん(内閣府特命担当)と千葉景子さん(法務省)です。
 福島さんは「正しく理解する週間」のシンポジウムにも、パネリストとして出演しました。しかし、福島さんは「正しく理解する週間」のわずか1週間後、米軍基地の移設問題に伴なう連立与党間の意見対立により大臣を罷免され、福島さんが党首を務める社会民主党も連立政権から離脱しました。なお、福島さんは今回の参院選改選対象でしたが、社会民主党の比例代表選挙区候補として当選しました。また、千葉さんも今回の参院選改選対象で、神奈川選挙区(定数3)から民主党公認として立候補したものの次点で落選してしまいました。千葉さんは法務大臣を当面続けますが、区切りの良い段階で法務大臣を辞任し、政界からも引退するという意向を発表しました。
 なお、福島さんと千葉さん以外のゲイに関連する候補者、若しくはゲイに関連する政策分野に携わっている候補者の当落は以下のとおりです。
 公明党の比例代表選挙区候補として初当選を果たした秋野公造さん(新人)は、HIV/AIDS対策を所管している厚生労働省 健康局疾病対策課で課長補佐を務めていました。自由民主党の比例代表選挙区候補として当選を果たした山谷えり子さん(現職)は、過去に厚生省(当時)が発行した性教育に関する副読本(同性愛についての記述アリ)を国会質問の場で攻撃し、最終的に副読本を回収に追い込んでいます。
 他方、民主党の比例代表選挙区候補として落選した家西悟さん(現職)は、薬害エイズの被害者として薬害問題に取り組んできました。衆議院議員時代の2003年には、同性パートナーシップ法関連のブリーフィングでスピーチを行ないました。社会民主党の比例代表選挙区候補として落選した保坂展人さん(新人)は衆議院議員時代の2006年と2007年、東京プライドパレード(2006年は東京レズビアン&ゲイパレード)に参加しています。


少数与党状態がもたらす変化と影響

 今回の参院選に伴う政治情勢の変化は、新たな動きを予感させます。 
 今回の参院選で民主党が大敗すると同時に、連立相手である国民新党も議席を減らしました。国民新党は、今回の参院選で「選択的な夫婦別姓制度の導入への反対」を打ち出すなど、連立政権内でも保守寄りのスタンスを取っていました。しかし、選挙後は国民新党の存在感が低下していくことが予想されます。国民新党が従来、議席数以上の発言権を持っていたのは「民主党だけでは参議院の過半数を確保できないが、国民新党の議席を足すと過半数に到達する」という事情が存在していたからです(先ほどのグラフ1をご参照ください)。今回選挙の結果、民主党が大きく議席を減らし、国民新党を足しても参議院で過半数を確保できないとなれば、(少なくとも民主党にとって)国民新党が持つ存在意義は、かえって失われます。
 また、先ほども触れたとおり、参議院での少数与党状態に伴って野党との連携が避けられない情勢になっています。その中でも民主党が連携を画策していると噂される公明党は、選択的な夫婦別姓制度に賛成の立場を取り、性同一性障害特例法(2003年成立)の立法過程でも当時の与党内で大きく貢献するなど、政策的に穏健な中道路線を取っています。そのため、民主党と公明党との連携が現実化するならば、中・長期的に見てゲイが抱える分野での立法化や政策展開にとってプラスに転じる可能性があります。どの政党が好き/嫌いという問題ではなく、これは政治における「リアリズム(現実主義)」の問題です。
 また、みんなの党は、非改選議席を合わせて参議院での議席数が1から11にジャンプアップし、今回の参院選における目玉となりました。みんなの党は、昨年の結党時から今回の参院選に至るまで、「大きな政府批判」「公務員制度改革」メインでマスメディアに取り上げられる機会が多い政党でした。そのため、党としてゲイが抱える問題に対してどのようなスタンスを取るのかは現時点で未知数です。しかし、今までにないルートから人材(起業家や海外情勢に詳しい人物)をリクルートしてきたこともあり、個々の議員レベルでは交渉相手となり得るかもしれません。
 なお、私こと赤杉が共同代表を務める東京メトロポリタン ゲイフォーラム(TMGF)では、今回の参院選にあたって、東京都選挙区から立候補を予定した方々、そして比例代表選挙区で立候補を擁立する予定だった政党向けに「ゲイと公共政策に関するアンケート調査」を実施しました。詳しくはTMGF公式HPの特集ページにて回答結果をご覧いただきたいのですが、政党レベルでは日本共産党、国民新党、公明党(回答到着順)から回答がありました。そのうち、日本共産党と公明党は、参院選公約の中でゲイを含むセクシュアル・マイノリティについて言及した政策がある旨の説明がありました。また、今回のTMGFアンケート調査へ回答がなかった政党も含めると、社会民主党の参院選公約の中にもセクシュアル・マイノリティに言及した政策がありました。


ゲイが抱える問題は、「公共政策」になり得る

 さて、今回の参院選では、民主党が参議院での単独過半数を獲得できなかったということで大きな波紋を呼んでいます。しかし、グラフ2のとおり、第一党が参議院で単独過半数を最後に獲得できたのは1986年(24年前!)の参院選です。

 1989年、当時の第一党であり単独与党であった自由民主党が、消費税導入3ヶ月後の参院選で単独過半数を割りました。それ以来、21年後の今日に至るまで単独で参議院の過半数を握る政党は存在しません。これは参院選が全体の半数ずつ改選される仕組みとなっているからであり、全改選である衆議院選挙との違いです。参議院における単独過半数を握る政党が存在しない限り、連立政権や個別政策における部分的な連合が続いてゆくことになります。過去20年こうした状態が続いている以上、参院選のシステムを変えない限り、今後も連立政権や個別政策協議を前提とした政治体制が続くと考えるのが自然でしょう。
 連立政権や個別政策協議は一般的に、「一党単独政権よりも脆い構造である」と言われます。しかし、別の側面から考えると、「連立政権や個別政策協議は、一党だけでは気づくことができない多様な課題を政治プロセスに乗せるチャンスである」とも言えます。社会における生活スタイルが多様化する現在、これは重要な視点です。そして、ゲイが抱える問題を政治の場に乗せる糸口にもなり得るのではないのでしょうか。
 また、各政党にアクセスする際には、ゲイ側でも「ゲイに関する政策課題は『公共政策』であり、国民生活全体に関わっていく」という視点を持つことが大切になると思います。例えば「公営住宅に同性同士で住めない(=現状、法律で入居要件が決まっている)」問題を突き詰めて考えると、生活資本整備の問題や貧困問題とも相まって、「国や地方自治体がどこまで住宅を提供するべきか」という命題にぶつかるように。そう考えると、公共政策は結局のところ「どのような社会を展望するのか」というグランドデザインが存在してはじめて成立するものです。ゲイと非ゲイが手を携えてグランドデザインを描いていく作業こそが、ゲイが抱える問題を解決する第一歩になると私は信じています。
(赤杉康伸)



赤杉康伸さんのプロフィール
1975年生まれ。北海道札幌市出身。
大学で政治学を学び、HSA札幌ミーティングでの活動を経て、「レインボーマーチ in 札幌」の実行委員を務めながら、2001年4月に上京。 同年5月にパートナーの石坂わたる氏とともに東京メトロポリタンゲイフォーラム(TMGF)を結成、東京のゲイに関する情報の発信や、選挙の度にゲイ視点での政策について候補者アンケートを行ってきました。
また、All About[同性愛]でも「ごく私的・政治観測」「女スパイ赤杉康伸の口紅政治情報」といった連載で、ゲイと政治の関わりについて書いてきました。
2006年には、同性パートナーの法的保障を考える全国リレーシンポジウム「RainbowTalk2006」の最終回(東京)で構成・総合司会・コーディネーター役をこなし、また、東京レズビアン&ゲイパレードの実行委員も務めました(その後、2008年まで東京プライド理事を務めました)
共著書に『同性パートナー―同性婚・DP法を知るために』(社会批評社)があります。
個人サイト「NOV'S BLOG」 

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