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コミュニティセンター「akta」が無くなる!?

「ぷれいす東京」や「JaNP+」とともに、ゲイ・バイセクシュアル男性向けのHIV予防啓発に大きな貢献を果たしてきたコミュニティセンター「akta」が10周年を迎えます。これまでの成果、現状、今後の見通しなどについて、お伝えします。

コミュニティセンター「akta」が無くなる!?

(2013年1月12日に行われた「akta Talk Show -HIV/エイズの今を知る!vol.5-『MSMのHIV対策とコミュニティ』より。お話している方が、「日本のゲイ・バイセクシュアル男性向けHIV予防啓発の父」とも呼べる市川誠一先生です)


6月は厚労省「HIV検査普及週間」や「東京都HIV検査・相談月間」にあたり、12月の世界エイズデーと並んで、HIV予防啓発や検査を呼びかける強化月間となっています(名古屋ではNLGR+も開催)。そこで、東京において「ぷれいす東京」や「JaNP+」とともに、ゲイ・バイセクシュアル男性向けのHIV予防啓発に大きな貢献を果たしてきたコミュニティセンター「akta」(今年設立10周年を迎えます)をフィーチャーし、これまでの成果、現状、今後の見通しなどについて、お伝えしたいと思います。(後藤純一)


東京のゲイ・バイセクシュアル男性向けHIV予防啓発


日本のHIV予防・陽性者支援に
多大な貢献をしてきた長谷川博史
(ベアリーヌ・ド・ピンク)さん。
(写真は2006年、最初期の頃の
「Living Togetherのど自慢」
での朗読パフォーマンス)
 日本では、1985年にHIV感染のサーベイランス(感染症の動向の調査・研究)が開始され、HIV感染を予防する(拡大を食い止める)ためにはどうしたらよいかということが研究されてきました。その頃から東京でも電話相談などを行うグループが現れはじめましたが、まだまだセクシュアリティを公にしづらい時代でもあり、人知れず亡くなる方も多かったようです。90年代にはDJパトリックさんが活躍しはじめ、ようやくゲイ雑誌でも予防啓発や陽性者支援の記事が掲載されるようになり(長谷川博史さんの尽力の賜物です)、ぷれいす東京がリーフレットを配布するなど、次第にタブー感が払拭されるとともにコミュニティとしてHIVのことに取り組んでいこうという動きが見えてきました。
 そして、90年代後半、厚労省からサーベイランスの委託を受けていた研究者・市川誠一先生(現名古屋市立大学教授)が、ゲイコミュニティに呼びかけ、MASH大阪やMASH東京/Rainbow Ring、ANGEL LIFE NAGOYAといったNGOが設立されました。そのことによって、ある程度安定した予算が確保され、堂山に「dista」が設立されたり、ゲイバーやハッテン場にコンドームや啓発資材(パンフレットやポスターなど)を配布したり、大阪の「switch」、名古屋の「NLGR」といった検査イベントが開催されたり、本格的な活動が可能になったのでした(東京では、ぷれいす東京が「お楽しみ演芸会」「VOICE」といったイベントを開催するようになりました)
 そうした流れの中で、2003年、二丁目にコミュニティセンター「akta」が設立され、コミュニティの多くの人たちの協力を得て、毎週バーにコンドームを配る「デリヘルボーイ」が結成されたり、イベントや展覧会なども行われました。2004~2005年頃、「akta」を運営するRainbow Ringは、陽性者支援団体・ぷれいす東京といっしょに「Living Together」というムーブメントをスタートさせました。HIV陽性者が綴った手記を、他の人が代わりに朗読することで、本人のプライバシーを保護しながら、陽性者の思いや体験に共感し、HIVをより身近でリアルなものとして感じてもらうことができるという、素晴らしい発明でした。Advocates Tokyo~ArcHで開催された「Living Together Lounge」はつい最近まで回を重ね、「EASY!」などの手記集とともに二丁目に広まり、振り返ってみると、二丁目では以前のようにHIVの話をすることがタブーではなくなり、陽性者だからといって差別されることも少なくなってきたと思います(昔に比べたら全然違う、大きく変わったと思いませんか?)
 そして、「Living Together」は多方面で評価を受け、日本エイズ学会のテーマにも採用されたり、Yahoo!の世界エイズデー特集でも紹介されたり、ゲイだけでなく一般社会にも広がりを見せました。Tokyo FMとのコラボイベントでたくさんの著名人の方が陽性者の手記を朗読してくれたのも、本当に素敵なことでした。

5年間の「戦略研究」の成果


「akta」の活動を牽引してきた
張由紀夫(メロウディアス)さん
とジャンジさん。お二人は
弥次子喜多子名義でショーを
したり、パレードに参加する
など多方面で活躍してきました
 2006年、厚生労働省は「5年間で対象層における検査を2倍に増やし、エイズ発症者を25%減らす戦略研究」(以下、戦略研究)に取り組む研究者の募集を始めました。その背景には、エイズを発症する人の数が増加の一途をたどっており、特に男性の同性間性的接触における発症者の増加が著しいこと、そうした発症者の多くはHIV検査を受けていないため発症するまで感染に気づかないということ、HIV感染による健康被害や発症を防ぐには、感染予防に加え、HIV検査の普及が有効と考えられていること、がありました。
 この戦略研究の首都圏グループに、市川先生を代表としたRainbow Ring(現akta)やぷれいす東京、JaNP+、横浜Cruiseネットワークなどが恊働し(阪神圏はMASH大阪が担当)、2007年から2011年まで、多くの達人たちが一丸となって課題に取り組んできました。
 その取組みの主な内容は、受検行動を促すための訴求力のある啓発資材・プログラムの開発と普及、HIV検査体制の整備と拡大、相談体制の整備、評価調査体制の整備(受検者への質問紙調査、地域の対象層に対する携帯電話調査、バー顧客への質問紙調査などを実施)。特に、啓発資材・プログラムの開発と普及に関しては、ポスターやパンフレット(人気のあるモデルさんが多数登場)、ゲイバー向けの冊子「TOMARI-GI」、カレンダーなど、さまざまな資材を作成するとともに、HIVについての情報サイト「HIVマップ」を作成、一環した広報戦略で訴求力の高さを示しました。また、これまでの新宿中心の活動だけでなく、新橋や渋谷、上野・浅草などのゲイ商業施設にもアウトリーチを行い、ゲイメディア、ゲイサークルなども含め、広範囲で多角的なネットワークを通じて情報の浸透を図りました。また、保健所の検査担当者等を対象とした研修(セクシュアリティ理解、模擬体験)を通じて、ゲイ・バイセクシュアル男性を積極的に受け入れる検査体制を整備し、「あんしんHIV検査サーチ」として保健所等検査施設を各種の相談支援機関情報とともにWebサイトや冊子で広報する体制を整備しました。
 結果として、保健所で検査を受ける人が増加し(提携している保健所等では3年間にゲイ率が5%増加)、また、そうした人たちの中でパンフレットやWebサイトを見て検査を受けたという人がとても多く(2010年の啓発資材認知率は50%で、AC等の広告とほぼ同率)、また、同性間性的接触によるエイズ発症者数が(2000年~2006年の報告値に基づく増加の推計値に比べて)約16%減少しました。つまり、制作したさまざまな資材が多くの人たちの目に触れて、検査を受ける人が増加し、発症率が抑えられたわけで、「検査数を2倍に増やし、発症者を25%減らす」とまではいかないものも、一定の成果を上げたのです。
 また、これまでほとんどHIV予防啓発が行われてこなかった地域にもアウトリーチを拡大し、そういう情報に接してこなかった人たちをも呼び込むことができました。一般のHIV予防のメッセージでは効果が期待されない層に対して当事者NGOの訴求性のある啓発活動が行われたことは、社会的意義が大きいと言えます。
 また、HIVマップや、保健所の検査担当者への研修、陽性者支援のための電話相談などは、他地域の活動への参考にもなりますし、NGO/NPOが参加する形の関係機関が恊働する研究体制は、訴求性も高く、効果を上げており、エイズ対策のモデルともなります。
 そして、当事者NGOが実施する予防啓発は、予算的には低コストで比較的短期間に受検行動を促すことができるということを立証しました。HIV感染者の医療費はおよそ20万円/月で、生涯医療費は1億円程度と推定されていますが、戦略研究程度の予算(首都圏・阪神圏合わせて約1.7億円)があれば、結果的に医療費の抑制にも貢献すると言えるため、今後もこうした啓発活動を継続できる予算規模と研究体制が望まれます。
(参考:「首都圏および阪神圏の男性同性愛者を対象としたHIV抗体検査の普及強化プログラムの有効性に関する地域介入研究(研究成果報告・概要版)」「MSMのHIV感染対策の企画、実施、評価の体制整備に関する研究(平成23年度 総括・分担研究報告書)」)

aktaの現在と未来


今年の3月20日(祝)、浅草で初めて
「Living Togetherのど自慢」が
開催されました。
写真はバー「BBC」のババコさん。
最高に楽しいステージでした!
 2011年3月に戦略研究が終了し、4月から、新たに活動を継続していく有志により「akta」としての組織化を進め、2012年6月にはNPO法人aktaを設立(市川班から独立して)して東京のゲイ・バイセクシュアル男性向けHIV予防啓発を行う団体として再スタートすることになりました。
 aktaは他の団体や行政、コミュニティとも連携し(行政や医療機関などとゲイコミュニティをつなぐハブの役割も果たしています)、訴求性の高い啓発資材(僕らの心に響くようなメッセージ)を生み出し続けてきており、その手法は他地域(あるいは海外)の方たちにも参考にしてもらえるような優れたものでした。
 そして、ここまでの章でもお伝えしたように、今まで(たくさんのボランティアにも支えられながら)行ってきた予防啓発活動が一定の成果を上げてきているため、戦略研究並みの予算があれば、結果的に医療費の抑制にも貢献することにつながります。しかし、現実には、充分な予算が与えられていないどころか、毎年10%ずつ削減されているそうです。以前は精力的に活動していた方も、生活していくためにaktaの活動から離れたり、ということも起きています。(最近のaktaの活動ってなんだか地味だよね…と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、それは予算の問題なのです)
 戦略研究の効果もあって、現在、東京都では検査を受けて発症前にわかる人が多い(発症率が他地域よりも低い)のですが、20代に感染が広がっていたり、中高年で発症でわかるケースが増えていたり、取り組むべき課題はいろいろあります。
 このまま予算が削られていくと、コミュニティセンター「akta」の存続自体が危ぶまれます。もし「akta」が無くなったら、これまでやってきたようなコンドームの配布、ポスターやパンフレットの製作、Webサイト「HIVマップ」の継続、Living Togetherなイベントの開催などが難しくなり、恐らく東京のゲイ・バイセクシュアル男性向けの(意味のある)予防啓発活動はほぼストップしてしまうことでしょう。
 では、どうしたらよいのでしょうか? 国や都に対して予算の確保をお願いすることが第一ですが、そのためには「akta」の活動が評価されなければなりません。「akta」で開催されるイベントに足を運ぶ、「Living Togetherのど自慢」に参加する、お店でコンドームをもらったら備え付けの募金箱に寄付する、コンドームを配るデリヘルボーイをねぎらう、など、できることはいろいろあります。ぜひみなさん一人一人が、HIVのことを僕らの問題として意識し、少しずつできることから協力していただけたら、と願うものです。

☆「akta」代表の荒木順子(通称ジャンジ)さんへのインタビューも行いました。こちらをご覧ください。