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LGBTと企業(2) 2017年、企業のアライ化はどのように進んだか

「企業×LGBT」について、2017年はどのような年だったのかを振り返りつつ、work with Pride 2017のレポートをお届けします。

LGBTと企業(2) 2017年、企業のアライ化はどのように進んだか

LGBTと企業(1) 企業がLGBTフレンドリー(アライ)化していく意味」では、2016年に開催されたいくつかのLGBT関連のセミナーや講演会をレポートしながら、多くの企業がLGBTフレンドリー(アライ)な方向へ舵を切っている、そのリアリティについてお伝えしました。その続編となる今回のコラムでは、「2017年、企業のアライ化はどのように進んだか」と題して、1年間でどのような動きがあったかを、できるだけわかりやすくお伝えしていきたいと思います。「企業に対して各方面から「お達し」が次々に」「企業の新しいLGBT向け商品・サービス」「work with Pride 2017レポート」という内容です。(後藤純一)

 

企業に対して各方面から「お達し」が次々に


 2017年は、企業はすべからくLGBT施策に取り組むべきであるという「お達し」が各方面から次々に上がってきてビックリさせられた、そんな1年でした。あとから振り返ったときに2017年って結構重要だったよね、と言われるかもしれません。
 時系列を追って、どんな動きがあったかをご紹介します。

・経済同友会が「大企業の3/4がLGBT施策を実施している」との調査結果を発表
 2017年2月7日、経済同友会が実施したダイバーシティと働き方に関するアンケート調査の結果が発表され、約4割(大企業では3/4)の企業が性的少数者(LGBT)に関する何らかの施策を行っていることが明らかになりました。経済同友会は「経済三団体」の一つで、これまでも「ダイバーシティや働き方改革に向けた経営者としての行動宣言、先進企業の事例をベースにした企業の具体的なアクションプランを提示」してきましたが、「会員所属企業の女性や外国籍人財等の登用・活用といったダイバーシティに関する取組状況、および多様で柔軟な働き方の促進に関する調査を実施し、ダイバーシティが進む中での働き方の現状と各社の取り組み状況等を広く共有」するねらいで、会員に対して「ダイバーシティと働き方に関するアンケート調査」を実施しました。

・東京オリンピック・パラリンピックに関わるすべての企業がLGBT施策の実施を求められることになりました
 こちらのニュースに詳しく載せましたが、2017年3月24日に東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が策定した「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会 持続可能性に配慮した調達コード(以下「調達コード」)」に性的指向・性自認に関する差別の禁止が盛り込まれました。東京オリンピック・パラリンピックに関わるすべての物品やサービスは、性的指向や性自認による差別・ハラスメントを禁止している企業から調達(購入)する必要がある、そうでない企業からは買ってはいけません、ということです。しかも、製品を供給する企業だけでなく、その材料を作っている企業など、流通に関連する企業すべてに当てはまります。つまり、東京オリンピック・パラリンピックに関わりたい企業は、すべからくLGBT施策を行いなさい、そうでない(差別的な)企業はお断りです、ということになったのです。

・経団連が会員企業に対してLGBTについてのダイバーシティ&インクルージョン施策を実施するよう提言しました
 一部上場企業を中心に構成される日本経済団体連合会(以下、経団連)は2017年5月16日、会員企業に対して、LGBT(性的マイノリティ)の社員や顧客に対する差別の禁止や配慮を求める提言「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」を発表しました。「ダイバーシティ(多様性)・インクルージョン(包摂)社会の実現が、わが国の最重要課題の一つとなっている今、『見えないマイノリティ』であるとともに、企業としても取り組みが急務となっている、LGBTの人々に関する対応に経済界として初めて焦点を当て、各企業の取り組み状況を紹介すると共に、どのような対応が考えられるかを提言するもの」です。そして、「LGBT(性的マイノリティ)の人々に関する適切な理解・適切な知識の共有を促すと共に、存在の認識・受容に向けた取り組みを推進すべく、LGBTという言葉についての概説、LGBTに関する国内外の様々な動向を紹介した上で、わが国企業による取り組みの方向性を示して」います。
 経団連は2017年3月、会員企業を対象に、LGBT施策について尋ねる初めての調査を行い、全体の15%に当たる233社から回答を得ていました。それによると「何らかの取り組みを実施している」と回答した企業は42.1%、「検討中」という企業が34.3%に上りました。「実施している」または「検討中」と答えた企業に、その内容を複数回答で尋ねたところ、LGBTへの理解を深める「社内セミナーなどの開催」が91.8%と最も多く、次いで「相談窓口の設置」が82.8%、「性別を問わないトイレなど職場環境の整備」が52.2%、結婚休暇や配偶者手当を同性のパートナーにも認めるなどの「人事制度の改定」が32.8%という結果でした。提言では、この調査結果のほか、93社の企業の取り組み事例を一覧にして紹介しています。

・文京区が事業者向け契約書類にLGBT差別禁止を明記
 こちらの記事に詳しく掲載してありますが、東京都文京区は2017年10月から、区が発注する工事などで事業者と交わす契約書類にLGBTへの差別を禁止する旨の文言を書き加えました。罰則や取引停止などの処分規定はありませんが、条例の趣旨を契約相手に周知し、適切な対応を求めるのがねらいです。LGBT法連合会によると、これまで、事業者と交わす契約書類にLGBT差別禁止を明記した例は聞いたことがなく「行政の契約関係で明記されたことは画期的」です。今後、他の自治体も同様の施策を行っていくかもしれません。

・国連人権高等弁務官事務所がLGBTI差別の解消に取り組む企業に向けた行動基準を発表
 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は2017年9月、LGBTI※差別の解消に取り組む企業に向けた行動基準「Standards of Conduct for Business」を発表しました。企業のLGBT施策の評価指標はこれまで、アメリカの人権団体Human Rights Campaign(HRC)が実施する「Corporate Equality Index(CEI)」や、日本の「PRIDE指標」など、各国の団体が主体となって、その国の法的な事情などに鑑みながら策定されてきましたが、国連によって初めてグローバルな統一基準が示されたかたちです。OHCHRは世界中の企業に対してLGBT差別をなくしていく取組みを進めるよう呼びかけています。
 「Standards of Conduct for Business」は5つの行動基準から成っています。
○どんなときも
1. 人権を尊重する
企業は、LGBTIの権利の尊重を確実なものにしていくために、企業ポリシーを発展させ、デュー・ディリジェンス(適切な配慮)を実施し、ネガティブな影響力を持たないような見直しを行うべきです。また、人権基準のコンプライアンスに関するモニタリングや伝達の仕組みを確立すべきです。
○ワークプレイス(職場)において
2. 差別を取り除いていく
企業は、採用や雇用、職場環境、福利厚生、プライバシー保護、ハラスメントの扱いにおいて、いかなる差別もないよう保証していくべきです。
3. 支援を提供する
企業は、LGBTIの従業員が尊重され、スティグマが払拭された状態で働くことができるような、ポジティブで肯定的な環境を提供すべきです。
○マーケットプレイス(市場)において
4. 他の人権侵害を防ぐ
企業は、LGBTIのサプライヤーや代理店、消費者を差別すべきでないのと同時に、ビジネスパートナーによる差別や差別につながるような職権の乱用を防ぐよう、その影響力を行使すべきです。
○コミュニティ(地域)において
5. 公の領域で行動する
企業は、事業を行なっている国々における人権侵害を食い止めるような貢献を期待されています。その際、企業は、自身が果たすべき役割について地域のコミュニティに相談していくことが求められます。そこには、政府に対するアドボカシー(政策提言)活動、(その国の団体などとの)共同のアクション、社会的対話、LGBTI組織の支援、政府による人権侵害的な行動を変えていくことなどが含まれます。

※国連のLGBT人権推進プロジェクトでは、性的マイノリティの総称として「LGBTI」を使用し、インターセックス(性分化疾患:先天的に染色体、生殖腺、もしくは解剖学的な性別が非定型である状態)も含めています

・連合が「性的指向及び性自認に関する差別禁止に向けた取り組みガイドライン」を発表
 2017年11月16日、連合が「性的指向及び性自認に関する差別禁止に向けた取り組みガイドライン」を発表しました。このガイドラインは、性的指向および性自認(SOGI)の観点から、SOGIをめぐる職場における課題と背景(LGBTだけがハラスメントを受けているわけではない、SOGIに関する差別やハラスメントの実態など)、SOGIに関する労働組合の取組み(差別禁止の方針の策定と周知、ハラスメント対策、相談体制の整備、雇用管理のステージごとの取組み、安全衛生関係)、具体的な環境整備と当事者支援のあり方(支援グループ等の体制整備、福利厚生や休暇に関する課題、男女別取り扱いにより生じる困難など)についてまとめたものです。アウティングの問題などにも触れられているほか、法律で定められているところ(男女雇用機会均等法、人事院規則のセクハラ防止規定)や、これまで厚労省が示してきた判断(保険証の通称名使用について)などもコラムで紹介されていて、SOGIについての考え方、現状の問題点、重要なポイント、最新情報などが的確に盛り込まれています。

・東京都知事、LGBT差別禁止も含めた五輪憲章の精神を実現する条例の制定を検討
 2017年12月6日に行われた東京都議会定例会の中で、小池都知事が「五輪憲章の精神を東京で実現するため、多様性が尊重され、温かさと優しさがあふれる都市を作ってまいりたい」と述べ、2020年東京大会に向け、あらゆる差別に反対する五輪憲章の理念を条例化する考えを明らかにしました。「東京大会を成功させるためには、外国人はもとより、女性も男性も子供も高齢者も障害のある方もLGBT(など性的少数者)も活躍できるダイバーシティを実現しなければならない」
 関係者によると、早ければ来年度中の成立を目指しているそうです。
 
 ざっとこんな感じです。国連からもオリンピック委員会からも経団連からも自治体からも…もうこれは、やらないとまずい、と思わせるような流れです。経団連は10月の「work with Pride 2017」にも会場提供し、LGBT支援(アライ化)へと踏み出しました。これから2020東京大会に向けて、五輪に関係する企業はもちろん、(東京都でもおそらくLGBT差別禁止条例が制定されるでしょうから)都内の企業は遅かれ早かれ社内研修や社内規程改定などの対応を迫られるのではないでしょうか。

 

企業の新しいLGBT向け商品・サービス


 2017年も多くの企業で、社内でLGBT施策を進めたり(なかには、これまでなかったような画期的な施策もありました)、これまで同性カップルが排除されていた分野の不平等を是正するような商品・サービスを提供したり、メディア上でLGBTがフィーチャーされたり、といった素敵なニュースがたくさんありました。特に話題を呼んだ、エポックメイキングだったケースを、ピックアップしてご紹介いたします。

・大手住宅情報サイト「SUUMO」が同性カップルも入居できる物件の検索サービスを導入
 2017年2月、大手住宅情報サイト「SUUMO」を運営するリクルート住まいカンパニーが、夏頃をめどに同性カップルも入居できる物件を検索できるサービスを導入すると発表しました。「LGBTの人たちが、賃貸住宅でパートナーとの同居に制約を感じたり、入居そのものを断られたりと、物件探しに苦労している現状がある。理解のあるオーナーの物件を紹介し、物件探しを支援したい」として、「SUUMO」で扱う賃貸住宅について、同性カップルが入居できる物件を登録し、部屋の方角や駐車場の有無といった情報と同じように検索できるようにしました。(詳しくはこちら
 
・ダイヤモンド社がLGBTをフィーチャーした新雑誌を刊行
 2017年3月23日、ダイヤモンド社からLGBTをフィーチャーした新雑誌『Oriijin(オリイジン)』が刊行されました。井ノ原快彦さんや小林幸子さんらのインタビューが目を引く雑誌で、「「ココロ」と「多様性」の時代を生きる」「世界各国&都市のLGBTフレンドリー」「日本企業でも取り組みが加速 「PRIDE指標」という挑戦」といった特集が組まれ、エスムラルダさんの「時代は短期間で、意外と大きく変わります。」というコラムも面白く、書籍や映画の紹介、占いなど、実に多彩なコンテンツが盛り込まれていました。(詳しくはこちら

・キリン、性別適合手術のために最大60日の有休取得を取れる施策を実施
 ビール大手のキリンホールディングスが2017年3月29日、トランスジェンダーの社員を支援する制度を設ける方針を明らかにし、キリンでは性別適合手術などのために最大60日の休暇を有給で取れるようにしました。性別適合手術やリハビリは長期の休暇が必要なため、こうした制度を設けることにしたものです。支援団体によると、国内大手企業では珍しい先進的な取組みです(欧米では、会社の健康保険制度を利用してホルモン治療や性別適合手術などを受けることができるようにする=福利厚生でカバーする企業が多くなっています)

・日テレとHuluがプライド月間を祝して「LGBT映画祭」を開催 
 6月のプライド月間を祝し、日本テレビの深夜映画番組「映画天国」が6月6日(5日深夜)から4週連続で「LGBT映画祭」を開催しました。民法キー局が「LGBT」と銘打って映画の特集放送を行うのは今回が初めてです。放送されたのは『あしたのパスタはアルデンテ』『ぼくのバラ色の人生』『アルバート氏の人生』『パレードへようこそ』の4本で、いずれ劣らぬ名作でした。番組では、ゲイの映画ライター・よしひろまさみちさんと、NPO法人虹色ダイバーシティ代表の村木真紀さん、そして番組プロデューサーの谷生俊治さん(MtFトランスジェンダーの方)による作品解説コーナーも設けられ、視聴者を楽しませました。
 また、オンライン動画配信サービス「Hulu」も、6月5日から「LGBT映画祭」を開催し、不朽の名作『ブロークバック・マウンテン』や『ブエノスアイレス』を含む名作ゲイ映画が多数、配信されました。

・『AERA』がLGBTを大特集
 『AERA』2017年6月12日号で、メイン特集として「LGBTブームという幻想 虹のふもとにある現実」というLGBTをフィーチャーした特集が組まれました。LGBTのキラキラでポジティブなイメージ(「光」)に対して、「影」の部分にも切り込んで、それって本当なの? 現実はもっとシビアなんじゃないの?と「待った」をかけるような内容でした。LGBTブームに対して当事者から表明されていた違和感を代弁しつつも、ゲイであることをカミングアウトした方を含むライターの方たちが意欲的に、これまで光が当たらなかったような方たちをたくさん取り上げ、丁寧な取材を行い、LGBTが未だに直面しているシリアスな現実や、これまで語られてこなかった真実を浮き彫りにするような、「ああまたか」ではなく、「そうそう」「前から気になってたんだよね」というリアクションを引き出すような特集になっていました。

・みずほ銀行が住宅ローンについて同性カップルも配偶者扱いとすることを発表 
 みずほ銀行が2017年7月6日、同性カップルが男女の夫婦と同じように共同で住宅ローンを借りることができるようにすることを発表しました。国内の銀行で初の快挙です。これまで同性カップルは、法的に家族と認められないがゆえに、パートナーと一緒に(共同の名義で)住宅を購入することができませんでした。そのため、どちらかの名義で購入し、パートナーは表に出ない形で(非公式に)ローンの一部を負担して、事実上、二人で住宅ローンを支払っていくといったことが行われてきましたが、購入名義の方が亡くなった場合、そのパートナーには法的な権利がないため、長年住んでいた家を追い出されかねません。このみずほ銀行の対応は、生命保険の受取人に同性パートナーを指定できるようにした対応と同様、ゲイカップルやレズビアンカップルにとっての悲願の一つを達成するものだったと言えるでしょう(詳しくはこちら

・マネックス証券が同性カップルのための「パートナー口座」サービスを開始 
 2017年12月、主要オンライン証券では初となるサービスとして、マネックス証券株式会社が、同性カップルが共同で貯蓄を行い資産管理が行える「パートナー口座」の提供を開始しました。「パートナー口座」は、二人の資産形成を支援するだけでなく、二人が利用するクレジットカードの引落先口座として利用できます。また、それぞれの銀行口座からの入金ができるほか、クレジットカードの引き落とし先にも指定できます。これも、同性カップルが法的な婚姻関係にないため、家族カードが持てず、共同での資産管理が難しかった、という状況を打開するものでした(詳しくはこちら
 
 ここで取り上げなかった企業でも、従業員の同性パートナーにも配偶者と同様の福利厚生を適用したり(家族と認めたり)、一番手ではないながらも同性カップルとして利用できるサービスを開始したりというニュースがたくさんありました。 


「work with Pride 2017」レポート

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HRC代表チャド・グリフィン
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セッション1「グローバル
動向から学ぶこと」
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セッション2「日本の職場
でのカミングアウトの今」
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経産省の小田文子氏
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PRIDE指標の表彰式
 カミングアウト・デー※にあたる10月11日、「work with Pride 2017」が経団連会館で開催されました。企業の人事・CSR・ダイバーシティ関連の部署の方々など約500名が集まりました。

※National Coming Out Day:1987年10月11日にワシントンD.C.でゲイ&レズビアンのワシントンマーチが行われ、多くの団体が生まれたことを記念し、1988年にアメリカの心理学者やLGBT活動家らによって制定されました。以降、世界各地のLGBTコミュニティで祝典などが行われています。

 最初に、5月に「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」を提言した経団連から、女性の活躍推進委員会 企画部会長であり、野村アセットマネジメント執行役専務兼チーフ・リスク・オフィサーでもある中川順子氏が登壇し、「2020年に向けてダイバーシティ&インクルージョン施策は急務であり、提言をまとめました。先進企業がこのwork with PrideやPRIDE指標に参加し、今後も取組みを行なって行くことを期待します。NPOと企業の連携もとても大切だと考えています」とスピーチしました。
 続いて、小池百合子東京都知事(「東京都は人を大切にし、女性も子どももLGBTも希望を持って生き生きと暮らせる、多様性のある、あたたかい街を目指す」)、LGBT議連の馳浩会長(「LGBTも自分らしく働ける職場づくりの活動が、いっそうの理解促進や多様性につながる」)のメッセージが紹介され、国連人権理事会でSOGIに関する独立調査官を務めるVitit Muntarbhon氏のビデオメッセージが流されました。「このイベントが開催されたことは素晴らしい。日本はSOGIに関して大躍進を遂げた。アジア諸国への波及も期待したい。人権理事会が企業のLGBT施策のガイドラインを発行したので、これを広げて行ければ」といったメッセージでした。

 それから、今回のゲストスピーカーである米国最大の人権団体「Human Rights Campaign」(通称HRC)の代表を務めるチャド・グリフィン氏が登場しました。HRCが実施しているCorporate Equality Index(企業のLGBT施策の評価指標)のことだけでなく、例えば以前、大阪に交換留学生としてホームステイしていて日本人のホスピタリティに感激したという話、日系アメリカ人のジョージ・タケイさんの話、ゴールドマンサックスの稲葉さんのカミングアウトを讃える話、JALが同性カップルにもマイル共有を認めた話など、身近に感じられるようなトピックも交えながら、LGBTのカミングアウトの必要性やアライの大切さ、ダイバーシティ&インクルージョンがビジネスにとってどのような意義をもたらすか、世界の状況、などについて語りました。「みなさん一人ひとりの行動が世界を変えます。HRCも協力します」

 LGBT当事者パネル「国際的なカミングアウト・デーに考える」と題して、2つのトークセッションも行われました。
 1つめは「グローバル動向から学ぶこと:Coming out ? Or Not Coming Out ?」。国際NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の東京代表・土井香苗氏と、ドイツ証券株式営業統括部ディレクターの柳沢正和氏がモデレータを務め、wwPの立ち上げに貢献してくれた方たちが登壇しました。米IBMでダイバーシティ・インクルージョンを推進してきたアンソニー・テニセラ氏は、「IBMは1984年からLGBTのことに取り組み、HRCなどの団体とも協力し、グローバルにも裾野を広げてきました。社員チームによるメンタリング、リーダーシップのトレーニングにも組み込み、価値醸成を図ってきました。ミレニアル世代は特に包摂を重要視するようになってきています。平等のために手を携えてやっていきましょう。マンデート(強制)ではなく、ムーブメント、カルチャーとして」といったことを語りました。米ソニーで働く弁護士のトリスタン・ヒギンズ氏は、「私はレズビアンで、アメリカでも変わった人間として見られがちですが、机に家族写真も飾っていたりして、オープンにしています。日本の文化とは異なるかもしれませんが、違いを尊重し、包摂することが大切だと思います。ソニー本社ではカミングアウトしてる人がおらず、心配になります。隠していると、本来のエネルギーが発揮できません。ありのままで働けることは、自分にとっても企業にとっても良いこと。幸せでなければ机の上は空っぽです」と言ったことを語ってくれました。
 2つめは「日本の職場でのカミングアウトの今」。ソニー人事センターダイバーシティ開発部統括部長の大庭薫氏がモデレーターを務め、文京区議の前田邦博氏、金曜ロードショーのプロデューサーを務める日テレの谷尾俊美氏、会計・人事・労務のクラウドサービスを提供するfreeeの採用マネージャーである吉村美音氏が登壇しました。まだ職場でカミングアウトできる環境が整っていないのでは?という質問に対して、前田氏は、1999年、文京区議に初当選したとき、ゲイだとアウティングするハガキが届いた、支持者の方たちには隠したほうがいいと言われた、2003年にはパートナーが自死で亡くなったが、告別式で喪主を務めることができず、忌引きも認められなかった…といった切実なお話を語っていらっしゃいました。しかし、法的保障の必要性から可視化が重要であると思い、カミングアウトを決意したと語りました。MtFトランスジェンダーである谷尾氏は、中東で死と隣り合わせの経験をしたことから、自分らしく生きたいという思いを強くし、社内で少しずつカミングアウトするようになり、上司も理解してくれたという貴重な体験を語ってくれました。吉村氏は、最初の会社がホモネタで嘲笑するような体育会系の職場で、今の会社に転職してカミングアウトし、うまくいっていると教えてくれました。前田氏は「制度の後ろ盾も大切」と、谷尾氏は「みんながカミングアウトできるわけじゃない。人と違うことが素晴らしいと、それがパワーになり、クリエイティビティにつながるようになってほしい」と、吉村氏は「たとえ使う人がいなくても、自社のLGBT施策には自信を持ってほしい。当事者は見ています」とも語りました。

 それから、PRIDE指標2017の発表&授賞式が行われました。PRIDE指標の運営に当たるグッド・エイジング・エールズと虹色ダイバーシティから、それぞれ川村安紗子氏と村木真紀氏が登壇し、発表を行いました。前年を上回る計109社から応募があり、84社がゴールドを受賞したということで、名前を呼ばれたたくさんの企業の方たちが壇上に登り、晴れやかな様子で賞状を受け取っていました。
 2016年は全体のベストプラクティスとしてライフネット生命の指標E(LGBT児童向けの書籍を公立図書館等へ寄贈する「レインボーフォトプロジェクト」)が選ばれていましたが、今回はPRIDE指標運営委員会が特筆すべき(特に優れている、あるいはユニークである)と判断した事柄について指標ごとにベストプラクティスを選定、国立大学法人筑波大学、日本たばこ産業株式会社、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ、スターバックスコーヒージャパン株式会社、株式会社NTTドコモの5社が表彰されました。(PRIDE指標2017のレポートはこちら。PDFです)
 
 最後に、経済産業省経済産業政策局経済社会政策室長の小田文子氏が登壇し、「日本が持続的な成長をしていくためにも、LGBTも能力を最大限発揮し、多様性によってイノベーションや競争力を高めていくことが求められます。経産省は「ダイバーシティ経営企業100選」を発表していますが、これにはLGBTへの取組みも考慮に入っています」とスピーチし、会を締めました。


まとめに代えて


 世の中でこんなに「社内LGBT施策やるべき!」ってワーワー言われてたなんて、ご存じでしたでしょうか? おそらくネットのニュースなどでいくつかは見聞きしたこともあると思うのですが、まとめて見ると、こんなに動きがあったのか…スゴい!と思いますよね。この流れを受けて、いま、大手企業では盛んにLGBT研修やセミナーが行われるようになってきています。以前は様子見だったところも、もうやらないとまずいよね、というふうになってきているのです。
 
 そうした、LGBTのことに取り組みはじめている企業の方たちがこぞって参加したのが「work with Pride」でした。年に一度の総会的なイベントとして、東京レインボープライドと並んでアライの方が大集合する場になっています。

 今年のwork with Prideでは、50代の前田邦博さんがゲイとして生きる最初の世代としての自身の苦難の経験を語り、同じセッションで、ミレニアル世代の吉村さんが、さわやかにカミングアウトのことを語っていて、対照的と言いますか、世代によって状況や感じ方もずいぶん異なるだろうなと思わせました。住んでいる地域や、働いている会社の社風などによっても全く異なるでしょう。
 現実問題としては、まだまだ多くの方が、職場にアライ(支援者、味方。いざというとき、相談に乗ってくれたり、守ってくれる人)を見つけられず、もしバレたらいじめやいやがらせを受けたり職場に居づらくなったりするのではないかと恐れ、カミングアウトできずにいると思います(職場でカミングアウトしている人はたったの4%というデータもあります)。世の中がLGBT支援的な方向に動いていても、実感が持てない、何も変わってないと思ってしまうのです。
 一方で、(まだまだごく一部の会社かもしれませんが)仕事だから、とかではなく、純粋に支援の気持ちでLGBTのために動いてくださっている熱いアライの方も、少なからずいて、なんとか社内でLGBT支援をやろうと孤軍奮闘したり、他社のアライの方とつながり、互いに励ましあったり、プライドに参加したりしています(ムネアツです)。そういう方たちに会ってお話すると、世の中捨てたもんじゃないな、と思えるようになると思います。でも実際は、そういう方たちの顔や姿も、LGBTからはあまり見えていないと思います。
 お互いに見えない、可視化されていないことで、当事者の思いも伝わらないし、職場環境もよくなっていかない、そういう現状もあったりするのではないでしょうか。もしかしたら(同じ会社の人でないとしても)当事者とアライの方たちが話し合えたり、交流できるようなことがあるといいのでしょうが、なかなか…。
 そういう意味で、たくさんのLGBTが登場してリアルな自身の体験を語り、それを500名もの企業の方が聞いて、理解を深めたり、施策に活かすことにつながるような場になっているwork with Prideは、改めて意義深いイベントだと感じました。今回は懇親会こそありませんでしたが、当事者とアライの素敵な交流が生まれる可能性もあると思います。
 
 残念ながら未だに、ゲイだとわかると侮辱的な言葉を投げつけたり、クビにしたりするような職場もあります(つい最近、身近でそういう目に遭った人がいて…憤りを覚えます)。だからと言って、世の中のLGBT支援へのシフトや、企業の取組みなんて、全然意味がないじゃないか!というのではなく、ここ数年でやっと始まったばかりですから、この動きがもっと浸透していけば、きっとこの職場も変わるはず、と信じていただきたいと思います。
 『弟の夫』の弥一が、最初は嫌悪感むきだしだったのが、だんだん慣れて、一緒にお風呂にも入れるようになり、自然に、普通に接するようになり、家族として受け容れていったということを思い出しましょう。
 そういうふうに、少しずつ(思ったより早く)、世の中は変わっています。

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