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キャンプ

 「キャンプ(camp)」の語源は、フランス語の動詞「se camper(仰々しく挑発的な振る舞いをする)」であるとされています。メトロポリタン美術館の展覧会「Camp: Notes on Fashion」によると、フランスの劇作家モリエールが1671年に用いたのが文献に残る最初の「camp」(動詞)です。1868年には、女装のタレント、フレデリック・パークが「campish」という形容詞を用いていました。そして1909年、かのオスカー・ワイルドが「Ware's Victorian Dictionary of Slang and Phrase」の中で「camp」(名詞)を「誇張された行動やしぐさ」と定義しました。
 英語圏では20世紀初頭、けばけばしい、仰々しい、芝居がかった、なよなよした、ゲイ的な、といった意味で「キャンプ」が用いられるようになりました。言い換えるとこれは、ドラァグクイーン的なスタイルです。現実には、社会から抑圧され、生きづらく、様々な困難に直面していたゲイ(クィア)たちが、ゴージャスさとチープさの両極端に美を見出したり、普通でかしこまったものをパロディにしたり、といったパフォーマンスによって、徹底して世界を自分たちの審美眼(様式美)で捉え、アイロニカルに現実を笑い飛ばしていくような態度です(映画『パリ、夜は眠らない』で、貧困地区に生きる黒人のクィアたちがお金持ちの身振りを真似てヴォーグに取り入れていく様が描かれていましたが、まさにそういうことです)
 
 「キャンプ」が現在のような意味合いとして世界的に広まるきっかけとなったのは、スーザン・ソンタグ※が1964年に著した『キャンプについてのノート(Notes on "Camp”)』というエッセイでした。自らもクィアであった彼女は、ドラァグクイーンの美学である「キャンプ」の中にヘテロセクシュアルたちが作り上げたメインストリームなものへの抵抗(レジスタンス)を見て、これを世に広めようとしたのです。
 『キャンプについてのノート』によると、「キャンプ」とは、世界を芸術現象として見る審美主義であり、その見方の基準は美ではなく、人工もしくは様式化の度合いです。内容に対して様式が、道徳に対して美学が優先します。「感覚の自然なあり方」よりも「不自然なもの、人工的なもの、誇張されたもの」を愛好する感受性であり、「不真面目な悪趣味」や「失敗した真面目さ」に価値を見出す美学です。「キャンプのエッセンスは不自然さへの愛、つまり偽物と誇張である」「キャンプとは何か異常なことをしようとする試みのことである。ただ、異常なといっても、特別な、魅力的なという意味においてであることが多い」「キャンプの経験は、高尚な文化の感覚だけが洗練を独占しているわけではないという大発見に基礎をおいている」「キャンプとは一種の愛情––人間性に対する愛情––である」とも書かれています。
 
※スーザン・ソンタグはアメリカを代表するリベラル派の知識人で、バイセクシュアルであることをオープンにしており、写真家のアニー・リーボヴィッツ(ジョン・レノンとオノ・ヨーコの最後の写真や、デミ・ムーアの妊婦姿のヌードが有名)と交際していました。

 日本では、「キャンプな」という意味の「キャンピー(campy)」という言葉もよく使われます。

 

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