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【追悼】トランスジェンダー女優(ドラァグクィーン)アレクシス・アークエット

2016年09月30日

 映画『ブルックリン最終出口』『パルプ・フィクション』『ウェディング・シンガー』や大人気ドラマ『フレンズ』に出演してきた女優であり、伝説の「ウィッグストック」にも出演したドラァグクィーンであり、またトランスジェンダーへの理解を求める活動も行っていたアレクシス・アークエットが9月11日に亡くなりました。47歳でした。心よりご冥福をお祈りいたします。

 アレクシスは俳優ルイス・アークエットの次男として生まれ、兄リッチモンド、姉ロザンナ(『グラン・ブルー』)とパトリシア(『ミディアム 霊能者アリソン・デュボア』)、弟デヴィッドもみんな役者という芸能一家で育ちました。12歳で演技を始め、映画やTVに多数出演。『ウェディング・シンガー』でカルチャークラブのボーイ・ジョーの役を務めたことで有名になりました。また2006年にトランスジェンダーであることを公表し、2007年の『Alexis Arquette: She's My Brother.』では、自らの女性へのトランスの過程(性別適合手術のプロセス)を公開するなど、トランスジェンダーへの理解を深める活動も行ってきました。

『ウィッグストック』という映画をご覧になった方もいらっしゃると思います。ウッドストックのように野外で、たくさんのドラァグクイーンが次々にショーを繰り広げるフェスの模様を記録したドキュメンタリーです。ビックリするくらいゴージャスなクイーンもいれば、これって女装なの?って思っちゃうような人たちもいれば、お腹をよじらせながら笑ってしまうショーもあれば、感動で涙してしまうようなショーもあり、本場のドラァグの世界の底知れなさや懐の深さに感銘を受け、ドラァグってなんて素晴らしいんだ…と思わずにいられない映画です。
 その映画『ウィッグストック』についてアレクシスと監督のバリー・シルズが語るトークショーが、今年5月、ル・ポールのDragConというイベントの中で行われました。アレクシスは監督の背中を押し、資金調達も申し出て、そのおかげで映画製作が実現したんだそうです(いわば恩人です)。アレクシスはこのトークショーのために久しぶりに『ウィッグストック』を観て、涙を流したんだそうです。「今日3回泣きました」「ドラァグに興味のある方たちはぜひ観てください。ドラァグクィーンからスーパースターも生まれます。素晴らしいこと」「でも、特殊な人たちのやることだと思わないで。メイクが上手くないから無理とかって思ってほしくない。ドラァグの人生を生きるって本当に素敵。たとえスターバックスの店員でも、アイデアがあれば何でもできます」。監督のシルズは、「明らかにこの映画は、そういうこと(なりたいものになれるということ)を描いている。あの頃のニューヨークはスゴかった。スゴいクイーンたちが集まってた。同時に、エイズの危機も頂点に達していた。映画ではあえてエイズのことは描かないようにした。けど、ある人たちにとってはこの映画はオマージュになってる。本当にたくさんの出演者たちが、もうこの世にいないんだ…」
 このトークショーの映像が、アレクシスが亡くなった翌日に公開されました。

 アレクシスは兄弟たちに見守られながら息を引き取ったそうです。兄のリッチモンドがFacebookに兄弟4人からの声明文を発表しています。
「アレクシスは才能あるアーティスト、画家、シンガー、エンターテイナー、女優でした。その生涯は短いものでしたが、本当の自分の姿を伝える決心をし、トランスジェンダーの女性として生きてきました。トランスジェンダーの役者に与えられる役はほとんどないのがこの世界ですが、それでも彼女は自分を否定するような、型にはめられた役は演じませんでした。トランスジェンダーを受け入れてもらうための闘いの中で先陣を切っていたのです。兄弟のロバートとして生まれたアレクシスを、我々は生まれた瞬間から愛してきました。彼女は我々に寛容さ、本当の愛や勇敢さとは何かを教えてくれました」
「彼女は愛に囲まれながら亡くなりました。私たちは彼女を抱きしめて、あちらの世界に行くベールをくぐる時にデヴィッド・ボウイの『Starman』を歌いました。私たちは彼女の体をバラの花びらで洗い、彼女のまわりを花で囲みました」
「私たちはいつもあなたを愛しています、アレクシス。私たちは幸せでした」
 アークエット家は、アレクシスに花を贈る代わりにLGBTQコミュニティをサポートする団体への寄付を呼びかけているそうです。

 その後、オスカー女優でありニコラス・ケイジの元妻でもあるパトリシア・アークエットは、「もし輪廻というものがあるのなら、神様にこうお祈りします。私達と同じくらいアレクシスを愛してくれる家庭のメンバーとして、(妹が)再び生を受けますように」「みなさん、私達一家のために祈り、サポートをしてくださったことに感謝します」とツイートしました。
 また、兄リッチモンドはFacebookでこうコメントしています。「死に至るまでの数日間、妹にはこう言われました。『すでにあの世に足を踏み入れているけれど、あの世には性別がないの。あちらでは、この世で私達を分断しているものからは自由になれる。みんながひとつに団結しているの』と」

 SNSで最初に追悼メッセージを送った著名人の一人はボーイ・ジョージでした。「安らかにお眠りください、僕の妹アレクシス・アークエット。またひとつの光があまりにも早くいってしまった。家族とアレクシスを愛した人たちみんなに愛を」 
 エルヴァイラ(ゲイに人気のB級ホラー番組司会者)は「友人であるアレクシス・アークエット、安らかにお眠りください。遺族に愛と哀悼の意を表します」とコメント。
 女優のコートニー・コックスは「運よくアレクシスを知った人たちに心から悲しみを感じています。私たちはあなたを永遠に愛し、忘れることはないでしょう」とツイート。
 著名なLGBT団体GLAADも「アークエット一家にお悔やみ申し上げます」とコメントしています。

 アレクシスが亡くなって1週間後、親友のドラァグクィーン、シャム・イブラヒムがクラブで追悼イベントを開きました。「彼女はクラブが大好きだったからね」
 シャムはこうも語っています。
「アレクシス・アークエットのような人はこの世に二人といません。世界は本当に貴重なタレントを失いました」
「アレクシスは常に女性でした。だから性別移行も自然だと思えました」
「彼女はいつも輪の中心になっていて、恋愛関係も華やかでした」
 また、ハリウッドのメインストリームではいつも差別に直面していた、とも。「特にハリウッドのロック系のクラブなんかに行くと、男たちが彼女に「女装の化け物」って言いながら物を投げつけてきたり…」

 なお、死因は正式には公表されていませんが、『People』誌がエイズに関連する合併症だったと報じ、また、元恋人のロバート・デュポン(アンディ・ウォーホルの親友。90年代からアレクシスとデートしていた)は「アレクシスはエイズを患っていて、手術不可能な腫瘍も抱えていましたし、感染症も起こしていました」とRadarOnline.comに語りました。20日には、ゴシップサイト「TMZ」が彼女の死亡診断書を公開しました。アレクシスは29年前からHIVに感染しており、3年前から心筋症を患い、亡くなる3週間前に心臓の細菌感染症にかかり、心不全で亡くなったとのことです。
 これについて有名なゲイブロガーのペレズ・ヒルトンは、「彼女が18歳の時からシリアスな状況にありながら、あれだけの輝かしいことを成し遂げてきたのは驚くべきこと」「このニュースを聞いたからといって、アレクシスへの愛は変わらないよ」と語っています。

 たとえHIVに感染しても、早期にわかってきちんと治療すればずっと元気にやっていける時代です。なぜ、アレクシスのような恵まれた環境にある人が…と思う方は多いことでしょう。
『HIV plus magazine』はアレクシス・アークエットと、その前日に肺炎(合併症なのではないかと疑わざるをえない)で亡くなったレディ・シャブリー(アフリカ系トランス女性のキャバレー・パフォーマー)について、「スポットライトの中で生活し、キャリアもあった彼女たち。全米トップクラスの病院だったのに…。トランス女性であるというだけで医療における不平等に直面する。トランスジェンダーを適切に診れる病院も少ない。リソースにアクセスできない。ハリウッドでさえ、トランス女性が直面する医療の不平等を救えなかった」と書いています。
 また、同誌の「なぜトランス女性はHIVにかかりやすいのか?」という記事によると、そもそも雇用差別禁止法にトランスジェンダーが含まれていない州も多く、トランス女性が職場でハラスメントや差別に遭う確率は90%にも上る、トランス女性の貧困率は平均の4倍で、5人に1人がホームレス状態にあり、結果、多くのトランス女性がセックスワークを余儀なくされています。そして、アメリカでは売春で逮捕されることもありますが、警察はトランス女性を狙い撃ちしがちで、いくつかの大都市ではコンドームを持っていることが売春の証拠とみなされているため、コンドームを持ち歩けず、結果、リスキーなセックスをする人も多いといいます。トランス女性のHIV感染率は平均の49倍に上り、アフリカ系トランス女性の実に56%がHIV陽性であるという調査結果もあります。そして、HIV感染がわかっても、アンチレトロウイルス薬を毎日飲んでいる人は少ないという現状もあります。トランス女性のホルモン治療は保険でカバーされておらず、高コストで維持するのが難しい、ということに加えて、あえて薬を飲まない人も多いそうなのです。「国立医療センターは、HIV治療がホルモン治療を台無しにすると考え、HIVの薬よりホルモンを優先させるトランス女性が多いと報じている」 
 スティグマ(社会的に付与された不名誉、汚名)と制度的な差別、経済的な困難、医療不信など、様々な困難が相まって、トランス女性をHIV治療から遠ざけているのです。
 
 人権団体「ヒューマン・ライツ・キャンペーン」のコミュニケーション・ディレクター、ジェイ・ブラウン氏は、「アレクシスはトランスジェンダーが直面する多くの障壁を乗り越え、誇りを持ってオープンに生きた驚くべきパイオニアでした。トランスジェンダー女性は、平均よりも49倍もHIVに感染しやすいという調査結果がありますが、不釣合いにHIVの影響を受け続けているトランスジェンダーの人たちが予防や治療にアクセスしやすくなるよう対策を取ることが急務だと考えます」との声明を発表しています。



 

アレクシス・アークエット死去 ボーイ・ジョージを演じ、ハリウッド中から愛されたトランスジェンダー俳優(The Huffington Post)
http://www.huffingtonpost.jp/2016/09/14/alexis-arquette_n_12002814.html

死に祝福の歓声…本人が希望 トランスジェンダー女優、死後の性別はひとつと語っていた(シネマトゥデイ)
http://www.cinematoday.jp/page/N0085967

俳優一家アークエットのアレクシスが死去(海外ドラマNAVI)
http://dramanavi.net/news/2016/09/post-5216.php

トランスジェンダーの女優アレクシス・アークエットさんが死去 享年47歳(TVgroove)
http://www.tvgroove.com/news/article/ctg/1/nid/30319.html

トランスジェンダーの女優アレクシス・アークエットさん、47歳で死去(ハリウッドニュース)
http://www.hollywood-news.jp/news/%E6%B5%B7%E5%A4%96%E3%82%B4%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%97/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%81%AE%E5%A5%B3%E5%84%AA%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%A8.html

トランスジェンダー女優アレクシス・アークエット 死因は「エイズの合併症」か(マイナビニュース)
http://news.mynavi.jp/news/2016/09/13/157/

Alexis Arquette Talked About Drag, Career Months Before Death: Watch(US WEEKLY)
http://www.usmagazine.com/celebrity-news/news/alexis-arquette-talked-about-drag-career-months-before-death-w439347

Alexis Arquette's Close Friend on the Late Star's Magnetic Spirit and Gender Fluidity(People)
http://people.com/celebrity/alexis-arquettes-close-friend-sham-ibrahim-on-the-late-stars-gender-identity/

Alexis Arquette, Lady Chablis, Trans Health, and the Tabloid Response to HIV(HIV plus magazine)
http://www.hivplusmag.com/stigma/2016/9/13/alexis-arquette-lady-chablis-trans-health-and-tabloid-response-hiv

Why Transgender Women Have the Country's Highest HIV Rates(HIV plus magazine)
http://www.hivplusmag.com/case-studies/2013/04/08/invisible-women-why-transgender-women-are-hit-so-hard-hiv

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