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トランプ大統領の「トランスジェンダー従軍禁止」発言に対して各方面から一斉に非難の声が上がりました

2017年07月27日
 

 トランプ大統領が7月26日22時頃(現地時間)、Twitter上で「私の将軍たちと軍事専門家と相談した結果、アメリカ政府はトランスジェンダーがいかなる形でも軍で働くことは認められない。われわれの軍は圧倒的な勝利を収めることに集中しなければならず、トランスジェンダーがもたらす多額の医療コストや混乱を負担できない」と述べました。
 
 LGBTの権利擁護に大きな前進を見せたオバマ前政権は、昨年、「世界でもっとも優秀な戦闘部隊を維持するため、役に立つすべての人材が必要」だとして、米軍のトランスジェンダー入隊禁止規則を撤廃すると発表し(方針には、軍ですでに勤務する人々が性別移行を希望した場合の医療支援も含まれていました)、国防総省も承認、実際の受け入れ体制を整えるため1年間の期間が設けられ、7月1日から施行される予定でしたが、トランプ政権のマティス国防長官が6月30日、この政策の施行を半年間先送りすると発表していました。
 トランプ政権は(選挙中はLGBTに向けて「あなたたちのために戦う」などと語っていたにもかかわらず)LGBTの権利擁護に否定的な姿勢を見せています。今年2月には、オバマ前政権が全国の公立学校に対して生徒が自分が望む性別のトイレや更衣室を使うことを認めるよう求めた通達を破棄しています。また、速報ですが、こちらのニュースでお伝えしたように、現在、連邦裁判所における裁判で、公民権法で定められている性差別禁止条項に同性愛者が含まれるかどうかが大きな議論となっていますが(含まれないとすると、州によっては、同性愛者が解雇されても何も言えないことになります)、トランプ政権の司法省が同性愛者は含まれないとする立場を連邦裁判所で主張する方針であることを発表しました(詳しくはこちら
 
 トランプ大統領が示した方針が、すでに入隊しているトランスジェンダーの人たちにも適用されるのか、今後入隊を希望する人に限定されるのかどうかは不明です。また、トランスジェンダーの軍人の強制除隊を可能にする法的根拠もはっきりしません。
 国防総省が積極的にトランスジェンダーの軍人を除隊させようとする場合、人権をめぐる大きな訴訟に発展する可能性が高いと専門家は指摘します。
 
 26日のホワイトハウスの記者会見では、この件に関する質問が相次ぎました。
 サラ・サンダース報道官は、入隊禁止の措置がすぐ実施されるわけではないと述べました。「国防総省とホワイトハウスが協力して進めることになる」「今回の決定は軍の決定に基づくものだ」として、具体的な検討は今後進められると述べるにとどまりました。

 すでに米軍に入隊しているトランスジェンダーの人数は2000人弱とも1万人以上とも言われています(国防総省傘下のシンクタンク、ランド研究所による推計では、2016年時点で、約4000人のトランスジェンダーが現役もしくは予備役として米軍にいたそうです)

 ランド研究所の調査では、トランスジェンダーの受入れによって増えるコストは、米軍全体の医療費のうちわずか0.13%だと指摘されています。
 米軍紙ミリタリー・タイムズによると、国防総省が勃起不全解消薬「バイアグラ」に支出する額だけで、増加予想額の5倍に達しています。

 今回のトランプ大統領のトランスジェンダー排除の方針発表を受け、各方面から一斉に非難の声が上がっています。

 議会下院の民主党トップ、ペロシ院内総務は声明で「危険を冒して国を守っているトランスジェンダーの人たちを侮辱する決定で、軍を弱体化させるだけだ」と批判しました。

 アメリカ医師会は会長名で「トランスジェンダーを軍から除外する医学的な根拠はない。トランスジェンダーがもたらす医療コストは国防予算の誤差の範囲で、愛国心のあるアメリカ人が国に奉仕する機会を拒否する口実に使われるべきではない」との声明を発表しています。

 アメリカ最大の人権団体、全米市民自由連合(ACLU)は「ひどい行動」と非難。「国家のために前線にいる数千のトランスジェンダーたちは、基本的人権を否定する最高司令官より尊敬に値する」との声明を発表しました。

 LGBTQの権利擁護団体GLAADは「アメリカ人のトランスジェンダーたちへの直接的な攻撃」だと非難しています。
 
 性やジェンダーに関する軍の状況についての研究で知られるパーム・センターを率いるエアロン・ベルキン氏は、かつて同性愛者が「聞かざる、言わざる」政策の下で存在していたのと同じような状況に、トランスジェンダーの人々が置かれるようになると指摘しました。

 トランスジェンダーのチェルシー・マニング元上等兵はトランプ氏の発表を受けて「地球上で一番大きく、強く、お金持ちの軍がトランスジェンダーのことで文句を言うのに、F35(戦闘機)には資金を出すんだ? 臆病に見えるな」とツイートしました。

 米グーグルやフェイスブックなどIT企業のトップも続々と声明を発表しています。
 フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは「誰であろうと、誰もが自分の国に貢献できるべきだ」と投稿しました。
 グーグルのスンダル・ピチャイCEOは「軍隊に服務しているトランスジェンダーの人々に感謝している」と投稿。
 アップルのティム・クックCEOも「私たちは軍役についているすべての人に恩がある。誰かに対する差別は、すべての人を後退させる」と続きました。
 Twitterの共同創業者でCEOを務めるJack Dorsey氏も「どのような形であれ、差別は私たちすべてにとって間違いだ」とツイート。
 Microsoftの社長であるBrad Smith氏も「われわれは、米軍に所属するトランスジェンダーの人たちを含め、国のために尽くしているすべての人々を尊敬し、尊重する。#LetThemServe」とツイートしています。

 セレブも同様にコメントを発表しています。
 レディー・ガガは、「あなたが今送ったメッセージは、アメリカ国内や海外で勇敢に国のために尽くしている人々の命を危険にさらしました」と大統領のアカウントに向けてリプライを飛ばしました。「高校生、大学生、そして職を持つ若い人たちの少なくとも半数は精神的な問題について誰ともほとんど、または全く相談しないという研究結果があります」「これらの若者の多くはトランスジェンダーで、あなたのメッセージが助長するものと全く同じタイプの社会的孤立やいじめに日々苦しめられています」「大統領、真面目に(聞きますが)、あなたが今日名指ししたグループの45%、18歳から24歳の間の人々がすでに自殺を試みていることをご存じですか?」 
 ケイティ・ペリーは「私たちが自由に生きる権利を守ってくれる人たちは、自由に従軍できるべきです。いまも数千人もの(トランスジェンダー)の人が従軍しています」とツイートしました。
 デミ・ロヴァートは「トランスジェンダーのコミュニティに、私はあなたたちを愛しているということと、何があってもあなたたちは支援されていると伝えたいです」とツイートしました。
 ほかにもサム・スミスやアリアナ・グランデ、キム・カーダシアンらも非難の声を上げています。
 
 26日夜、ホワイトハウスの前には200人以上の人が集まり、トランプ大統領に抗議する集会を開きました。
 集まった人たちは「トランスジェンダーの軍隊を守れ」などと書かれたプラカードを掲げ、「トランスジェンダーの人たちは負担ではない」とか「これは民主主義ではない」などと訴えました。
 参加者の一人は「私自身もトランスジェンダーで、海軍で働いていた経験があるので、ショックや怒り、そして裏切られたという思いでいっぱいです。軍にいる人は皆、アメリカを守ろうという同じ思いを持って仕事をしているのに、トランスジェンダーかどうかで差別されるというのは、納得できません」と語りました。
 また別の参加者の男性は「トランスジェンダーに対してもイスラム教徒に対してもトランプ大統領のスタンスは同じで、ある一部のグループに対して、そのほかの人たちと同じ権利を認めないという、アメリカらしくない考え方です。トランスジェンダーにもそうでない人たちと同じ権利を認めるべきです」と訴えました。

 ニューヨークでも同日、抗議集会が行われました。
 タイムズスクエアで行われたデモには数百人が集まり、初めに元陸軍のトランスジェンダーの方が「私はこの国を愛している。軍で働く権利はすべての人の権利であるべきだ」と訴えました。
 集まった人たちは「トランスジェンダーの権利は人権だ」と書かれたプラカードを掲げたり、「立ち上がって抗議しよう」と訴えました。
 昨年、10年間務めた空軍を退役したという女性は「今も軍で命をささげているトランスジェンダーの人たちを知っているので、憤りと同時に悲しみを感じている。命をささげることの意味を知らないトランプ大統領は危険な存在だ」と話していました。
 また、別の男性は「これはロシア疑惑などから目をそらすためのものだ。トランプ大統領は選挙キャンペーン中はLGBTに友好的だとしていたが、それは嘘だったことがわかった」と話していました。

 トランプ大統領が発したトランスジェンダー排除の方針はひどいものでしたが、一夜にして、これだけ多くの方たちがトランスジェンダーのために声を上げ、行動を起こしたことには感銘を受けました。トランプならやりかねないことだと冷笑するのではなく、即座に、敢然とNOを言う素晴らしさ。この大きな声が大統領に届き、差別的な方針が撤回されることを祈ります。
 
【追記】
 27日(現地時間)には、米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長は、今回の大統領の方針は事前に知らされておらず「不意打ちを食らった」と述べ、「正式な指示があるまで変更はない」とする通達を出しました。
 また、日経新聞が報じた英フィナンシャル・タイムズ紙の分析によると、トランプ大統領が、米軍内でトランスジェンダーであることが公言できるようになってわずか1年で入隊禁止を言い渡したのは「党の利益のために性的マイノリティを犠牲にする残酷で利己的な試み」であり、「同氏は自分の政治課題がスキャンダルでまひした状態であり続ける限り、こうした戦術を使い、文化戦争を起こしてリベラル派を激怒させる一方で社会的に保守派の共和党の支持基盤を活気づける誘惑に駆られるだろう」と述べられています。




トランプ大統領「軍にトランスジェンダー認めぬ」(NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170727/k10011076101000.html

米大統領、トランスジェンダーの入隊認めず(日テレNEWS24)
http://www.news24.jp/nnn/news890153952.html

米IT企業が相次ぎ非難 トランスジェンダー入隊認めず(日経新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG27H2D_X20C17A7CR0000/

トランプ氏、トランスジェンダーの米軍入隊を禁止(朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/ASK7V7HWSK7VUHBI03C.html

トランプ氏 トランスジェンダーの人、米軍勤務認めず(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20170727/k00/00m/030/165000c

米軍、トランスジェンダー認めず トランプ大統領表明、反発必至(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017072601001738.html

米大統領、トランスジェンダーの米軍入隊を禁止へ 訴訟の恐れも(Yahoo!ニュース ロイター)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170727-00000019-reut-n_ame

トランプ米大統領 トランスジェンダーの軍入隊禁止を表明(BBC)
http://www.bbc.com/japanese/40737330

トランプ米大統領、トランスジェンダーの米軍入隊を禁止へ(CNN)
https://www.cnn.co.jp/usa/35104865.html

「トランスジェンダーのアメリカ軍での勤務を禁止する」トランプ大統領が発表(HuffPost US)
http://www.huffingtonpost.jp/2017/07/26/trump-us-military-transgender_n_17592760.html

トランプ大統領「トランスジェンダーの米軍入隊禁止」発言にIT業界トップが反発(CNET)
https://japan.cnet.com/article/35104863/

トランプ大統領の「トランスジェンダーは軍に入れない」発言にIT系CEOが一斉に反対(ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1707/27/news043.html

レディー・ガガ、トランプ米大統領のトランスジェンダー差別を批判(AERA)
https://dot.asahi.com/billboardnews/2017072700026.html

トランプ米大統領 トランスジェンダー「禁止」発言 米軍トップも困惑「方針変更しない」(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20170728/dde/007/030/038000c

【Financial Times】トランプ氏のトランスジェンダー兵攻撃は誤り(日経新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM28H0K_28072017000000/

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