REVIEW
シザー・シスターズ『ナイト・ワーク』
NYのクラブ・シーンが生んだゲイ・ユニット、シザー・シスターズの4年ぶりのニューアルバム『Night Work』が発売されました。今までのバリエーション豊かなポップ路線とはひと味違う、洗練されたパーティ・アルバムに仕上がっています。でも、その楽しいダンス・チューンの背景には、ある思いが込められていました…
シザー・シスターズはニューヨークのゲイシーンから誕生したジェイク・シアーズ(元GO-GO BOYのゲイ)、アナ・マトロニック(バイセクシュアル)、ベイビーダディ(ゲイ)、デル・マーキー(ゲイ)の4人組ユニットです。ちなみに紅一点のアナは、彼らとNYローワー・イースト・サイドのハロウィン・パーティで知り合ったそうで、アナもかなりキテレツな格好をしてたそうです(笑)
そして6月30日、ファンが首を長くして待っていた4年ぶりのニューアルバム『Night Work』が到着! アルバム発売に先がけ、1stシングル「Fire With Fire」のPVがリリースされました(偶然にもほとんどカイリーのNEWシングル&アルバムと同じタイミングでした)
過去のアルバムは、多種多様なジャンルの曲がまるでパッチワークのように組み合わされたバラエティ色豊かなポップ・アルバムでしたが、『Night Work』はほぼ一貫してダンス・ミュージック。ジェイクも「パレットの中の色数を減らしてみた」と語る通り、統一感のあるパーティ・アルバムに仕上がっています。
ジャケットはかの有名なロバート・メイプルソープの写真が使われていますが、初め、ジェイクがメイプルソープの写真を使おうと提案したときは、メンバー全員に反対されたんだそうです。それでもこの写真が使われることになったのには、深い理由がありました。ジェイクはこのように語っています。(こういうインタビューが載っているライナーノーツって素晴らしいと思います)
「今作のコンセプトの1つは、70年代から80年代のNYを中心としたアメリカのゲイシーン。
あの時代がいかに解放的で、進歩的で、享楽的だったか。大勢のアーティストが台頭してディスコ・ムーブメントが起きた。パトリック・カウリー、シルヴェスター、クラウス・ノミらが出て来て、パーティも盛り上がって、みんながカミングアウトした素晴らしい時代だった。ところが、いきなり大勢の人たちが突然次から次に死に出した。そんな時代の流れ。僕は15歳のときにカミングアウトしたけど、その時もまだエイズは深刻だった。その脅威におびえながら生きていた。でも、あの時代にはとても魅力を感じるんだ。
そして考えた。もし、シルヴェスターやクラウスが生きていたら、音楽はどうなっていただろう?ってね。あのパーティの行き着く先はどこだったんだろう?って。
だからこのアルバムでは、当時途切れてしまったところから歴史を引き継ぐつもりで、さっき話した疑問を投げかけながら、『実はあのパーティでは終わらなかったんだ』という仮定の下で遊んでるんだ。それがこのアルバムの核なんだよ。
アートワークにメイプルソープを使ったのも、彼があの時代を体現しているからなんだ。あの時代ならではの快楽主義、美、闇、そして悲劇、それらすべてを象徴している。
ジャケットのお尻はピーター・リードというバレエ・ダンサーだよ。本当に美しい、華麗な人だった。彼も80年代に他界してるんだ。ゲイシーンにとっての母親みたいな存在の人たちと自分の人生の間にたくさんの類似点がある気がする。それがジャケットに込めた思いだよ。それに、遊び心があるイメージでしょ? 艶かしくて、喜びを感じさせてくれると同時に、繊細な背景もあるという」
『Night Work』は、単純にパーティを楽しもうというだけじゃなく、輝かしいゲイ・ディスコ時代へのオマージュであり、エイズで亡くなった先人たちへの鎮魂歌なのでした。
そう言えば、アナのお父さんもゲイで、彼女が15歳の時にエイズで亡くなったのでした。「エルトンがやっているような素晴らしいチャリティ活動に私も参加したい」と語っているように、彼女もジェイクと同じ思いを共有していたのでした。
そういった背景を踏まえたうえでこのアルバムをじっくり聴くと、底抜けの明るさの奥に一抹の『悲しみ」があるのを感じます。聴けば聴くほど、深みが増し、味わい豊かになっていくアルバムです。
8月1日(日)にはフジロックフェスティバルに出演することが決定しています。生シザーズを観たい方はぜひ、お出かけください。
また、カイリーと同様、MySpace上でカラオケコンテストが開催されており、最優秀3名はアーティスト本人が決定し、なんと来日の際に一緒にカラオケに行くことができるそうです!
シザー・シスターズ カラオケコンテスト
■応募期間
7月1日(木)〜7月14日(水)
■賞品(ユニバーサル・インターナショナルご提供)
・優秀賞 3名:シザー・シスターズ本人らと一緒にカラオケ(※1優秀賞者につき2名様まで友人を同伴することが可能です)
・一次審査通過賞 20名:サイン入りグッズ
詳細はこちら
『ナイト・ワーク』
ユニバーサルインターナショナル/2,200円 (税込)
1. ナイト・ワーク
2. 新しいのがお好き
3. ファイアー、ファイアー、デザイアー
4. お気に召すまま、気の向くまま
5. ハードに鳴らせ
6. 最後のひとしずく
7. イイ感じ、コンナ感じ
8. ボクの子猫ちゃん
9. くっついていたい
10. セックスとバイオレンス
11. 夜行性
12. 見えざる光
13. ファイアー、ファイアー、デザイアー ~Digital Dog Radio Remix (ボーナス・トラック)
14. 見えざる光 ~Us Mix (ボーナス・トラック)
15. 見えざる光 ~Siriusmo Remix (ボーナス・トラック)
INDEX
- クィアでブラックなミュージカル・コメディ・アニメドラマ『ハズビン・ホテルへようこそ』
- 涙、涙…の劇団フライングステージ『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第二部
- 心からの拍手を贈りたい! 劇団フライングステージ 『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第一部
- 40代で性別移行を決意した人のリアリティを描く映画『鏡をのぞけば〜押された背中〜』
- エストニアの同性婚実現の原動力になった美しくも切ない映画『Firebirdファイアバード』
- ゲイの愛と性、HIV/エイズ、コミュニティをめぐる壮大な物語を通じて次世代へと希望をつなぐ、感動の舞台『インヘリタンス-継承-』
- 愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
- なぜ二丁目がゲイにとって大切な街かということを書ききった金字塔的名著が復刊:『二丁目からウロコ 増補改訂版--新宿ゲイ街スクラップブック』
- 『シッツ・クリーク』ダン・レヴィの初監督長編映画『ため息に乾杯』はゲイテイストにグリーフワークを描いた素敵な作品でした
- 差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描いた名作ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
- 春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
- アート展レポート:キース・へリング展 アートをストリートへ
- レナード・バーンスタインの音楽とその私生活の真実を描いた映画『マエストロ:その音楽と愛と』
- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
SCHEDULE
- 03.19XO7
- 03.20RADWIMPSナイト3 〜無人島に持っていき忘れた一曲〜