REVIEW
映画『クセニア』(TILGFF2015)
第24回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で観た作品のレビューをお届けします。5本目はクロージング作品だった『クセニア』です。
第24回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で観た作品のレビューをお届けするシリーズ。5本目はクロージング作品だった『クセニア』です。クロージング作品はこれまで、せつなさあふれる映画だったり、逆にパンクなテイストだったり、いろいろでしたが、今回は、ゲイの弟とノンケの兄による一風変わったロードムービー(珍道中)でした。2014年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品作。ベルギー王国大使館と、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本の後援によって上映されました。
あらすじはこんな感じですが、個々のエピソードが実に多岐にわたっていて、いろんな要素が入っている作品でした。
いちばん注目していたのは、ダニーのオディへの(禁断の)愛です。初めの方で、ダニーがオディの部屋(同居人がいて、瞬間的にしか登場しないのですが、かわいかったです)に行ったとき、ダニーは明らかにオディの生着替え(鼻血モノ)をガン見していて、ああ、お兄さんのことが(性的な意味で)好きなんだなあ…って伝わってきました。その後の旅の中で、森のホテルでオディの誕生日祝いをやるシーンがあるのですが、酔っ払ってパンツ一丁で踊っていたオディがいつの間にかダニーに膝枕する格好で寝てしまい、ダニーはおそるおそるオディの体に触れ…これは絶対そうなる!と思っていたのですが、予想を裏切る展開となり、結局、二人がそういう関係を持つことはありませんでした(でも絶対、ダニーはオディのことが好きなんだと思います)
ダニーは見た目からして典型的なゲイの男の子で、兄のオディは典型的なノンケ野郎っていう描き方なのかな?と最初は思っていたのですが、そう単純ではありませんでした。意外にもオディは歌やダンスが大好きで、ダニーに尻を叩かれてようやくオーディションを受ける決心をするくらいには引っ込み思案なタイプ。一方、ダニーはものすごく行動的だし強気だし、短気だったりもして、周りをグイグイ引っ張っていきます。弥次さん喜多さんじゃないけど、なかなかのでこぼこコンビでした。でも二人はとても仲良しで、いっしょに歌って踊ったり(しかもパンイチとかで)、裸で水をかけあったり(サービスショット)、微笑ましさ満点でした。
だんだん明らかにされていくのですが、ダニーは妄想癖がある子でした(それが映画をファンタジックなものにしています)。彼はクレタ島からずっとうさぎを連れて歩いていたのですが、追われる身となって森をさまよっているとき、うさぎが苦しみはじめたため、オディに「いっそのこと殺して」と懇願します。オディが戸惑いながらうさぎを受け取ると、それはぬいぐるみだったのでした…。それから、クセニアのホテルで夜中、巨大なうさぎのぬいぐるみが現れる(写真右上から4番目)…というとてもシュールな展開になります(実はそのせいで、禁断の情事が回避されたのでした。もしかしたらうさぎは精神分析的に何かを象徴しているのかもしれません)。それと、ダニーは映画の最初と最後にパティ・プラボー本人に会っていますが、どうやらそれも妄想だったようです。
それから、Twitterでどなたかも書いていましたが、この作品には、たびたびファシスト(ネオナチ)が登場します。アテネの街では、昼間から公園に男たちがいて(失業しているのでしょう)、移民を見かけるといちゃもんをつけたりしていました。移民排斥を叫ぶファシストたちは、夜になると武装し、黒人などの移民を襲い、殴る蹴るの暴行を加えていました。ダニーもまた、アルバニア系ハーフであり、ゲイなので、攻撃の対象となり、暴行を受けるわけです。そんなにシリアスな描かれ方ではないのですが(すべてがカラっとしてて、どこか非現実的な作品でしたので)、ギリシアにはこんなひどい現実があるのか…と驚かれた方は多いと思います。
ゲイとノンケの兄弟のロードムービー(珍道中)という枠組みのなかに、実にいろんな要素が詰め込まれている作品で、あまり観たことのないタイプの作品になっていたと思います。もう1回観たら、ディテールで新たな発見があったり、じわじわ来るところがいっぱいありそう♪
INDEX
- クィアでブラックなミュージカル・コメディ・アニメドラマ『ハズビン・ホテルへようこそ』
- 涙、涙…の劇団フライングステージ『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第二部
- 心からの拍手を贈りたい! 劇団フライングステージ 『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第一部
- 40代で性別移行を決意した人のリアリティを描く映画『鏡をのぞけば〜押された背中〜』
- エストニアの同性婚実現の原動力になった美しくも切ない映画『Firebirdファイアバード』
- ゲイの愛と性、HIV/エイズ、コミュニティをめぐる壮大な物語を通じて次世代へと希望をつなぐ、感動の舞台『インヘリタンス-継承-』
- 愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
- なぜ二丁目がゲイにとって大切な街かということを書ききった金字塔的名著が復刊:『二丁目からウロコ 増補改訂版--新宿ゲイ街スクラップブック』
- 『シッツ・クリーク』ダン・レヴィの初監督長編映画『ため息に乾杯』はゲイテイストにグリーフワークを描いた素敵な作品でした
- 差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描いた名作ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
- 春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
- アート展レポート:キース・へリング展 アートをストリートへ
- レナード・バーンスタインの音楽とその私生活の真実を描いた映画『マエストロ:その音楽と愛と』
- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
SCHEDULE
- 03.19XO7
- 03.20RADWIMPSナイト3 〜無人島に持っていき忘れた一曲〜