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映画『ボーイ・ミーツ・ガール』(TILGFF2015)

第24回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で観た作品のレビューをお届けします。6本目はMTFトランスジェンダーを主人公にして各国の映画祭を笑いと感動で包み込んだ傑作ロマンティック・コメディ『ボーイ・ミーツ・ガール』です。

映画『ボーイ・ミーツ・ガール』(TILGFF2015)

第24回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で観た作品のレビューをお届けします。6本目はMTFトランスジェンダーを主人公にして各国の映画祭を笑いと感動で包み込んだ傑作ロマンティック・コメディ『ボーイ・ミーツ・ガール』。とってもクィアでありつつ、誰もが共感できるような、優しさと幸福感に包まれた名作です。


 MTFトランスジェンダーのリッキーはNYの学校に合格してデザイナーになることを夢見ていますが、なかなか合格通知が届かず、お金がなくてSRS(性別再指定手術)も受けられないのが悩みの種。地元のカフェでバイトしながら、家を出た母親の代わりに小さな弟の面倒も見ています。そしてロビーという幼なじみが親友です。
 ある日、リッキーがバイトしているカフェにフランチェスカという美女がやってきて、二人は意気投合。ロビーの心配をよそに、二人は深い仲になっていきます(リッキーの弟が撮影してくれているファッション通信っぽい動画にフランチェスカを出演させたり)。一方、兵士として戦地に派遣されていたフランチェスカのフィアンセでリッキーを毛嫌いしているデヴィッドが帰国して…
 
 パッツンなロングの黒髪。大きく、潤んだ瞳。豊満なボディにセンスのいい服。ちょっと大柄だけど、リッキーは人目を引くような美しい女性です。田舎の小さな町で彼女は、大勢の男たちをトリコにするような魅力を放っています。
 フランチェスカはデヴィッドが帰ってきたら結婚しなければいけないことを少し憂鬱に感じていて、それまでの間、本当の恋がしてみたいと願っていました。リッキーはトランスのことも含めて、自分の抱える悩みをさらけ出します。そして、二人の関係は予想を超えた深いものに…

 その後のシーンでリッキーとロビーが車の中で繰り広げる会話がクィアでよかったです。「これってレズビアンってこと?」「ゲイの定義って何?」みたいな。リッキーは性別移行途中で(ホルモン療法+睾丸摘出でかなり女体に近づいてはいるものの、豊胸もまだだし、肝心のアレもついています)、男性とも女性とも言い難い身体なので、男性か女性かということを基にしたゲイ/ストレートという定義を曖昧にしてしまうのです。「ヒューマン(人間)よ」っていうセリフがよかったです。

 これまでのトランスジェンダーの映画って、不寛容な社会の中での苦悩や闘いを描く、シリアスなものが多かったように思います(それか、ドラァグクイーンやニューハーフのようなパフォーマンスで輝くタイプの作品)。『ボーイ・ミーツ・ガール』(タイトルがイカしてますね)では、リッキーみたいなMTFトランスジェンダーが、小さな田舎町でもちゃんと恋愛できる(どころか、モテモテだったりする)、社会の一員として立派にやっていける、ひとことで言うとハッピーに生きていける、そういう姿を描いているところが新しく、素晴らしいと思います。

 それから、リッキーを取り巻く男たちがよかった。幼なじみで唯一の親友、ロビーは本当にイイ男だと思いました(宣伝用スチールの写りとはけっこう違ってて、スクリーンの方がセクシーに見えました)。リッキーと一緒にいることで、自分も差別的な目に遭ったりしかねないけど、そんなことはおかまいなしで、時にはリッキーを敢然と守る。リッキーのお父さんも同様です。(どうやらお母さんはトランスのことを理解してくれなかったようですが)ずっとあたたかくリッキーを見守り、支えます。年が離れた弟のサムも、リッキーを慕っています(彼は人形遊びが好きで、もしかしたら…?と思わせます)。みんなアライであり、ファミリーなんですね。

 リッキーは、ティーンの頃に、パンク少女みたいな格好で撮った自分語りの映像があり、物語にも重要な役割を果たしますが、最後に、その映像の続きの部分が流れ、感動を誘います。思わずジーンときました。脚本が素晴らしいと思いました。
 今後、どこかで上映される機会があるかどうかはわかりませんが、ぜひもっと多くの方たちに観ていただきたい作品です。