g-lad xx

COLUMN

RUSH裁判のこれまでとこれから

2020年1月18日に開催された「RUSH裁判報告会」のレポートを中心に、RUSH裁判のこれまでの進行と今後の動き、そして改めてこの裁判の意義をお伝えします。

RUSH裁判のこれまでとこれから

2018年9月、二丁目の「Dragon Men」で「RUSHをめぐる最前線」というトークイベントが開催されましたが、RUSHをめぐる裁判は今、大詰めを迎えています。この間の裁判の進行について報告する会が2020年1月18日に新宿文化センター会議室で行われました。この報告会のレポートを中心に、この間の裁判の傍聴のレポート、そしてRUSH裁判の意義について、コラムをお送りします。まず、前提となるRUSHについての基本情報や裁判の経緯について改めて簡潔にお伝えし、それから、裁判の傍聴のレポート、報告会のレポート、最後にこの裁判の意義と、今後の裁判のスケジュールをお伝えします。(後藤純一)
 

基本情報

 亜硝酸エステル類=RUSHは、血管拡張作用があり、吸引してしばらくの間、頭がカーっと血が上ったようになり、括約筋を弛緩させる作用があると言われ、アナルセックスの際によく使用されていました(若い方は知らないかもしれませんが、二丁目のショップで普通に販売されていました)

 2005年、薬事法で販売が規制されるようになりました(所持や使用はお咎めなし)
 2006年、指定薬物※に指定され、違法薬物とみなされることに(同上)
 2014年、指定薬物の罰則が強化され、所持や使用も禁止されることに
 2015年、指定薬物は関税法上の輸入を禁止されることに(販売目的の大量輸入のみならず、個人輸入でも逮捕)
 2015年頃の脱法ドラッグ騒ぎの中で、厚労省は、指定薬物への指定(罰則の強化)などについて、従来、審議から施行まで約4ヶ月かかるような手続きだったものを、パブリックコメントも省略し、2週間で行うようにしました。
 2015年、(おそらく個人輸入でも逮捕されるなんて知らなかった方がほとんどだと思われますが)指定薬物の輸入で関税法違反とされた事件が年間1462件だったうちの9割がRUSHで(おそらくそのほとんどがゲイ・バイセクシュアル男性の方)、2016年は年間477件のうちの7割がRUSHでした。

 ぷれいす東京は、HIVだけでなく薬物関連の相談を受けることが多くなったため、セクシュアルヘルスやメンタルヘルス(薬物使用を含む)に関する情報を発信するLASH.onlineというWebサイトを立ち上げ、薬物使用についてオンライン調査を実施し(7587人が回答)、初めてのドラッグ使用の多くが10代20代の時期で、「相手に誘われて使用した」または「自分の同意がないまま摂取してた」人が多いということ、使ったことがあるのはダントツでRUSHが多く、ついで勃起薬であるということ、使う理由は、快感を高める、現実からの逃避、などであることがわかりました。

※指定薬物:新たに作られたり輸入されたりして世の中に出回るようになった危険ドラッグは、無承認医薬品として輸入・製造・販売等が禁止されますが、指定薬物に指定されると、所持や使用も禁止され、最高で5年以下の懲役および500万円以下の罰金刑が課されます。指定薬物は「医薬品医療機器法」による規制ですが、さらに麻薬に指定されると「麻薬および向精神薬取締法」の対象となり、懲役3年以上の厳罰が課されることとなります。


裁判に至る経緯

 ヒデさんは2015年秋、ネットでRUSHについて検索するなかで、医薬品の輸入代行業者を通じて海外から買えることを知り、12月のクリスマスキャンペーンで一度買って、それは自宅に届きました。当時は、所持や使用が禁止になったということは知っていましたが、関税法(個人輸入でも逮捕される)のことはよく知りませんでした。2回目も購入したところ、2016年1月に税関で引っかかり、違法な行為だったのかと思い、税関に連絡したら、検査結果を待つようにと言われました。そこで4ヶ所の法律事務所に相談したら、職場(役所)を辞めたほうがいいと言われたり、職場に知られないよう略式起訴にできると言われたりしました。同年5月、税関が家宅捜索に入り、2017年3月、警察に行く可能性があると連絡が入り、5月に警官が家に来て、連行され、職場にも伝わり、懲戒免職となりました。同年7月、起訴されました。8月、ぷれいす東京の生島さんに相談し、森野弁護士(府中青年の家事件を担当したことでも知られるアライの弁護士)を紹介されました。森野さんは、そもそも、有害性がほとんどないRUSHの輸入(未遂)で懲役や懲戒免職という処分を受けるのは、刑が重すぎる、とおっしゃって、お二人は、無罪を求めて闘うことを決意しました(同時に公務員懲戒免職処分の取消しも求めています)


裁判のタイムライン

2017年10月、千葉地方裁判所第1回公判(刑事訴訟において、裁判官、検察官、被告人が出席して公開の法廷で行われる審理)。続けて11月、12月、翌年1月にも。
2018年3月、第5回公判、検察側証人:中枢神経薬理学専攻研究者。以降、期日間整理手続き(裁判官、検察官、被告人弁護士が集まり、裁判をどんなふうに進めるか、ポイントは何かを話し合う)に入る。
2018年9月、トークイベント「RUSHをめぐる最前線」開催(コミュニティへの報告)
2019年10月、第6回公判、検察側証人:厚労省職員(指定薬物部会に事務局として携わった担当者)
2019年11月、第7回公判、弁護人側証人:梅野充医師(薬物依存や精神疾患に詳しい医師)
2020年1月8日、第8回公判、被告人質問
 

レポート:第6回、第7回公判

 実は10月の第6回公判、11月の第7回公判を、応援の意味で傍聴に行きました。予想と大きく異なり、殺伐とした雰囲気というよりも、どちらかというと和やかな印象でした。検察の方は「鬼」ではありませんし、裁判官の方もニコニコして朗らかな方でした。

 10月の第6回公判では、当時担当だった厚労省職員の方への尋問が行われ、RUSHが果たして中枢神経に作用する物質なのかどうか、という点について、どんな資料を当たったのか、指定薬物部会でどんな議論が行われたのか、といった点の追及が行われました(指定薬物の要件は、中枢神経系の興奮または抑制または幻覚を引き起こす可能性が高く、人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生する恐れがある物質)。部会で配布された資料は、『アメリカン・ジャーナル・オン・アディクションズ』10巻(2001年)の「(亜硝酸イソブチルを含む)亜硝酸エステル類の神経的症状として、頭痛・めまい・運動失調・失神・鎮静作用・虚弱感が見られ、また、消化器、心臓血管系、血液系、免疫系(特に免疫力低下)等への影響が見られる」というものでした。これを以って中枢神経に作用するという判断に異論はなく、また、RUSHが「乱用」されている実態もあった(ネットでクリーナーと偽装して販売されていた)ため、RUSHが指定薬物に指定されたということでした。しかし、同論文の「行動メカニズム」の項では「性的興奮を高め、肛門括約筋を弛緩させ、オーガスム感が延長される。こうした効果をもたらすメカニズムとして推定されるのは、血管拡張と平滑筋の弛緩である。脳動脈血管拡張は、亜硝酸塩の酩酊による精神的要素を生み出しているようで、脳画像研究によると、脳動脈の血管流に局所的差異は見られないと発表されている」と書かれており、血管拡張と平滑筋(括約筋など)の弛緩であれば、中枢神経への作用には該当しないのではないか、と被告人側弁護士から指摘がなされました(薬理に関する極めて専門性の高い議論が数時間にわたって行われ、膨大な量のメモが手元にあり(録音できないので全てメモ書きです)、これを詳細にレポートするのは難しいものがあったのですが、今回の報告会の話を聞いて、自分の頭の中で論点が整理されたので、最も重要と思われるポイントを抜き書きすることができました)

 11月の第7回公判では、今回の報告会にも登壇したアパリクリニックの梅野充医師(精神保健福祉センターへの勤務実績もあり、薬物依存や精神疾患に詳しい医師)が弁護人側証人となり、RUSHとは一時的に血管拡張と平滑筋の弛緩をもたらすものであり、中枢神経に作用するものではない、今までRUSHによる健康被害の報告(医師にかかった事例)は一件も知らない、有害であるというエビデンスがないのに厳罰的な規制を行うことには問題がある、もっと強い薬物に進んでいく可能性もある、といった、実に明快な証言をしてくださいました(素晴らしい) 


 
レポート:RUSH裁判報告会

 1月18日(土)18時半、朝方は雪(みぞれ)も降ったほどの寒い日で、冷たい雨の降るなか、新宿文化センターの会議室には、この裁判に関心を持つ30数名の方が集まっていて、静かな熱気を感じさせました。
 「RUSHをめぐる最前線」にも登壇した元NHKアナウンサーの塚本さんが司会を務めました。

 初めに森野弁護士がお話しました。
「RUSHを指定薬物として刑罰を課すような行政法規の策定に当たっては、それなりに議論があっただろうと思っていたら、意外とそうではなかったということがわかってきた。指定薬物部会には、薬事の専門家や精神科医などが参加していたのだが、RUSHに関してはあやふやで曖昧な知識しか持たず、ろくに議論されないうちに、危険だとされた。裁判では、裁判官も検察官も議論に抵抗はなく、誠実だと感じる。いろんな方が傍聴に来てくださっているのはありがたい。なんとなく法律で決まっているから、ではなく、世の中をまともな方に変えていこう。今後の人たちのためにも」

 続いて梅野先生の方から、裁判でもお話があったような、RUSHがどのようなものかということ(薬理的なポイント)、指定薬物として規制することへの疑問が提示されました。
「RUSH(亜硝酸エステル類)は元来、狭心症の治療薬として用いられてきたもので(厳密には治療薬は亜硝酸エステル類のうちの亜硝酸アミルで、亜硝酸イソブチルは治療薬としては一般的ではない)、平滑筋が弛緩することによって脳血管を含む血管の拡張が起き、大量の血液流入(RUSH)が起こる。この作用は30秒でおさまる。
 「乱用」には、①医薬品の目的外使用②規定の分量を超えての大量使用③人体に用いると想定されていない物質の摂取④法律で禁止されている使用(未成年の飲酒など)があるが、③④でも事実上問題にならない場合がありうる。本来、物質の「乱用」と言うためには、医学的根拠に基づいて害が実証される必要があるだろう。RUSHについては、科学実証、医学的検証が難しい。
 ところが、RUSHの規制は、わが国の「危険ドラッグ渦」とも言うべき事態に際して、取り急ぎ行われたものと考えられる。規制を社会として反省すべき時期が来ているのではないか」

 それから、裁判を始めたヒデさんの方から、裁判の概要や経過についてお話がありました。今回も、とても丁寧で礼儀正しい、真摯な態度でお話されていました。
 
 弁護団の一人、加藤弁護士からも、裁判に関して補足的なお話がありました(期日間整理手続きとは何か?など)。20種類の薬物の有害性をグラフにした資料が提示され、アルコール(5位)やタバコ(9位)に比べて、RUSHの有害性は極めて低く、19位だったというのが印象的でした。
 
 ぷれいす東京の生島さんから、2018年8月〜2019年12月に実施されたRUSH指定薬物規制についてのアンケートの結果が報告されました。
 半分以上の方がRUSHを所持している(または周りにそういう人がいる)と回答し、20人くらいの方が、税関の取り調べを受けたり、警察や検事の取り調べを受け、起訴されたりした(または周りにそういう人がいる)そうです。この処分は重い、あるいは処分の必要はないと回答した人が半数に上っていました。RUSHの使用で人体に重い症状が現れた方は、ほぼ皆無でした(お1人だけ、鼻が赤くただれたと書いていらっしゃいました)
 また、自由記述欄に書かれた回答も紹介されました。「RUSHが規制されて以降、覚醒剤に手を出す人が増えた」と書いた方がものすごくたくさんいたほか、「RUSHは世界的に規制の対象外であり、危険性は低い。若者が覚醒剤やコカインに走ってしまう。欧米では大麻も解禁の流れになっている」「有害なタバコは適法で、依存性がないRUSHが違法とは、理不尽だ」「パブリックコメント(意見募集)なしで規制を決めたのはおかしい」「取調官の態度からも、ゲイ差別が関係しているようにも感じる」「医学的根拠なしに規制し、人権を剥奪するような国は法治国家ではない」などの声もありました。それから、裁判に対する応援の声が、本当にたくさん寄せられていて、胸が熱くなりました。

 このようなお話の後、質疑応答、交流の時間も持たれました(私はもともと予定が入っていたため、ここで中座させていただきました)

 
 
RUSH裁判の意義

 今回いただいた資料の中で、衝撃的なことが書かれていました。
 2015年、二丁目の路上で職質を受け、液体が入った小瓶を持っていたことから、任意提出を求められ、鑑定の結果、「危険ドラッグ」と判明し、警察から事情聴取を行うと出頭を求められた東京都庁職員の方(59歳)が、聴取予定日の前日に自殺したのです。
 かつて普通に売られ、大勢の人たちに使用されていて、人体への影響などほとんどないことが明らかなRUSHですが、指定薬物として麻薬と同然に扱われるようになったことから、所持していたことを咎められ、死に追いやられる…このような世の中の不条理に、深い悲しみと、憤りを覚えました。
 
「RUSHをめぐる最前線」レポートでも書きましたが、これまでに何千人もの方が、よく知らずに輸入したり、所持していて、逮捕されたり、拘留されたり、職を追われたり、悲惨な目に遭っています。麻薬ほどの有害性のないRUSHでそのような社会的制裁を受けるのは理不尽と言うほかありません。いわば、薬の有毒性ではなく、社会の有毒性によって「人生を台無しに」されているのです。
 そんななか、「法律で決められた以上、従うべき」ではなく(それを言うなら、もし日本で同性愛自体が違法とされ、逮捕されたり死刑にされたりするようになったとしても、甘んじて受け容れますか?という話です)、弁護士さんが味方になって、おかしい法律はおかしいと言おうじゃないか、と裁判が始まりました。現在進行中の同性婚の裁判だけでなく、この裁判もまた、僕らにとって、また、日本の社会にとっても非常に重要な意義を持つ、歴史的な裁判です。ある意味、性に関する適正な法整備を求める闘いです。弁護士さんや梅野先生などの尽力のおかげで、裁判官の方たちにも、この規制の不条理さについて明確に訴えることができているとは思いますが、まだ判決の行方はわかりません。ぜひ適切な判断をしていただきたい(規制の見直しをしてほしい)です。できる限りの応援をしていきましょう。
  
 
裁判の今後

 2020年3月9日、第9回公判、論告弁論
 2020年時期未定 判決?

 3月9日午前、千葉地方裁判所にて、検察側と弁護側双方が最終意見を述べる「論告弁論」が行われます。お近くにお住まいで都合のつく方はぜひ、傍聴にお出かけください(カメラや録音機器は持ち込めませんが、どなたでも傍聴できます。整理券や面倒な手続きもありません)。傍聴する方が多いと、裁判官の方たちにも「こんなに関心が高いのだなぁ」と思っていただけると思います。

 時間等の詳細はこちらに上がるはずですので、チェックしてみてください。
  
ラッシュ(RUSH)の規制を考える会サイト
https://rushcontrol.jimdofree.com/

INDEX

SCHEDULE