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COLUMN

政府が初めてLGBTの人権擁護イベントを後援

5月21日(金)、明治学院大学白金校舎で「セクシュアルマイノリティを正しく理解する週間」記念シンポジウムが行われ、およそ400人もの聴衆が詰めかけました。内閣府や法務省が初めて後援についたイベントの様子をレポートいたします。

政府が初めてセクシュアルマイノリティの人権擁護を支援

 ご存じなかった方も多いかもしれませんが、この5月16日〜23日は「セクシュアルマイノリティを正しく理解する週間」でした。いったいどんな週間だったのでしょう?
 

公式サイトによると、1990年5月17日にWHOの精神疾患リスト(ICD10)から同性愛が削除された日(つまり、IDAHO=国際反ホモフォビアデー)を記念して、この日を含む1週間を「セクシュアルマイノリティを正しく理解する週間」と定め、セクシュアルマイノリティのことなら何でも相談できる「セクシュアルマイノリティ・ホットライン」が開設されたり、シンポジウムが行われたりしたのでした。
 セクシュアルマイノリティを「正しく」理解するとはどういうことなんだろう…その「正しさ」って誰がどのように決めるんだろう…と疑問に思った方もいらっしゃるかとは思いますが(当事者だってよくわからないことだらけですし、ゲイのことについてもいろんな考えを持つ人がいて、決して一枚岩ではないわけですから)、少なくとも、僕らのことをもっと世間に知ってもらい、セクシュアルマイノリティが生きやすい(平等に扱われる)社会に近づいていこうとする、そういう趣旨は伝わるかと思います。
 主催するのは、NPO法人ピアフレンズ、NPO法人GIDmedia、横浜Cruiseネットワークという3つの団体から成る実行委員会。そして、内閣府子ども若者・子育て施策総合推進室と法務省人権擁護局が後援につきました。(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭が文化庁の後援を得たことはありましたが)政府がセクシュアルマイノリティの人権擁護についてのイベントを後援するのは初めてで、画期的なことでした。

 5月17日には明治学院大学白金校舎で記者会見が行われ、内閣府特命担当大臣/男女共同参画・青少年育成・自殺対策担当大臣の福島みずほさんが登場し、「1980年代にハーベイ・ミルクのドキュメンタリーを観て、ゲイということで殺されることがあるんだ、とものすごくショックを受けました。どうやって生きやすい社会を作るか、ということを考えてきました」とゲイに対するシンパシーを語ったり、「同性愛の人が一般の人より自殺を考える人が高い。悩んでいる人が多い証拠。現在作成中の『子ども・若者ビジョン』にもセクシュアルマイノリティのこと盛り込んでいきたい」と、大臣として今後どう取り組んでいくかということも語りました。
 そして、18時から始まった「セクシュアルマイノリティホットライン」の電話応対も担当しました。「性同一性障害のようだが、相談できる相手がいなくて、孤立している」とう10代の子どもや「同性が好き、ということを70年間、誰にも言えなかった」と涙する方などもいたそうです。(blog「フツーに生きてるGAYの日常」でレポートされています)


 5月21日には記念シンポジウムが行われ、会場の明治学院大学白金校舎3号館3201教室には約400人もの人たちが集まり(初めは教室の両サイドに入れないようにテープが張られていましたが、あまりにも来場者が多かったため、途中で外されました。地方からわざわざ来られていたゲイの方もいました)、熱気に包まれました。
 最初に法務省人権局の中村てつじ政務官からの「不当な差別や偏見をなくす取り組みをしていきます」とのコメントが紹介され、砂川秀樹さんの進行のもと、シンポジウムがスタートしました。
 まず、福島みずほ大臣はこのように語りました。(ダイジェストです)
「今回初めて政府がいっしょにセクシュアルマイノリティのことに取り組むことができて本当によかったと思います。私は弁護士としてアカーに呼ばれて話をする機会もありました。私自身、姓を変えたくないため、事実婚という形で婚外子を育て、婚外子の裁判にも関わり、ライフスタイルの多様化を訴えてきました。同性カップルの事実婚のことも地続きだと思います。国会内でいろんな国の同性パートナー法についての勉強会を開催したり、当事者といっしょに法的保障をどのように実現していくかを考えてきました。また、海外で同性婚をしようとする人に対して法務省が婚姻具備証明書を出さなかったことに対して、書き方を変えてできるように求めました。男女共同第三次基本計画の中にも同性愛のことを初めて盛り込む予定です」

 その後、性同一性障害の方の診療と支援に長年携わってこられた針間克己医師が「性同一性障害と自殺」というテーマでお話しました(写真右)。2008年〜2009年に診察した性同一性障害の方たちのうち、FTM(女性から男性になりたい方)では57%、MTFでは71%もの方が自殺を考えたことがあるそうです。胸や性器を切る人もいるそうです。学校では教師が「男のくせに」と先頭に立って虐待をしています。家族からも社会からも孤立している人が大勢いるそうです。
 続いて、『ハートをつなごう』のプロデューサーであるNHKの宮田興さんが「メディアで何ができるか?」というテーマでお話しました(写真右下)。『ハートをつなごう』のLGBT特集にはすでに2000〜3000通ものメールが寄せられ、その中には小学2年生から70代の方までいて、ストレートの方も2〜3割いるそうです。寄せられた様々な要望をもとに、番組制作を続けていくほか、今後、番組の内容をまとめた本も出版する予定だそうです。
 野宮亜紀さん(和光大学非常勤講師、東京プライドや多数の著作でも活躍)は、トランスジェンダーのピアサポート(自助支援)について、また、大学で講義をしてきた経験から、学生から「ヘイトクライムのことを知って衝撃を受けた」「多様性ということの重要性を感じた」といった反応があったことを語ってくれました。そして、砂川さんからの「壁を破っていくために必要なことは何か?」という質問に対して、性同一性障害特例法の実現に貢献した経験から「いじめを受けたり疎外されてきた当事者にとっては困難なことかもしれませんが、ソーシャルスキルを身に着け、政治家などと関係を結んでいくことが大事だと思います」と答えていました。
 コチ株式会社の東田真樹さんは、社会にゲイマーケットを認知させ、企業を動かすことで暮らしやすい社会につながるという信念のもと、働きかけを行ってきたと語りました(今回、SoftbankやAmerican Airlineが協賛についているのも東田さんのおかげです)。また、企業はゲイに商品を売ることだけでなく、社内ダイバーシティ(多様性)教育に取り組むことも重要だと語りました。
 それから、歌手の一青窈さんのコメントが紹介されました。「あなたにできることは無限。私も力になれたらと思います」といった、セクシュアルマイノリティを応援するものでした。
 そこから短い時間ながら、質疑応答が行われました。1つだけご紹介すると、「ゲイはテレビにもよく登場しているが、レズビアン女性が少ないのはなぜでしょう?」という質問に対し、福島大臣が「そこには女性差別があると思います。女性のほうが男性よりも平均給与がはるかに少なく、女性どうしが生きていくことには大変なしんどさがあるのです。そして、男に媚びない女はテレビに出にくい、ということも言えると思います」といったことを語りました。そして、このシンポジウムで唯一なのですが、場内から大きな拍手が起こったのです(ちょっと感動的でした)
 こうして、真剣な熱気を感じさせたシンポジウムは幕を閉じました。

 どの方のお話も印象的でしたが、特筆すべきは、やはり、福島みずほさんの並々ならぬ熱意でした。
 自身のお話にもあったように、福島さんは以前からゲイの権利擁護運動に取り組んできましたし、2004年にはゲイ雑誌『バディ』や『にじ』にインタビュー出演も果たしたり、2007年の東京プライドパレードに駆けつけてスピーチしたりと、素晴らしくゲイフレンドリーな方でした。また、今回のシンポジウムでは、自ら国会議員のための勉強会を開催したり、内閣府特命担当大臣に就任した後、男女共同第三次基本計画や「子ども・若者ビジョン」にも同性愛のことを盛り込むように推進してきたことも語られました。そして、会場から拍手が起こったように、おざなりの知識ではなく、本当にゲイ&レズビアンのことを身近に感じ、応援している、そういう真摯さが感じられました。
 福島さんはこのシンポジウムの後、普天間問題に関して大臣を辞め、社民党は内閣から退いてしまいました。今後、果たして内閣府内での同性愛についての取り組みが進んでいくのかどうでしょうか…。本当に残念です。
 
 シンポジウムには、明治学院大学の学生さんやセクシュアルマイノリティのことに関心を持つストレートの方などもたくさん聴きに来ていましたし(後藤の隣りでアンケートを書いている人もそうでした)、メディアにも取り上げられ、当初の目的通り、セクシュアルマイノリティが様々な課題を抱えていることが一般社会に伝わる機会になったと思います。
 将来、同性婚が実現する日が来るためにも、今後もこうした試みが続いていくことを願うものです。(しかし、今回のイベントが実現したのも福島大臣だったからこそ、という気もします。そして今後、再び福島さんが内閣に戻ることがあるのかどうか…。そういう意味でも、本当に残念です)
 
(後藤純一)

 

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