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COLUMN

住まい、保険、老後……ゲイのライフプランニング

生命保険に入っておくべき? 家は買ったほうがよい? 老後の備えはどれくらい必要? パートナーに何かあったとき、どうしたらよい?…などなど、アラフォー世代から気になり始めるさまざまな問題。現行の制度をできるだけうまく活用しながらゲイのライフプランニング(人生設計)についてアドバイスする『にじ色ライフプランニング入門』という本が役立ちます。

生命保険に入っておくべき? 家は買ったほうがよい? 老後の備えはどれくらい必要? パートナーに何かあったとき、どうしたらよい?…などなど、アラフォー世代から気になり始めるさまざまな問題。現行の制度をできるだけうまく活用しながらゲイのライフプランニング(人生設計)についてアドバイスする『にじ色ライフプランニング入門』という本が役立ちそうです。今回は、この本を紹介しつつ、ゲイのライフプランニングについての記事をお届けしたいと思います。(後藤純一)

40代からのゲイライフ

 僕らはふだん人並みに(それ以上に?)仕事をして、会社帰りにジムでワークアウトに励み、週末は買い物や映画、サークル活動、彼氏とのデートなどを楽しみ、夜は飲みに行ったりイベントに行ったり…とまあ、だいたいこういう感じの生活を送っているのではないでしょうか?(人それぞれ微妙に違うでしょうが)

 きちんと昼間は仕事をしてますから、税金も社会保険料も年金も収めてますし、もちろん家賃も光熱費も払って、食費(プロテイン代を含む)とか通信費(ネットで友達とやりとりしたり)とか諸々必要経費を除いたら、被服費(アンダーウェアとか)や交際費(ゲイバーの飲み代とか)、娯楽費(映画とか音楽とか)にかけるお金って…まあ、そこそこありますよね。ボーナスは旅行の費用に充てたりとか。

 30代くらいまでは、二丁目で友達とワイワイ遊んだり、旅行に行ったり、楽しい思い出がたくさんできて、なんとなくハッピーなゲイライフが回っていくと思います(実家に帰るたびに、あるいは職場の上司あたりからも「結婚しろ」と言われたり、世間との折り合いってところでのストレスはあるにせよ)

 でも、40の大台に乗ると、じわじわといろんな問題が出てくるものです。40歳を越えると途端にモテなくなり(ハッテン場の入場も断られたり)、自分自身の体力の低下に悩まされ(朝までオールはキツい)、病気がちになり…。そして、親の介護という問題に直面する人も出てきます。老後に備え、家は買っておいたほうがいいのか、生命保険はどうなのか?といった話もあります(HIVをもらっていろいろしんどい思いをする人、うつなどのメンタルヘルスの問題に苦しむ人も多いと思います)。50代になるとますます「老後はどうしよう」「子どももいないし、誰が面倒を見てくれるんだろう」「お金は続くのかしら」といった悩みがリアルに迫ってくるかもしれません。シングルの人ならなおさら切実です。

 そして、パートナーがいる人も、一生彼と添い遂げようと思っていても、もしもパートナーの方が交通事故(あるいは大地震などの災害)や急な病気で病院に運ばれた場合、自分に連絡が来るのか、意識不明の重体になったとき、面会できるのか、そして、万が一亡くなったとき、お葬式に出られるのか、共有財産はどうなるのか…そういった心配があります。世界でいちばん愛してる人の死に目に会えないどころかお葬式にも出られないなんて…胸が張り裂けそうな思いです。

 男女の夫婦であれば(たとえ結婚してなくても事実婚=内縁の夫婦であれば)社会が二人を親族と認め、制度的にも世間的にもいろいろバックアップしてくれます。が、同性カップルの場合、制度上の保障は一切ありませんから(扶養扱いにならないし、相続も生命保険の受け取りもできず、遺族年金などももらえません)、親兄弟や親戚の人たちにカミングアウトして理解を得られていればまだよくしてくれるかもしれませんが、そうでなければ誰もパートナーと認めてくれる人がいない孤立無援状態です。

 そういう現実の中で、せめて使える制度は使っていこう、お金をうまく回していこうという提案、人生設計(ライフプランニング)上のお役立ち情報をわかりやすく教えてくれるのが、この『にじ色ライフプランニング入門』です。

『にじ色ライフプランニング入門』


にじ色ライフプランニング入門
永易至文/太郎次郎社エディタス

 著者の永易至文さんは、年にコミュニティ誌『にじ』を創刊し、老後のことなど、40代以上のゲイが直面する様々な問題について書いてきました。その後も『G-men』誌上で連載したり、ゲイバー向けのHIV予防啓発冊子『TOMARI-GI』の編集に携わったり、『同性パートナー生活読本』という本を出版したりしてきました。
 この本は、数年にわたって「akta」で行ってきた「同性愛者のためのライフプランニング研究会(LP研)」の結果をまとめたもので、シングルの人も含めて、誰もが直面する「お金は続くのか?」「老いた親の介護どうする?」「子のいない自分の老後はどうなる?」といった悩みに答える一冊となっています。FP(フィナンシャルプランナー)の資格も取得した永易さんが、現行の社会保障に関する制度の基本知識や、同性愛者ならではの視点からのアドバイス、誰もがふつうにできるお役立ち情報をわかりやすく紹介しています。

パート1「知っておきたいお金と社会制度のこと」では、ふだんあまり意識していないかもしれない家計簿の見直しから始まり、借金をしない、カードで買い物をしない、給料から自動積み立てする、使える所得税控除は最大限使う、など、身の丈に合ったお金のプランニングや、社会保険および税金の基礎知識についてのわかりやすい解説が施されています。

パート2「気になることとの向きあい方ーー住まい、保険、病気」は、「住まいは購入と決めてかからず、自身のライフプランと合わせて検討する」(買ったほうがおトクと言うけど、生涯住宅費用としては賃貸とあまり変わらない)、「生命保険や医療保険には入らない」(これ、とても斬新な説だと思います。ぜひ読んでみてください)、「何かあったときのための緊急連絡先、発見してもらえる体制を用意する」(本当に重要。今すぐやりましょう)など、たぶんこの本の中で最も「目からウロコ」な情報がいろいろ載っています。

パート3「中年期の難関は『老親』問題」は、親の介護やお別れについて、実際の体験談などもまじえながら、介護保険のこと、成年後見制度のこと、相続などの基礎知識や心構えについて語っています。

パート4「同性愛者として迎える老後」は、自分自身が老いたとき、お金や住まい、介護のことをどうするか、パートナーとの関係を証する遺言状作りなどについて語っています。


同性パートナー生活読本
永易至文/緑風出版

 お金をうまく回していくことに関心がある方はパート1・パート2を熟読していただいて、パートナーに何かあったとき(面会、お別れ、相続など)心配…という方はパート4、さらに『同性パートナー生活読本』を読むことをオススメします。パート3の親の介護のことも、非常にリアルな話です。
 
 「老後の来ないゲイはいない」と謳われているように、この本では特に、シングルの方の老後の問題がフィーチャーされていると思います。年老いて体も思うように動かなくなってきたとき、住む家はどうするのか、お金は大丈夫なのか…。結論としては「老後の住宅をあくせく心配するより、今はお金を貯める! 健康と体力の維持に努める! そしてまずは『60代のなりたい自分』を考えるべし!」でした。

 次の章では、ゲイの老後について後藤が思うことを付け加えてみたいと思います。
 

明るい老後を夢見て

 時間のない人生がありえない以上、生きるとはすなわち年をとるということ(エイジング)です。老後は現在の延長にあるのであって、「今は若いから関係ない」ということはないのです。老後の問題とはすなわち自分がこれまでどう生きてきたか、これからの人生をどう生きるかという問題に他なりません(因果応報と言うのでしょうか)。永易さんも「『60代のなりたい自分』を考えるべし」と書いていますが、自分らしい未来(理想)を思い描くことで、きっと現在(現実)をもっとよく生きられるようになる、と思います。
 
 ノンケさんであれば、結婚して家族のために頑張って働いて稼ぐ、以上終わり、なのかもしれませんが、ゲイの場合、結婚や子育てができない以上、そもそも理想の人生とか未来予想図というものをうまく思い描けないのではないでしょうか(逆に、型にはまってない分、自由だとも言えますが)

 たぶんですが、ノンケさんの「郊外の庭付き一戸建てに家族で住んで、車も持って…」といったライフプラン(人生設計、夢)と、僕らのそれは、だいぶ違うはずです。お金ももちろん大事ですが、どちらかというと、家も車も要らないから、彼氏や友達と楽しく生きていきたい(余裕があれば映画や芝居や音楽といった文化的なことに触れていきたい)というのが実感じゃないでしょうか。自炊や家計のやりくりも得意だし(ギャンブルもしないし)、友達としゃべったりパーティで騒いだりが大好きな、そんなゲイだからこその老後の楽しみ方(ライフプランニング)ってあると思うのです。もちろん、病気したり、大変なこともいろいろあるでしょうが、パートナーや友達との関係を大事にしながら、60になっても70になっても、週末はお友達を家に呼んで手作りの料理でワイワイやったり、たまには飲みに行ったり、温泉に行ったり、そういうふうに生きていけたら幸せかなあ、と。少なくとも後藤はそう思います。

 とはいえ、独り暮らしで、体も思うように動かなくなった高齢のゲイの方などは、いろいろ不安も多いでしょう。先日開催されたNLGR+の「僕らのゲイライフプロジェクト」でも語られていましたが、人生においていちばん悲しい、できれば避けたいことは、孤独死ではないでしょうか。お金に余裕がある(そして運のよい)方は、専門の施設に入ることができるかもしれませんが(それでもHIV陽性の場合、受け入れを拒否されるケースがあるそうで、現実は厳しい…と思わされます)、そうでなければ、不意に病気になって、自力で動けず…ということもありえますよね。パートナーだろうと友達だろうと、いっしょに住んでいる人(あるいはしょっちゅう出入りしてくれる人)がいれば安心なのですが…

 僕の友達でグループホーム(シェアハウス)ということを意識的に実践している人がいます。
実際問題として、人間、本当に自分の力だけで生きていくのは困難です。特に老後は、誰かの支えがないと、生きていけません(老後に限らず、ですが)。パートナーや気心知れたお友達といっしょに暮らすことで、気持ち的にも経済的にも楽にやっていけるとしたら、集団生活はとても心地よいものになるはずです。誰かといっしょに暮らすということに抵抗がある方もいらっしゃるかもしれませんが、やってみると案外慣れるものです。

 伏見憲明さんが2001年に『Queer Japan vol.5 夢見る老後』という本を発表されましたが(素晴らしいことに、岸田今日子さんが表紙を飾っています)、そこにもいい話がたくさん載っています。たとえば、研究者の小倉康嗣さんという方は「再帰的近代(単純な近代ではなく、近代が生み出したものへの逆説的な問い直しを受けた、相対化された近代)としての高齢化社会(従来の家族の枠組や親密性のあり方、実存の様式すらも再編されざるをえない社会)において、ゲイは優位に立っていると言える。なぜなら、初めから制度的な家族の枠組から外されてきたがゆえに『伝統』にも『生産性(生殖)』にも還元されない『純粋な関係性』を基底とする新たな親密性を開拓するための領野を豊富にもっているから。ゲイが高齢化社会を先導することだって可能なのだ」ということを書かれています。福祉に詳しい文京区議の前田さんは「お金を貯めるより友達を増やしたほうがいい」ということを語っていました。興味のある方はぜひ、読んでみてください。

 仕事一筋でやってきたノンケ男性の方が定年を迎え、急に生きる意味を見失ったり、奥さんに先立たれたときにガックリきたり(生活力もないので独りではなかなか生きていけず…)といったことに比べれば(あるいは、先述の小倉さんが紹介していたように、自殺率の高い秋田では、自殺した高齢者のほとんどに同居家族がいる、つまり家族からの疎外感や孤立感が根深い問題となっている、ということに比べれば)、早い段階から自立・試行錯誤しながら独りで周りと折り合いをつけながら生きる道を模索し、何でも自分でやりくりしてきたゲイのほうが老後は明るいかもしれないですよね。

 最後にひとこと。3.11以降、日本で暮らすということの意味は大きく変わりました。今まで当たり前だと思っていたものが突然崩れてしまう、不測の事態がいつ訪れるかもわからない、そういう時代を僕らは生きています。あせって家を買ったりするよりは、できるだけ身軽に動けるようにしておいたほうがいいのでは?とも思います。

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