COLUMN
カリフォルニアでの同性婚をめぐる長い闘い
8月4日、米連邦地方裁判所がカリフォルニア州の同性婚禁止を定めた州法は「アメリカ合衆国の憲法に違反する」という判決を下し、ゲイだけでなく多くのセレブなどもこれを祝福しました。この模様は日本でもTV報道され、世界的な注目を集めました。ハーベイミルク以後、カリフォルニアでの同性婚をめぐる歴史をひもときながら、同州が注目される理由について迫ってみたいと思います。
8月4日、カリフォルニア州の同性婚禁止を定めた住民投票「提案8号」をめぐる裁判で、連邦地方裁判所は「法律はアメリカの憲法が定める法のもとの平等に違反する」として、同性婚を認める判決を言い渡しました。 ボーン・ウォーカー連邦地裁判事は、カリフォルニア州での同性婚を禁じる提案8号は「ゲイやレズビアンの結婚を否定するだけの十分な論理的根拠を示していない」「異性間結婚は同性婚よりも優れているとの意見を法制化しただけにすぎない」と指摘し、違憲だとの判断を下しました。
これを受け、レディ・ガガ、パリス・ヒルトン、ブリトニー・スピアーズ、エレン・デジェネレス、リッキー・マーティン、アダム・ランバートといったセレブたちが次々に喜びのコメントを、TwitterなどWebサイト上に発表しています。
ヨーロッパでバカンスを楽しんでいたパリス・ヒルトンは「すべての人たちが幸せになるための記念すべき日だわ。ついに『提案8号』が覆ったのよ! しょせん、本物の愛の前には法もなすすべなしって感じね!!」とコメント。
『提案8号』が施行される前、ポーシャ・デ・ロッシと同性結婚式を挙げていたエレン・デジェネレスは「正義は勝つのよ」とコメント。ポーシャは「こんなことがカリフォルニアで起こるなんて夢みたい。最高の日であると共に、すべての人たちが等しく権利を獲得するための大きな一歩として歴史的な日でもあると思う」と続けました。
レディ・ガガも「提案8号が覆ったと聞いた瞬間、曲を作り始めたわ。ゲイコミュニティを祝福するの。みんなで歌いましょ。声を大にして!」とコメントしています。
今年カミングアウトしたリッキー・マーティンは「やったーーー!同性婚が前進した!」と、アダム・ランバートは「この炎をキラキラ輝かせる時がきた」とコメントしています。
以前は同性婚反対派だったアーノルド・シュワルツェネッガー知事も、「全ての人々の平等と自由を目指す米国の道標となるもの」と判決を歓迎するコメントを発表しました。
一方で、同性婚禁止派から出されていた判決の差し止め請求も認められました。禁止派は、一審判決の直後から同性婚が実施されるようになり、その後予想される上訴審の行方次第では事態が複雑になると訴えていました。
これにより、今回の判決が即座に効力を発揮することはなくなりました。
また、同性婚反対派による上告/控訴によって、この裁判の決着は連邦最高裁まで持ち越されるとの見通しが高まっており、法廷での論争は長引くことが予想されます。
このニュースは、NHKやテレビ朝日、毎日放送などがTV報道しており、日本でも注目されている様子が窺えます。
カリフォルニア州の同性婚禁止に違憲判決 米連邦地裁(CNN)
http://www.cnn.co.jp/usa/AIC201008050002.html
カリフォルニア州、同性婚禁止の法律は無効の判決!シュワ知事ほかセレブらが喝采!(シネマトゥデイ)
http://www.cinematoday.jp/page/N0026059
全米を、世界をリードしてきたカリフォルニアのゲイムーブメント
今年、ポルトガルやアイスランド、アルゼンチンで同性婚が認められたことは、世間にほとんど知られていないと思いますが、カリフォルニア州はなぜこんなに騒がれるのでしょう? 単に有名で重要な場所だから、ということ以上の何かがあるのではないでしょうか。 カリフォルニア州での同性婚をめぐる歴史を振り返りながら、カリフォルニア州でのゲイムーブメントの動向が持つ重要性について書いてみたいと思います。
カリフォルニア州が「ドメスティック・パートナー」の生みの親
サンフランシスコでハーベイ・ミルクが史上初めてオープンリー・ゲイとして議員(市政執行委員)になったことはみなさんご存知の通りです。
1978年、ミルクが暗殺され、後継者として、やはりオープンリー・ゲイのハリー・ブリットがが市政執行委員に選ばれました。
1979年、カリフォルニア州バークレー(サンフランシスコ湾東岸にある都市)在住のゲイの活動家トム・ブルームは、「ドメスティック・パートナー」という新しい関係性を提唱しました。いっしょに住んでいて実質的に男女の結婚のような関係を築いている同性カップルのことを名指し、概念化する必要があったからです。
公的な文書で初めて「ドメスティック・パートナー」という言葉が使われたのは、1982年、サンフランシスコ人権委員会(SFHRC)の訴訟において、でした。SFHRCのメンバーだったラリー・ブリンキンは、11年つきあったパートナーが亡くなり、3日間の慶弔休暇を会社(南太平洋鉄道)に申請し、拒否されたことに対し、訴えを起こしたのです。判事は法律で認められていないから、という雇い主の主張に同意しました。
1982年、サンフランシスコ市政執行委員のハリー・ブリットがドメスティック・パートナー法を市議会に提出し、採択されましたが、カトリック教徒であるダイアン・ファインスタイン市長(映画『ミルク』にも登場する「暗殺されました」というアナウンスをした女性)によって拒否されました。
1983年、バークレーのガス・ニューポート市長が市の人事厚生委員会にドメスティックパートナーを認めるよう要求しました。トム・ブルームと複数の団体や弁護士が共同で法案の草案作成にあたり、これが、現在世界中で採用されているドメスティックパートナー法/シビルユニオンの原型となりました。84年には公聴会が開かれ、市議会は、労働者に対する権利の拡大(健康保険など)を認めました。トム・ブルームとパートナーのバリー・ウォレンは、パートナーとしての権利を認められた初めてのゲイカップルになりました。
1985年、ウェストハリウッド(ゲイタウンとして有名なLA郊外にある市)の市議会議員ジョン・ハイルマンが、労働者に対するドメスティックパートナー法の制定に成功しました。
1989年、サンフランシスコ市でもドメスティックパートナー法が成立しました。が、有権者がこれをイニシアチブ(直接投票)によって覆しました。1990年、修正版が提出され、ようやく成立しました。
1996年、サンフランシスコ市議会が同性カップルの結婚式に市役所を開放する条例案を全会一致で可決しました。
1999年、カリフォルニア州知事のグレイ・デイビスは、議会で採択されたドメスティックパートナー法に署名し、州レベルで同性カップルの権利を認めるようになりました。
2003年9月、カリフォルニア州はドメスティックパートナー法を拡大し、男女の夫婦と同等のほとんどすべての権利を得られるようになりました(つまり、シビルユニオンです)。カリフォルニアの包括的なドメスティックパートナー政策は、裁判なしに法制化された米国で最初の同性カップル政策でした。
(参考:Wikipedia )
このように、ハーベイ・ミルクの遺産を受け継ぎ、サンフランシスコを中心に、カリフォルニア州が、世界に先駆けて同性パートナーの権利というものを打ち出し、法制化し、同性婚への道を切り開いてきたのです。
同性婚の大きな波と揺り戻し
2000年3月、マサチューセッツ州の同性婚合法化を受け、他州から同性の「夫婦」が移住してくるのを防ぐため、カトリック教会を中心とする保守勢力が「カリフォルニア州では結婚を男女に限る」とする住民投票を行い、賛成多数で成立しました。
2003年10月、アーノルド・シュワルツェネッガーが州知事選にて当選。同性愛者の人権に関しては寛容であると言われていました。
2004年2月、サンフランシスコのギャビン・ニューサム市長が同性カップルに対して結婚許可書の発行を開始し、世界的なニュースになりました(写真右)。しかし、カリフォルニア州の司法長官(法務大臣)が、州法に基づき、結婚許可書の発行即時停止と同性婚無効の訴えを州最高裁判所に起こしました。しかし、州最高裁判所はこの訴えを却下したため、サンフランシスコ市の同性婚は当面の間続くことになりました。
2004年3月、シュワルツェネッガー州知事が「州法が変われば、同性婚も受け入れる」と発言しました。
2004年3月、州最高裁判所がサンフランシスコ市に対し、結婚許可書の発行停止命令を下しました。
2004年8月、州最高裁判所は、サンフランシスコのギャビン・ニューサム市長が同性カップルに結婚許可書を発行したのは州法違反だと判断し、2月から3月の間に許可された同性間の「結婚」は無効となりました。ただし、「同性婚を禁止する州法が、平等原則を謳う州憲法に違反するかどうか」については他の裁判で争われており、この日の判断では結論が出されませんでした。
2005年3月、サンフランシスコ上級裁判所(地方裁判所)は、「同性婚を禁じたカリフォルニア州法は州憲法に違反する」という判決を下しました(州政府は控訴する方向)
2005年6月、米国では初めて、州の両院が同性婚を認める法案を可決しました。
2005年10月、シュワルツェネッガー州知事が、議会で可決された同性婚法案に対して拒否権を発動しました。
2007年11月、シュワルツェネッガー州知事が、再び議会で可決された同性婚法案に拒否権を発動。しかし、他のLGBT関連7法案には署名しました。(・2006年以前に資産税を払わなければならなかったドメスティックパートナーに対する税控除 ・州の差別禁止法に「性的指向に基づく差別」を追加 ・ドメスティックパートナーの登録にあたり、姓を変更することを容易化 ・すべてのLGBTの若者を学校でのバッシングから保護 ・若者を保護する責任を教師及び学校事務職員に十分に理解させることにより、公の場におけるバッシングから学生を保護 ・個人所得税や法人税の処理にあたり、ドメスティックパートナー登録を行ったカップルについて「配偶者」として扱う ・少年更生施設に収容されているLGBTの若者を暴力から保護)
2008年5月、カリフォルニア州最高裁は、婚姻を異性間に限る州法を違憲だとする判決を下し、同性婚が認められることとなりました。「この判決は米全土に影響する」と報じられました(詳しくはこちら)
2008年6月16日、同性カップルによる婚姻届の受理が始まり、初日だけで数百組の同性カップルが結婚届けを出しました。「この日を待ち望んだ」という女性カップルがギャビン・ニューサム市長の立ち会いのもと、サンフランシスコ市役所で結婚式を挙げました。(詳しくはこちら)
2008年8月、『アリーmyラブ』への出演で知られるポーシャ・デ・ロッシと、コメディエンヌのエレン・デジェネレスが同性結婚式を挙げました。
2008年9月、『スタートレック』への出演で知られるジョージ・タケイがパートナーのブラッド・アルトマンさん同性結婚式を挙げました。
2008年11月、大統領選と共に結婚を男女に限るようにする「提案8号」が住民投票にかけられ、賛成が僅差で反対を上回り、カリフォルニア州で再び同性婚が禁止されることになりました。
2008年11月、提案8号に対する大規模なデモが行われ、全米各地に飛び火しました。
2009年2月、映画『ミルク』がアカデミー主演男優賞と脚本賞を受賞しました。
2009年3月、同性婚を禁じる州法の是非をめぐる州最高裁での審理が始まりました(詳しくはこちら)
2009年5月、州最高裁は「住民投票は有効」という判決を下し、多くの人々を落胆させました(詳しくはこちら)
2010年1月、同性婚を禁じる州法の違憲性を問う裁判がサンフランシスコにある連邦地方裁判所で始まりました。(詳しくはこちら)
そして8月4日、連邦地方裁判所は「同性婚を禁じた州法はアメリカ憲法に違反する」との判決を下しました。
(参考:All About[同性愛])
2000年以降、州議会で可決された同性婚法案が二度にわたってシュワルツェネッガー州知事によって拒否され、せっかく最高裁で認められた同性婚も、半年後には住民投票によって覆され…同性婚を求める人々と禁止しようとする人々(保守派)の一進一退の攻防が繰り広げられました。2008年の住民投票「提案8号」をめぐっては、ブラッド・ピットやスティーブン・スピルバーグなど、ハリウッドに関係する多くのセレブが同性婚支持キャンペーンに多額の寄付を行い、グーグルやアップルなどの企業もこれに加わりました。そして、僅差で禁止が決定すると、州内だけでなく、全米で反対運動が起こりました。マドンナやアギレラ、ドリュー・バリモアなど多くのセレブが「黒人の権利は認めたのに…これは新たな人種差別よ」と抗議に加わりました。そして『ミルク』に主演したショーン・ペンは受賞スピーチで「同性婚を認めない人たちは反省し、恥を知るべきだ」と語りました。
ゲイの聖地であり、ハーベイ・ミルクの活躍の舞台であったサンフランシスコ。6色のレインボーフラッグを誕生させたのもサンフランシスコでした。サンフランシスコは全米(だけでなく世界)のゲイムーブメントをリードしてきたのであり、ゲイにとっての「心のふるさと」でした。そして、大勢のゲイが活躍するハリウッドや世界有数のゲイタウンであるウェストハリウッドを含むロサンゼルスもまた、同州のゲイムーブメントの重要な拠点でした。だからこそ、カリフォルニア州での同性婚をめぐる動きは、全米に影響を及ぼすと見られてきたのです。提案8号が通ってしまったとき、全米でデモが起こったのは「同性婚の砦であるカリフォルニアを守れ」という気持ちもあったことでしょう。
結婚の平等を求める闘いは連邦裁判所にまで持ち込まれました。
「シビルユニオンが認められたからいいじゃない、実質的な権利は得られたんだから」と言う人もいるでしょうが、ことは平等の問題なのです。同性婚が認められない限り、ゲイは永久に「二級市民」扱いなのです。
裁判はまだ続くと思います。最高裁がどんな判決を下すか、まだわかりません。
そして、連邦法には「DOMA(結婚防衛法)」(結婚は男女のものであり、州内の同性婚は他州では無効と定めたもの)という大きな壁もあります。アメリカ全土で同性婚が認められる日はまだまだ先になりそうですが、まずはカリフォルニア州での同性婚を、と願う人はきっと多いのでしょう。(後藤純一)
INDEX
- アメリカのLGBTムーブメントを視察した方たちが見る「日米の違い」
- 「LGBTインバウンド・セミナー」レポート2 〜知られざるLGBTフレンドリー・タウン、別府〜
- 「LGBTインバウンド セミナー」レポート ~海外とつながり、日本を変える試み~
- 「akta」を訪問したピーター・ピオット博士、コミュニティセンターの重要性を強調
- コミュニティセンター「akta」が無くなる!?
- 脅かされる性の自由(3)性解放なくしてゲイ解放なし
- 脅かされる性の自由(2)ハッテン場の未来
- 脅かされる性の自由(1)写真をめぐる冒険
- 住まい、保険、老後……ゲイのライフプランニング
- ゲイコミュニティを称賛〜『ハートをつなごう』HIV特集第4弾
- レポート:東京レインボープライド公開ヒアリング
- 「ハートをつなごう」HIV第3弾を観て
- PRAY FOR FRIENDS——東日本大震災で被災した方たち、被災地のコミュニティの支援のために
- 石原発言のおかげで生まれた新しい「つながり」とパワー
- 伏見憲明の太腕繁盛記:第6回「液状化するノンケのセクシュアリティ観」
- 伏見憲明の太腕繁盛記:第5回「嬉々として競パン接待するノンケ男子が求めるモノとは?」
- 『週刊現代』9月4日号で大橋巨泉さんが「人の死に“同性愛者”はふさわしくないのか?」と今野雄二さんを追悼
- 伏見憲明の太腕繁盛記:第4回「まるでAKB!? ミセコの命ははかなくて」
- カリフォルニアでの同性婚をめぐる長い闘い
- 伏見憲明の太腕繁盛記:第3回「セクシュアリティの微妙なあわい」
SCHEDULE
- 10.04Brush -Moulin Rouge-
- 10.05ふくしまレインボーマーチ
- 10.05BEAR-TRAIN
- 10.05第2回東京SPAMナイト
- 10.06ぐんまレインボープライドパレード