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COLUMN

LGBTと企業(1) 企業がLGBTフレンドリー(アライ)化していく意味

2016年に開催されたいくつかのLGBT関連のセミナーをレポートしながら、多くの企業が今、LGBTフレンドリー(アライ)に変わっていこうとしている、そのリアリティについてお伝えします。

LGBTと企業(1) 企業がLGBTフレンドリー(アライ)化していく意味

世の中LGBTブームとも言われた時期もありますが、企業人(ビジネスマン)を含むストレートの方たちが会社でLGBT研修を受けたり、種々のセミナーでLGBTについて理解を深めたりということがとても多くなってきました。企業が今、どんどんLGBTフレンドリー(アライ)化の方向に変わっていこうとしている現場の一端をレポートしつつ、そのことの意味やリアリティについて、お伝えしたいと思います。(後藤純一)


 つい最近まで、多くの人にとっては、職場でカミングアウトなんて考えられない、そんなことしたら会社にいられなくなる(同僚に陰口を叩かれたり、陰湿なイジメみたいなことをされたり、職場にいづらくなって会社を辞めたりということになりかねない)という実感があったと思います。今でもそうかもしれません。しかし、ここ数年でようやく、そういう状況が変わってきたと思います。身の回りでも、職場でゲイだと言っても別に排除されたりバカにされたりせず、今まで通りやっていける、カミングアウトしてよかったと思える(前よりイキイキ働けるようになって会社が楽しい)という声を聞きます。若い人に限らず、です。世間の空気が「LGBTは認めなくちゃいけない」というものになってきて、会社も急速にLGBTフレンドリー(アライ)化ヘトシフトしつつあるように見えます。
 以前は、例えばパレードに協賛してくださいとお願いしてもほとんどの企業は応じてくれませんでした(素晴らしくオシャレな『ファビュラス』誌の取材すら断る企業もありました)が、なぜこのように変わってきたのでしょうか?
 2010年代、大手広告会社などの企業で働きながら世の中を変えていく大きな力を発揮するグッド・エイジング・エールズの方たちや、職場環境改善や大阪市淀川区との連携で素晴らしい成果を挙げた虹色ダイバーシティの村木さん、東京ディズニーリゾートでの同性結婚式や多数の著書・講演・メディア露出などで認知度を高めてきた東小雪さん&増原裕子さん、『ハートネットTV』でMCを務めるなどメディア上で活躍し、現在は東京レインボープライドの共同代表も務める杉山文野さんなど、新しい世代の(また、ゲイ以外の)アクティビストが登場してきたことが大きいと思います。こうした方たちの活躍の相乗効果によって、1社、また1社とLGBTのサポートに乗り出す企業が現れ、2015年に渋谷区が同性パートナーシップ証明を条例化した(同性パートナーシップを婚姻と同等と初めて公に認めた)ことが起爆剤となって、次々に大手企業がLGBTフレンドリー(アライ)化へとシフトするようになってきた、と言えるでしょう。
 企業のLGBT施策という観点では、やはり、地道に当事者アンケートをとってエビデンスに基づく確かな情報提供(企業向けセミナーなど)を行ってきた虹色ダイバーシティの力は大きいと思いますし、2016年は、日本で初めて企業のLGBT施策の評価指標「PRIDE指標」が策定されたこともエポックメイキングなトピックだと思います(虹色ダイバーシティとグッド・エイジング・エールズが中心になってwork with Prideとして「PRIDE指標」を運営しています) 
 
 一方で、ほとんどのLGBTの方たちにとっては、そうした団体や活動家の方たちが、企業の人たちに向けて何を話しているのか、具体的にどんなやりとりをしているのか、よく見えないと思います。どういう感じなんだろう?という興味をお持ちの方もいれば、本当にそんなことでノンケが味方に変わるの?と不信感を抱いている方もいらっしゃるかもしれません。
 私は幸い、ライターとして、たまたま仕事が変わって平日でも取材に動けるようになったこともあり、そういうセミナーに参加する機会を得て、実際どういうお話がされているのか、それを聞いている企業やメディアの方がどんな反応をしているのか、ということを臨場感をもって体験することができましたので、ここでお伝えしてみようと思います。
 
 

講演「日本記者クラブ LGBTと社会(2)」
 


左が村木さん、右が宮田さん
(画像が不鮮明ですみません)
 6月13日、日本記者クラブで「LGBTと社会」をテーマに虹色ダイバーシティの村木さんの講演が行われました。これは、産経新聞の宮田一雄さん(日本記者クラブ企画委員)の企画で、新聞社などメディアの記者の方に向けて、LGBTについての知識をお伝えするものです。
 折しも、フロリダ州のゲイクラブで銃乱射事件が起きたため、この講演会はその大惨事のことからお話が始まりました。「これは対岸の火事ではありません」と村木さん。「追い風が強まると向かい風も強まります」。虹色ダイバーシティの事務所には抗議の電話がかかってくることもあるそうです。
 それから、先日の伊勢志摩サミットに参加したG7の国々で、同性カップルの権利が何もないのは日本だけ、とか、ISO26000の人権項目にジェンダー・イクオリティが入っている(日本では男女平等と訳されてしまっている)とか、東京五輪のスポンサーになっている企業のLGBT施策とか、ティファニーのゲイカップルを起用した広告の話、経産省やスポーツジムでのトランスジェンダー関連の裁判のことなど、たたみかけるようにお話が展開されていきました。最近はSOGIという言葉も出てきましたが、どこがマイノリティなのかによって、困難のポイントが違ってくる、LGBは同性のパートナーに何かあった時に何の保障もない、いろんな社会問題のハイリスク層になりがち、Tはトイレの問題や健康診断を受けづらい問題など。
 企業の先行事例として、日産がアメリカではLGBTの野球大会の冠スポンサーになっている件や、GAPがTRPに合わせて看板をレインボーに変え、お客が増えたことなどが紹介されました。企業の取組みとして、レインボーのステッカーなど、アライであることを明示することが大事だという話もありました。
 お話の後、日産は日本ではどうなのか、とか、地方はどうなのか、GIDの方からLGBTという総称に対する逡巡を聞いたことがあるが?など、会場からたくさん質問が上がり、熱気を感じさせました。

 メディア上では、記者の方があまりLGBTのことをちゃんと理解していないのかな…と思わせる記事がまだまだ多く(例えば、ある特定の人を指してLGBTと言ってしまったり、何でもLGBTと書けばOKと思われているフシがあります)、こうして、記者の方に向けて丁寧にわかりやすく伝える機会が設けられていることには大きな意義を感じました。なお、この会を企画した宮田一雄さんは、長年HIV関連の記事を発信してきた方で、『世界はエイズとどう闘ってきたのか―危機の20年を歩く』などを著しているほか、エイズ予防財団の理事やAIDS&Society研究会議(長谷川さんや生島さん、張さんらも受賞した「PWA賞」の授与も実施)の理事兼事務局長も務めるなど、HIV予防啓発について重要な仕事をされてきた方です。2000年代前半には伏見さんのインタビュー連載の中で『バディ』誌にも登場しています。 

 

LGBT職場環境アンケート報告会「データを職場環境改善のチカラにin 東京 2016」


報告会の様子
(画像は主催者様より)
 虹色ダイバーシティは2013年からインターネット上で「LGBTに関する職場環境アンケート」を実施しており、2014年からは国際基督教大学ジェンダー研究センターとの共同研究として実施、そのデータを職場環境改善への手がかりとして活動してきました。第4回となる2016年の調査(2,300名近くが回答)の集計・分析結果の発表と、そこから見えてくる日本の職場の課題について考えるトークイベントが、武蔵野市男女共同参画週間事業実行委員会との共催で、6月19日に開催されました。データ分析を担当した研究者による解説に加え、今回は「性的マイノリティについての全国調査」研究メンバーでもある研究者の石田仁さん、職場におけるLGBT差別問題に法的な側面から支援を続けてきた弁護士の永野靖さんもゲストとして登壇しました。
 冒頭の虹色ダイバーシティの村木さんのお話が興味深かったです。尼崎の住職の方が「一人一人に寄り添いたい」とLGBTのこともお話ししていたのですが、各所から「NO」が来ると、データの力は、その「NO」をつぶしていけるというお話でした。
 データ分析を担当した平森さん(ワシントン大学大学院社会学研究科博士前期課程、国際基督教大学ジェンダー研究センター 研究メンバー)は、LGBTの問題は社会全体の問題だと語りました。男女の格差もそうだが、制度的なひずみが表れている、働く人はストレート男性という中心自体を考え直す必要がある、本丸の構造を変えないといけない、と。目からウロコが落ちる気がしました。
 研究者の石田さんは、「性的マイノリティについての全国調査」について解説しました。啓発は誰に必要か、男性である。同性愛者の問題は男性ジェンダーが密接に関わっている、とおっしゃっていました。
 弁護士の永野さんは、FTMの方が採用取消となった件について労働局に違法ではないかと訴え、和解に持ち込んだという事例を語ってくださったほか、現行法でも使える材料がいろいろあるということを教えてくれました。
 それから調査結果の詳細な解説が行われました(調査結果はこちらからご覧いただけます)。昔は、トランスジェンダーといえば、性別移行を進めることに困難がありましたが、今は、理解が(半端に)進み、性別変えないの?手術しないの?と聞かれるという話が印象的でした。
 


work wit Prideセミナー2016
 

グッド・エイジング・エールズの渡辺さん
と虹色ダイバーシティの五十嵐さん

EY JAPAN、JAL、NTT、IBMの方々
によるパネルディスカッション

初となるPRIDE指標の表彰式

ベストプラクティスを受賞した
ライフネット生命の岩瀬社長
 work wit Pride(以下wwP)は2012年、日本IBMと国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチが共同で日本のLGBT従業者支援をテーマとしたセミナーを企画したことから始まりました。のちに認定NPO法人グッド・エイジング・エールズとNPO法人虹色ダイバーシティが加わりました。2013年はソニー、2014年はパナソニック、2015年はリクルート住まいカンパニーが会場提供し、年々参加企業が増えてきました(wwPセミナーについてははこちらをご参照ください)
 2016年10月26日、第5回を数えるwwPセミナーが第一生命保険ホールで開催され、600名もの参加者で会場が埋め尽くされました。本編の前に、オプションでLGBTの基礎知識についてのお話が、グッド・エイジング・エールズの渡辺さんと虹色ダイバーシティの五十嵐さんからありました。
 本編の最初には、第一生命保険の武富取締役常務からご挨拶がありました。「今年TRPに初参加し、第一生命が?という声も聞きました。今週わが社ではLGBTレインボーウィークとして全社研修を実施しています。オリジナルの旗も作っています」
 基調講演として、国立社会保障・人口問題研究所室長の釜野さおりさんが「LGBT施策の背景と効果」を発表。人口減によって働き手全員が重要な時代、LGBTもまた例外ではないということ、広告会社が発表したLGBT人口は、人口調査とは言えないということ、寛容度の調査(連合の調査と同様、管理職の多くが嫌悪感)、組織におけるLGBT施策の効果として、オープンにした人のほうが生産性が高く、健康で、コストダウンにもつながる、欧米の後追いではなく日本が世界をリードできるのではないか、など、大変興味深いお話が聞けました。
 続いて、Nijit(IT系企業の集まり)に参加する当事者として、グーグルやマイクロソフト、マイクロソフト・ディベロップメントの方々が登壇し、職場で起きていることをリアルに語ってくれました。ホモ、おかまという会話が聞こえてくる、トランスの方で職を追われたり内定を取り消された方がいる、など差別的な事例もあれば、全体としてはよくなってきている、社内でコミュニティを立ち上げた、頑張ってねと言ってくれる人もいる、などのいい話もありました。
 経営者によるパネルディスカッション。EY JAPANの貴田守亮エリア・デビュティ・リーダーがモデレーターを務め、JALの大川順子代表取締役専務執行委員、NTTの島田明常務取締役、IBMの下野雅承最高顧問が登壇し、社内でのLGBT施策が各社の強みとどうリンクしていっているのか、苦労や難しさ、近い将来のビジョンについて語ってくださいました。NTTの島田さんは、出張先でLGBTのことについて話すと、納得できないとか、少子化が、と言う人がいるが、お客様にどうアプローチするんですか?と返す、とおっしゃっていて、印象的でした。JALの大川さんは、より見えづらく、わからない、壁ができやすい、知らない間に傷つけることもあるが、コミュニケーションが大切だと思います、社長から新入社員まで、基礎知識を広め、対話を重ねていくなかで、普通なんだ、と言われて、肩の荷が下りる気持ちになる、とおっしゃっていました。IBMの下野さんは、本質的なことだと語り、初めは当事者のみだったが、アライが増えてくれたと、コミュニティを広げていくことが有効な手段だとおっしゃっていました。
 それから、今回初となる「PRIDE指標」の表彰とベストプラクティスの紹介が行われました。初回にして80社以上から応募があり、50社以上が最高点のゴールドを受賞しましたが、受賞企業のみなさまが賞状を持ってステージにずらりと並ぶ光景は壮観でした。全体を通してのベストプラクティスとしては、ライフネット生命が取り組んできたLGBT児童向けの書籍を公立図書館等へ寄贈する「レインボーフォトプロジェクト」が選ばれました。ライフネット生命の岩瀬大輔代表取締役社長はスピーチで、3月にエコノミスト誌が主催するLGBTカンファレンス「Pride and Prejudice」に参加して感銘を受けたと語りました。「企業が変われば社会も変わる。CSRの観点だけではなく、空気のように当たり前のこととしてやっていきましょう」
 最後に、超党派のLGBT議連発足の呼びかけ人となった馳浩衆議院議員がご挨拶し、閉会となりました。あらかじめ予約していた方々は、その後、懇親会へと流れていきました。会場の一角ではOUT IN JAPANの写真展も開催されていました。
 



<まとめ 僕らが思っている以上に味方はたくさんいます>

 3本のセミナーに参加して感じたことは、一昔前までは「この人絶対にゲイのことなんて理解してくれるはずがないだろうな」としか思えないようなタイプの中高年男性の方たちでさえ、知らないところで率先してLGBTのために動いてくれていたり、ビックリするほどフレンドリー(アライ)だったということでした。特にwwPセミナーでは、名だたる企業のトップの方たちがアライとして活動していることがわかり、感銘を受けました。
 
 もちろん今でも、理解のない方や、偏見まるだしな方もたくさんいます(企業に向けてお話している方たちは、差別的な言葉を投げつけられることもあります。ある意味、矢面に立っているのです)。でも、アライの方たちが、カミングアウトできない、あるいは社内でそこまで力を持っていない当事者に代わって、地道に説得して、変えてくれたりもしています。渋谷区の画期的な条例案もアライの方たちが動いて実現したことですし、「PRIDE指標」の策定にも多くのアライ企業の方が関わっています。
 アライの方たちに接して、その思いや活動の内容を知れば知るほど、真剣にLGBTを支援する気持ちでやっているんだな、ということがひしひしと伝わってきます。決してLGBTを食い物にしようなどとは思っていませんし、仕事だから仕方なくやっているというわけでもないのです。 
 
 長年、ノンケにバカにされたりいじめられたりしてきた記憶を持つ当事者にとっては、急にノンケが手のひらを返したようにニコニコしながら近づいてきたけど、きっと何か裏があるんじゃないか、信用できない、と感じてしまうかもしれません。でも、例えば、そういうノンケさんたちにも子どもがいたり、古くからの友人や同僚やいろんな人が周りにいる、その中にLGBTがいるかもしれない(我が子もそうかもしれない)と思った時に、とても見捨てることなんてできないよね、もっと理解したい、何か困っていたら助けてあげたいと思うのが人情です。そういう気持ちが、アライの方たちの根っこにはあります。そこは信じていただきたいと思います。
 とはいえ、これまであまり知らず、正直、偏見を持っていたLGBTのことについて、理解するようになったり、どう支援していったらいいかがわかるようになった、その背景には、たくさんの(100社以上の)企業でセミナーを実施してきた虹色ダイバーシティの活動があり、世の中をLGBTフレンドリーに変えるために頑張ってきたたくさんの方たちの努力があることは言うまでもありません。  

 きっと、そうは言っても、自分の職場は別に何も変わってないし…という実感をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。会社がLGBT支援の姿勢を打ち出したとしても、現場まで浸透していくのは時間がかかるんだと思います。日本で最初にLGBT施策を手がけ、先進的と称されてきた某外資系金融企業に勤める40代の方が、もう言っても大丈夫かなと思えて社内でカミングアウトできるようになるまでに7年もかかったという話もあります。
 今、着実に世の中はLGBTフレンドリーな方向に動いています。そういう動きの先端で頑張っている方たち(決して生活を保障されているわけではありません…しんどい思いをしていると思います)やアライの方たちに敬意を表しつつ、希望を託し、この流れを後押ししていきたい、と思うものです。

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