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チェチェンでゲイが強制収容所に送り込まれ、拷問を受け、命を奪われています

日本ではほとんど報道されていませんが、ロシアのチェチェン共和国でゲイが組織的に拉致され、強制収容所で拷問を受け、少なくとも3人が命を落としています。

日本ではほとんど報道されていませんが、ロシアのチェチェン共和国でゲイが組織的に拉致され、強制収容所で拷問を受け、少なくとも3人が命を落としています。できるだけ情報を集め、お伝えしていきたいと思います。ぜひ署名にご協力くださるよう、お願いいたします。(2017.4.18 後藤純一)


チェチェンで何が起こっているのか

 ロシアのチェチェン共和国でゲイが組織的に拉致され、収容所で拷問を受け、少なくとも3人が命を落としています。
 ロシアの独立系新聞『ノバヤ・ガゼタ』紙が報じたほか、チェチェンを脱したゲイの方が英『ガーディアン』紙に証言しています。

 この数ヶ月間、「100人以上、もしかしたら2〜300人くらいの」ゲイまたはバイセクシュアル男性が、組織的に拉致されています。『ガーディアン』紙に証言したゲイの方(仮名:アダム)は、毎日電気ショックを与えられ、叫び声が十分でなければ、木製または金属の棒で殴打されたと言います。拷問者は彼を「けだもの」と侮辱し、他のゲイの名前を言うように要求したそうです。
「時々、彼らは他のゲイについての情報を得ようとした。そうでない時は、純粋に楽しんでいた」
 強制収容所の中で、彼はコンクリートの床で寝させられました。
 チェチェンの治安部隊は、アダムが友達に会いに行く時を狙って逮捕したといいます。彼の携帯のメールを盗み見しており、ゲイだとわかったのです。政権はたくさんの携帯を押収して調べ、ある者は友達や恋人にアウティングされたといいます。
 拷問を受けた後、アダムのように数日で家に帰される者もいますが、それは決して身の安全を意味しません。北コーカサス、特にチェチェンでは「名誉殺人」と呼ばれる行為が未だにに行われています。ゲイであればもちろん、そうみなされただけでも、その男性は、家族の名誉を傷つけたとみなされ、親族から殺害されかねない事態に直面します。「名誉殺人」の実行者は、しばしば罪に問われません。さらに、最近では、ゲイを脅迫する暴力的な動画がネット上で数多く見られるようになっています。

 英『デイリーメール』紙は、「チェチェンは、1930年代のナチス以降初となる同性愛者の強制収容所を開いた」と報じています。

 チェチェンの文化は「家族や家への忠誠という強力なコード」に基づいており、この地のゲイ・バイセクシュアル男性のほとんどは、深くクローゼットに入っていると伝えられています。


チェチェン当局とロシア政府の態度

『ガーディアン』は、チェチェン共和国のマイノリティ政策は冷酷である、LGBTはとりわけ傷つけられやすいと報じています。「アンチ同性愛の態度が社会を覆っており、ホモフォビアは強烈で激しい。権力者がそれを焚きつけている。LGBTは攻撃され、親族によって「名誉の殺人」の犠牲になっている。「家族の名誉」の変質が、恥ずべき、無法の実行につながっている」
 チェチェン当局は「わが国にはゲイなどいない」と述べ、こうした殺人を堂々と承認し、モスクワは黙認しています。プーチン大統領のスポークスマン、Alvi Karimovは、『インテルファクス』紙の拷問は起こっていないとする記事を引用し、「誰も、この共和国に存在していない人間を拘束などできない」と述べています。彼は、虐待に遭った者は報告するようにと言っていますが、この発言は実効性を持たず、今起こっている惨劇をやめさせる気がないことを物語っています。迫害の犠牲者たちが身の安全を守る具体的で有効な手立てはなく、犠牲者と目撃者は名乗ることができません。政権による調査すら行われていません。
 ロシア政府がアクションを起こしたくない理由は、「共和国の大統領であるラムザン・カディロフが、プーチンへの忠誠を誓っており、その見返りに、クレムリンは、拷問に目をつぶっているからだ」と報じられています。
「ロシア政府は、この国でのマイノリティへの攻撃、人権侵害への疑いを抱いていない。ラムザン・カディロフは、クレムリンを称えながら、専制政治を持ち込んだ。社会のあらゆる側面に対して支配が及んだ」

 チェチェンでのゲイの迫害のことがニュースになると、ラムザン・カディロフはソーシャルメディアで「人権団体が、我々がゲイを拘束し、拷問したという嘘を広めた」と責め立てました。「最も無価値なやり方で、真実を捻じ曲げた巨大な情報攻撃が、我々の社会やライフスタイルや伝統や習慣を汚そうとしている」
 
 組織犯罪や役人の腐敗を告発するサイト「CrimeRussia」が、チェチェン当局のトップととある著名人の会合についてすっぱ抜いた、と『ノバヤ・ガゼタ』が報じています。
「会合の結果、チェチェンの「究極の嘘と中傷」におけるゲイの「一掃」についての情報戦についての取り決めが交わされた」
 『ノバヤ・ガゼタ』の編集者によれば、チェチェン当局は、堂々と暴力を要請しているそうです。
「チェチェン社会とチェチェン人民の尊厳への侮辱という観点で、我々は真の扇動者(注:ここではジャーナリストのこと)に天罰が襲いかかると約束する。どこでも、それが誰であっても、法の制限なしにだ」
「そのような卑劣な挑発の拡大と戦う、あらゆる方法で」
 この「あらゆる方法」は「合法」にするべきだとメモが書かれていたそうです。
 『ノバヤ・ガゼタ』は、この取り決めは「宗教の狂信をジャーナリストの虐殺に向かわせようとしている」と強調しています。

 この記事ではまた、『ノバヤ・ガゼタ』が4月10日に迫害のことを報じてから10日が経ったが、ICR(ロシア連邦捜査委員会)は何もしていない(法的には、ICRは10日以内に犯罪について報告する義務がある)、8日には、『ノバヤ・ガゼタ』のDmitry Muratov編集長がロシア検事長のYuri Chaikaにこの深刻な犯罪について事実確認することを求めたが、ICRからは何の反応もない、と書かれています。ロシアの人権団体「Agora」のAndrey Sabinin弁護士は、モスクワの裁判所に申し立てを行いました。

 
国際社会のアクション 

 『ガーディアン』紙がチェチェンでのゲイの迫害のことを報じた後、ロンドンのロシア大使館前では抗議集会が開催されました(トップ画像)
 
 また、強制収容所の閉鎖を求める署名運動が立ち上げられ、オープンリー・ゲイの俳優マット・ボマーが署名への協力を呼びかけるなどして、世界的に広がりを見せています(日本語の署名ページも開設されています。以下にリンクを紹介します)

 アメリカのニッキー・ヘイリー国連大使は声明で、「チェチェンで性的指向によって拉致、拷問、殺人が行われていると報じられ、引き続き懸念している」と述べ、「事実なら、この人権侵害は看過できない」と表明しました。「チェチェン当局は直ちにこうした疑惑を調査し、関与した者に責任を負わせ、今後、虐待が起きないよう措置を講じるべきだ」
 民主・共和両党の議員からもチェチェン当局に対する非難の声が上がっています。民主党の上院外交委員会メンバーのベン・カーディン議員は、『ノバヤ・ガゼタ』の報道に言及し、「同性愛者の男性をはじめ数百人のLGBTがチェンチェンの治安部隊によって身柄を拘束されて拷問を受け、少なくとも3人が死亡した」と指摘。さらに、「ラムザン・カディロフ大統領がLGBTの人々に恐怖を与える状況をつくっている」と非難しました。
 
 カナダの外務大臣はロシア当局に対し、調査と報告、そして「直ちに、性的指向に関わらず全てのチェチェン人民の安全を保証する」ように求めました。「人権には境界はない。カナダは人権は普遍的で分断できないものだと信じている、そこにはLGBTも含まれる」「我々は世界のどの地域であれ、性的指向や性自認を理由とした個人への暴力と差別を遺憾に思う」
 
 ILGA(国際レズビアン&ゲイ協会)ヨーロッパのプログラムディレクター、Björn van Roozendaal氏は、CBCに対し、ILGAのメンバーの何人かがロシアにいて、報告について確認作業を進めていると語りました。犠牲者だという人と話をできた人もいました。
「暴力については山ほど言える。拷問、レイプ、殴打。人々はこの地の状況により死に追いやられている」
 Roozendaal氏は「指導者たちは、かなり公に、暴力を要求している」と語り、政府の放置を非難しています。
 今や、Roozendaal氏とILGAはゲイたちをこの国から脱出させる手助けに焦点を定めています。そして国際的な圧力がこの政権を変えることに希望をつないでいます。
「政府に圧力をかけることが大事だ。本当に。国際団体、国連も」
「その動きが、この地のゲイたちにも伝わることを願う」

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その後の動き

 4月22日のAFPの記事「同性愛者には「うそか死しかない」 チェチェン逃れた男性ら語る」によると、チェチェンから逃れ、モスクワに潜伏しているゲイの方が、迫害は事実であり、「チェチェンでは、うそをつくか、死ぬかしか選択肢はない」と語っています。この方は昨年10月、軍服姿の男3人に空き地へ連れ出され、殴打されました。「一部始終を撮影され、20万ルーブル(約40万円)払わなければソーシャルメディアに流すと言われた。借金をして、それを払った」「母のところへ兵士がやって来て、僕のことをゲイだと言った」「本当に恐ろしい。逃げてから、眠ることができない」「ネットワーク※に助けられ、一時的な逃げ場をもらった。だけど、いつかは見つかってしまう」

※チェチェンのゲイたちの国外脱出を支援するロシアの同性愛者団体「ロシアLGBTネットワーク」

 5月2日のAFPの記事「ロシア警察、活動家17人を拘束か チェチェンの同性愛迫害に抗議」によると、サンクトペテルブルクで5月1日、メーデーに合わせたデモ行進に参加し、チェチェン共和国でのゲイに対する迫害に抗議していた若い活動家らが、ロシア警察当局に身柄を拘束されたそうです。
 また、4月30日にはベルリンで、ゲイ迫害をやめさせるようプーチン氏に求める抗議デモが行われました。

 5月6日のAFPの記事「チェチェン同性愛者迫害疑惑、ロ大統領が調査支援 独首相が要請」によると、プーチン大統領は5日、チェチェンにおけるゲイ迫害の疑惑について、最高検察庁や内務省に対処を命じる考えを表明しました。プーチン氏は独ロ首脳会談で、アンゲラ・メルケル首相からこの疑惑への対応を要請されていました。

 6月18日の産経新聞の記事「露チェチェンで同性愛者大量迫害 支援団体幹部「すべて事実」断言」によると、すでに40人程度の逃亡を支援したロシアLGBTネットワークのイーゴリ・コチェトコフ理事が、報道された実態は「すべて事実」と言い切っています。
 コチェトコフ氏は、問題の背景にチェチェンの「絶対的な政治体制」があったと語ります。チェチェンは露中央政府との2度の紛争を経て、現在は中央政府側に寝返った元独立派ゲリラのカディロフ首長が国を統率していますが、チェチェンの統治が最重要課題のひとつであるプーチン政権は、たとえ中央政府の方針に則していなくても同氏の強権的な政策を黙認することが多く、今回の事態も、カディロフ氏の意向を背景に起きたのではないかということです。コチェトコフ氏によると、イスラム教徒が主体の他の共和国でもこれほどの問題は起きていないとし、イスラム教は「要因ではない」との見方を示しています。 

 6月26日のハフポスト・フランス版の記事「マクロン大統領、LGBT政策はどっちつかず?「フランスは虹色」の一方で、閣僚4人が同性婚反対者」は、若くしてフランス大統領に就任したマクロン氏が、チェチェンで迫害を受けているゲイたちを自国に保護する姿勢を打ち出したと報じました。最初の難民はプーチン大統領のフランス訪問と同じ日にフランスに迎え入れられました。
(なお、リトアニアでも5月に、ゲイ2人を難民として受け入れたそうです)
  
 7月18日のCNNの記事「チェチェンに「同性愛者いない」 迫害の指摘受け首長が言明」によると、カディロフ首長は米HBOのインタビューに対し、「うちには同性愛者などいない」と述べたそうです。「もし同性愛者がいたら、カナダへ連れて行け」「我々の血を清めるために遠い場所へ連れ去ってくれ」

 実際に迫害に遭った方たちの証言のおかげで、「疑惑」ではなく事実であるということがはっきりしてきました。また、欧州で難民の受け入れが始まっているのは、希望です。しかし、カディロフ首長は依然、上記のような態度ですし、ロシア国内での調査も(プーチン大統領がやると言ったにもかかわらず)2017年8月現在、進展はないようです。現実的には、チェチェンを脱したゲイの方たちがLGBTネットワークの力を借りて国外に逃げ、欧州の国々で受け入れてもらえるのが最も安全な道と言えそうです。犠牲者がこれ以上増えないことを祈ります。
 


署名のお願い

「同性愛を理由に拉致されたロシアの男性たちを助けて!」(アムネスティ・インターナショナル)
https://www.amnesty.or.jp/get-involved/action/russia_201706.html

「チェチェンで100名以上の同性愛者が強制収容所へ拉致・殺害されています!今すぐ止めてください!」(Change.org)
https://www.change.org/p/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%81%A7100%E5%90%8D%E4%BB%A5%E4%B8%8A%E3%81%AE%E5%90%8C%E6%80%A7%E6%84%9B%E8%80%85%E3%81%8C%E5%BC%B7%E5%88%B6%E5%8F%8E%E5%AE%B9%E6%89%80%E3%81%B8%E6%8B%89%E8%87%B4-%E6%AE%BA%E5%AE%B3%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99-%E4%BB%8A%E3%81%99%E3%81%90%E6%AD%A2%E3%82%81%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%81%A0%E3%81%95%E3%81%84

「同性愛者収容所の閉鎖を」(Avaaz)
https://secure.avaaz.org/campaign/jp/close_the_gay_torture_camps_loc/?bBbMjcb&v=91701&cl=12408071398&_checksum=f88722351679faa5f23bb2b941213a26c6e6a310b345e5afd79c75fdd7ac2566



参考記事:
ロシア連邦:チェチェンで組織的に狙われるゲイの人々(アムネスティ)
http://www.amnesty.or.jp/get-involved/ua/ua/2017ua080.html

Gay men in Chechnya are being tortured and killed. More will suffer if we don’t act(the guardian)
https://www.theguardian.com/commentisfree/2017/apr/13/gay-men-targeted-chechnya-russia

Chechens tell of prison beatings and electric shocks in anti-gay purge: ‘They called us animals’(the guardian)
https://www.theguardian.com/world/2017/apr/13/they-called-us-animals-chechens-prison-beatings-electric-shocks-anti-gay-purge

Chechnya opens world's first concentration camp for homosexuals since Hitler's in the 1930s where campaigners say gay men are being tortured with electric shocks and beaten to death(Dailymail)
http://www.dailymail.co.uk/news/article-4397118/Chechnya-opens-concentration-camp-homosexuals.html

Chechen Gay Men Tell of Horrific Abuse in Detention Centers(Advocate)
http://www.advocate.com/world/2017/4/14/chechen-gay-men-tell-horrific-abuse-detention-centers

Chechnya President Fires Back at Reports That a ‘Purge’ of Gay Men is Underway(towleroad)
http://www.towleroad.com/2017/04/ramzan-kadyrov-2/

チェチェン当局によるLGBT迫害疑惑、米政界が当局に調査求める(AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3125476

Canada calls purported killings of gay men in Chechnya 'reprehensible,' calls for Russia probe(CBC)
http://www.cbc.ca/news/world/chechnya-gay-men-imprisoned-1.4072349

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