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COLUMN

コロナ禍のLGBTへの影響についての緊急アンケートの結果が報告され、病院や医療従事者によって「家族」の定義が異なる現状や、緊急連絡先カードなど今できる対策が示されました

2020年5月17日、「医療・救急―大切な人と一緒にいられるように~新型コロナウイルスアンケート報告会」がオンラインで開催され、病院や医療従事者によって「家族」の定義が異なる現状や、緊急連絡先カードの作成など、万が一の時にパートナーの安否確認や面会ができるようにするための具体的な対策が示されました。

コロナ禍のLGBTへの影響についての緊急アンケートの結果が報告され、病院や医療従事者によって「家族」の定義が異なる現状や、緊急連絡先カードなど今できる対策が示されました

コロナ禍のLGBTへの影響についての緊急アンケートの結果を報告するオンラインイベントが開催のニュースでお伝えしていた「医療・救急―大切な人と一緒にいられるように~新型コロナウイルスアンケート報告会」が、5月17日の国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアの日(IDAHOBIT)に開催されました。国の指針がどうなっているかということ、病院や医療従事者によって家族の定義が異なる現状、パートナーとの間で緊急連絡先カードなどを作っておくなど今できる対策について話し合われました。こちらをレポートしつつ、(新型コロナウイルスの感染に限らず)自分やパートナーの身に何かあったとき、安否確認や病院での面会ができるようになるための対策としてできることとしてどういうことがあるのか、をお伝えしたいと思います。(後藤純一)

  
 同性婚の実現に向けて活動している一般社団法人「Marriage For All Japan」は4月6~30日、新型コロナウイルスの影響で性的マイノリティの人が直面している不安や困難についてアンケート調査し、国に対応を求める要請書を提出しました。
 今回のイベントでは、アンケートでも多かった「入院や緊急の治療が必要な時に、医療機関で同性パートナーを家族扱いしてもらえるかどうか不安」という問題を中心に、医療機関の現状や、私たち自身ができることについて話し合われました。
こちらからご覧いただけます。字幕を出したり、再生速度の変更も可能です)
 
 最初に、弁護士の服部咲さんから、アンケート結果の報告がありました。服部さんは「Marriage For All Japan」弁護団のアドボカシーチームのリーダーを務めている方です。
 「パートナーとの関係が保障されていないために抱えている困難や不安など」について、235人中87人(約37%)が「入院など緊急時に家族扱いしてもらえるかの不安」を挙げています。同性婚が認められていないために、病院で家族と見なされず、もしパートナーが感染していた場合、パートナーの検査結果や居場所、安否などを教えてもらえない場合があるのではないかという不安。切実な問題です。
 「一人の当事者として抱えている困難や不安」については、35人が「感染時、家族や会社、学校に伝わってしまうのではないかという不安」を挙げています。感染症法、発生状況や動向を明らかにするため、情報の公開が求められていますが、厚労省のコロナの公表基準では「個人情報には留意が必要である」とされています。性別の公開については都道府県の対応は一律ではありませんが、例えば福岡県は家族構成まで公開することになっています。差別や偏見を誘発する報道にならないようにする必要があります。※
 「政府や公的機関などに求めること」については、「同性婚の実現」が63人、「異性婚と同等の扱い」が26人でした。
 この結果を踏まえて、MFAJとして、要望書を提出しました。

※  個人情報に関して、今月初め、新型コロナウイルスの感染状況などを載せている愛知県のホームページに、県内の感染者のべ495人全員の入院先などの個人情報が誤って掲載されるという事件がありました。感染者の氏名や入院先の病院の情報のほか、職場など感染者どうしの関係性を示す情報も流出したことが明らかになっており、感染者や関係者などからの苦情が相次ぎました。パートナーと同居していることが職場にバレるのではないか、など、いろいろ不安になりますよね…。

 続いて、「医療・救急 大切な人と一緒にいられるように現状を知り、考える」というパートです。
 九州弁護団の森あいさんが「はじめ 法的観点を中心とした状況の整理」というお話をされました。「同性パートナーだと救急車にも乗れない、面会できない、いざというとき連絡が来ない。血縁の人を連れて来て、と言われる」という主張と、「いまどき同性パートナーだからといって何の問題もない。救急車にも乗れるし、見守れるし、立ち会える」という主張、極端に違う主張が見られますが、「どちらも正しく、どちらもありうる」とおっしゃっていました。
 ポイントは、「法律上の家族じゃないとダメという法律はない」「対応は様々」「本人が意思を示せないときに特に問題なので、どう意思を示せるようにしておくか」ということです。意識がない状態で救急車で搬送される場合を想定し、緊急連絡先カードを作って持っておくことが大切です。
 医療機関では、病状も個人情報ですので、本人の意識がなく、誰に伝えるかという意思がわからない場合、「病状の説明」の本人以外への提供に際しては、あらかじめ本人の同意をとることが原則です。ただ、厚労省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取り扱いのためのガイダンス」では、「家族等」と書かれていて、決して血のつながった親族に限定しているわけではありません。なので、あきらめるのではなく、本人が、万一の時に病状の説明をしてほしいと希望しているとわかれば、同性パートナーでも認めてもらえるはずです。また、厚労省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、「『家族等』が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする」と書かれています。さらに「家族等」とは、「本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在であるという趣旨」のため、「法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含み、複数人存在することも考えられる」と定義されています。
 
 次に登壇したのは、石川県立看護大学看護学部講師の三部倫子さん。
 日本では同性婚が認められていないため、同性パートナーと法律上の家族になることができず、命に関わる重要な局面で医療機関に家族として扱ってもらえないケースが少なくありませんが、その背景に、多くの医療機関で家族の範囲が曖昧にされ、そのときの状況や対応した職員の裁量に任されてしまっている現状があると指摘しました。
 三部さんは昨年12月、東京都、石川県、静岡県の病院で働く看護部長を対象に、LGBTの患者への対応についてアンケート調査を行い、その結果を公表しています。その中で、それぞれが勤務する病院で「患者さんの家族の範囲を文章で明文化していますか?」という質問に「いいえ」と答えた割合が83.7%に上っていました。「はい」と答えた割合は15.1%でした。また、成人している患者で、意識がないなど本人に判断能力がない時に「手術の同意を誰から得ていますか?」という問いでは、「親族のみ(配偶者・親・子・それ以外の親族)」と回答した割合が44.8%、「配偶者に相当する内縁の同性パートナー」も含むと答えた人が30.6%でした。
 一方、患者本人の意思を確認できない時に、患者に代わって誰が治療方針を判断するべきかについては、先に紹介した厚労省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」で、「法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含み、複数人存在することも考えられる」とされています。
 三部さんの調査で、このガイドラインについて知っていると回答した人の割合は約8割で、そのうち、ガイドラインの「家族等」の定義を知っていると回答した割合は、約6割にとどまりました。
 ほかにも、「LGBTの患者のことで何か困ったことがあるか、部下から報告を受けたことがあるか」という質問について「(「はい」にも「いいえ」にも)いずれも該当しない」と答えた割合が多く、「なかには、自由記述で『職員にも自分の周りにも(LGBTの当事者が)いないので、ピンとこない』といった回答もちらほらあった」そうです。
 
 続いて、大阪市の「LGBTと女性のためのリソースセンター QWRC(クオーク)」の桂木祥子さんが登壇しました。QWRCでは、緊急時に連絡をしてほしい相手の名前と連絡先を記入して持ち歩ける「緊急連絡先カード」を2006年頃から配布しています。
 桂木さんは、緊急連絡先カードを書いておくことは、万が一の時の備えになるだけでなく、パートナーや自分の大切な人との関係について考えるきっかけにもなると語りました。
「自分に何かあった時のことってあまり考えたくないことかもしれませんが、実際にはいつ何が起こるかわかりません。自分は誰に連絡してほしいのか、相手と話し合うプロセスで大切な人に気持ちも伝わるし、相手の気持ちも一緒に考えていくことができると思います」

 次に、看護師として働きながら、LGBTがより生きやすい社会になるよう活動している浅沼智也さん(「カラフル@はーと」代表。トランスマーチの主催者でもあります)は、「医療従事者によってLGBTやSOGIに関する知識のばらつきがあるため、なるべく早く研修をやって医療のあり方を変えていく必要があると思います」と語りました。
 浅沼さんが勤務する病院では、本人が望めば同性パートナーも内縁のパートナーも治療方針を決める「キーパーソン」になることができるよう対応しているそうです。しかし、本人の意思が確認できず、事実確認ができないときは対応が難しくなり、法的な親族が優先されるケースを多く見てきたといいます。
 では、こうした状況のなかで、当事者はどのように対策をとることができるのか、ということについて、浅沼さんは以下のような例を挙げました。
・緊急連絡先カードやパートナーシップ証明書など、自分の意思を外部に伝えられるものを持参しておく。
・理解のある病院を事前に探しておく。自治体の中には、各病院での同性パートナーの対応についてホームページに記載している自治体もあるので、そうしたページがあるか確認してみる。
・かかりつけの病院・クリニックを作っておき、事前に状況を説明。もし入院や手術が必要な時には、主治医に間に入ってもらえるようにする。
・可能であれば、必要に応じて、財産管理の代理や看護の委任を盛り込んだ「任意後見契約」を結んでおく。
 浅沼さんは「医療現場は、患者さんの意思を一番に大切にしています。患者さん本人が意思表示することができれば、同性パートナーがキーパーソンになれることも多いので、事前に用意していただくことはとても大切なことだと思っています」と語りました。
 また、実際に入院や治療が必要になった場合、可能な範囲で医師や看護師に自分たちの状況を説明してみることも大切だといいます。
「看護師の中でも柔軟性を持って対応してくれる人も多くいます。同性パートナーを自分のキーパーソンにしたいと思った時に、言いにくい場合もあると思いますが、勇気を出して言ってくれれば、看護師も味方になります」
「昔と比べると、医療機関の方もどうしたら性的マイノリティが安心安全に受診できるか考えていると思うので、双方が安心して治療につなげていくことができればいいなと考えています」

 それから、森さん、三部さん、浅沼さん、桂木さんの4人でのパネルトークが行われました。
「同性婚が認められていないなか、病院に、どうにか安定的に医療決定権を認めさせる手立てはないか」との質問に対して、そもそも医療決定権が法的にあるのか、という問題があるが、同性パートナーが決定権を持てるようにするためには、ということで話し合われました。
 三瓶さんは「簡単に答えが出る問題ではない。いろいろ手を打っても周知されていない。十何年前の緊急連絡カードを作ったときよりは、状況が良くなっている。研修が行われ、環境作るをしていくことではないか」と語りました。
 森さんは、「行政から病院に通知を出してるところがあると思う。自治体に働きかけをすることも大事ではないか。パートナーシップ制度を導入している自治体などは、公立病院で同性パートナーも、と書いてあるところもある。熊本市は、市民病院における面会・手術同意について、HPに記載がある。しかも制度利用者に限定していない。自治体のHPを見て、まだ記載がなかったら、書いてくださいと言ってみてもよいのではないか」と語りました。
 
 まとめると、(新型コロナウイルスの感染に限らず)万が一、自分やパートナーの身に何かあったとき、安否確認や病院での面会ができるようになるための対策としてできることは、以下のようなことになるかと思います。
・本人が、万一の時に病状の説明をしてほしいと希望しているとわかれば、同性パートナーでも認めてもらえる(厚労省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に明記されていますので、もし病院が理解を示さない場合は、そちらを示すとよいかもしれません)
・緊急連絡先カードやパートナーシップ証明書など、自分の意思を外部に伝えられるものを持参しておく
・理解のある病院を事前に探しておく(市民病院などのHPで、同性パートナーについて書かれているかどうか確認してみましょう。もし記載がない場合、自治体に要望してみるとよいでしょう)
・かかりつけの病院・クリニックに事前に状況を説明し、もし入院や手術が必要な時には、主治医に間に入ってもらえるようにする



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